7話 出会いの異なり
ようやく咳喘息から復活しました……! ということで、連載再開していきます。
夕暮れの中。
ロウは、馬を操りながら、交易都市への道を半分ほど進み終えていた。
馬を走らせ、街道を一気に抜け、草原を抜けてきており、
……この林道を抜けて、街道を少し行けば到着ですね。
途中、故障により立ち往生したものの、有り難い出会いによってどうにか助かった。
……この調子であれば、目的の時間よりは少し遅れるだろうけれども、夜になるまでには付きそうですね。
時間が遅くなったことで、幸か不幸か周囲に他の馬車もいなくなっている。
進んでいる林道は馬車一台が通れるくらいのやや狭い道だ。
もしも並走する馬車や、行商人がいると、速度が出せなかったり、行列になったりして、遅くなってしまう。
それが今はないので、進みは順調だ。
この調子で行けば、特に仕事にも問題はでないだろう。
……本当に、有り難い出会いのお陰です。
幌の中で、静かに談笑している二人を軽く見ながら、感謝して進んでいた。すると、
「……ん?」
視線の先に、何か荷車が横倒しになっているのが見えた。
道が半ば塞がれてしまっている。
荷車の脇には折れた木が見えた。
……倒木事故でも起きて、荷台だけ置いていったのでしょうか……?
とはいえ、まだ道には隙間がある。
横を通っていけば、問題なく向こうに行けるだろう。
そう思ったロウは、手綱を操って、速度を落としていく。
道から外れると、木の根や石ころで地面の凸凹が激しくなる。そこで転倒しない程度に、しかし、ある程度の勢いを保ったまま直進する。
方向も上手く調整し、転がった荷台の横を抜けるように通過しようとした。
その時だ。
「――」
荷台の影から、人が飛び出してきた。
それも、こちらの御者台に飛び乗ろうとする形で。
「……っ!?」
ロウは咄嗟の事に息を呑む。
それに対し、飛び乗って来た顔を半ば程布で隠した、体格のいい男は、
「止めろ」
こちらの肩を掴んで、腰のナイフを抜こうとしていた。
「野盗か!」
そう判断した瞬間、ロウは歯を食いしばり、
「ッ!!」
手綱の操作で馬を横に一気に走らせ、馬車をスライドさせた。
同時に、肩を引く。
馬車が振られた事と、ロウの肩より手が外れた事で、顔を隠した男は踏ん張りを失い、
「……!」
御者台から外へぶっ飛んでいく。
降り落としに成功した。だが、
「中々やるじゃねえか」
振り落とした野盗は、そのまま体を一回転させて、滑るように着地する。
体格のわりに身軽なようだ。
「はは、流石はカンパニーの紋章を付ける馬車を任された商人だ。一手をしのぐとはよ」
そして顔を隠す中で、そんな笑い声を向けて来るが相手をする暇はない。
馬の操作を立て直し、このまま駆け抜けてしまおう。そう思っていたのに、
「でも、足は止まったな?」
馬が、ふらついて、その身を崩した。
「どうした!?」
こちらの声に顔だけ向けて、馬はその足を折ってへたり込む。
先ほどの動きは、これまでにも、魔獣や賊に襲われたとき何度もやってきたものだ。馬も慣れているし、怪我をするような事は今まで一度も無かった。
それに今も、馬が無理をした動きをしたようには見えなかった。
「っ……! なにをした……!」
ロウは慌てて御者台から降りて、馬に駆け寄る。
そして野盗を睨みつけると、その男は目だけで笑った。
「なあに、骨は折れちゃあいねえさ。馬も財産だしな」
言いながら、男は手元から針をポロポロと落とした。
見れば馬の後ろ脚にも何本かの針が刺さっている。
「針……?! まさか…!」
「ああ。少し前にマーキングした時よりも弱い毒だが、即効性は折り紙つきだ。まあ、ポーションを掛けても、今は、走れねえよな」
その言葉でロウは確信した。
ここに来る前、馬に毒針が撃たれていたのは、コイツの仕業だと。
「――馬も車も止まった。なら、お前ら、仕事だ。出てこい」
そして、顔を隠した男はそんな声を上げた。
すると、その近くの茂みから、幾人かの男がぞろぞろと出てきた。
「集団の、野盗ですか……」
こちらの言葉に、男たちは笑みを浮かべる。
そしてその中の一人が体格のいい男に声を飛ばす。
「ボス、今日も良い時間に釣れましたね」
「おうよ、カンパニーの紋章を付けた馬車だ。中々金になりそうなのが、上手い事、来てくれたな」
ボスと呼ばれた事から察するに、体格のいい男がこの集団の頭なのだろう。
そして野盗の頭は、腰からナイフを抜いて、改めて、こちらに視線をやってくる。
「さて、そこの商人。命を含めて、持ってるものを全部、置いていってもらおうか」
男は、とても楽しそうに言ってくる。
既にこちらは馬をやられており、逃げられないと分かっているからだろう。
「交渉の余地は……なさそうですね」
「ああ。わざわざ男を捕まえて売るのも面倒だからな。その荷台に良い商品が積まれてるってのも分かってる。なら、あとは簡単だ。お前はここで命を置いて、俺たちは馬と荷物を貰う。それだけだ」
野盗の頭の言葉に、周囲の野盗たちも笑う。そして、
「だから――まあ、邪魔なお前は手早く死んでおけ」
言葉と共に、野盗の頭はナイフを投げてきた。
手慣れた素早い動き。
ナイフも勿論高速だ。
……これは、避けられない……!
戦闘職ではないロウでも、それくらいは分かる速度だった。
あと瞬き一つすれば、こちらの胸にナイフが突き立っているだろう。
予想した図を頭が浮かばせてきて、体が強張り、
「……っ!」
息を呑んだ。その瞬間、
「【風よ 弾け】」
目の前まで迫っていたナイフが、風に撒かれて、地面に落ちた。
「え……?」
その現象に、ロウは目を見開いた。
一体何が起きたのか、分からなかった。が、次の瞬間、ロウは理解した。
「おいおい。話も聞かない野盗が出てくるとか。物騒な事になっているな」
ロウの背後、杖を携えたアイゼンが立っていたことで。
荷台から降りてきた、彼が守ってくれたのだと。
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