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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第二章

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5話 道すがらの同行

 こちらに顔をくっつけてくる馬の目からは力が感じられた。

 この馬も馬で、主人の役に立ちたいと、頑張ろうとしていたし。

 実際に頑張れる状態になった事に対して、恩義を感じているのは雰囲気で分かった。そんな馬を撫でてやりながら、俺は青年に聞く。


「馬も元気になったし、これで進めそうか?」

「あ、どうでしょう……」


 彼は御者台に上って、馬を軽く操作する。けれど、


「んん……ダメですね……」


 馬が引っ張っても、馬車の車輪は、ガタガタというだけで回らなかった。


「これは、車の整備系の人が来ないと無理かもしれません」

「ふむ? まあ、本当に故障であればそうだろうが……」


 先ほどと同じように、俺は車体の方に近づき、


【状態を 聞かせてくれ】


 再び聞いてみた。


「言霊魔法をまた……? しかも無機物に行使できるのですか……」


 上から驚きの声が聞こえてくるが、俺は車体の方に集中する。

 すると、

 

「――ィ」

 

 か細いながら、僅かに聞こえてくるものがあった。

 

 その声の通りに、俺は車体と車輪、そして軸の連結の部分を見て、


「……ああ、なるほど。これが食い込んでたのか」


 そこに、金属片が挟まっているのを見つけた。

 手で触れると僅かに抵抗があるが、それでも引っ張れば、簡単に取れた。

 

 それを俺は青年に見せる。 


「連結の部分にこんな物があったぞ」

「これは……金属片ですか?」

「ああ、しかも……微妙に液体が塗ってあるな」

 

 金属片の先、馬車に食い込んでいた部分は僅かにしっとりと濡れていた。

 紫とオレンジが混ざった様なものだ。

 匂いは無いが、油では無いように思える。というか、この感じだと、

 

「魔法薬ですかね、先生」

「そうだな。車輪の動きに干渉してるってところを考えると、行動阻害とかそっち系か」

「そんなものが……。確かに魔法薬も運びますが、荷台の品物の中から、落ちて挟まってしまったのでしょうか。それとも、街道ではね上げてしまったのか……ううむ。悪意的に考えると、商売敵による営業妨害、などもあり得ますが……」

「さてなあ。その辺りは分からんが……何にせよ、これで、どうにかなりそうか?」

「あ、は、はい。ちょっと待ってください」


 青年は先程と同じように馬を動かして、馬車に力を加える。

 すると、今度はするるっと、馬車は動き出した。


「おお、動いてるな」


 先ほどのぎこちなさは全くない。

 完全な馬車の動きがそこにはあった。


「あ、ありがとうございます! ……しかし、こういったことまで初見で見抜くなんて、貴方は技術者方面のお人なのですか? これに対しては経験則とかではないでしょうし、無機物に通じさせるにも、その対象物に対して精通していなければいけないと聞きますし、腕のいい技術者は、モノに話しかけると答えを聞けるなどと言いますし……」

 

 確かに技術者の中にはそういうヒトもいる。弟子の一人が、機械の声を聞けるとか言っていたし、そういうスキルもある。けれど、

 

「俺はそうじゃないよ。今回は、言霊が上手く聞いてくれただけかな。この馬車が大事に使われているお蔭で、たまたま分かっただけだし」


 今回は単純に、大事にされた馬車だったから、自分が動かない理由がわかっていて、話してくれただけだ。

 こちらの問いかけにも答えてくれたのは、聞いた俺より、聞かれた物の状態によるところが大きかった。

 

「大切にされた物には魂が宿るっていうだろ? その宿りがこの馬車にもあったってことさ」

「は、はあ……そうなのですか。僕には少し分からない事ですが……大事に使っていたから、なのですね」

「ああ、だから、普段からの接し方とか、使い方が良かったって事さ。こっちの馬も含めてな」


 俺は馬車が動いたことでとても嬉しそうにして、こちらに体を寄せて来ている馬を一撫でした後、改めて青年商人に向き合う。

 

「んじゃ、問題はなさそうか?」

「はい。何から何までありがとうございます。どうにかすすめそうです」

「そか。よかった。じゃあ気をつけてな」


 そう言って、俺は馬から手を離し、再び歩きを再開しようとしたのだが、


「あ、あの、ちょいとお待ちを……!」


 青年に呼び止められた。


「そっちは、交易都市ですけれど、徒歩で行かれるのですか? かなりの距離がありますよ?」

「ん? まあ、そのつもりだけど」


 まだまだ明るいし、少し急げば予定していた時刻にはたどり着く。だから普通に歩きだそうとしていたのだけれども。


「私に関わったせいで、もう時間も遅くなってしまっていますし……良かったら、乗っていきませんか? 私も、交易都市に向かうので」


 青年はそんな事を言ってきた。


「え、いいのか?」

「勿論ですとも。そも、助けて頂いた恩をお返ししたいのですが、この場では何もお礼が出来ませんので、都市に一緒にきてくださったほうが嬉しいですし」


 徒歩で行くつもりだったが、折角だ。お誘いに乗るのもありかもしれない。

 こういう一期一会の縁も、また有り難い物だし。


「リンネはどう――」

「無論、先生がやりたいほうで!」

 

 すると言う前に、食い気味で言われた。まあ、それならば、


「じゃあ、お言葉に甘えるか。ええと……今更だけど名前を聞いても良いか? 俺はアイゼン。こっちはリンネっていうんだが」


 言うと青年は、あ、と声を上げて苦笑し、


「申し遅れました、自分は、ロウ。交易都市のカンパニーに所属する《商人》、ロウ・ハーバーといいます」

「そうだったのか。――んじゃあ、ロウ。二人乗車で頼む」

「先生と同じく、お世話になります」

「はい。喜んで。どうぞ幌の中へ」


 道すがらの縁というものに感謝しながら、俺は馬車に乗り込むのだった。

 

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