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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第二章

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4話 会話の効果 


 一時間ほど宿場町の喫茶店で休息したのち、俺とリンネは出発した。

 この先の交易都市までは、通常の徒歩で行くと一日は掛かるとのことだった。


 ……とはいえ、距離を考えると、俺たちが軽いジョギングで行けば、夜になる前にたどり着けるくらいだったな。


 タイミング次第では夜空を見ながら歩くもいいし、その前に到着してしまってもいい。

 そんな気分で、俺たちは出発したのだが。


 ――その十数分後、

 

「あれ? 先生、なんだか馬車が止まっていますよ?」

「ああ、本当だな」


 街道を歩く俺たちの視線の先、そこには、一台の馬車が横向きで止まっていた。

 この道はそこまで狭くはないのだが、しかしその七割ほどを塞いでいるような形だ。

 

 商売をやっているようにも見えないが、何をやっているんだろう、と思いながら歩いて近寄っていくと、

 

「……これでも、動いてくれないのか……」


 と、御者台の前に座り込んだ馬に触れて、座り込んでいる青年がいた。

 腰に算盤を付けているところを見ると、商人か何かだろうか。


 何であれ、こんな道のど真ん中で座り込んでいたら危険だろう。だから、


「おーい。どうした?」

 

 声を掛けた。すると、彼はこちらを向くと、


「あ……と、すみません。道をふさいじゃってますよね……」


 と、力ない口調で言葉を発して来た。


「いや、それはいいんだが。馬車か馬の故障か? ここで留まってると危ないぞ?」

「ええ、それは僕も分かっているのですが……ちょっと馬が動いてくれなくてですね。それと、馬車の車輪も回らなくて。ただ、《商人》としては、荷材を置いていく訳にもいきませんから、進むも引くもできなくて……ここで立ち往生してしまっているんです」


 ふう、と商人の青年は深く吐息する。


「ふむ、馬も車もか。そりゃ大変だ」

「一応、同行していた人に先に行って、応援をよんでもらうようには頼んだので、一日ほど待てばいいんですが。……ちょっと馬を置いてここを離れるには可哀想でして」


 馬は足を折ってへたってしまっている。

 息も荒い。

 

「確かに、苦しそうだな」

「ええ。回復ポーションを掛けてあげてもこの調子でして、何か毒草でも食べたのかとアンチポイズンポーションを飲ませても変わらないんです。だから、こうして撫でて上げるしか出来なくて……」


 青年商人は辛そうに言う。

 どうやら、この青年は優しい性格をしているようだ。

 

「ふむ……ちょっと見せてくれ」


 このまま見てみぬふりをするのも何だ。

 そう思って俺は、馬と目を合わせる。そして、


「――【言葉を 聞かせてくれ】……」


 静かに預言魔法を行使した。

 生物や無機物から言葉を預かる、そういう魔法だ。

 すると、直ぐに馬からは反応が帰って来た。


 ――動けない――動けない――右後ろの脚が――痺れてる。どうして――動かない――主人の為に動きたいのに動けない。


 そんな、焦るような声で。


「なるほど。右後ろの足、ね」


 俺は馬の言う通りに右後ろの足を診た。

 すると、その関節の裏に、僅かに光るモノを見つけた。


 細く短い、針だ。


「――これのせいか」


 俺はその針を見て、一息に抜いた。

 すると、それだけで、

 

「――!」


 馬は、すっくと立ちあがった。


「な、治った!?」

「ああ、針が刺さってたんだ。形状を見るに毒針だな」


 針の形は見覚えがある。毒針の先は、毒を注入できるように筒状になっており、針の端っこは微妙に膨らんでいる。膨らみの部分に毒が含まれているのだ。


「毒ハリネズミ系の魔獣――ペインヘッジホッグとかが撃ちこんでくる針がこんなんだな。この針先から少量の毒を常に注入し続ける魔法が掛かっているんだよ。だからこれが刺さった状態でポーションをかけても、意味がないんだ」

「こんなちいさいものにそんな機能が……」

「小さい故に、毒の量も少しだから、抜いてしまえば動けるし、あとはアンチポイズンポーションで治ると思うけどな。持ってるか?」

「は、はい。携行品の中にあります。あ、ありがとうございます! 何をどうしても立ち上がってくれず、悲しい目もしてくるので困っていたんですが、まさかこんなことだとは……」

「ああ。……しかし、これを受けてるってことは、ハリネズミみたいな魔獣と、出くわしたのか?」


 この辺にはあまり出ない筈だが。そう思って聞くと、青年商人は首を横に振った。


「いえ、あちらの宿場町から出たばかりなので、そんな魔獣とは出くわしてませんが……」

「だとしたら悪戯か? 随分とあくどいが……」

「商売をやっているので、偶に商売敵やガラの悪い輩に絡まれることもあるので、そう言った営業妨害を食らう事はありますが。……ちょっとわかりませんね」


 青年商人は言いながら、馬に解毒ポーションを掛けていく。

 

「こ、これで宜しいのでしょうか?」

「ああ、これでもう、元気になっていくはずだ」


 実際、ふらついていた馬は、段々とその足元を確かなものにしているし。

  

「良かったです……。それにしても、初見で見抜くなんて……。しかも、さっきのは……言霊魔法、のように見えましたが……」

「おや、言霊魔法を知っているのか?」


 言霊魔法というものは、正確に言えば預言魔法とは効果は少し違う。

 だが、預言魔法と同じく『言葉を使った魔法』という行為には、使えるものだ。


 ……というか、現在の職業者の多さから言って、そっちの呼び名の方がメジャーなんだろうなあ。

 

 預言者は実質的に絶滅しているようなものだし、まずそっちに思い当たるのは必然だ。そんな考えはどうやらあっているようで、

 

「はい。カンパニーの同期が、使い手なんです」

「ああ、そうだったのか。なるほどな」

「でも、このような使い方は初めて見ました。生物を言霊で僅かに強化するならともかく、動物から具体的な症状を聞いて、状態を見抜く言霊使いは見たことがないので……」

「そうか? 言霊魔法の使い方としては普通だと思うんだが……」

「いや、私の知っている言霊使いは、炎や氷に言葉を預けて操ったり、動物に対して言霊による命令を行うことが多いので。……異種族から言葉を聞いても、分からない部分が多いから、行動を強制させることは出来ても、会話による意思疎通は難しい、とも言ってました。その種族に精通していないと、言葉の意味すら分からない、と」

「あー……まあ、そうだなあ。そういう部分もあるな」


 いくら言葉を預けられると言っても、動物と人間とでは言葉は違うものだし、伝え方も違う。今回は単純な症状確かめ程度で済んだから、大分、分かりやすかったけれども。

 また、預言魔法と言霊魔法では、相手の言葉を聞ける正確性も異なる。その辺りもあるのだろう。とはいえ、それをここで説明しても意味無い事だ。


「馬に対する使い方を見るに、あなたはもしかして、言霊使いでお医者様をやってらしたりするのですか?」

「いやあ、そういうわけでもない。ただ、色々な動物を見てきたから、なんとなくこうかなって思っただけさ」


 こうして怪我をして喋れない相手と話すことは、戦争時に何度も行った。その経験が今回も活きたのが大きいのだ。

 

「それは凄い……。本職でなくともどうにかできるだけの経験則がおありなんですね」

「まあ、色々とやってきたからな。馬とか動物も結構見てきたし」


 言いながら馬を見れば、既に立ち直っていた。

 それどころか、しっかりとした足取りでこちらに近づいて、鼻をこすりつけてきた。

 解毒ポーションもよく効いたらしい。

 

「おっとと。うん、元気になってるな。頑張ったな」

「おお……何をやっても駄目だったのに、こんな元気に……! あ、ありがとうございます……!!」


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