第1話 プロローグ 待つべきもの
その日、メルは学園の執務室で、ユリカから開拓都市からの書類を受け取りながら、世間話をしていた。
「今ごろ、交易都市に到着していますかね。アイゼンさまとリンネさま」
「多分ね。お師匠たちのスピードによるわね。あの二人が全速力でいったらそりゃあ速いだろうけれど、途中で寄り道もするって言ってたから」
「馬車よりも早いって秘書から聞いた時は本当に驚きましたよ……」
「リンネちゃんも、お師匠様に付いていけるらしいからね。あの二人の力の出し方しだいで、街までの時間は変わるでしょう……って、あら? これは何かしら、ユリカ」
メルが書類の中から手に取ったのは、黄色と白が混じった色の封筒だ。宛名には、自分の名前が書いてある。
「あ、そちらはギルド経由でメル学長宛に、手紙が届いていたので持ってきました」
「あら、そうだったの。ありがとう――って、ん……?」
メルは封筒についている封蝋を見て眉を顰めた。
「この魔法封蝋……私の同輩からね」
「え、というと百英雄のおひとりからの手紙ですの!? 何だか、封蝋に特殊な魔力が込められているなあ、と思いましたけど……」
「ええ。この封蝋、私以外が開けると手紙が燃える魔法が掛かっているのよ。で、こんなことをするのは、私の同輩である彼女だけなんだけど……一体どうしたのかしら」
呟きながらメルは封筒を開く。
中には一枚の手紙が入っていた。
そこに書いてあることをじっくり読んだあと、メルは手紙を閉じて、
「あー……なるほど」
と息を吐いた。
「ど、どうかなさいましたか?」
「いえ、その……お師匠様は、大変な街に向かったわね、とね」
「え? ……大変とは?」
「この手紙の差出主はね、私の同輩で百英雄の一人なのだけど……お師匠を見つけたら、狂喜乱舞しそう子なの。……それが今、交易都市に着こうとしているらしくてね」
「え? でも、アイゼンさんも今、交易都市にいるはずじゃ」
ユリカのセリフに、メルは息を吐きながら頷く。
「そうなるわ。となると、あそこに今、百英雄が二人いることになって……しかも、両方とも、お師匠を見つけたら、凄く興奮して、騒がしくなるでしょうから。
――もしかしたら、お師匠のお忍び状態、次の街で終わっちゃうかもしれないわね……」
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