エピローグ
「……因みに次はどこへ行くの?」
「南に向かおうと思うよ。宿場町もあるし、大きな都市もあるみたいだからさ」
こちらの言葉にメルは、む、と顎に手を当てた。
「南の大都市というと……交易都市があるけれど、そこに行くの?」
「そうそう。弟子の一人がそこにいるって、手紙で見たからさ。行こうと思ってるんだ」
「……多分、びっくりするわね。私みたいに。まあ、お師匠様が来ることを知って大騒ぎしそうな子だから、前もっての連絡はしない方が良いと思うけれど」
「だよなあ……。落ち着いて受け入れてくれるっていうんなら、それでいいんだけど……」
デュークみたいに何かしらやってくれている可能性もあるし。
気持ちは有り難いのだけれども、騒々しくさせるのは本意ではない。
「ええ。お師匠様がお忍びで来てくれるっていうのはビックリしたけれど、有り難かったから。私もオーガに殴られて大分血の気が抜けてたから大騒ぎはしなくて済んだのもあるし。むしろこれからは協力させて貰うわ。今回も、魔法大学のお師匠様の正体を知った子達には『内緒で、お願いね』って言っておいたし」
「おお、有り難うな。でも、あんまり強制はしなくていいぞ? 人の噂はどこからかしてしまうものだしな」
「ええ。そうね。……例えば、あの王(弟弟子)が調べに来たら分かっちゃうと思うし」
その言葉に、俺は苦笑する。
「まあ、別に分かったって構わないんだ。結局、弟子たちの周りを騒がしたくないだけだからさ
「本当にお師匠様は気遣い屋よね……。まあ、その辺りは上手く情報を浸透させていければと思うわ。こっちも、あのバカ騒ぎしそうな王様に、上手い事できないか頑張ってみるから」
「ああ、ありがとうな、メル」
などと会話していると、
「あのアイゼンさん」
ユリカが声を掛けてきた。
なんだろう、と思って彼女の方を向くと、
「学長の贈り物と被っちゃうかもですが、これを受け取って下さいませ」
ユリカがこちらの手に、一枚の封筒を渡してきた。
「これは?」
「昨日の祝勝会で交易都市に行かれると聞いたので。私の知り合いが、そこの街のカンパニー代表を務めているので。紹介状を、と思いまして。交易都市のカンパニー『言霊の扉』に持っていって貰えれば、色々と便宜を図って貰えると思います。この魔法封蝋は私しか使えない印なので、信用して貰えると思いますし」
「良いのか? そんなものを貰って」
「はい! 勿論です! ……あ、因みに、文面には、「とても優秀な、百英雄のお師匠である預言者様であるけれど、騒がないで受け入れてください』的な事が書いてあるのですが、宜しかったでしょうか? この魔法封蝋があればカンパニーの代表以外が見る事もないですし、あの方は物静かで口も堅いので、騒ぐことも無いと思いますが……」
「ああ。そこはな。大騒ぎにならなきゃなんでもいいから。配慮してくれてありがとうな」
とても優秀とか、そういう褒め言葉までつけてくれるのは、何とも照れくさいけれども。有り難いのは変わりない。そう思って言うと、
「いえいえ、これくらい、アイゼン様の気遣いに比べたらなんてことありませんから」
「そうか? でも、礼を言わせてくれ、ユリカ。何から何まで世話になったからさ」
「ふふ。私も助けられてばかりでしたから。これくらいはさせてくださいな」
そうしてユリカとお互いに微笑み合っていると、
「……リンネちゃん、お師匠のこと、頼んだわよ」
「はい、メルさん! 先生のお世話は、お任せください!」
向こうではメルとリンネが握手を交わしていた。
祝勝の宴会で、彼女たちはアレコレと話をしていたみたいだけれども、それ以来、こんな感じで親しくなっていた。
……リンネは俺に付きっ切りだったし、弟子同士でも仲良くなったのは、なによりだな。
同門の友達が作れれば、彼女が一人自立する時にも役立つ筈だし。
そういう意味でも、旅に出た甲斐はあったなあ、とそう思っていると、リンネがこちらへ来た。
どうやら話が終わったようだ。そう思った俺は、改めてメル達に声を掛ける。
「……うん。じゃあ、そろそろ俺たちは行くよ」
「お世話になりました、皆さん」
そういうと、二人は微笑みを返してくれた。
「ええ。行ってらっしゃい二人とも。」
「また、絶対にお会いしましょうね!」
そうして二人からの笑みと見送りを受けた俺は、リンネと共に南へと歩を進めていく。
次の土地では何が楽しめるのか。新しくなった世界と、会うであろう弟子たちの顔を思い浮かべながら――。
これで第一章が終了しました。次からは第二章になります。
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