第34話 待ちわびた事
倒れたオーガから出てくる瘴気の残滓が淡い光となって消えていく中、
「お師匠様は、流石ね。あんなに硬かったティターンオーガを、あっさり切り伏せちゃうなんて……」
メルは剣を杖に納刀しているアイゼンにそんな言葉を発した。
自分たちでは対処しきれなかった相手だのに。まだまだ師匠にはかなわない、そんな思いで言ったのだが、
「うん? 倒したのは俺だが……学生たちが助かるまでもたせたのは君だろう、メル。それは凄い事だぞ」
アイゼンはそんな事を言ってきた。
「褒めてくれるのね、お師匠は」
「当然だ。俺には学生たちが逃げる時間を稼ぐことは出来てないんだしな。メル、君がやったことは褒められるべき事だから、褒めるさ。確かに倒せなかったのは、戦闘能力不足だけれども、学生を守るという目的は果たせていたんじゃないか?」
この人はいつもこうだ。
こちらが行動したことに対し、きちっと出来たことは褒めてくれる。
……だから、私たちは慕うし、甘えたくなるのよね……。
昔からそうだった。
だからメルは、今回もその思いに従ってみる事にした。
「……なら、助けて貰った身で言うのもなんだけれど、また昔みたいな、褒め方をして欲しいわ」「昔みたいにっていうと……こうか?」
首を傾げつつも、アイゼンは近づいて来た。そして、
――ぎゅ。
と、抱きしめて、頭を撫でてくれた。
まるで子供にするような小さな子供にするような行動ではあるけれども、
「ふふ、ええ、これが欲しかったの。頑張って来たから、ずっと……褒められたかったの……」
自分にとっては、これが最大のご褒美だったのだ。
昔も味わっていた暖かな体温が今も、感じられる。
それだけで、とても幸せな気持ちになれた。そう思っていると、
「あの学長の髪の毛に触れる人がいるなんて……」
「ああ。同門の百英雄ですら触れないって話なのに、凄まじい……。あの男性は一体どなたなんだ……」
なんて声が聞こえてきた。
正直、撫でられている姿を注目されるのは構わないが、戦後処理もまだなのだ。この辺りで我慢しておかねば、とメルは名残惜しさを感じつつも離れる。
「ん……ありがとう、お師匠様。とりあえず今は少しだけ、満足出来たわ」
「そうか? なら良かった。体の治療はしなくても平気か」
「ええ。ユリカがくれた薬で応急処置はしたから、大丈夫よ。それよりも、お師匠様に言いたい事があるの」
喋りながら、メルは改めてアイゼンの顔を見る。
依然見た時と全く変わっていない、その姿に懐かしさを覚える。
……色々と言いたい事はあるし、話したい事も山ほどある……。
けれど、アイゼンが来たら絶対に言おうと決めていた、聞こうと決めていた事をメルは口にした。
「改めて、おかえりなさい、お師匠様。私たち、頑張って世界を復興させて待ってたわ」
「ああ、ただいま、メル。お陰様で、楽しい世界を見れているよ」
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