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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第一章

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第31話 待ち焦がれた時間


 メルは頬や流れる血を拭いながら、小さく声を発した。

 

「……警護部隊長。……あと何人、戦える人は残っているのかしら?」


 彼女の声を受けたのは隣に立つ警護部隊長だ。長剣を手にした彼女は、息を荒く吐きながら、静かに声を返して来る。 


「はあ……はあ……。ま、魔術部隊は、学長以外全滅です。近接部隊は、わ、私を含めて、数名です。あとの警護部隊は皆、救護隊に担ぎこまれました……」

「かなりやられたわね。なのに……向こうは全然削れてない、と」


 言葉を受けたメルは、前方にいるティターンオーガを見た。

 その体には傷一つない。


 この鬼を倒すには、その心臓にある核を砕かなければならない。それは分かっているのだが、


「くそ……筋肉が分厚過ぎて、魔法も、刃も、通らないだなんて……あんなの、普通の巨躯鬼じゃない……」


 近くにいた、警護部隊の一人である、《大剣士》が呻くように呟いた。


 普通のティターンオーガも、種族特性として強靭な肉体を持ってはいる。

 ただ、それでも、近接系の職業者が本気で振るった刃を弾けるほど硬くはないし、戦えない程ではない。刃は通るし、魔法だって通用するのだ。なのに、

  

「あの個体は、瘴気で強化されているからね。仕方ないわ」


 目の前の巨躯鬼の肉体は尋常ではなかった。

 大剣だろうが、魔法のこもったナイフだろうが、物理的な攻撃は軽々と弾かれ、あっという間に蹴散らされてしまった。そして、

 

「オオ……! 【イービル・アイスブラスト】……!!」


 容赦なく自分たちを狙いに来た。

 巨躯鬼の周囲に浮かぶ氷弾が飛んでくる。

 

 最初に打ち込んできた物よりも小さいが、数の多い、岩のように硬い氷だ。

 当たれば武器すらへし折って来る。

 そんな弾丸が建物の残骸を貫通しながら、勢いを緩めず突っ込んでくる。


「……っ『貫きの連炎槍』(コンボ・ブレイズランス)!」


 瞬間、メルは、炎で出来た十数の槍を放った。

 炎系の上級魔法だ。本来ならば巨躯鬼の肉体など軽く貫く、炎の槍が、幾つかの氷弾を撃ち落とす。そしてそのまま、複数の槍が巨躯鬼本体に向かって突き進んでいき、

  

「……!!」


 その肉体に衝突すると同時に、砕け散った。


「やはりっ……学長の上級魔法ですら弾くのか……!」

「本当に……嫌になるわね。この魔法で、傷をつけるのが精いっぱいだなんて」


 炎の槍は、鬼の胸元を確かに抉った。しかし、その傷すらも、


「――」

 

 オーガが数呼吸するだけで、あっという間に再生されていく。 

 魔法だけではなく、少しばかり剣が刺さったとしても、同じ事が起きる。

  

 先ほどから何度も繰り返してきた事だ。

 

 自分の魔法では、警護部隊の攻撃では、相手の表皮を傷つけるのでやっと。

 連撃を入れても再生速度の方が勝り、結局振り出しだ。 

 

「ォオ……!!」


 その痛痒を与えたこちらが気に食わないのか、唸り声を上げながら、周囲に氷塊を浮かべ始めた。先ほどの弾丸よりも大きなものだ。

 

「く……次弾の装填が、早いですね……!」

「全く、あの肉体でごり押しされながら、強力な魔法を連続で使ってくるとか、反則よね……!」


 そう。相手の攻撃はこっちに通じるのに、こちらの攻撃は相手に通らない。

 火力が足りないのだ。


……こういう手合いには、私には、ちょっと向いていないのよね。


 邪神との戦争時代は他に同門の戦闘系職業者がいた為、自分が向いていない相手とかち合った時、彼らにスイッチして貰ったけれども。

 

 ……今は、出来ないわ。


 助けは呼んだが、来るのはいつか分からないのだから。

 今いるメンツだけで何とかしなければならない。

 

 現状、攻撃を加えては再生されての繰り返しだが、足止めだけは成功していると言える。

 

 ……私の今の火力では、相手の防御を満足に貫けないけど、こちらに意識を引き付ける事には成功しているわ……!


 救助の時間は稼げている。

 しかし、それも何時までもつか分からない。

 今まで、戦場の維持に努めてきたが、じり貧なのだ。

 向こうに疲れの色は見られず、しかし、こちらの人員は皆疲れの色が見えている。

 

 ……警護部隊も、邪神の魔法を相手にした経験は少ないからね……。

 

 邪神との戦争が終わって数十年経ったのだから当然とも言える。

 そして自分も、大分、疲労が溜まっている。

 

 ……私も前線から退いて、何年も経っているから、戦闘の勘が鈍ったかしら……。


 魔法の実験をしたり、研究をしたりで、出来る事は多くなった。先ほどの防護魔法だって、学長になってから覚えたことだ。

 ただ、代わりに、昔よりも戦闘継続時間が落ちたかもしれない。


 救助の方は、どうなっているかしらね……。


 まだ、完了の報告は来ていない。

 ならば、まだ、持ちこたえないと、いけない。中々辛い状況だ。

 

「……全く……お師匠の言う通り、もっともっと、鍛えておくんだったわ……」


 メルは思わず苦笑する。邪神との戦争から長い時間があった。

 その間に出来るだけ鍛えてきたけれども、それでも自分の苦手な部分は克服しきれなかった。けれども、


「……ここには私の学生たちもいるんだから。……無責任にやられて、食べに行かせるわけに、いかないわ」


 長い時の中で、その思いだけはしっかりと心の中に積み重ねられていた。それに、なにより、

 

「お師匠に、ちょっとでも私が成長したって姿を、まだ、見せてないんだから……。死ぬわけには、行かないわ」


 だからまだ戦える。

 まだ、この戦線は保てる。


 そうだ。削られつつ、じり貧の持久戦とはいえ、相手の攻撃や魔法の解析は出来ている。

 

 インビジブルに、二種類の氷の弾丸。

 そして、強靭な肉体での殴打。

 それぞれの対応もしっかりできている。

 

 時間稼ぎだけなら行ける筈だ。全学生が避難出来るまでの時間を稼げば、それだけで勝利なのだから。

 そう思っていると、


「また来ます!」

「分かってるわ!」


 ティターンオーガが、こちらを狙って突進してきた。

 それを見て、自分と警護部隊長は一気に左右に分かれる。

 

 纏めてやられる訳にはいかないからだ。

 そんなこちらの動きにティターンオーガも反応する。


「オォ……!」


 唸り声と共に、一気にメルの方に肉薄したのだ。

 そして、走りの勢いのまま、オーガはメルへと氷の弾丸を発射した。


 ……これは氷と肉体での殴打の連携ね……! 


 氷弾の雨に隠れて突っ込み、氷弾を防いだ者をその腕でぶん殴る攻撃だ。

 先ほども幾人かの警護部隊がやられた連携だ。けれど、

 

 ……さっき見たんだから、対処は出来るわ……!! 


「『貫きの連炎槍』(コンボ・ブレイズランス)……!」


 メルは即座に炎の槍を生み出し、冷静に氷を撃ち落とした。


 それだけで視界はクリアになり、突進中のオーガが腕を振りかぶっているのが見えた。


 ……この距離なら、あの腕には当たらない。

 

 保険として、バックステップも一つする。

 それだけであの腕からは完全に逃れられる。

 

 そう思い、だからそうした。が、その瞬間、


「……【イービル・クリスタルメイス】……!」


 今まで、この戦いでは見た事がない魔法を、ティターンオーガは唱えた。

 魔法の効果は刹那で現れる。


 ティターンオーガの手に、大きく凶悪な、氷のメイスが現れたのだ。


「こいつ! まだ邪神の魔法を隠し持って――」

「グオオオ……!!」


 言い終える前に、腕を横殴りに振られた。

 腕は届かない。が、重厚な氷のメイスがぶち当たる。


「【魔法障壁】!」


 直撃の瞬間、メルは髪に保存していた魔力を展開し、全力で防御した。結果、

 

「っ……!」


 鈍い音を立てて、メルは吹き飛んだ。だが、

 

「まだ……よ……!!」


 メルは口元から血を零しているものの、意識は保っていた。

 全力防御の甲斐あり、体は動く。

 まだ戦える。そう思っていた。しかし、

 

「【イービル・クリスタル・ブラスト】!」


 ティターンオーガは間髪入れず、氷の砲弾が重ねてきた。

 校舎を壊したあの、凶悪な一撃が来る。

 しかし、こちらは未だ吹き飛びの体制を回復させ切れていない。

  

 ……初撃は防いだ。けど――


 再び、防護の魔法を使うための、魔力の練り合わせが間に合わない。

 数秒、足りない。


「学長――!!」


 警護部隊の幾人かが何やら叫び、こちらに駆けつけようとしている。

 が、それもまた間に合わない。

 

 この一撃は食らう。その予測に体をこわばらせながら、


「ああ……全く。師匠の真似は難しいわ。皆も、自分も、上手く、守れないなんて……」


 氷塊の向こうで平然と魔法を撃ちこんでくる巨躯鬼の姿に対し口惜しさと感じながら。

 既にあちこち熱と痛みを発している体の感覚を、全て塗りつぶすであろう痛みに対し、メルが歯を食いしばった。


 その、瞬間だった。


「そんな事はないぞ、メル。――【我が兵装よ 守り 弾き尽くせ】」


 己の背後より一本の杖が舞い降り、地面に突き立ったのは。

 そして、迫っていた氷塊は、その杖にぶち当り、粉々に砕かれ、その破片ごと彼方に吹き飛んだのは。

 

「……え?」


 そして、地面に突き立つ杖が飛んできた方向から、


「君はよくやった。よく、ここまで守ったよ。俺の真似なんかじゃない、俺には出来ないことをやったんだからな」

「あ……」


 渇望していたあの人が。

 

「アイゼン、お師匠様……」


 ずっとずっと会いたかった、自らの師が歩いて来て、目の前に立ったのは。

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