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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第一章

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第30話 手を貸す者


「力を貸そう」


 そして、ただ、それだけを言うと、彼はこちらの横まで歩いてきた。


「アイゼン……さま。どうしてここに……? いつから……」


 ユリカはアイゼンの顔を見上げ、呆然と呟く。


「ここの学園にいる知り合いに会いに、今さっき来たんだよ。……ただ、それどころじゃないってのが直ぐに分かってな。ここへ来たんだ。手が必要なんだろう?」


 そんなアイゼンの言葉を聞いて、ユリカははっとする。

 呆けている暇はない。強力な力を持った人が目の前にいるのだ。

 

 ……今、必要なのは、迅速な状況説明ですの……。

 

 現場が分からなければ、手伝い様がないのだ。

 だから、ユリカは息を吸い、頭の中で即座に説明を組み立て、

 

「は、はい! そうです。事情を説明しますと、学園にティターンオーガが来てて――」


 でも、その間に、残り三人の学生を助けなきゃいけない。だから、手伝ってほしい。

 とそう声を発しようとした。が、その前に、


「ああ、大丈夫だ。事情も、やるべき事も分かってる。向こうで学長のメルが戦っているが苦戦していて、でも、ここに埋まっている学生たちを助けないと、逃げられもしない、だろう? 事情はもう、この場所のモノ達から、聞いているよ(・・・・・・)」


 まるで全て見ていたようかの口ぶりでアイゼンは言った。

  

「え? モノ達って……ど、どうして、そんなに詳しく……」


 現状、救命活動をしている職員ですら、向こうの戦場まで把握できている者は殆どいない。だが、彼はここに来たばかりだというのに、いったいどこから、誰からそんな情報を集めたのだろうか。

 それをこちらが問おうとする前に、アイゼンは瓦礫の中をゆっくりと進んで、一点を見下ろしていた。


「ここだな。【大気よ ゆっくり 持ち上げてくれ】」


 杖を振った。すると、言葉通りに瓦礫がゆっくりと持ち上がっていく。

 それによってできた穴に彼は手を入れたと思ったら、

 

「見つけた」


 そのまま、優し気な動きで、中から一人の少年を引っ張り出した。


「う……」


 頭から血を流している少年は意識を失っている様で、しかし、息はあった。


「ユリカ。この子を頼む」

「あ、は、はい! 有り難う御座います!」


 そしてアイゼンはこちらへ引き渡すと、再び、瓦礫に戻り、

 

「次はここだな。……瓦礫が入り組んでるから、さっきより慎重にやらないと崩れるな」


 丁寧に瓦礫を取り除き始めること数秒。

 

「よいしょ……っと。オーケーだ」

「……」


 気絶している少女を救い出した。その少女は近場にいた職員に引き渡された。

 

「残り一人で、いいんだよな、ユリカ」

「は、はい。そうですの……で、でもどうして、そんなに学生たちの居場所が、分かりますの? まるで、全部見えているかのような。透視の魔法でも使っているかのようですの……」


 いきなりこの現場にきて、あっという間に二人も見つけてしまった。

 やり手の精霊術士だとは知っていたが、あまりに手際が良すぎる。

 精霊の姿が見えないから、精霊を使って探知している訳ではないのは確かだ。でも、だとしたらどうやっているのか、と疑問に思い、つい声に出た。

 

 その声を聞いてか、アイゼンは瓦礫の中を見回しながら、答えを返してくれた。

 

「俺にはさ、声が聞こえるんだよ。『子供はここにいるから、助けてあげてくれ』ってな」

「え……そんな声が? どこから……。私には聞こえませんのに」

「聞こえなくても、あるんだ。今は崩れちまったけどもさ。学生を守ろうっていう意思を込めて、精一杯作られた建物に積み重なった声が、俺には聴こえるんだ」

「それは、この瓦礫たちから、モノから、声を聞いているって事ですの?」


 言うと、アイゼンは頷いた。


「さっきからそう言っているだろう? 状況も、こいつらから、聞いているってさ。人の手によって大切に造られた物には、微弱ながらもきちんと意思が宿るものでさ。今回だって、その思いが発した『言葉』を、俺が預かっているってだけだ」


 アイゼンはそう言いながら、瓦礫をどけていき、そして、

 

「最後の一人はここにいる。もう埋もれている人はいないから、思い切り出してやってくれ、ってな……! 【大気よ 一帯を 浮かせてくれ】」


 彼の目の前にあった瓦礫が一気に宙に浮いた。するとそこには、

 

「……ぁ……かみ……さま……?」

 

 虚ろな目で、か細い声を上げる学生が一人倒れていた。

 

「神様なんて大層なものじゃないがな。……もう大丈夫だ」

 

 その最後の一人を見つけて抱え上げたアイゼンは、職員が用意した簡易マットまで学生を運びこんだ。

 

「す、凄い……。こんなにあっさり、人を見つけ出せるなんて……」


 その姿を見て、ユリカは思わず言葉を零した。

 

 ピンポイントで、人がいる場所が分かっているようだった。いや、彼から聞いた話を鑑みるに、恐らく本当に分かっていたのだろう。

 この瓦礫の山となってしまった校舎から、全て、聞いて知ったのだろう。

 

 ……物から言葉を受け取れる人……。間違いなく、精霊術士の能力の範疇を越えています……! 

 ユリカは、少し前にメルから聞いた話を思い出していた。

 そう、あの時は混乱していて、思考をまとめ切れていなかったけれども。今、ようやく、少しだけ分かった。

 

 この人は精霊術士なんだと、私が勘違いしていただけ、だと。 

 

 ……やはり、この方は……


 と、ユリカが考えを巡らせながらアイゼンに視線をやっていると、 

 

「先生ー。広場にいた学生たちの避難誘導、手伝ってきました――!!」


 そんな声が響いた。見れば、そこにはアイゼンの相棒である少女が手を振っていて、

 

「おお、ありがとうなリンネ。それじゃあ、次にやるべき事をしようか」


 そういうと、アイゼンは瓦礫から飛び降りて、目線を南側へとやった。


「え……アイゼンさま? つ、次と言うと……まさか……!?」

「ああ。まさかも何も、俺にとってはここからが本題でもあるんだよ。ここで学長をやっている、教え子のメルの所へ行くっていうのがな」


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