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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第一章

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第26話 予想外の遭遇



 その日の昼過ぎ。

 メルは以前から予定していた追加の情報共有のため、学園の執務室でユリカと話し合っていた。すると、

 

「失礼します。学長先生。生徒会放送部です」


 ドア向こうから、女学生の声がノックと共に聞こえてきた。

 

「あら、どうぞ。空いているわよ」


 声を返すと、数人の女生徒が入ってきた。彼女たちは、自分とユリカに軽く会釈すると、

 

「お仕事中失礼します。夕方の講義の準備、完了しましたので、報告に来ました。魔法拡声器のセッティングもバッチリです」


 と、口早に用件を伝えてきた。


「あら、ありがとう。でも、開始までまだ時間があるのに、随分と早いのね」

「いえ、久々の百英雄たる学長直々の講義ですから。もう講堂の中に入っている、気の早い子達もいる位でした。というか、私も楽しみにしています!」


 女学生は興奮した様な感じで言ってくる。


「ふふ、そう言って貰えるとやりがいがあるわ。こちらの仕事を終えたら行くから、待っていて頂戴」

「はい、了解です! ――それでは、失礼いたします!」


 そう言って女学生たちは嬉しそうに去っていく。そんな学生たちの後姿を見て、ユリカは微笑む。


「何と言いますか、昔と同じく、学生たちに大人気ですね、メル学長。私たちがいた頃も、メル学長の話を聞きたい子がいっぱいいて、あんな感じに執務室に押し掛けて来たりしましたけど」

「そうねえ。今も昔もやる気がある子達が多くて嬉しいわ」


 そんな風にメルがユリカと会話していると、


「学長、監視塔からの報告です」


 再びノックと共に声が聞こえた。

 先ほどと同じように入室許可を出すと、長身の女性が入ってきた。

 学園に併設されている、周辺警戒用に配属されている警護部隊の一人だ。

 

 彼女は足早にこちらまで歩み寄ると、


「報告します。南側の平原に、何やら奇妙な魔力の揺らぎをキャッチしたそうです。ただ、こちらの観測魔法では、奇妙な魔力がある事しか分からず。ですので、学長の方でも見て頂ければ幸いです」


 と、率直に報告と用件を告げてきた。


「ふむふむ。南……というと、この窓から見えるわね」


 ただ、執務室に設けられた大きな窓からは、普通の平原が広がっているだけだった。


「魔力の揺らぎね……。なにも見えないけども、何か変な魔法でもかけられていたら嫌だし。一応探知しておきましょうか」

「よろしくお願いします。それでは私は、周辺警護に戻ります!」

「ええ、お疲れ様。結果は監視塔に送っておくわ」


 学園の周囲には魔法の障壁が張り巡らされていて、大体の魔獣は近づいて来ないとはいえ、チェックは念入りにしておいて損はない。だから、


「【魔法探知】。それから【看破】っと」


 窓の外を見ながらメルは机に置いてあった杖を手にし、掲げた。

 すると、彼女の髪がふわっと浮かび、微かに青白く光り出す。


 その光はすぐさま杖に集まり、光球になったあと、

   

「――!」


 窓の外の平原に向かって打ちだされた。

 空に上がった光球はゆっくりと動きながら、青白い光で平原一面を順々に照らしていく。


 ……もしも魔法が掛かっていれば、そこが煌めいて見える筈だけど……。

 

 地上と空中を含め、何か変化はないかとメルが窓の外を注視していたら、

 

「わあ……こんな広範囲な魔法探知、見た事ありませんよ」


 ユリカの弾んだ声が、自分の横から聞こえた。

 

「しかも、かなりの魔力を使っている筈なのにスムーズですし、疲れも見えないですし。学長の魔法の技量、本当に凄いですね……!」

「そうかしら? 邪神との戦争時代は、これが私の仕事の一つだったから、普通に使えるだけなんだけど」

「百英雄は違うって事ですかね。何より使っている姿もキラキラしていて凄く綺麗ですし、やっぱり憧れちゃいます……」

「ふふ。そんなに褒めても何も出ないわよ。というか、単純な探知能力で言うんだったら、お師匠の方が上なのよ?」

「お師匠というと、預言者の方ですよね? その方、学長よりもですか?」


 ユリカは信じられないような話を聞いているような口ぶりで聞いてくる。無理もない。実際に見たことが無ければ、当然の反応だ。


「ええ。何せお師匠は、周りの物々の意思や言葉を聞き取れるからね。物理的に目が増えているようなものだから、探知能力なら、私以上なのよ」

「そ、そうなのですか。色々な物の言葉を聞けるとは、大地や草木から話を聞ける精霊術士の凄いバージョンみたいですね」


 その言葉を聞いて、メルは苦笑する。

 

「ふふ、どんな凄腕の精霊術士だって、精霊の見えない大地や草木からは話は聞けないけれどね。低級精霊でもいいから、形になって見える程度の精霊が宿ってくれてないと、対話なんて出来ないし」


 そういうと、ユリカは、目を丸くした。


「え……。そうなのですか? その、凄い精霊術士なら、例えば開拓都市周辺の原っぱとか、低級精霊の姿が見えない所で、話を聞けたりしないの、ですか?」


 そして、やけに変わった質問までしてくる。

 そう言えば、彼女にはもっぱら魔術の講義ばかりしていて、精霊術士系統の話は教えたことが無かったな、と思いながらメルは答える。


「ええ、普通は無理よ? 目に見えないような微弱な精霊は、言語を喋れないからね。話が出来ない相手と話すのは、精霊語を使える術士でも無理なのよ。私の同門の百英雄である精霊術士でも無理だし。言語のプロである《預言者》とかなら、出来なくはないけれどもね」

「な、なるほど。……では、あの人は……?」

「どうしたの? そんなに悩むような口ぶりで…………って、あら?」


 話しながらも、窓の外を見続けていたメルは、視線をユリカに移そうかと思った瞬間、平原の一角に現れた変化を捉えていた。


 学園から約百メートルの距離にあるなんてことない原っぱ。

 そこに、青白い光で出来た巨大な人型が出ていたのだ。


「ねえ。ユリカはあれ、見えるかしら?」

「え? あ、はい。あれは……魔法の反応……ですよね……」


 そんなユリカの声が零れると同時、人型から光が剥がれ落ちていく。

 そこから現れたのは、ゴツゴツとした肌と角を持つ、巨大な鬼の姿だ。

 その正体を、メルは知っている。


「あの鬼型魔獣の、ティターンオーガ……!?」

「てぃ、ティターンオーガって、難度Aランク級の魔獣ですよね!? 強力な再生能力と身体能力を持つっていう。……な、なんでこんなところにいるんですか……!!」


 ユリカの疑問も最もだ、とメルは思う。


 監視塔の部隊が見落とすにしたって、あまりに大きすぎる身体だ。

 この距離まで、来ている事に何故気付けなかったのか。

 

 ……理由は分かるわ。姿を消していたから。

 

 でも、一体どうやって、とメルは鬼の姿をじっとよく見た。そして、気づいた。

 未だ、ティターンオーガの足元が、陽炎のように揺れて見えている事に。


「……あの光がねじ曲がっているような魔法は、まさか【存在希薄インビジブル】……!?」

 そんなメルの言葉を聞いて、ユリカは目を見開いた。

 

「い、【存在希薄】って。邪神が得意としていたっていう、人の目から逃れる魔法、です、よね……!? 百英雄が、苦労して攻略したという……」

「ええ、そうよ。あれは邪神が使っていた魔法よ。魔法探知と看破を組み合わせなきゃ、まず見えもしないっていう厄介なね」


 だから監視部隊も見つけられなかったのだろう。

 むしろ、奇妙な魔力をキャッチ出来たというだけでも、有能だったと言える。肉眼や、普通の魔法探知では絶対に見えないのだから。


「で、でも、本来、ティターンオーガは、そんな魔法を覚えられないハズですよ!? 一体どうして、ティターンオーガがあんな力を覚えているのですか……!」


 ユリカの言う通り、魔獣は種族的に覚えられる魔法と覚えられない魔法がある、というのは研究で分かっている。

 

 その研究によればティターンオーガは基本的に土を動かす系統の魔法しか使えない。だから、光に干渉するインビジブルなどという魔法を覚えることもない。

 少なくとも今までそんな事例は無かった。けれども、


「……教えたことがあるでしょう。瘴気は魔獣を強化するだけでないと。瘴気の肉を喰らい、時間をかけて体になじませることで、邪神が持っていた能力や魔法を会得する進化をしてしまう者もいると」

「瘴気による進化……。あれが、ですか……!」


 瘴気は魔獣を確実に強化する。

 身体能力も知力は当然のように、そして強化の段階が進めば、視線の先の鬼のようになる。


 見れば鬼は、インビジブルを解除していた。もはやその姿は完全に露わになっている。

 

 ……私の魔法探知と看破で見つかった事を察知して、インビジブルの意味がないと解除しているのね。

 

 頭もかなり回るようだ。

 

「……ホーンドモールだけじゃない。あの鬼も、邪神の肉を喰らっていて進化したのでしょうね」

 そう言った後。

 ということは、とメルは瞬時に頭を回し、言葉を零した。

  

「ちょっと待ってよ。あのティターンオーガ、他の邪神が使っていた魔法も覚えているんじゃ――」


 そんなメルの気付きは、言葉にされ切るよりも早く、現実の行動として現れた。

 

「――【邪神の大氷弾イビル・クリスタルキャノン

 

 ティターンオーガの魔法詠唱により、周囲に巨大な氷の塊を生み出し、高速で打ち出してくるという攻撃によって。

 

「――!」


 執務室のある校舎は半壊した。 

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