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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第一章

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第23話 報告は各所に


 魔法大学分校の校舎の一つは、学長専用の実験棟となっていた。

 三階建ての内、二階までは魔法具倉庫と研究室で、三階のワンフロアが執務室になっている。

 そな執務室でメルはいつものように執務机に座り、開拓都市からもたらされる報告書の数々を受け取っていた。

 ただ今回、報告書を持ってきたのは、分校にいる部下ではなく、


「学長。こっちがグローバルギルドが発行した報告書になりますー」

「ええ、分かったわ。今回も、ユリカが持ってきてくれたのね。ありがとう」


 自分の教え子で、今は開拓都市一番のカンパニーで社長を務めているユリカだった。


「それはそうですよ。こういう機会でもないと、学生の身分でない今、中々学長に会えませんから」

「貴方の立場なら、別に正式にアポイントを取れば問題ないと思うけれどね」


 ユリカは街のカンパニーの有力者だ。この学園の卒業生ということもあり、会うこと位はできると思うが、


「いえいえ。学長のスケジュールを圧迫するわけにはいきませんよ。現役学生たちも、学長先生とお話ししたいと思っているでしょうし。卒業生の私が、その機会を奪いすぎるのもよくないですからね。……その分、こういった報告仕事の機会があれば、たっぷり喋ろうと思ってますけど」


 にこにこと微笑みながらユリカは言う。


 ギルドと学園の両方に深い繋がりを持つという所から、彼女が自分の元に情報資料を運んでくる事はままあった。表向きとしてはギルドから報告書を届ける依頼を受けた形になる。

  

 本来はユリカがやるような仕事ではないのだが、彼女自身がやりたいということでやっているらしい。


 ……まあ、せっかくの機会だから優秀な学生がいたらカンパニーに斡旋したり、逆にカンパニーで魔法の素養がありそうな子がいたら分校に連れてきて貰ったりしているけどね。


 そういう意味ではお互いにメリットがあるのよねえ、と思いながら、報告書に目を通していたのだが、


「うん? どうしたのかしら、ユリカ。じっと、私を見てるけど」

 

 先ほどから、ユリカの視線がこっちを向き続けていた。

 何か言いたい事でもあるのだろうか、と思って聞くと、ユリカは照れる様な笑みを浮かべていて、


「あ、いえ。相変わらず、学長先生の髪の毛はつややかで、綺麗だな、と。学長は宝石人系の血を引いてらっしゃるのもあるのでしょうが……学生時代と同じく、思わず触りたくなっちゃうなって」


 彼女の言葉に、メルも微笑を浮かべる。

 学生時代にも聞いた言葉だな、と。


「ふふ、褒めてくれて嬉しいわ。……でも、まだ駄目よ? 宝石人ジェムの血を引いてる私にとって、髪を触れさせるっていうのは特別な事なんだから」


 そう言うと、ですよねえ、とユリカの微笑みが苦笑に変わった。


「宝石人……遥か昔、異種族と交わった一族でしたね。確か、魔力が髪に宿るから、みだりに触れさせてはいけないんですっけ」

「そう。自分が認めた人しか触れさせてはいけない。そういう伝統と加護を持っているのよね」

「髪の毛に加護魔法が掛かってますものね。普通の人が触れようとしても避けるし、無理に触りに行けば弾かれるっていう。そのせいで、今まで、メル学長の髪に触れられた人って、殆どいないとか聞きましたよ」


 そうね、とメルは、自らの髪の毛に触れる。

 見た目は普通の人と変わらないけれども、その一本一本に魔力が溜められており、そのお陰で普通の人よりも長時間、魔法を使い続ける事が出来る。

 そして、この髪に掛けられた加護魔法を突破できるのは、自分よりも強い魔力を持った人であり、尚且つ自分が心を許した人だけだ。

 

「ユリカが触れるには、もっともっと錬金魔法の腕が上げる必要、あるわね。私の同輩の百英雄たちですら中々触れないくらいだし」

「そうですね。凄く精進します……!」 

 

 そんな感じで世間話をしながら、メルはユリカから受け取った報告書の確認を進めていく。


 そこには基本的に、街の周辺でどういう問題が起きたか、そしてグローバルギルドがどういう依頼をしたか、などといった情報が載っている。


 ……街の防衛や治安に関する重要な依頼を受けた時、学園側は街に魔道具による調査情報を提供する。代わりに、街のギルドも学園に情報を提供するようになって、そこそこ経つのよね。


 魔神との戦争以前には無く、自分がこの分校に来てから作った相互協力体制だ。これにより、街と連携を図って周辺の治安を守りやすくなっている。けれど、 

 

「まだまだ、改善が必要よね」


 メルは報告書を見ながら、ふう、と息を吐く。


「今回、学園側からギルドの方へ情報が回るのが遅かったみたいね。……上級精霊の所に奇妙な魔力がたくさん集まっているって連絡が行ったのは、依頼が動き出した後って、経過が書いてあるわ。……今回は普段使いしている道に魔獣の巣が出来ちゃって、連絡員が周り道したからスムーズに伝達できなかったっていうのもあるけれど……もうちょっと早ければ今回のイレギュラーは防げていたわね」


 誰が悪いということはないし、強いて言うなら運が悪かっただけなのだが。勿体なかったと、メルは思う。

 

「そうですね……。急ぎの依頼の場合は学園の連絡員さんが到着する前に、スタートさせてしまう事は結構あるみたいですからね。学園からの情報と、ギルドの下調べが大きく食い違うことは、無いですし」

「……まあ、学園と街の両方に来るような依頼は、重要で急ぎな物が多いからね」


 そして、そんな案件は大抵、人命や財産への影響が大きいし、早くこなしたい気持ちも分かる。もっと言えば、

 

「魔獣が想定よりちょっと強いとか、少しくらいのイレギュラーなら実力で解決できちゃうのよね。一応、重要な案件は街と学園が協力して事にあたる様にしたいんだけど……」


 学園には、魔力を観測できる魔道具と、それを使用できる魔道具使いが存在している。その魔道具で、依頼された地点に奇妙な魔力反応はないか、調べることができるのだが、


 ……ギルドの斥候スカウトが調べた情報で、仕事自体は十分に出来てしまうのよね。


 学園側の情報は、安全確認のダメ押しになる事も多々ある。

 だから、急ぎの依頼の場合、迅速にこなしてしまいたい気持ちも分かる。 

 情報の行き来にだって、時間が掛かるのだし、何より仕組みとして新しい事をやっているのだ。 

 ……人の使い方も、仕事のやり方も、年々どんどん革新されていくけど、その革新に慣れていない人もいて当然よね。

 

 その為、ゴタゴタが起きて、新しい仕組みが活かしきれない時が出る。

 別に普段はそれでも問題ないのだが、時折、こうしたイレギュラーによる危険に晒される人員が出てきてしまう。

 報告書には重傷者ナシと書かれていて、今回は運が良かったと思うけれど、貴重な職業者が怪我を負う可能性はない方がいいと、メルは思う。 

  

「学長先生を含めて、百英雄の方々が考え出した道具やシステムは凄く便利で、助かるモノなのですが……それでも新しい事ですからね。皆が使いこなせるまでには少なからず時間が必要になって来てしまいますし。その時間が勿体ないって思われることもありますし」

「そうなのよねえ。便利なんだけれど、旧体制から変化させすぎると、どうしても間に合わない部分が出てくるものね」


 今回の情報共有の仕組みだってそうだ。

 まだ、効率的な運用が完全に出来ているとは言えない。

 

 ……私や私の同門がこの世に大きな変化と発達を起こした結果、生活は急速に豊かになっているけれども。結局時間を掛けないとままならない部分があるものね。


 皆、順応しようと頑張っているのは伝わって来るのだけれども。

 その辺りは慣れてくるまでは、まだまだ時間はかかりそうだ。などと思っていると、

 

「それでも、学長先生たちのお陰で生活そのものは楽になっていますし、安全になっています。学長先生たちが生み出してくれたものは、私たちにとって凄く助けになっていますよ」


 こちらの考えを察してか、ユリカがフォローの言葉をくれた。


「ふふ、そう言って貰えると有り難いわね。……まあ、私たちが生み出したっていうよりは、私たちに教えをくれた師匠の力あってこそなんだけれど」

「そうなんですか?」

「ええ。私がやった事は、昔、弟子の頃に師匠に相談していたモノが殆どなの。情報共有の大事さとかも、師匠が教えてくれたのよ」


 本当にお世話になった、とメルはかつてを思い出しながら言葉をこぼす。


「それって、学生時代にもお話して下さった英雄たちのお師匠様のことですよね。魔法だけじゃなくて、そんな教えもされていたんですねえ」

「そうよ。本当に色々なことを学んだわ。今、学長をやれているのも、師匠っていう見本があるからだしね」

「学長先生の見本になった人ですかあ。あってみたいなあ」


 ユリカの言葉に、メルは苦笑する。


「そうねえ。会いたいわ、私も。本当に」


 魔神との戦争が終わって、ずっと会えていないのだから。

 そんな風に、わずかな寂しさを抱いてしまうが、


 ……まあ、今は仕事の時間なんだし。それに集中しなきゃね……。


 と、寂しさをかき消すために報告書の後半を読み進めていく。そんな時だ。

 今回の事件の顛末の部分が目に入った。


「……あれ。ちょっとまって、ユリカ。この、昨日の『瘴気と精霊同時発生事件』の報告書なんだけど……間違ってないわよね?」

「え? といいますと?」

「『cランクの職業者が瘴気の魔獣を倒しただけじゃなくて、上級精霊を追い払った』って書いてあるのだけど……」

「ギルドの魔法印が入っていますし、ギルドの職員から受け取ったものですから、間違いはないと思いますが……」

「え……でも、どういうこと? Cランクの精霊術士の業績じゃないわよね……私とか、学園の警護部隊のトップが出ないと、相手にならないものなのに……」


 今回の依頼などは特にそうだ。

 Cランクの者を行かせていいような案件ではないし、重傷者がゼロで済んだのは幸運といえるレベルの難度なのだ。


 ……Cランク相当の魔力、というのは、確かに侮れないものであるけれども……。

 

 例えば、ここの学生たちでいえば、上位数パーセントしかいないレベルで強者だろう。

 だが、そんな数パーセントの人数が束になっても敵わないと言えるのが、上級精霊だ。


 その位、あの文化も違えば言葉も違う、異なる世界からやってきた種は強力なのだ。なのに、

 

「Cランクの人が解決した……か」

「そういえば今日、部下たちも話していましたね。なんだか上級精霊を退けた、物凄い精霊術士だとか、魔法系の職業者が現れたんだー、とか。噂をしていましたよ」

「なるほど……。うーん、となると、物凄いスキルか魔法具でも持っているのでしょうね」


 ランクというのは、あくまで魔力値を量るもので、それが実力や才覚の全てを表している訳ではないし。純粋な戦闘で解決したとも限らない。


 ……となると、あとで街に行く必要があるかしら。

 

 その時の話も聞きたいし、優秀な人だとしたら知り合っておかなければ勿体ない。

 近いうちにやるべき事、として頭の中に記録したあと、メルは次の思考に移る。

 

 そう。重要な事は、貴重な人材がいた事や、精霊関連だけではない。


「……上級精霊の活動原因は――瘴気によるホーンドモール大量増殖の注意の為、ね。瘴気で魔獣が増えていたのね……」


 むしろ、緊急性があり、直ぐに気を付けるべきは、この情報だ。


「あまり、魔獣の大量発生は良い事とは言えないのに、ホーンドモールとか。……また厄介なものが増えたわね」

「あの鼠たちは数十体単位で増える異常な繁殖力と雑食性の食欲をもっているから、辺りを食い荒らしますからね。錬金の材料が一気に減っちゃいます」


 ユリカは眉を顰めながらいう。それだけ厄介な魔獣が増えてくれたのだ。気持ちは分かる。それに何より、


「……まずいのは増殖した個体が他の魔獣の縄張りに入って、そこの餌も食い散らかす事よね」

「そういった魔獣は餌を求めて移動するから、私たちが遭遇する危険も高まる、でしたよね」

「そうよ。だから、ホーンドモールそのものの討伐が終わっても、気を付ける必要があるわ」


 魔獣たちの食性は色々あるが、肉食の魔獣の場合、魔力量の多い人を好んで喰らう傾向にある。飢えた時は尚更だ。

 

 ……頭の良い魔獣なんかは、魔法を使ってでも、人間を狙ってくるからね。

 

 そういう魔獣は、頭が良いゆえに人が多すぎる場所を狙わない、という事もあるけれども。

 

「ま、どうなるにしても、街と学園の情報共有はよりいっそう密にしていかなきゃね。怖い時期ってのは間違いないんだし」

「――あ。でしたら、明日か明後日に、ギルドの周辺調査情報が入って来るので、届けに来ます。そこでまた話し合いましょう」

「ええ。そうね。……全く、嬉しいことと厄介なことが同時に起こると、やることが多くなって大変だけど、ちょっと、注意しておきましょう」

「了解です、メル学長!」


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《羊飼い》な少年が伝説の魔獣と共に、開拓をしたり、無双したりして成り上がる話です!
 昔滅びた魔王城で拾った犬は、実は伝説の魔獣でした~隠れ最強職《羊飼い》な貴族の三男坊、いずれ、百魔獣の王となる~
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