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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第一章

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第22話 イレギュラーな報酬


「お、お戻りになられましたか、お二人とも……!」


 ギルドに戻るなり俺とリンネは、受付のカティアから、嬉しそうな声を受けた。更には、


「おー、今日一番の大仕事をしてきたコンビのお帰りだな」

「ええ。英雄クラスの誕生に立ち会えるなんて、嬉しいわね」


 なんて声が、ギルド内の方々から聞こえてくる。

 やけに視線も感じるし。


 これは一体どういう事だろう、と思っていたら、


「あ、オーティスさん。ちょうどいいタイミングで戻って来たな」


 先にギルドに向かっていたドミニクが、手を振りながらこちらへやってきた。


「いいタイミングっていうと?」

「ちょうど依頼達成の報告が終わったところなんだよ」


 な、とドミニクがカティアに目をやった。すると彼女は、


「は、はい! ドミニクさんから諸々の報告を頂きまして……ええと、怪我とかはされていませんよね? 報告では、ドミニクさんが少し疲労したけれど、お二人は無傷にて完遂とあったのですが……」


 と、心配そうに聞いてきた。

 

「ああ、全く。俺とリンネは大丈夫だよ。怪我もない」

「はい、擦り傷一つありませんよ!」

「そ、そうなのですか。良かった……」

 

 リンネと共に出発時と特に変わりない体をアピールしながら言うと彼女は、そんな風に、ほっと息を吐いた。


「本当に無事にお帰りになられて良かったです」

「んーと……? やけに心配そうにされているが、何かあったのか?」


 周囲にいる人々の雰囲気もちょっと妙だし。

 なんだか驚いていたり、興奮しているような気もする。

 だから聞いてみると彼女は、ええと、と口を動かしたあと、

 

「実はですね。アイゼンさん達が出立した後、魔法大学から連絡……というか今回の依頼についての情報提供が来ていたのですよ。今回の依頼されていた地点に、微弱ながらも蠢く魔獣の反応があった、というものが」

「うん? そうなのか? ……そういや、地主の人が、魔法大学にも依頼をしている、みたいなことを話していたけれども」

「あ、はい。この街のギルドと魔法大学はここ数年で協力体制を構築していまして。魔法大学だけにしかない最新鋭の魔道具や魔法を使って調査した情報を頂けるんです。……まだ日が浅くて情報共有がスムーズじゃなく、体制を活かしきれない時があるんですが……」


 今回もそれが原因で大変な事になりましたから、とカティアは申し訳なさそうに吐息する。

 

「至急の依頼だった為、まずギルドが持つ魔道具や観測隊では魔獣を観測できなかったので難度Cとさせて頂いたのですが……精霊に加えて、瘴気を纏った大量のホーンドモールがいたとなると、難度B以上になるんです。――ただ、それに気付いた時にはもう、皆さまは出立されていました」

 その上、とカティアは首を横に振る。


「――しかも、しかもですよ? 魔獣云々の前に、そこにいるのが上級精霊らしい、とまで説明されたのです。もうその時点で、Bランクの職業者でないと危険だって言われる仕事なんですよ。そんな場所にお三方を……しかも二人は新人さんなのに、行かせてしまったので。ギルド全体で焦っていたんです。急いで難度Bに挙げた上で、まず救出の人員を集めなきゃ。早く出立しなきゃ、と」

「ギルド全体が微妙にざわついていたのはそのせいか」

「ええ。ただ――そんなところに、ドミニクさんが元気に戻ってきたので。さっきまで混乱状態だったんですよ」

「そうなのか?」


 皆の目には驚きと安心が混じりあっているような色が見えているけれども。

 

「はい。ドミニクさんの報告を聞かせて貰ったんですが、アイゼンさんは上級精霊を相手にされて、鎮められて竜巻を止められた、んですよね?」

 

 確かめるように聞いてきた。

 

「まあ、竜巻は止めたな」

 

 そう言うと、まず周辺の職業者たちが息をひそめた。

 

「上級精霊を鎮めたって、何気なく言ってやがるぜ……」

「ああ、本当にCランクなのか、あの人。……すげえな」


 などという言葉が聞こえてくる。 

 別に精霊は暴れていたわけではないので、話が出来れば対処は楽だし、

 

 ……そもそも鎮めたという表現が合っているかどうかは分からないのだけどな。

 

 なんて思っていると、目の前のカティアが俺の方にずいっと顔を寄せてきた。

 

「アイゼンさん、その成果は凄まじい事なんです。Cランク冒険者では対処できないような仕事なんですから。……ギルドには虚偽を見抜く職業者もおりますし、ドミニクさんの言っている事は間違いないないんですが、信じられない出来事が重なり過ぎて更に驚愕、みたいな感じになったんですよね」

「ふむ……なるほど?」


 精霊との話し合いに魔獣退治なんてものは、何十年も前からやっていた事だ。

 けれども、思っていた以上に難しい仕事として扱われていて、それをこなしていた判定をされているみたいだなあ、なんて思っていると、

 

「事情説明はひとまずこの辺りにしますが……まずは謝罪をさせてください」

「謝罪?」

「そうです。今回はすみませんでした。依頼難度の合わないところに向かわせて、大変危険な目に合わせてしまって」

 

 カティアは目じりを下げ、申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 確かにギルドの難度設定は違ったのは事実だけれども、

 

「いやまあ、上級精霊がいたとか、瘴気付きの魔獣がいたとかってのは、あとから分かった事なんだから、仕方ないだろうさ」


 協力体制が構築されて日が浅いとか、どうしようもない理由もあったんだから、謝罪するほどでもないだろう。

 

 ……そういや、弟子たちも『新しいシステムや仕組みを作ったけど、まだ浸透しきってないところがある』とか手紙で書いて来てたなあ。


 今回もそういうことなのだろう。

 それに瘴気付きの魔獣退治云々は、精霊に竜巻を止めて貰う為にこちらが勝手にやった事とも言える。

 

 そもそも依頼を受けたのは、こちらの意思なのだし、頭を下げられる事でもない。そう言うと、カティアは頭を上げ、

 

「そう言って頂けますと心が楽になります。……上級精霊を退けたばかりか、瘴気を持った魔獣を倒すなんて、凄く難易度の高い仕事を完遂して頂きまして。本当に、ありがとうございました、アイゼンさん……!」


 その上で、今度は感謝の言葉と共に礼をしてきた。更に、


「今回はそう言った事から報酬量を上積みしたため為、用意に時間が掛かっておりますので、少々お待ちください」

「ああ、分かったけど、上積み?」

「はい。ドミニクさんからの報告を聞いたら、通常通りの報酬では駄目だと一発で分かるモノだったので。特例での追加になりますが、ギルドの上長も納得の元、報酬を用意中です」


 そんな事を言ってきた。


「特例って……。どういう報告をしたんだ、ドミニク」

「どういうって、普通だよ。オレが見たままを話して報告しただけだ。――オーティスさん達が活躍してくれたお陰で、あっという間に解決してくれたってな」

「そうです。最初にさせてもらった依頼は精霊の鎮圧だけですが、それが上級精霊だったり、魔獣の殲滅や瘴気の原因を潰すなんてして貰ったものですから……。追加でかなり報酬を積ませて頂かないと同義に反する状態なのです……!」


 勝手にやった事だというのに、報酬は貰えるらしい。

 それはそれで有り難いことではあるけれども。


「確か今回の報酬料金は、全部で一万五千ゴルドだったよな? それがいくらになるんだ?」


 それを、俺たちのチームとドミニクで分け合う形だった。

 俺たちの取り分は一万ゴルド。街の宿屋で、ひと月は余裕で住める位の金額だったのだが、


「そうだな。けど、相手にしたのが下級じゃなくて上級だということ。原因を究明し、解決した事。そういった想定外の仕事量について掛け合って交渉してな。――総額を十倍にしといた」


 いきなりそんな発言が来た。


「十倍……ってことは十五万ゴルド?」

「ああ、それでも足りないくらいと思ったけどな。とりあえず、オレとカティアちゃんの方で、ギルドと街の方に掛け合って、それだけは用意して貰ったさ」


 どうやらドミニクは先に報告してくれるだけでなく、報酬の交渉まで行ってくれたようだ。

 彼の言葉にカティアもこくこくと頷く。


「上級精霊の対処は本来、街や国が直々に依頼を出すべき高額依頼です。《探偵》のスキルや魔法具によってドミニクさんが仰ることに虚偽がないという事が判明して、農牧地の地主さんからも証言を得ているので、行われたことについての信頼も置けますし。ならば、お金を払わないという事はありえませんので。……むしろこれだけしか出せずに、心苦しい所ではあるのですが」

「いや、十倍でも結構な大金だぞ?」


 そう伝えたのだが、彼女たちの表情には残念が宿っている。

 精霊と話を付けたのに加えて、瘴気の宿った魔獣退治をしただけで、それだけの額を貰えるのであれば、働きに対して充分以上に見合っていると思うのだが。

 

 ……喜ばしいくらいなんだがなあ。

 

 彼らの中ではもっと支払うべき案件ということなんだろうか。

 この辺りは時代の流れで変わっているのかもしれない。だとしたら、


「まあ、追加報酬が貰えるというのなら、喜んで頂くよ。それで、十五万を俺達とドミニクで折半する形でいいんだよな?」


 確認のために聞くと、しかしドミニクは首を横に振った。


「いや、追加分はオレは要らん。それはオーティスさん達に渡すって形になっている。オレは助けられただけだから、元の額を貰って終わりでいい」


 彼はそんなことを言ってきた。


「え? いやでも、俺たちもドミニクには世話になったぞ」


 砂が舞い上がっている竜巻の中を行くために防御をしてもらったり、なんなら今さっきまでしていたという報酬交渉だって業績の一部だろうに。

 そう言ったのだが、それでもドミニクは首を横に振る。


「オレが出来たのは場所の案内くらいだ。だから、貰うとしたらその分だけで、依頼を解決したことで発生した料金は全部オーティスさん達が貰ってくれ。そうじゃないと、オレが貰い過ぎになっちまって納得が出来ねえからさ」


 今回の俺の業績なら五千でも貰い過ぎなくらいなんだから、とドミニクは苦笑しながら言葉を零す。


「……本当にいいのか?」

「構わねえ。貰ってくれないなら、いつか渡してくれってギルドに預けようと思っていたしな」


 意思は固いようだ。

 それならば貰っておくとしよう。とはいえ、

 

「じゃあ、今回は有り難く受け取らせて貰うが……この後、メシか酒でも奢らせてくれ。それ位はしないと、俺が納得できないからな」

 

 そういうと、ドミニクの表情が苦笑から微笑に変わった。


「オーティスさんは、優しい誘い方してくれるなあ。……そういう事なら、ご相伴に預からせてくれ」

「ああ。存分に飲み食いしていってくれ。初依頼成功の祝勝会ってことでな」

 

 そうして、初仕事を終えた俺たちは、ギルドに併設された酒場に向かい、依頼達成の祝勝会を楽しんでいった。

 

 色々とイレギュラーが起きた冒険者としての初仕事だったけれども。冒険者という物は、予想以上に、儲かるようであった。

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