表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/84

第1話 預言者の強化は速やかに

 異界を出た俺たちの前にあったのは、太陽の木漏れ日が差し込む森林と、しっかり踏み固めて作られた街道だった。

 そして、街道の奥には、大きな街も見えていた。


「ああ、懐かしいな。『開拓の都市』だろう、あれ」

「あ、そうですね。異界に行く前もあそこにありましたし。時折り来ていたお手紙によると、かなり近代化が進んでいて、住みやすくなったとの事です」

「なるほどなあ……確かに、畑や牧場もしっかり整備されているのがここからでもわかるもんなあ……」


 頻繁に来る手紙のお陰で、国や世界の情報は大分集知っている。だが、

 

 ……実際に見てみると、やはり文字だけで知るのとは違う感覚があって楽しいなあ。

 

 発展した、という報告が、実物としてこの目で捉えられると、正直、かなりのワクワク感が湧いてくる。

 これこそ、旅に出る際に求めていた物だ、と思いながら、俺は手紙に書かれていた情報を思い出す。


「確か、あの街には確か、数十年前から変わってない、グローバルギルドの支部があるんだよな」

 グローバルギルドとは、この国だけではなく、世界中にいる職業者の情報を集めて纏めているギルドだ。

 

 そこで自分の職業を登録し、身分の一部を証明してくれる『グローバルカード』と呼ばれるモノを発行して貰う事が出来る。


 関所のある都市や国では、そういった身分証明が大事になってくる。となれば、


「旅をするのにも使うだろうしグローバルギルドで身分証明を更新するか、新しく作るか」


 預言者だったころに作ったカードは、以前の戦争で消滅してしまったので、再発行なり、新造なりをする必要があるし。

 そんな俺の言葉にリンネも頷く。


「そうですね。私も持っていませんし作りたい所です……って――あの、アイゼン先生? 何だかその杖の先にある本が、何やら光っていますよ?」

 

 言葉の途中、彼女が指差したのは、俺が腰にさしていた一本の杖だ。

 先端に小さく薄い本が付いているそれは、自分が昔から使っている武装でもある。

  

 そして今その杖は、リンネの言う通り、淡い光を発していた。

 その理由は、単純で、

 

「――ああ、これは、俺が封印した力を感知しているんだな」


 そう。俺がこの世界にばらして残してきた力に、反応していたのだ。


「もしも探す機会があった時の為に、この杖にそういう機能を付けておいたんだ」

「おお、そうだったのですか。ということは、この辺りにあるという事ですか?」

「そうだな。異界に引きこもる前に、置いて来たまでは覚えているが……」


 昔の、しかも朦朧とした意識の中で、とにかく安全に置いていくことを優先したため、場所の記憶は曖昧だ。ただ、だからこそ、杖に反応をしてもらう機能を付けたのだ。

 

 それを今活用してみようと、俺は杖を引き抜き、周囲にざっと向けて回る。

 すると一か所、光が強くなる場所があった。

 

 そちらを見ると、森林の中、太い蔓がグルグルに絡みついている大木があった。

  

「この辺だな」


 俺は更に大木に杖を近づける。すると、

 

 ――パアッ

 

 と、幹にまとわりつく蔓が光り始めた。

 その蔓上の光は、ほんの数秒で一か所に集まり、更には一枚の紙のような形態をとった。瞬間、

「【封印解除条件・認定・返還】」


 紙にそんな文字が走った。

 そして、俺が構えた杖の先にある小さな本の中に、吸い込まれていく。

 

 結果、俺の杖の先に付いていた本は、その一枚の紙分だけ、分厚くなった。


 その一連の流れを傍で見ていたリンネは首を傾げる。


「ええと、アイゼン先生? これで力は回収されたのでしょうか?」

「多分な。これは、見てみれば分かるんだが――」


 言いながら、杖の先にある本を開いてみる。

 この本には、俺の預言者として使えるスキルや魔法が記されている。

 

 ……弟子たちからは預言書だとか何とか言われたっけなあ。

 

 本当は、魔法の媒介に使えるオマケとして、記録装置みたいに使えるだけなのだが。

 ともあれ、昔はともかく、こういう時は何が使えるようになったのか見えるのは有り難い、と俺は今回足された最後のページを見た。

 すると、そこには、


『回収完了。【スキル:魔力増幅Ⅰ】取得』

 

 との文字が書きこまれていた。

 

「うん。問題なく、力は戻ったみたいだな」

「本当ですか!? アイゼン先生は今でも凄く強いのに、更に強くなられたのですね」

「はは、強くって言っても、微々たるもんだと思うけどな」


 この魔力増幅というスキルは、基本的に自分の力を少しだけ上昇させるものだし。ありふれたものだ。

 

 とはいえ、無いよりはあった方が良いのは確かだ。

 

 ……それに、実際に回収できて、体に戻った感覚があることも嬉しいしな。


 微々たるものでも有り難いものだ。

 なんて思っていたら、

 

「――ん」

 

 リンネの長い耳がピクリと動いた。

 

「……アイゼン先生。気付いていると思いますが、魔獣が来てますね」


 リンネは前方、街道脇の木々を見ながら、そんな事を言ってくる。そこからはカサカサと物音がしていた。そこには、

 

「……グゥ……」


 大きな足で無遠慮にのしのしと近寄って来る、大きな牙を生やした猪頭の魔獣がいた。

 下級魔獣――レッサートロールだ。


「あー、なんかいると思ったけどさ。街の側とはいえ、出る時は出るよなあ」


 数は三体。涎を垂らす魔獣たちは、棍棒を手に迫って来ている。

 その眼からは完全な敵意が見えた。

 

「……とりあえず、こっちに害意を持っているみたいだし、やるか」 

「そうですね。私の方で片付けましょうか?」


 リンネは手のひらからバチバチと雷を発生させながら言ってくる。しかし、


「いや、俺がやるよ。体と魔法の調子のチェックも兼ねてな」


 力を回収したばかりという事もあるし、自分でやろう。

 そう思って一歩前に出て杖を構える。

 

 使う魔法は、異界でも何度か使っていた、簡単な預言者としての魔法。 

 

「君たちに言葉を預けよう。――【火焔槍】」


 レッサートロールに向けて言葉を放った瞬間、三体の身体に向けて、杖から炎の槍が突き進んだ。

 そして、高速を持って炎の槍は三体に激突する。


「……グオオッ!?」


 トロールたちが目を見開き、驚きを露わにしたころにはもう、その全身は火に包まれていた。

 そのまま彼らはがくりと膝をつく。


「おおー、アイゼン先生の預言魔法は相変わらず見事ですね……!」


 魔法の発動を見てリンネは嬉しそうな声を上げる。


 対象に魔力のこもった言葉を向ける事で、現象を発生させる。

 それが預言という魔法の使い方の一つだ。


 ……言霊使いともいわれる由縁だよなあ。


 などと考えている数瞬の内に、三体のレッサートロールは炭化した。

 

「まあ、異界でも散々使っていたけど、ここでも上手く使えて良かった」


 異界だろうと人間界だろうと、使い心地は変わらないのだし、当然と言えば当然の事だ。ただ、


「炎がでかくなっていたな」 

「そういえば、そうでしたね。炎の槍が二倍くらいの大きさになっていましたから」

「多分、力を取り戻した時に得た、【魔力増幅】が効いたんだろうなあ」


 異界でも、【火焔】の言葉で炎を出すことは出来ていたけれども、ここまで早くで魔獣を焼き尽くすほどの火は出ていなかったし。

 

 ……ありふれた強化と言えども、効果として出てくれるとやはり、有り難さがある。

 

 そう思いながら、俺は炭化したレッサートロールの体を見る。黒く焦げた体の中心には、灰色に光る石が見えていた。

 魔石だ。

 

 魔獣が死ぬと、その死体からは魔石が入手できる。用途は色々あるけれど、回収しておいて損はない。

 

 あとで換金なり、道具と交換するなりするかしよう、と魔石を拾った後、


「さあ。問題も片付いた事だし。次は街まで歩こうか。もっと近くで、近代化した街を見よう」

「はい、先生!」


 サブの目的とはいえ力の一部を回収した俺は、そこはかとない楽しさと、人間界の空気を味わいながら街を目指して歩いていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●新連載作品のお知らせ
 8月に始めたばかりなこちらの連載も、是非、お読み頂ければ頂けると嬉しいです!
《羊飼い》な少年が伝説の魔獣と共に、開拓をしたり、無双したりして成り上がる話です!
 昔滅びた魔王城で拾った犬は、実は伝説の魔獣でした~隠れ最強職《羊飼い》な貴族の三男坊、いずれ、百魔獣の王となる~
https://ncode.syosetu.com/n5180ij/

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ