第15話 上級精霊の力
「こんなのありかよ……! 確かに下級以上の精霊だが……こんなの難度Dどころじゃねえ! 少なくとも難度B以上だ!」
目の前で少女のような人型に変化した上級精霊を見ながら、ドミニクは言葉を零した。
ああして、体の構造を変えて休眠する精霊というのは存在する。
恐らく、あの上級精霊も休眠状態だったのだろう。
その状態では発せられる魔力も抑えられるため、斥候はそれを見て、下級以上だと判断したのだろう。
ならば斥候は勿論、依頼を出したギルドも責められない。けれど、
……これはやべえ。
上級精霊は、Bランク以上の魔力を持った魔術師で、ようやく相手になれる。
戦闘して勝利をしたいのであればAランクを連れてこなければ、まず無理と言っていい。そんなレベルの力を持った強者だ。
……Cランク以下はとにかく戦うな、逃げろと教わってきた存在だ。
そして本来は、霊山や魔力の豊富な泉など、人里離れた場所にしか出てこないような存在でもある。十年来の精霊術士である自分でも、数えるほど見たことがないモノだが、
……目の前にいるのは、幻覚じゃねえ。
確かにいる。その上、
「くそ……こっちを向きがった!」
その顔と目がくるっと自分達を見た。
確実にこちらに気付いている。
しかも近づいてきている。
敵意があるのかは分からないが、その身に濃密な魔力と風を纏った状態で、だ。
……あれは、戦闘体勢、か……?!
少なくとも、これは背を向けるのは危険だ。だとしたらやるべき事は、いつ戦闘が始まっても良いように、準備する事。
そして、最悪の場合を考えて、
……後ろの、優秀で未来ある二人を逃がすための、準備をする……
ギルドに雇われた職業者として、それは当然の判断だ。
無論、自分の命をみすみす捨てる気もないが。
……まずは、精霊術で防備を固める……。
そう思い、手に魔力を集め、何時でも精霊を呼び出せるようにしようとした。
その瞬間、精霊の手がピクリと動き――
「――!」
精霊から放たれた、緑色の風で出来た壁が、ぶつかってきた。
「――ごふっ……!?」
石の壁で思い切り全身を殴られたかのような衝撃がきて、ドミニクの体は吹っ飛んだ。
そのまま、背後にあった木に激突する。
「か、は……魔力を乗せた風の打撃か……!」
一瞬だ。僅か一瞬で、数メートルを吹っ飛ばされた。
手がほんのわずかに動いただけで、こんな攻撃を放てるなんて。
……く……これが上級精霊の力、か……。
幸いなことに吹き飛ばされたのは先頭にいた自分だけで、アイゼン達は無事だ。
……足が無事ならば、オレが引き付ければ、どうにか逃げられるはずだ……!
そう思い、逃げろ、と叫ぼうとした。
が、それよりも早く、
「――」
再び、上級精霊の手が動いた。
そして、精霊の前方に分厚い壁が作られる。
それがまたこちらを襲いに来ようとしていた。
……まずい……。
回避をしなければ、ただではすまない。
更に良くないのは、この角度で食らえば竜巻の外に弾きだされ、ここに新人二人を残すことになる。
そうなれば、彼らの命も危ない。避けなければ。だが、
……っ……体が動かん……!
先ほどの打撃で、体が痺れている。
避けられない。
そう直感した、刹那。
ドミニクは、それを見た。
「言葉を預ける。――【杖よ 断ち割れ】」
アイゼンが、その風の壁を淡く光る杖で切り裂く姿を。
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