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プロローグ:いざ、英雄の弟子たちが待つ世界へ

新作始めました。よろしくお願いします。

「よし決めた。俺、世界を回る旅に出る!」


 自宅の書斎で、俺は机にペンを置きながら不意にそう言った。


「え? どうしたんですか、アイゼン先生。いきなりそんな事を言うなんて」


 すると、俺の目の前で戸棚に本を収めていた、淡い赤色の服を着たエルフの少女が答えてくる。


「リンネは覚えてるかな? 昔、俺の弟子になった、デュークっていう男がいただろう?」

「はい。私は長命種エルフとして記憶力はいいので、ちゃんと覚えていますが……それがどうかなされたのです?」

「この前、そいつから、手紙が来てさ」


『拝啓、親愛なる我がお師匠、アイゼン・オーティス様。

 お元気でしょうか。

 私が国王になって早二十年が経ちました。


 お師匠様のお陰で、政務は勿論、様々な体力のいる仕事をこなせた結果、国の景気もよくなり、都市も発展しました。とても楽しい所ですので、是非一度、お越し頂ければ嬉しいです。その際、連絡を頂ければ国賓待遇として出迎えさせて貰い、様々な魅力を紹介したく思います。

 では、どうかお体にはお気を付けくださいませ』


「――って、書いてあったんだよ」

「ああ、そーですねえ。毎年毎月、このような手紙、他のお弟子さんからも届いてますからねえ」


 そう言って、リンネは戸棚を見た。

 そこにはいくつもの手紙が置かれており、彼女はその何枚かを手に取った。


「これは数年前、賢者になったフラウスト氏からのモノですし、こっちは『異形を討伐し国土広げた』とグランドナイトのハインリヒ氏から先々週に来たものですね。どっちにも、『一度、自分のいる所に来てほしい。案内させてほしい』と書かれていますよ。他にも領主になった方や、魔法大学の学校長になった方などからも。百英雄の方々全員から」

「だろう? もう、ずっと前からそんな手紙を貰いまくってる訳でさ。ここでやる事もないし、だったら、せっかく魅力を語ってくれてるんだから、一気に行こうかな、と思ったんだよ」

「なるほどー。では、手紙をくれた方々に魔法電報を打ちますか。もしくは先生から手紙を返しますか?」


 リンネの言葉に俺は首を横に振った。


「いや、連絡はしなくていいかな」

「え……? どうしてです?」

「だってさ、皆も大変な立場にいるだろ? そこに俺が連絡して手間を取らせて、迷惑かけるのもなんだろう?」


 弟子たちは皆、王様だの、領主だの、学長だの、物凄く忙しそうな立場にいる。

 そんな彼らにわざわざ時間を取らせるのは、違うと思う。


「だからさ、自分だけで行って、勝手に楽しんで、最後に会えるんならちょっと挨拶をすればいいってスタンスで良いかなと思うんだよ」

「なるほど……お忍びというやつですね」

「そういうことだな」

「出発日は、いつなんです?」

「今日中にこの家を出ようと思っているよ」

「け、結構、急ですね」

「思いついたらすぐに動いた方が得だからな」


 旅行用の荷物も先ほど用意したし。ご近所さんにも挨拶は済ませた。

 あとは出発するだけだ。


「そんな訳で俺は行くから。リンネ、君は自由にして良い――」

「――はい。では付いていきますね。荷物をまとめますので少々お待ちを」


 俺が言い終える前に、リンネは素早く部屋の隅に走り出した。そして何やらリュックなどを担ぎ始めている。


「えっと……リンネ? もう、住み込みの弟子だからって、俺の世話なんかはしなくていい事になるんだけど……?」

「ええ、だから自分の意思でアイゼン先生のお世話をさせて頂きます。というか元より弟子だからではなく、自分の意思で、先生の元にいたわけですし。なので今回も弟子などと関係なく付いていきます。自由にして良いとアイゼン先生も仰いましたし。……良いですよね?」


 リンネはおずおずと、上目遣いで聞いてくる。

 まあ、確かにそれも自由だ。止める筋合いはない。それに、

 

「君がいてくれると、旅路でも助かるだろうし、有り難いよ」


 そういうと、リンネはぱあっと表情を明るくした。


「はい! では、少し時間を下さい。荷物はこれで殆どですし、あと数分で、装備などの旅支度を済ませてしまいます!」

「え? いや、旅立ちを伝えたのはさっきなんだけど、準備出来てるのか?」

「勿論です。アイゼン先生がどこに行ってもいいように、万全ですから! ――そしてもう、完了しました!」


 グっと親指を立ててくる。


「リンネは本当に動くのが早いな」

「ふふ、ありがとうございます。……といっても、アイゼン先生。驚いてないですし。予想できていたのでは?」

「少しは、こうなる気はしてたよ」


 リンネは世話焼きな子だというのは分かっている。

 だから、もしかしたら付いてくるかも、とは予感していた。


「流石は預言者アイゼン先生ですね」

「いやいや。預言者として、『預言』や『予言』の魔法が使えると言っても、今の俺は未来予知が出来たりするわけじゃないんだぞ?」


 預言や予言は別に未来を見れる様な魔法ではない。


 ……基本的に《預言者》というのは、言霊を使った魔法使い、ってだけだからなあ。


 そもそも、預言者が使う、そんな未来を『見る』様な魔法は、様々な代償、もしくは対価と引き換えに、ほんの少し先を見る位が精々なのだ。

 そんなもので良ければ、昔の俺は確かに使えたけれども、今の俺には無理だし。今回のは、ただの予感に過ぎない。

 

「そう……ですね。アイゼン先生は、魔剣王との戦闘の代償に、力の大部分を各地に置いてきてしまいましたから」

「ボロボロになった状態で力を持ち続けていたら、扱いきれずに暴走してたからな。仕方ないさ。それにこの地で休んで、体が回復した今なら、力を戻しても平気だし」


 言いながら俺は書斎に設けられた、家具搬入用の勝手口から家の外に出る。

 家の外には、虹色の空と、白く光る大気が揺らめく草原が広がっている。

 

 人間界と精霊界の狭間にある、異界、と呼ばれる場所だ。

 かつての戦闘で傷を負った俺は、知人の手引きでこの世界にやってきた。

 

 この世界は時間の流れが特殊であるからか、体の回復が早かった。それでも治るまでかなりの時間を要したが、身体機能も衰えることなく、顔立ちも若いまま、昔通りの体に戻ることになった。


「うん……? ということは、先生は、今回の旅で力の回収をしに行くのです?」

「いや、それはオマケだな。出向いた先にあれば回収するって感じで。第一目標はさっきも言った通り、弟子の皆がいる場所を観光しに行く事だから。勿論、内緒でな」

 

 人差し指を立てながらリンネに言いつつ、俺は家から数歩ほど歩く。

 するとそこには、白い光で出来たドアがある。そこが異界と人間界を繋ぐ出入り口だ。

 あとはそのドアを押して外に出るだけ。そんな段階で、

  

「おや、いくのかい、アイゼン・オーティス殿? それにリンネ殿」


 ドアの横、白く光る大気の中から、一人の女性が現れた。

 白い薄布をドレスのように身に纏った、若い女性だ。


「あ、精霊太上皇さん。お世話になりました」


 リンネが言葉を返すと、精霊太上皇と呼ばれた彼女は微笑みと共に首を振った。

 

「気にしないでくれ。大した世話も出来ていないのだからな」

「いや、そんな事はないさ。体もすっかり回復したからな。弟子との手紙のやりとりとか、今まで、便宜を図ってくれて有り難う、精霊太上皇」


 言うと、苦笑を返してくる。

 

「そこまで礼を言ってくれなくても良いのだぞ、アイゼン・オーティス殿。貴方が魔剣王との戦いで傷を負ったのは、元はと言えば私たちの責任もあるのだ。それに……貴方達がいたお陰で、私の子達たちにも楽しい話題を提供できたのだから、礼を言うならお互い様なのだしな」 


 太上皇はそう言いながら、目線を僅か背後にずらした。そこには、小さな精霊の子供たちがいた。まだ体を上手く作れないのか半透明な人型をしたその子たちは、しかし、


「せんせぇー。ありがとー」


 と、手を振って来る。

 

「あら、アイゼン先生。精霊太上皇のお子さん達にも先生って呼ばれちゃってますね」

「リンネ、君がずっと先生先生って呼んでた影響もあると思うけどな」

「はは、まあ、貴方に育てられた部分もあるから、間違っていないさ、アイゼン殿。……精霊界に関わる事があったら、いつでも私たちを呼んでほしい。私だけではなく、貴方に育てられ鍛えられた精霊たちも、きっと力になって見せるから」


 そう言って太上皇は手を差し出してきた。俺は彼女の声に頷き返しながら、手も握り返す。


「ああ、その時はよろしく頼むわ、太上皇。……じゃあ、またな!」

「皆さん、お元気で―」

「ああ、元精霊王として、貴方達の旅路に幸運がある事を祈っているよ」


 そうして、精霊太上皇の見送りを受けながら、俺はリンネと共にドアを開ける。


「――さあ、他の弟子に内緒で、世界を回りに行こうか、リンネ」

「はい、アイゼン先生!」

 

 そう言って、俺はリンネと共に、久方ぶりの人間界へと足を踏み出すのだった。



「……ふふ。全く、英雄たちだけではなく、人間界へと行った精霊達をも鍛え、育てててくれた、預言者アイゼンよ。人の世にいる貴方を慕う弟子は百人の英雄だけではなくなっているのだが……貴方がそれを実感してくれれば、嬉しいのだがな」



「ついに……この日が来たか……!!」


 首都レーガにある王城地下の一室で、国王デュークは魔法陣の中にいる人々を見て、抑えれぬ歓喜の声を上げていた。

 

 魔法陣の中にいる二十人ほどの人々は、皆一様にローブを着込み、水晶玉を頭上に掲げて、大量の脂汗を流していた。

 その上で、声を重ねて、言葉を紡いでいた。そして先ほど放ったのと同じ言葉が、国王の耳に再び届いた。

  

『この、人の世界に《預言者》が現れるでしょう。かつて世界を破壊せんとした邪神の相棒、魔剣王を倒したかの者のような、預言者が……』


 先ほどの言葉は聞き間違いでは無かった。

 その事実に、国王デュークはぐっとこぶしを握る。


「ついに……か! ついに、この予言が来たのか……!!」


 歓喜の表情を浮かべながら、デュークは目の前にいる人々に言葉をかける。


「よくやった、我が親愛なる占い師たち!」


 その言葉が届いた瞬間、占い師たちは一斉に水晶玉を掲げていた手を降ろし、そして皆一様にがくりと膝をついた。

 

「はあ……はあ……どうでしたか、国王様」

「ああ、苦節数年。望み通りの結果が来たぞ、皆よ!」

「本当ですか!?」

「ああ、後はゆっくり休んでくれ……!!」


 国王の声に、占い師たちは達成感と安堵を半々に浮かべた表情を取る。

 そんな占い師たちに心から感謝をしながら、デュークはぽつりと言葉を零す。


「毎年、私財を投入し、多大な予算を計上して、選任の占い師を複数雇い入れ、魔法具を仕入れ、準備をし続けた甲斐があった……!」


 占い師に魔力を一か月溜め続けて貰い、その全魔力を持って『予言』の魔法を行使する。毎月毎月行っている事だ。


「これだけの予算と人数と設備を掛けても、師匠程の精度や、規模、確度では出来なかったが……な」


 今いる場所は、長年かけて設計、構築した占い師の魔力を強める為の義式場だ。

 本来、こういった魔法は、こういった特殊設備や魔法具で術者を強化して、更に一か月単位で魔力を溜め、複数人で同時に発動させねば使えもしない。

 単体で『予言』を行使できた、かつての自分の師ほど優れた術者が、人の世にいなかったのだから、仕方がない。ただ、それでも、

 

「この結果は出た事は有り難い……!」


 少なくとも、この先に強力な預言者という存在がこの世に出てくるであろう事は分かった。

 いつになるか、そもそも自らの師匠であるかも分からないが。

 それでも、師匠である可能性が高いのは確かだし、仮に師匠だった場合、

 


「見つけ次第、全力で『お持て成し』をさせて貰おうぞ、お師匠様……!」

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