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思いつき悪役令嬢短編

転生したら婚約破棄を宣言する寸前の王子だった

作者: マッチ売りのおじさん


 貴族や平民の身分を分け隔てなく勉学を行う事が出来る学園。全てが平等という訳にはいかないが平民や貴族に繋がりが出来る。少しでも身分差による迫害を減らそうという狙いがあり、他国との交流と理由で留学も許可していた。


 そんな学園での卒業式の事。


 この国の第一王子ヘンリーと婚約者フレアが卒業すると言う事で、最後のスピーチは二人にやってもらおうということになった。


 しかし、始まって見れば王子ヘンリーの隣にいたのは婚約者では無い。学園では有名な人物だった。


 男爵家の長女マリア。ヘンリーと逢瀬を重ねていると噂されていた。目撃者も多く、身分差を考えない愚か者と称されていた。それがどうだ。ここに来てみれば婚約者の座を奪っている。


 学園の生徒はザワザワと騒ぎ始めた。学園長など不味い事が起きていると分かり、顔が青ざめている。


 そしてヘンリーが壇上に立ちスピーチを始めた。


「静粛に!」


 その言葉に誰しもが口を告ぐんだ。そして会場が静まるとヘンリーは続けた。


「今この状況で何が起きてるのか分からないという者はいないだろう」


 ヘンリーは会場を見回す。マリアは顔を赤らめヘンリーを見ていた。


「罪人を連れてこい!」


 再び生徒達がざわつく。この場にいない者がいなくてはならない人物その人がいない。ならば罪人とは……。


 王子ヘンリーの取り巻き。この国の騎士団長の次男マキシムが王子の婚約者であるフレアを連れてきた。


 口には布が巻かれ、腕は後ろで繋がれている。マキシムは力任せに床に顔を叩きつける。フレアは痛みからうめき声をあげた。


 あまりの酷さに学園長が椅子から立ち上がる。


「王子! 何をしているのです! 女性に暴行を行うなど―――」


「マリア」


「はい♪」


 ヘンリーの声に従い、マリアが魔法を唱えた。学園長は言葉の途中で白目を向き、意識を失った。


「学園長!」


 突然の出来事に教員が学園長の元に駆けつける。呼吸、脈拍を確認する。


「死……死んでいます」


 教員の言葉に場は騒然となった。


「お静かに。動かぬようお願いします。その者と同じようになりたくなければ」


 ヘンリーが告げる。場を支配したのは殺されるかもしれないという恐怖だった。恐怖から震えが止まらない者、失禁する者もいた。


「えー、ではいいでしょうか?本日、卒業式という事で学園長からスピーチを頼まれました。第一王子ヘンリーです。よろしくお願いいたします。では本題に入りたいと思います」


 ヘンリーは畏まった言い方で話を始めた。


「皆さんも知っている通り、身分による差を無くしたい。そんな馬鹿みたいな気持ちから、この学園は始まりました」


 ヘンリーはゆっくりと見渡す。真剣に聞いている者。畏怖の目を向ける者。反抗的な態度を見せる者を確認する。


「今は平和な世の中ではありません。我が国は隣国と戦争をしています。未だに暴力が支配する世の中です。なのになぜ学園は機能しているのか?『留学』という名目で他国の人質がこの学園に集められているからです。私の婚約者フレアもその一人です」


 ヘンリーはフレアを見て笑顔を浮かべる。フレアはじたばたと暴れているがマキシムの馬鹿力に押さえ込まれ動けない。


「フレア……君は礎になるんだ。戦争の礎にね。……そうだ。忘れていた」


 ヘンリーはわざとらしく言った。


「フレア。君との婚約を破―――」



==========

=======

=====



 思い……出した!


 この世界は前世でプレイしたゲームと内容がそっくりだ。


 俺、第一王子ヘンリーは女神マリアの口車にまんまと乗せられる。フレアを処刑しようと首を落とそうとした瞬間。フレアの護衛が駆けつけてくる。


 マリアの女神の力は強大だ。しかし、フレアの護衛は魔王直属の近衛兵でマリアの力を持ってしても簡単にはいかない。全力を出した結果。ヘンリーにかけられていた洗脳も解ける。


 あれ?俺、洗脳されてんの?


「王子、王子どうしました? 早く宣言をしてください」


 マリアが肩を揺さぶる。いや違う!手が光っている。洗脳が切れたと思ってかけ直している。


 ぐっ……頭が……何ともないな。少し頭痛がするぐらいだ。


 俺は声をこの場にいる全員に聞こえるように大声で叫ぶ。


「マリア! 俺への洗脳は無駄だ! マキシム、フレアを離せ!」


 マキシムは虚ろな目でこちらを見てきた。こいつも洗脳されているのか。


「ククク……やはり勇者の末裔。既に耐性が出来たか」


 マリアは本性を現した。勇者の末裔?まじで?


「貴様の中に眠る我が与えた勇者の力。それだけは返してもらおう」


 勇者?勇者のおとぎ話って何百年も前。建国時代の話だと思うんだけど……。


「ばばあ?」


 うっかり呟いた瞬間。マリアは鬼の形相で首を掴んできた。足が浮いてる! くっ……苦しい。誰かヘルプ!


「フレア様! 貴様ら何をしている!」


 フレアの護衛がようやく来た。お前ら護衛の癖に何してるんだ。


 パッと手を離され、地べたに転がった。苦しかった~……じゃない! フレアを助けないと!


 マリアは護衛に向き合って何かしている。爆発がそこら中で起こり、人々は逃げ惑う。次元が違い過ぎて何が起きてるのか分からない。ヤムチャ視点だ。


 こちらに構っている余裕が無いのだろう。見向きもしない。マキシムの洗脳も維持出来ず解けたようだ。フレアを押さえていたマキシムが気を失いパタリと倒れる。


「フレア!」


 駆け寄ると縛っていた布を外す。唇から血を流し、手首が赤くなっている。


「ごめん、フレア」


 思わず抱き締めた。


「私もヘンリーが大変な時に気付かずにごめんなさい」


 フレアも抱き締め返す。体が震えていた。怖かったのだろう。


「もう君の手を離さない」


「私のあなたの側から離れない」


 二人は幸せなキスをした。



 

「ヘンリー、体が……」


「うんっ?」


 柔らかい感触が離れ、マリアの声に目を開けた。俺の体が光っていた。


 こ、これはゲーム終盤の覚醒イベント!神の力を行使するマリアに対抗するためにそれまでとは一線を画すパワーアップ。ステータス100程度だったのがいきなり999になるイベントバトルだ。


 マリアもこちらに気づき驚愕している。


「馬鹿な……っ!なんだその力は!」


 えーと、たしか台詞が


「王家に先祖代々受け継いできた力。それは例えるなら砂をかけては崩れる山のようだった。だが少しずつ大きくなり、いつか巨悪を倒す力となる。それが今だ! 悪よ滅ぶべし」


 決まったか!


「我が、女神である我が! 悪だと!? 我の力で粋がるな! 小僧が!」

 

 マリアは激昂し、襲いかかってくる。しかし、背後からフレアの護衛が攻撃する。


「ぐぅ、ぐぅぁあああああ! 我が負けるのか!」


 地べたに這いつくばったマリアが俺に向かって手を伸ばす。俺はその手を掴んだ。


「マリア。君とは少なくない時を過ごした。洗脳されていたとはいえ、全て覚えている。一緒にいた時の君は本当に楽しそうだった。その時の気持ちが嘘では無い事ぐらいは分かる」


「ヘ、ヘンリー……」


 マリアは涙を流す。


 戦の女神であるマリアは戦いが好きだった。ヘンリーを利用して戦争を引き起こそうとした。けれど、神である前に一人の女の子だった。一緒に過ごすうちに恋という感情が芽生えたマリアはどうしていいか分からなくなってしまう。


 そしてヘンリーを手にいれようとフレアの処刑を思い付く。余計な事をしなければヘンリーは洗脳されたままで戦争は激化していた。とエンディングには記されている。


「妾で良ければ」


 フレアとマリアからほっぺを叩かれた。


「速攻浮気とかあり得ないでしょ!」


「妾でいい訳ないのじゃ!」


 ……無駄にゲーム知識があるからいけないんだ。くっ……見捨てられん。


「これは交換条件だ。今日の出来事を無かった事にして欲しい。人が死にすぎた。女神の力を使えば元通りに出来るだろう。フレアとの結婚までは時間がある。今度は正妻の座を真っ正面から奪ってみてはどうだ? 俺はフレアを選ぶけど」


 マリアは迷った様子を見せる。フレアも回りを見渡し惨状を理解したようだ。


「私はそれでいいわ。けどヘンリーは私のものよ」


 マリアはフレアの顔を見る。


「良いのか?私に恨みは無いのか?」


「いいわよ。早くしなさい」


 そしてマリアは俺に口付けをした。


「そんなこと許可してない!」


 フレアの怒声が聞こえた



==========

======

====



「えー、という事で全ての種族が手と手を取り合い、生きていく事が出来る世界をこれからも目指していきます」


 ヘンリーがスピーチを終えると割れんばかりの拍手が起きた。


「ブラボー!ブラボー!」


 学園長は立ち上がり叫んでいる。



 マリアは卒業式が開催される前に時間まで戻した。その後、フレアの布を解くと、ヘンリーにキスをした。「忘れてないから」と言いながら、苦笑いのマリアを睨む。そして壇上に上がりスピーチをした。


 降りる時にヘンリーはフレアとマリアの手を握り左右からキスをされたのだった。


「二人とも幸せにするよ」


 ヘンリーは照れる二人の頬にキスをした。

 



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