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3

後ろからふいに声を掛けられた。

俺は後ろをそっと振り返ると白いコートを着た女性が立っていた。


「渡らないの?」


待たそう訊ねてくる女性に俺はなんて答えたらいいのか困惑しているといきなり袖を掴まれた。

ビックリした表情で掴まれた袖を見るとクスクスと笑う女性がまた声を掛けてきた。


「一人で渡れないなら私が一緒に渡ってあげるよ」

「……何言って……」


振り払おうにも力が出ない。

女性は笑いながら俺の服の袖を掴んだまま青信号に変わったのを確認して横断歩道を渡り始めた。


家に帰ると彼女が待っていると思うとまた同じことの繰り返しになってしまうのは目に見えている。

このまま家に帰らなかったら彼女のあの笑顔を見なくていいと思うとなんだか心がほっとしてしまっていた。


白いコートの女性と一緒に渡り終わるとまた俺に話しかけてきた。


「お兄さん、何であそこで突っ立ったままだったの? 家には帰らなくていいの?」

「……帰りたくないんだ……」


ナゼ?

と質問されても答えようがない。

俺は黙ったまま俯いていると今度は俺の腕を掴んでこう言われた。


「帰りたくないなら家においでよ。私この先のマンションに住んでるからさ」


驚いた俺はその女性の顔を見つめた。

いい大人が自分の家に帰りたくないなどどいう男に対していう言葉じゃない。

もしかして揶揄われている?


「ね、行こうよ」


俯いている俺の耳元でそう囁かれて鳥肌が立った。

知らない女性に家に誘われて困惑していたがそれと同時に心臓の鼓動も早くなっていた。

俺は女性を見つめた。

茶色に染めたショートヘアーで二重の綺麗な瞳に小顔で可愛らしい。


「おっさんの俺を連れてどうする気?」


俺の言葉に少し首をかしげてまた笑顔でクスクス笑った。

その笑顔は無垢で純粋な笑顔に俺の瞳には映った。


「おっさんじゃなくてお兄さん、でしょ?」

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