13
あ、いた。何気ない顔をして横断歩道に歩いてくる彼を私は捕らえた。
「お帰り、紫野ちゃん」
彼の目の前に立った私を見て紫野ちゃんが驚いた表情をした。
「……何で……?」
「逃げ出されたら困るもん」
私は紫野ちゃんの腕を掴みながら横断歩道を渡った。
周りからしたら年の離れた兄妹って思われているのかな。
そんなことを思った。
「何であそこにいたんだ?」
「待ってたの、ずっと……」
重いかな……私のこと変な子だと思われないかな。
不安な感情が私の中で渦巻いた。
「何で?」
何で……? だってだって……。
「だって、逃げるんか無いかって思ったから」
私がそう言うと彼が私の頭を撫でた。
行き成りだったから正直びっくりした。
「何するの?」
「いいじゃん、別にさ」
良くないよ。どういう意味なのか分からないじゃない。
紫野ちゃんは笑いながら、私は紫野ちゃんの腕を掴みながらマンションに戻って行った。
彼女と暮らし始めてから数日間が過ぎた。
俺は相変わらず先輩とは距離を置いている。
先輩も俺の事をもう構うことはしなかった。
「今日も冴えない顔してるわね」
デスクで作業している俺に声を掛けてきたのは同じ同僚の浅倉だった。
彼女とは研修時代からの友達だった。
仲良くなったきっかけは研修最終日に打ち上げで仲良くなったのが最初。
それ以外彼女は違う部署に配属になって事務作業をしている。
俺は彼女と話していると時が一番自分で居られるのだった。