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はぐらかした言い方で先輩が納得するはずはない。
どういう事? と訊き返された俺ははっきり自分の気持ちを話した。
「もう。こういう関係を止めたいんです。先輩には婚約者がいる。僕にはその婚約者にはなれない。好きになっても。先輩を愛したところでその事実は変わらない。だから止めにしたんです」
「そう……分かったわ」
でも、最初から分かっていたことでしょ。
先輩にそう言われた。
確かにそうだ。
分かっていたことだったのに、どんどん先輩に惹かれていく自分が嫌になって。
逃げ出したんだ。
それから仕事に戻り定時になると帰る支度をした。
帰る…何処へ?
またあのマンションに帰るのか?
今ならまだ自分のアパートに戻っても良いのかもしれない。
そう思いながら電車に乗って、駅に降りると目の前に彼女の姿があった。
「お帰り。紫野ちゃん」
「……何で……?」
逃げ出されても困るもん。
そう言いながら笑っていた。
俺の腕をぎゅっと掴みながらあのマンションに向かう俺とさっちゃん。
周りからしたら兄貴と妹としか見えないんだろうな。
そんなことを思った。
「何であそこにいたの?」
「待ってたの、ずっと……」
「何で」
「だって…逃げるんじゃないかって思ったから」
うう……鋭い。
女性の鋭さにはかなわないな、俺はさっちゃんの頭を撫でた。
「何するの?」
「いいじゃん、別にさ」
俺は笑いながら、彼女はちょっと不満げな顔をしながらマンションへ帰った。
紫野ちゃんが私のマンションに帰って来る可能性があるだろうか。
私は駅の前にある横断歩道の前で待つ。
だけど彼が来てくれる保障は何処にもない。
だけど、だけど……。