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会社の窓から見る景色を俺はぼーっと眺めていた。
今日はなんだか気分が乗らない。
偶にそう言う事が自分の中で起こるのだ。
営業職として働いているがこの会社は営業でも定時に帰宅するよう通達されている。
以前この会社で働いていた社員が退職しそれまでサービス残業を強いられていたことを労基署に告発したらしい。
労基署から査察が入って以来一切の残業が無くなった。
それはそれで有難いのが早く帰ってもすることが無いのが困ったものだ。
「桜井君。今いいかしら」
「あ、はい…」
俺の名前を呼ぶのは同じ部署で先輩にあたる赤城詩音さん。
俺が新入社員の時からの指導役だ。
赤城さんは仕事が出来て周りからの評価も高い。
上司や部下に受けがよく彼女もまたそれを知ってか人当たりもいい人だった。
俺は赤城さんを密かに想っていた。
黒髪の肩くらいまであるサラサラした髪の毛やぱっちりした目、すっと鼻筋が通って所謂美人顔。
美人だからだけではなくとても内面に惹かれてしまったのだ。
実は彼女に対するファンがいるくらいモテている。
俺もその一人だった。
だけど、他の人には言えない秘密があった。
「紫野、今日も行っていい?」
事務所の会議室へ連れられて赤城さんが俺にそう告げた。
あれは新入社員研修最終日の打ち上げの時だった。
久々に酒を飲んで酔っ払ってしまった俺を赤城さんが介抱してくれた。
店のトイレで苦戦する俺の背中を優しく擦ってくれた。
「今日はこのまま帰りましょう。あまり無理したらダメよ」
「……はい……すみません……」
赤城さんに言われるまま俺を連れて一緒にタクシーに乗った。
でも…その後の記憶が全くない。
気が付くと知らない部屋と知らないベッドの上に寝かされていた。
「気が付いた?」