黄昏
投稿後すぐ 一部改稿(読難性の緩和)
甘やかな黄昏の春の通りを足音たちがそれぞれにそれぞれの夜に歩いている。わたしにとってはわたし一人でさえ抱えきれないこの夕べにこれほどまでの一人の群をゆっくりと薄闇がすくい上げている。流行り廃りのあるスタイルとして外側ではこんなにも忙しく時間は進むのに一歩も進めなくなっている内側では息とも鼓動とも同期せずにほとんど眠ったように今日が暮れている。夜になり独りきりの流氷のように次第に小さくなって溶けていく己を見つめていると太陽を忘れてしまった土竜人のようになって眠たくなって、唯々一日中夜について考えている彼らとなったわたしは真っ暗なしかし青の濃い深海の街角の夢を見る。その寝顔はきっとわたしの知らないわたしのようであり最も昔から知っていたわたしのようでもあって、面影を己に見出すことには逆らいがたい反発を覚えてしまう。けれどそれはまるで遡ることを許されない季節たちのタブーのように他人ごとならばひどくエロティックだから鏡面のガラスの奧にいた誰かと目が合ったわたしは歩道の上のタイルの一つに立ち止まる。それはまるでこの街の誰もが前を向いて歩きながらすれ違って追い抜きそして追い越されやがて閉じ込められてようやく立ち止まるかのように自発的な止む終えなさであって、そのときのわたしたちの前をざわざわと横切っていったのは、初めて知った他人のようにわたしを気付かせるものとしてゆったりとしかし押しとどめられない春の海の波のように押し寄せてくる街の雑踏となり騒めく人々のそしてわたしたちの、あの痛みすら伴った寒さがもはや懐かしいようなそのことを思うことがなぜか少し恥ずかしくもあるからこそ溢れ出してくるこの季節特有のピンク色の言葉の群れだった。