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視線
白の部屋でひとり
苦痛だけを抱えている
これは記憶
失われない本能の収縮
積み重なっていく
これは傲慢に最も遠い塔
まるで個人とっては形なき痛覚だけが
この世で最も保存する価値があるというような
喜びたちは軽やかに揮発してしまう
それらは決して危機ではなく
何度不意に現れても受け入れることが出来るから
わたしたちはそれのために生きようとするけれど
闇の中に走る稲妻となり
痛みだけが待ち望まれている
忘れられない傷痕が幾度も癒えようとしながらも
完全に傷痕になることを許されないのは
わたしたち自身がそれを許さないから
塔は遂に雲の境界を抜ける
ああ、その時メリメリと壊れる音がする
不可逆性の分岐点を越えたとき
二度と光の照らすことの無い隙間が生まれる
見下ろす灯りがのしかかるように迫り
明日と明後日とその先が押し潰してくる
目を開けたままの闇が
最も暗い陰に棲むものが手招きする
こっちだ 少し足を踏み出せばいい
速やかに全てが閉じる
このことだけが おまえ次第だ
その線を跨ぐと決めた者を
誰にも止めることはできない
そのことはよく知っているだろう?
さあ こっちだ……