春海
やはりそうだ
人も末端から枯れていく
ドラセナの葉先のように
薄ら寒い風に
そして根の虚しさに
街は昼夜に君臨する
行く先に何処までも続く頭頭頭……
わたしを踏みつけている窓窓窓……
足下には累々と沈んでいく夢夢夢……
野良犬は生存を許されず
野良猫は嗚咽を許されず
わたしは土塊を一握り温める
これをひと息に喰えば
土臭くてたまらず嘔吐が止まらない
そして滂沱の後に目は開く
この殺伐の時代のために
父母は命を懸けたのか
山は声も出せず削られ続けて
川は涙を枯らし殺されて
海は顔を抉られ傷にヘドロを流し込まれて
何もかもが傷だらけだ
何もかもが枯れ果てそうだ
それでも季節の残酷は
わたしに幻想を信じ込ませようとする
何度も繰り返し繰り返し繰り返し……
もう知ってしまった世界の姿は
どれほどに美しく飾っても乾ききっているのに
fff
ある春の日に
崩れかけている黄土の壁に沿い
小さな黄色が点々と続く
誰も省みない故にチラチラ鮮やかに
静かな風は路地を抜け出し
微かにその葉先を揺らす
あの特別な春の日に
暖かさにぼうとして
明るさにふわとして
あなたは
なんだかゆめのなかにいるみたい
といった
わたしは何もかも悲しくなってしまって
ただハンドルを握った
キラキラと弾む景色が流れて
何処までも何時までもそのままのようで
このひと時を
この二度とはない奇跡のような
ありふれた美しさを
ずっとずっと忘れないでほしいと
わたしは口に出せず
ただ前だけを見ていた
世界はまるで叶うように優しく見えて
沢山の黄色い花が咲いていた
あのとき花は揺れていただろうか
影ひとつない一面の菜の花畑の向こうに
緑濃く松林が見えた
わたしは心の中であなたに話しかける
もうすこし
もうすこしだ
あのむこうに海がある
白い砂浜がまぶしいんだ
とっても澄んだ綺麗な海なんだ
まだ寒いかも知れないけど
きっと大丈夫、
きっと大丈夫だよ……