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春光  作者: につき
3/10

春海

やはりそうだ

人も末端から枯れていく

ドラセナの葉先のように

薄ら寒い風に

そして根の虚しさに


街は昼夜に君臨する

行く先に何処までも続く頭頭頭……

わたしを踏みつけている窓窓窓……

足下には累々と沈んでいく夢夢夢……

野良犬は生存を許されず

野良猫は嗚咽を許されず


わたしは土塊を一握り温める

これをひと息に喰えば

土臭くてたまらず嘔吐が止まらない

そして滂沱の後に目は開く


この殺伐の時代のために

父母は命を懸けたのか

山は声も出せず削られ続けて

川は涙を枯らし殺されて

海は顔を抉られ傷にヘドロを流し込まれて

何もかもが傷だらけだ

何もかもが枯れ果てそうだ


それでも季節の残酷は

わたしに幻想を信じ込ませようとする

何度も繰り返し繰り返し繰り返し……

もう知ってしまった世界の姿は

どれほどに美しく飾っても乾ききっているのに


fff

ある春の日に

崩れかけている黄土の壁に沿い

小さな黄色が点々と続く

誰も省みない故にチラチラ鮮やかに

静かな風は路地を抜け出し

微かにその葉先を揺らす


あの特別な春の日に

暖かさにぼうとして

明るさにふわとして

あなたは

 なんだかゆめのなかにいるみたい

といった

わたしは何もかも悲しくなってしまって

ただハンドルを握った

キラキラと弾む景色が流れて

何処までも何時までもそのままのようで

このひと時を

この二度とはない奇跡のような

ありふれた美しさを

ずっとずっと忘れないでほしいと

わたしは口に出せず

ただ前だけを見ていた

世界はまるで叶うように優しく見えて

沢山の黄色い花が咲いていた

あのとき花は揺れていただろうか

影ひとつない一面の菜の花畑の向こうに

緑濃く松林が見えた

わたしは心の中であなたに話しかける

 もうすこし

 もうすこしだ

 あのむこうに海がある

 白い砂浜がまぶしいんだ

 とっても澄んだ綺麗な海なんだ

 まだ寒いかも知れないけど

 きっと大丈夫、

 きっと大丈夫だよ……

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