従牛
牛は後に従う
何もかも沈んでいく夕べに
丘はなだらかに街並みを見下ろす
まるでなにもかも懐かしいようだ
立ち止まれば赤光が唯照らしている
牛は足元の草を喰みながら
時折黒い目で見つめる
とっくに帰るところは失われた
容易く己を預けることの出来ないお前は
誰かを預かることさえ出来はしないのだと
消え行くものは涙など流さず
残るものだけが繰り返し泣く
かつてを知らず受け取るとき
背中を赤く染める寂しさが長く影を曳く
そのとき牛は鳴いた
わたしと牛の影は一つになり奇怪な姿となる
この夕暮れを
野太い四肢は土臭いままに
黒く濡れた瞳は静かなままに
四角い体躯は温かく大きいままに
牛はわたしに従った
そのことが何よりも嬉しく
わたしは目を閉じる
そして朝は来るだろう
牛には牛の
わたしにはわたしの
それでもその背に掌をあてるなら
体温が互いの共感としてある
この温度として確かにあるもの
我らの共感の中で心は息をする
時に嘆息し
時に息を呑み
時に吐息を漏らし
華やぐ野にあって驟雨に濡れるとき
牛は喜びわたしは戸惑う
凍える暗雲の風に吹かれるとき
わたしは足を止め牛は悠然と進む
我らは共に倒れるまで行く
この黄昏の丘の上を
いつか全ての色が消えるまで