躊躇
風が吹き波の舞うとき
わたしは思い出す
ここに心があったのだと
もうすでに
春がしゃがみこんでいる路地裏に
猫が犬が一匹二匹三匹と乗り込んでいく
やたらと薄ら寒い腹なのに
そこらに柔らかな二葉が萌え
鳥たちは軽やかに鳴き騒ぐ
退屈な戸惑いがやって来る
躊躇いは隠れてしまうだろう
それでもわたしの中から
醜悪がまた顔を覗かせる
この嫌いではない感じだ
この破滅の波打ち際でこそ
男と女は上気の頬でギラギラと目を光らせる
そうだこれが生きていることだ!
まったく戸惑いは的外れで
果たして躊躇いはくるり回って輝かしい
細切れで論じられてきたのは我々そのもの
最も身近でそれ故に軽んじられて来たもの
心よ
総ての源になりえる従順さ故に
あるいはその優しさ故に
踏みにじられてきた暖かさよ
柔らかさだけが打ち寄せる
形のない心地よい温度
このあたりに生きているもの
弱くそして美しいもの
しかしそれでいて狂おしく足掻くもの
この心が身体なのか仮想なのかを問わず
猫たちは心に沿い甘え
犬たちは心に従い鳴く
不思議な待ち合わせを繰り返す
わたしたちは
幾度となく新たに始まりまた物思う
終わることのない波打ち際のように
心たちは恐る恐る近づき合い
弾けるように離れてはまた足を踏み出す
何もかもが躊躇いを繰り返す
何もかもが過ちを繰り返す
何もかもが昂っていく
薄空が霞んでいく
ぼうとしたあわいに
水平線は次第に消えて無くなっていく