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第六章

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 第六章ノ一 現在

 

「なんだこれは・・・」

 東原は突然頭に流れ込んだ映像に混乱した。アシュタロトは自分に反旗を翻し、襲撃を仕掛けてきたオクターブが混乱する様子を愉快そうに眺めていた。

「どういうことだ、過去の記憶と違う! 半年前、あのときアークセンテンティアの妖精はアシュタロト、お前になんか殺されてはいない!」

 アシュタロトの屋敷の大広間に東原の声が響いた。コの字状に並んだ机の一番奥に白いドレス姿のアシュタロトは立っていた。東原は衛兵姿の悪魔に囲まれ、会議に出ていた悪魔達は裏切り者であるオクターブを静かに自席のある場所から見つめていた。

 東原の混乱した声は続く。

「だったら五条さくらはどうやってアークイリシアになったと言うんだ! アシュタロトに追い詰められ、そのときハルは自分の命を組み替えてさくらにアークイリシアの力を与えたはずなんだ! だからこそ本来二人しか存在しなかったアークセンテンティアが、三人存在するようになったんだ!」

 酷い頭痛が襲ってきた。堪えかねて東原は手を額に添えた。今にも倒れるのではないかと思った。

「あのときはイリシアとイカロスはアシュタロトから逃げるので精いっぱいだった。惨敗だった。それにアークイカロスは僕が殺した・・・そうだ、姉上、姉上は立原の大火のときにアシュタロトに殺された?」

 東原の混乱した様子に目の前の金髪の少女は愉快そうに笑った。

「私との対決を目の前にして半年前の過去を見に行くとは随分と余裕だな、オクターブ子爵」 

 広間の窓から曇った空が見える。

 雨が急に降り始めた音が聞こえた。そして窓ガラスを叩く雨粒の数が一気に増え、大雨となった。木々が大きく風に揺られ、まるで嵐がやってきているようだった。

 東原はアシュタロトをきっと睨み付けた。

「過去は絶対に変わらない。だが半年前の記憶と実際の過去の出来事に不整合が生じている。お前、姉上を殺し、姉上の能力を吸収し未来を見たな。そして自分の未来を変えるために僕らの記憶を操作した!」

 混乱が解けない東原の様子は自分を取り戻すための手掛かりを必死に探しているように見えた。東原の後ろにいたさくらは彼の様子に度惑い、息を呑み、言葉を発した。

「東原君、過去が違うっていったいどういうこと? さっき東原君が言っていたことで過去は間違いないわ。ハルは自分の命を組み替えて、あたしにアークイリシアの力をくれた。それに・・・」

 彼女は言葉を続けられなかった。辛い言葉だった。

「イカロスを殺したのはそこにいるオクターブ子爵、いや、東原だと言いたいのだろう?」

 アシュタロトの機嫌の良い声が続いた。

「そうね、その記憶、嘘よ」

「えっ、嘘?」

「このアシュタロトが植え付けた偽の記憶よ」

 彼女は大声で笑い始めた。

「えっ」

 さくらは何がなんだが分からなくなった。言葉が続かなかった。

「オクターブ、私の名誉のために言っておくが、私はお前の姉の能力など吸収してなどいないぞ」

「・・・」

「だが私にもお前達凛の君の一族と似たような能力がある。だからお前が見た未来像は私も見ている」

「・・・いったい何を言っているの?」

 さくらの不安げな声が聞こえた。さくらの声は東原の耳に入ったはずだが、東原がその問いに答えることはなかった。

「凛の君の一族も私も過去と未来像を見ることができる。まあ半年前と半年後しか見られないのは残念なところなのだけど」

 アシュタロトが苦笑しながら答えた。

「何故姉上を殺したんだ?」

 東原は突然言葉を発した。

「いらなくなったからよ」

「何!」

「初めは凛の民を統治するのに役に立つと思って生かしておいたけど、なにせお前の姉は頭が悪く、優柔不断で思慮に欠け、自分の民を信じることもできず、悪魔に自分の民を売り飛ばした女だ。私も我慢していたのだがね、私は捨てることにしたのだ」

「・・・」

「あの放火犯の処置で私に意見したのだよ。必死に放火犯の助命を訴えていた。乱暴で凶暴な自分の民の統治を放棄した君主だというのにな」

 外の雨は更に酷くなっていった。横殴りの雨に変わり、風も益々強くなっていった。

「私は身勝手な行動というものがあまり好きではないのだ。それが統治者を名乗っていたのだから余計腹立つのだよ」

「それで姉上を殺したと言うのか! どこまで身勝手で独善的なんだ! 自分を神だとでも思っているのか!」

 怒りを抑えきれなくなっていた。

「無論、私は神ではないさ。なにせ悪魔だからね。まあ凛の君の協力がなくても統治に支障はなくなっていたしな。それにいざとなったら私が代わりを果たせばいいのだし、あれは用済みになったということだ」

 そう言うとアシュタロトは黒いスーツ姿の若い女性に変身した。

「姉上!」

 生きている・・・。

 民を売った君主だが、最後は命を掛けて凛の民を守ろうとした。

 姉上・・・。

 東原はゆっくりと前に歩き出した。さくらは慌ててそれを止めた。

「東原君! しっかり! あれはアシュタロトよ!」

「姉上・・・」

「東原君!」

 アークイリシアのさくらは体で白い不器用な仮面を被った彼を止めた。

「惑わされないで! 凛の君はアシュタロトに殺されたのよ!」

「殺された・・・」

「そう殺されたのよ!」

 東原は足を止めた。

「!」

 アシュタロトから白いリボンが何本も飛んできた。

「東原君、ごめん!」

 さくらは東原を跳ね飛ばし、彼はそのまま壁にぶつかった。

「つ・・・」

 東原は頭を強く打ち、ようやく正気に戻った。

 アークイリシアが白いリボンに応戦し、必死に戦っている姿が目に入った。

「アシュタロトおおお」

 オクターブは叫び、空気を切り裂き、黄色い線を出した。それはイリシアに迫る白いリボンを全て粉々にした。

「イリシア、すまなかった。もう大丈夫だ」

 さくらは頷き、笑顔が漏れた。

「アシュタロト! お前が生きている世界は半年後には存在していない! それはお前にも見えているはずだ! お前が今ここで死ぬことは避けようがない未来なんだ!」

 その言葉が終わるのと同時に無数の黄色い光の線が凛の君の姿をしたアシュタロトに飛び、広間奥の彼女を貫いた。

 青い血飛沫が立った。

 幾本もの線によって串刺されたアシュタロトは元の金髪の少女の姿に戻り、そのまま宙に浮いていた。そして黄色い光の線が消えると彼女の体はどさっという音を立てて床の上に落ちた。

「やった!」

 さくらは思わず言葉を発した。

 が、すぐにそれは間違いだと分かった。

「なんで・・・」

 彼女は笑いながら立っていた。

「今さっき死んだんじゃ・・・」 

 オクターブの線に串刺されたにも拘わらず、その跡は彼女にも彼女のドレスにもなかった。

「サービスで私の死に様を見せてやったが、満足だったかな? オクターブ子爵。お前に魔力を与えたのはこの私だ。その私がお前の攻撃で傷つけられると思っているのか?」

「・・・」

 自分の力ではどうにもできない。だがそんなことは知っていた。

 だからこそイリシアにアークセンテンティアの力を集めたんだ!

 衛兵姿の悪魔がナイフや剣を手に襲い掛かってきた。

「下級悪魔共が!」

「子爵!」

 アリスが東原の目の前に現れた。衛兵達のナイフや剣を巨大な針で受け、まとめて彼らを広間の壁や柱に跳ね飛ばした。

「ここは私が。子爵は計画通りイリシアと共にアシュタロトを!」

 アシュタロトの衛兵の第二波が切り掛かってきた。彼女はそれも全て飛ばした。

 激しい雨が続いている。バケツがひっくり返ったような雨だ。

「すまない、アリス! イリシアこっちだ!」

 東原は黄色く光る剣を右手に出し、凄まじい速度でアシュタロトに接近し襲い掛かった。彼女の首を狙ったものの、その手前でシールドに当たったような強い衝撃を受けた。

「くっ」

 東原はアシュタロトとの距離を取った。アシュタロトは剣を自分に向ける東原を見て言った。

「我々が見えている半年後の未来は確率的な未来だ。我々が今どうするかでその姿は変わってくる。確かに私にもこの私が半年後の世界に存在している未来は見えていない。だがそれがどうしたというのだ!」

 アシュタロトは前に出た。東原は再び切りかかったが、同じようにアシュタロトの周りのシールドに跳ね飛ばされた。

「私に何もせずに黙って死を迎えろと? 未来が分かっているからと諦め、何もしないのは卑怯そのものではないのか? 何かをしないと何も変わらない。何も進まない。確かに半年前から私がいないという未来は何も変わっていない。だがそれがどうしたと言うのだ。私は諦めない。私が何もしなければ、何も変わらないことが確定的になるのだからな!」

 オクターブの白い仮面を被った東原はアシュタロトと対峙した。

「私は二千の悪魔の運命を背負っている。それに三十万の凛の民の運命もな。半年後の世界のように私が死んで壁が崩壊し、私の配下の悪魔とお前の民である凛の民が自由になったとして、それで幸せな世界になっているのか? 凛の民は日本との戦争に入り、多くの悪魔は魂を安定的に刈れず、死んでしまう未来が待っているのだぞ」

「黙れ! 凛の民は家畜と同じに扱われ、悪魔達は自由を奪われた奴隷として扱われてしまっている。そんな理不尽にこのまま耐え続けろというのか!」

 アシュタロトはふっと笑った。

「子爵、凶暴な凛の民を野に放ってどうするつもりなんだ? 未来像の通りにゆけば日本との戦争が始まるってしまうぞ! それに悪魔達から牧場を取り上げて彼らは生きてゆけると思っているのか? お前の見た未来は私が見ているものと違うのか!」

「生きてゆけないかもしれない。戦争も始まってしまうかもしれない。でも今の状態で彼らが自分の意志で生きているとは決して言えないはずだ! それでは生きている意味がない! それに未来が確率的だと言うのならば、僕もその未来を変えて見せる!」

「話にならない!」

 数本の白いリボンが勢いよくオクターブに向かって飛んだ。東原はそれを避けると、白いリボンは背後の窓ガラスに次々と突き刺さり、そのガラスを割っていった。窓から大粒の雨が強い風と共に吹き込んできた。

 そうだ、五条さくらは?

 存在感がなくなっていた。

 東原は不安に思った。

「アークイリシア!」

 東原は怒鳴った。

 だが彼女からの返事はなかった。

 嫌な予感がした。

 東原はアリスを探した。衛兵が累々と倒れているのが見える。

「な!」

 その中に大きなリボンをした紺のドレスを着た少女が倒れているのが見えた。

 アリスだ。そして本来アリスが立っている場所にピンクのドレスを着た少女が立っていた。

 東原は驚愕した。

「いったい何が・・・」

「私がお前達の記憶を操作したということは気にならないのか? オクターブ」

 雨の降る音の中にアシュタロトの声が混じってきた。

「・・・」

 東原はゆっくりと声のした方を見た。

「だから半年前に言っただろう? あの娘には使い道があると」

 金髪の少女の機嫌は良かった。

「本来はアークセンテンテイアの力は二つしかない。一つはアークイカロス、一つはアークシリウスだ。私が初めに見た未来は、お前が彩子のシリウスにアークイカロスの力を移行させて私を倒すというものだった」

「・・・」

「だから私は未来を変えることにした。三人目のアークセンテンティアを存在させて、私の手先として動いてもらうことでね」

 アークイリシア姿のさくらはアシュタロトの横についた。表情はなく、目は虚ろだった。

 裏切ったのか・・・いや違う、アシュタロトにコントロールされている・・・?

 東原は唇を強く噛んだ。

「あのハルとかいう妖精が命を捧げたってアークセンテンテイアの三つ目の力は生まれてこないわ。だってアークセンテンテイアの妖精となるにはあの妖精では力不足なのだから。何をしたってアークセンテンテイアの力は二つしかない」

 アシュタロトは相手の様子を愉快そうに伺った。そして笑みを浮かべた。

「つまりは、アークイリシアは私が作り出した偽者よ」

「な!」

「妖精の声と称して、イリシア自身に自分が本当のアークセンテンテイアと信じ込ませるのも面倒だったわあ。面白くもあったけど」

「・・・」

「イリシアにイカロスの力を移行させたことで、お前はシリウスよりイリシアにアークシリウスの力を移して私を倒しに来ると踏んだのよ。辻褄が合うようにお前達の記憶も挿げ替えておくのも面倒だったわ」

 上機嫌で彼女はくすりと笑った。

「こうも上手くいくとは思わなかったけれどね」

「くそっ」

 まさかアークイリシアのさくらと戦うことになるとは・・・半年前に見たと思い込んでいた未来像は半年前に実際に見たものと違ったものだった。

 アシュタロトはイリシアを手駒にした上で、イリシアがアシュタロトを倒す未来像を僕らの記憶に上書きしたのだろう。それはイリシアが最後の最後で僕らを裏切る前準備だったのだ! そして彼女の裏切りによって未来像を変えるつもりなのだ!

「ではオクターブ子爵、私の代わりにお前が死んでもらうとしますか」

 雨音の中、アシュタロトは声高々に宣言した。




 第六章ノ二 半年後


「凛の君!」

 文化会館の大会議室は昨晩からの日本側の攻撃で騒然とした状態が続いていた。

 作戦本部に並ぶ机の一つから女性オペレータの声が上がった。

「加々美、宇佐の二海岸での敵自衛隊の上陸を防ぐことが出来ました。これで立原、須上、加々美、宇佐への敵上陸を全て防いだことになります」

「おおお」

 各机から歓喜の声が上がった。

 敵の立原への上陸作戦は昨晩に始まったが、凛の民は閃光弾を撃ち、日本側の自衛隊の上陸用船艇を狙い撃ちにし、その相当数を沈めた。

 日本側の敗因は凛の民を甘く見過ぎていたことにあった。

 大陸から相当の武器が供給されているという情報は確かにあった。だが、素人集団である凛の民が武器を使いこなすのは困難であり、制圧するのに時間は掛からないだろうと試算していたのだ。敵である凛の民の弾は三十%の確率で当たる。だが自衛隊からの弾は七十%で当たる。そもそも試算の前提が間違っていた。

「立原に繋がる道のバリケードも全て守りきりました! 現在は敵自衛隊との睨み合いの膠着状態となっています」

 別の女性の声が聞こえた。

「やった!」

「おめでとうございます。凛の君!」

 大会議室にいた作戦本部の人間全員が喜びの言葉を口にした。感極まってお互いに抱き合う凛の民もいた。東原はしばらく黙ってその様子を見ていたが、興奮した状況が落ち着きを見せ始めたときに口を開いた。

「だが向こうは戦いのプロだ。敵ももう我々をなめて掛かることもないだろう。気を引き締め、警戒を続けてくれ。おそらく敵は夜にまた仕掛けてくる。休めるときに交代で休んでおくように」

「はっ」

 凛の民の声が会議室に響き渡った。その声は希望に満ちていた。それだけ日本側の攻撃を食い止めたという事実は彼らに自信を与えたのだった。

 拠点からの連絡音が鳴った。

「作戦本部です」

 海岸での勝利を伝えた女性オペレータが入電に応答した。

 彼女は緊張した表情でしばらく相手の報告を聞いていたが、やがて信じられないというように首を横に振った。そして彼女は外電を切り、急いでパソコンの操作を始めた。すぐにその手は止まった。

「まさか、本当に!」

 彼女は思わず大声を上げた。悲鳴に似た、冷静さを失った声だった。会議室にいた凛の民の視線がその女性オペレータに集まった。

「守備隊の一つから連絡が・・・」

 何かにせかされているように言った。焦り、言葉が見つからない。落ち着きを失っているのは自分でもよく分かっていた。彼女は大きく呼吸した。そして言った。

「非常事態です。今モニターに映します」

 正面のプロジェクタ画面にその映像が映った。

「!」

「あっ」

 大会議室の空気が一瞬にして凍り付いた。それは信じられない光景だった。ありえない光景と言っても過言ではなかった。

「どうすれば・・・」

 誰かの呻き声のような声が聞こえた。

 その場所は重い雰囲気に支配されてしまっていた。

 誰もそれ以上言葉にしなかった。

「・・・」

 東原は息を呑んだ。

 巨大な黄土色の建造物が立原の青い空に浮かび、立原の中心にある立原高校の建つ丘にゆっくりと降りてゆく様子が壁に映し出されていた。

「・・・アシュタロトの城だな」

 東原は冷静な声でそう呟いた。 

「ゆっくり降下しています」

 女性オペレータの声が続く。

「・・・」

「凛の君!」

 ラクキスの声だ。予想外の事で不安と焦りが入り混じった声だった。

「分かっている」

 東原はそう言って息を呑んだ。

 これもルーフルとかいう悪魔の仕業か? 

 日本政府に協力している悪魔・・・いったい何をしたいんだ。

 それにこんな未来像は見えていなかった。

 未来像が変わっているということは奴も未来像が見えているということなのか・・・。

 アシュタロトの城は轟音を立てながら高校の校舎を押し潰し、その高台に降り立った。土煙がもうもうと高く上がり、それが周辺に広がってゆく。

「凛の君」

 東原の後ろに青く光る魔方陣が現れ、そこから黒髪の少女が姿を現した。

「アリスか」

 東原は車椅子を声のした方へ向けた。そこには東原に頭を下げている少女がいた。

「ご指示通りイリシアの無事を確保しましたが、残念ながらルーフルを仕留め損ねてしまいました」

 少女の声はルーフルを倒せなかったことに責任を感じているようだった。

「イリシアはルーフルを追ってあの城に向かっています。私見ですが、まだ凛の君へのわだかまりが消えず、会うことを避けているのかもしれません」

 東原は目を閉じた。

「そうか・・・いろいろすまなかったな。それにルーフル相手に大変だったろう。ありがとう、アリス」

 東原の言葉に頭に黒い大きなリボンをしたアリスは顔を赤くし、恐縮した。

「もったいないお言葉・・・凛の君にはアシュタロトからの束縛を解き放って頂いた上に、ここに残ったあたし達悪魔と契約し、魔力を支えて頂いています。受けたご恩に比べたら、これくらいなんでもございません」

 東原に深々と頭を下げた。

「それでルーフル伯爵の目的が何か分かったか? あの城はいったいなんなんだ?」

 アリスはその言葉に首を横に振った。

「ルーフルは立原にアシュタロトの城を落とし、凛の民の混乱を誘い、それに乗じて自衛隊の戦況を好転させると言っていましたが、曖昧さがあり、作戦として成り立っているとは私には思えません。目的は別にあるような気がします」

「・・・」

 それを聞いて東原は頷いた。

 確かに動揺を誘うことはできるだろうが、日本との戦闘後の今にあの城が立原高校の上に落ちてくることに何か意味があるのだろうか? そもそも攻撃という意味合いであれば、作戦本部のあるこの文化会館に落ちてくるべきだ。アリスが言うように他に目的があると思うべきだろう。

「あの城にいるのはルーフルだけなのか?」

「気配は他に感じませんでした。おそらくそうだと思います。それに奴は手負いの状態ですので、城があの場所に落ちても大した攻撃はできないでしょう」

「だったら尚の事、分からないな」

 東原の呟くような声がした。アリスは思い出したように言った。

「あのルーフルという男、気が付いたのですが、アシュタロトと似ているような気がします」

「?」

「あの上から目線の態度というか、口調というか彼女を思い出させました」

 ラクキスが反応した。

「アシュタロトがルーフルとして生きているとでも言いたいのか? アリス」

 アリスは答えた。

「その可能性はないと思うわ。実際アークイリシアがアシュタロトを倒したのをあたし達はこの目で見たのだから。だけどあいつからはアシュタロトを感じるのよ」

 アリスは東原に向き直した。

「凛の君、未来像からルーフルが何をしようと考えているのか、何か分かりませんでしょうか?」

 東原はすぐに首を横に振った。

「分からないんだ。半年前に見た今の状況と今のアシュタロトの城が落ちてくる状況は全く違っている。それに前にも話したけど、僕はもうすぐ・・・」

 アリスははっとした。

「申し訳ございません・・・」

「いや、いいんだ、アリス。今言えることはルーフルという魔界の伯爵が鍵を握っているということだ。戦力を分散したくはないが、とは言え、あの城は捨て置けない。アリス、ルーフルが何をしようとしているのか探ってくれないか? 何かあったらイリシアと協力してその対応に当たってくれ」

「分かりました」

 そう言うとアリスは東原に一礼をし、青く光る魔方陣を出現させ、その中に姿を消した。


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