第二章
感想をお願いします。
第二章ノ一 現在
五条さくらは昇降口を出て、高校の正門に向かった。
空は晴れ、白い雲がゆっくりと流れてゆく。時刻は夕方四時になっていたが、初夏の四時には空を赤く染め上げる力はないようだ。夕方がやってくる気配はどこにもなかった。
風は柔らかく吹き、木々と優しく揺らしている。
平和な光景だと思った。
「・・・」
さくらは立ち止まって目の前に広がる景色に目をやった。高台にある高校の敷地からは立原の街並みがよく見える。遠く北に県境の山々を配置し、南に海があるその都市には、街のどこからでも見える高さ二十メートルの赤レンガの壁が延々と続き、半径数十キロのエリアを囲っていた。
彼女はその壁に嫌悪感を覚えた。
「アシュタロトの壁・・・」
それがこの地の支配者である悪魔の名前だった。
ふとさくらは振り返った。
白熊の子供に天使の羽を付けた姿の妖精はいなかった。
ハル・・・。
心の中でそう呟き、彼女は再び歩き出した。
アシュタロトは手下の夢食いを壁の中に放ち、住人である凛の民の魂を削り取っている。そして搾取され過ぎた人間は廃人病となり、決してその病気が治ることはなかった。
それがこの街で起きていることだった。
そんなことが許されていい訳がない。
それにいぶきのことだって・・・。
「だからあたしはアークイリシアになった。この不情理な壁の中の世界を変えたかった」
さくらは高台から見える立原の街並を見つめながら言った。
突然、海からの強い風がさくらに流れ込むように吹いてきた。
彼女は動ずることはなかった。
強い風を正面から受け、彼女は髪をなびかせ、決して視線を逸らすことはなかった。
「オクターブ子爵様!」
西洋風の館の長い廊下でそう呼ばれた男は、足を止め振り返った。
幅広い廊下の床は赤い絨毯に覆われ、窓枠や扉などの彫刻飾りはバロック調に統一化されている。白い壁、青い屋根に高さの異なる三つの塔を持つその建物はまるで中世ヨーロッパの貴族の城のようだ。立原には不釣合いなのはもちろんだったが、その美しさからこれが魔界の悪魔の屋敷とはとても思えなかった。
この屋敷は壁の外に位置し、立原市長に市の割譲を承諾させ、壁で凛の民を囲い込んだアシュタロトの屋敷だった。
「彩子か」
オクターブ子爵と呼ばれた若い男は顔を白い仮面で覆い、黒い学ランのような服を着ていた。彼は自分を呼んだ若いメイドを見つめた。子爵の仮面は木に目と口を不器用に掘っただけの物に白く塗った粗末な造りだったが、不気味さを感じさせるのには十分なものだった。
「アシュタロト公爵様がお呼びです。牧場の近況報告を受けたいとのことです」
オクターブ頷いた。
「分かった。すぐに行く」
彼は公爵の部屋に向かって歩き出した。伝言を伝えた細身のメイドはその後ろを黙ってついてゆく。
窓から中庭の風景が目に入った。噴水を中心に幾何学的な模様が低木によって形成され、更に遠くに凛の民を囲むレンガの壁が延々と続いているのが見える。
オクターブが公爵の部屋の前に立つと、後ろからついてきた彩子がドアを開け、子爵の来たことをアシュタロトに告げた。
部屋には誰もいなかった。
オクターブは部屋に通され、部屋の真ん中にある応接用の椅子に案内されたが、立ったままアシュタロトを待った。突然、広い部屋の隅から音もなく黒い影が現れた。影はすーと動き、オクターブの立つ応接用の椅子のところまで来ると止まった。
「公爵様、お呼びになられたとのことで参りました」
子爵はその影に一礼をして言った。
そこには歳の頃は十歳くらいの少女が立っていた。白いドレスを身に纏い、目は鋭く、長い金髪が印象的な女の子だった。顔は西洋系で、印象派の画家がこぞって絵のモチーフにするだろう程の整った容姿だ。まさに美の化身と言ってもよかった。その様子は神々しくさえ思えた。
「ご苦労様、オクターブ子爵。どうぞ座って下さい」
少女は上品に微笑み、応接用の椅子に座り、オクターブと呼んだ白い仮面の男にテーブルを挟んだ長椅子に座るよう勧めた。
「いえ、私は立ったままで結構です」
「そう」
少女は着席を断った子爵の様子を気に止めることもなく、彩子を呼び、紅茶を持ってくるように指示をした。
「早速で悪いのだけれど、牧場の状況報告をお願いするわ」
「アークイリシアの妨害は続いていますが、アークイカロスが死んだお陰で牧場の運営に大きな影響は出ていません」
「そう。でも今月の収量が目標に対して達成していないわ。どういうことなのかしら?」
問い詰める口調だ。
「申し訳ございません」
子爵は頭を下げ、それを詫びた。
「イカロスとイリシアに破壊された夢食いの補充が間に合っておらず、収量に支障が出てしまっている状態です。夢食いの補充はあと数週間掛かる予定ですが、今残っている夢食いをフル稼働させて、今月の収量目標を達成させる計画にしています」
「そう」
彼女の前に紅茶が置かれた。彩子は一礼し、一歩下がった。
「それであればいいわ」
少女は彩子に出された紅茶を手に取り、口元に運んだ。そして強い口調で言葉を続けた。
「必ず収量を目標に達成させなさい。この牧場は我々悪魔にとって生命線となっている。収量に支障が出れば、死活問題となってしまうわ。あの壁に囲まれた牧場があるからこそ、我々悪魔は人間の魂を安定的に得ることができ、生きて行けるのよ」
彼女は両手でティーカップと受け皿を持ちながら、ゆっくりと立ち上がり、窓辺まで歩いていった。
赤いレンガの壁が遠目に見える。彼女はオクターブに向かって振り向いて言った。
「今の人間は贅沢三昧の生活をしていると思わない? 温かい風呂にはいつでも入ることができ、ほしい食べ物が季節に関係なく手に入る。娯楽はふんだんにあり、事欠かない。スマホさえあれば、何処にいてもゲームができ、マンガが読める。ネットであらゆる情報を手に入れ、その上情報を発信することも可能だわ」
少女はそこまで言ってティーカップを口元に添えた。そして目を閉じ、その一口を味わい、楽しむかのように飲んだ。
「クレオパトラだってそんな贅沢は出来てはいなかった。希望するものが誰にでもすぐに手に入る。そんな世の中となって私達が望む良質の魂は得られにくくなってしまっているわ。信念のある者、夢を追う者、折れない心を持つ者。かつての私達悪魔はそういった人間をそそのかし、篭絡し、その魂を奪っていた」
「・・・」
目の前に立つ小学生くらいの女の子は、やはり悪魔なのだと痛感させられた。彼女の美しい容姿と裏腹に彼女からは言いようのない恐怖しか伝わってこない。
オクターブは僅かに表情を強張らせた。アシュタロトはその様子に気付き、言った。
「すまない、オクターブ子爵。君は人間の出身だったわね」
「いえ、お気遣いなさらぬよう」
「子爵、お前は私達にとって、なくてはならない大切な存在よ。凛の民を管理するにあたって子爵以上に相応しい適任者はいないと思っている。不快にさせたことを詫びるわ」
「ありがたきお言葉、痛み入ります」
オクターブは即座に礼をした。
だが・・・。
褒められても、詫びられても凛の民が家畜であることには変わりはない。
彼は表情を殺しながらそう思った。
アシュタロトは言葉を続けた。
「この現代は私達悪魔によって篭絡される以前に、人間は自分自身で自分を篭絡させてしまっている。良質の魂は限られ、殆どないわ。こうなっては我々は生きてゆけない」
彼女は彩子をチラッと見た。彼女はすぐに意図を理解し、アシュタロトの目の前にある二階ベランダへのドアを開けた。
初夏の風が流れ込んできた。彼女は金色の長い髪を風になびかせながらベランダに出た。その後を子爵は静かに追った。
「だから私は人間を管理し、良質の魂を確保するためにあの牧場を作った。滅び行く我が一族を救うためにね。牧場の中で生きている凛の民は、日本からの独立を千年近くも想い続けている。彼らの一途さと民族愛はすばらしい。そして凛の君への忠誠心は現代世界のどこを探したって比類ないものだ。私は考えたのだよ。この独立を望む凛の民の感情を上手く煽って、欲望の大量生産ができないかとね」
「だから凛の民を選んだのか・・・」
思わずオクターブはそう呟いた。幸いにもその声は風上のアシュタロトには聞こえなかったようだ。彼女の言葉は続いていた。
「市長は私に凛の民を売り、凛の君も私が凛の民を管理することを望んだ。彼女は日本からの独立を望んではいなかったからね。独立運動がエスカレートし、日本との戦争になるのを恐れていたんだよ」
青い空に白い雲が浮かんでいる。雲は風に流されゆっくりと動き、海の方向に流されているようだった。それはとても平和な風景に見えた。
「我々が凛の民の魂を少しずつ削り取り、収穫することで彼らの独立への意欲は削られ、凛の民は凛の君が望んだ平和な民族になっていった。一方で我々は悪魔の生活の糧である魂を安定的に得ることができるようになった。いいことばかりだ」
アシュタロトは彼女の傍らに立つ彩子にティーカップを渡し、ベランダの手すりに寄りかかり、金色の髪をなびかせ、遠目に見える牧場を囲うレンガの壁を眺めながら言った。
「私は自分のやったことを間違いと思っていないわ。まあ悪魔が正しい、正しくないを主張するのも変な話なのだけれども」
彼女はくすりと笑った。
オクターブは思わず口走ってしまった。
「どうして・・・」
「我々悪魔を存亡の危機から救うにはどうすべきなのか? 凛の民の独立への衝動を抑えるにはどうすべきなのか? このシステムは二つの問題に対してバランスが取れている。果たしてこれ以上の解決策があるのかしら?」
「・・・」
子爵はその質問に何も答えられなかった。
確かにアシュタロトのシステムは合理的なシステムなのかもしれない。だが、牧場と呼ばれる壁の中で生活し生きているのは、喜びや悲しみに笑ったり泣いたりする人間なのだ。家畜扱いされていい訳ない。
確かに凛の君は自分の民の独立への執着心に悩んでいた。日本という世界で自分達の民族性を愚直に守り、それに誇りを持つあまり、排他的となった凛の民という民族。彼らは他民族と認識する日本人と度々トラブルを起こしていた。そして凛の民が加害者として捕まるとそれを差別だと主張し、暴動寸前の騒ぎを繰り返し起こしていた。
凛の君は悪魔の提案に乗ったのは仕方がなかったのかもしれない。
だが・・・。
突然アシュタロトが振り返った。そして真顔になって言った。
「凛の君はそろそろなんとかしなければならないな」
「・・・」
凛の君を幽閉するのだ。そして必要最低限しか表に出さず、発言を許さず、操り人形にするつもりなのだ。
オクターブには強張った表情を仮面で隠し通せたのか正直分からなかった。
屋敷の中に流れる初夏の風がオクターブの髪を優しく揺らしていた。
さくらは正門を出た。夏の爽やかな風でさくらの長い茶色掛かった髪がバタバタと揺れる。
「イカロス・・・」
夢食いの出没頻度はここ最近増えてきている。複数の場所で同時に現れるのはざらだった。もはやイリシア一人ではとても対応できない。
アークイカロスがオクターブに倒されたの機に彼女は劣勢に立たされていた。あの白い仮面の男に対して、一人では到底歯が立たない。圧倒的に強いのだ。敗退して、命からがら逃げることが頻繁になっていた。
「くっ」
彼女は唇を強く噛んだ。
凛の民を守りきれず、廃人は確実に増え、凛の民の魂は削られている。それに加え未だにあたしは妹の敵を討つことすらできていない・・・昨夜の戦闘は白い仮面の男が現れなかったから夢食いを倒すことができた。だが次はそうはいかないだろう。
溜息を吐いた。
結局、あたしはこの不条理な世界を変えることが出来ていない・・・凛の民は家畜のような生活を強いられているままだ。この世界は何も変わっていない・・・。
初夏の強い風が走り抜けた。それは空に向かって飛んでゆく。さくらは立ち止まって、その風を目で追った。
「だけど、ここはイカロスが救おうとした世界だわ・・・投げ出す訳にはいかない」
正門から市街に続く下り坂の両脇にすっかり葉桜となっている桜並木が続く。風は強くなり、木々の枝は大きく揺れていた。
彼女はゆっくりと坂を下り始めた。
第二章ノ二 半年前
夜の十二時を回っていた。
アシュタロト公爵の屋敷に獣の頭を持った上級悪魔がひっきりなしに出入りし、屋敷は慌ただしい雰囲気に覆われていた。中庭に待機している何人もの衛兵や憲兵姿の悪魔が、上級悪魔から命令を伝えられる度に各方面に出動していった。廊下には命令書を持った悪魔が絶え間なく走っていた。
緊迫した空気を感じた。
「彩子」
公爵邸の廊下でそう呼ばれて彼女は振り向いた。黒と白のメイドの服を着たその少女は、歳の頃は高校生くらいだろう、彼女はその声の主に一礼をした。
そこには体格の良い狼の頭を持った悪魔が立っていた。背の高さは二メートルはあるだろう黒の背広に黒のネクタイ、黒のシャツを着たその悪魔は、狼特有の精悍な目つきで彩子を見下ろしていた。
「公爵の命令文だ。中庭に詰めている守衛と衛兵に伝えてくれ。もしかしたら公爵のことだ、いずれお前にも出動命令が出るかもしれない。一応そのときのために準備はしておいてくれ」
「分かりました。ルプス伯爵様」
彩子は警戒するような様子でそう答えた。
「そうか」
背広を着た狼の男は命令書を渡すと、彩子の前を通り過ぎたものの、何かを思いついたように足を止め、振り返り言った。
「最近はどうだ?」
「えっ・・・」
それまで無表情を装っていた彩子は、その言葉に戸惑った様子を見せた。
「はい・・・皆に助けられ、なんとかやっています」
何を答えていいのか分からず、どうにか無難な内容を口にした。
「そうか・・・」
彼は彩子を見た。彼女の表情は強張っていた。外を寄せつけない絶対的な壁があるように感じられた。狼の顔を持った男は彼女の様子に違和感を覚えた。
「お前、どうしたんだ? 少し変だぞ」
その言葉に彩子の表情は驚いたそれに変わった。
「私が? 何がでしょうか?」
反発する強い言い方だった。今度は黒い背広を着た狼の悪魔が驚いた様子を見せた。
「お前・・・」
何かが違うと思った。
「彩子、どうして最近我々のサロンに出てこない。みんな心配しているぞ。これから団結して牧場を運営しなければならないというときに皆に余計な心配を掛けさせるようなことはするな」
それは心配する親の声だった。
だが、彩子はキッとして目の前の背広姿の狼を睨み付け、言った。
「ルプス伯爵様、そのお言葉の意図が分かりません。私は伯爵様のサロンに参加したことはないはずです。からかうのはお止めになって下さい!」
赤い絨毯を敷き詰めた長い廊下に響き渡った。狼は彼女に厚い壁を感じた。
「彩子、お前・・・」
「私は公爵様の侍女です。私はあなた方の仲間ではありません!」
何者も寄せつけない強い口調だった。感情が先に行き、完全に我を忘れていた。
「私はあなた方が嫌いです! からかうにしろ、そんな冗談は止めて下さい!」
ルプスは瞬間的な怒りを感じた。
「彩子!」
狼は手を上げた。彩子は恐怖を覚え、身が震えた。目の前で振り上げられた伯爵の手の鋭い爪が、今、自分に振り下ろされるのだと思った。
駄目だ・・・。
彼女は声にならない声を上げた。
その瞬間、狼の男と彩子の間に人影が入った。
「伯爵、どうかお怒りをお抑えください。今は火災の対策でそれどころではないはずです。
彩子には私からよく言って聞かせます。ここはお引き下さい」
白く不器用な出来の面を被っている男だった。
「オクターブ子爵か! それはならない。彩子の今の態度を許す訳にはいかない!」
「ですが、ルプス伯爵、そこをなんとか! このオクターブに免じて彩子をお許し下さい」
子爵の声は必死だった。白い仮面からオクターブの表情は全く読めなかったが、その必死さは声だけで伝わった。
それに元来、この狼の伯爵は冷静沈着で、頭が切れる悪魔だった。
「分かった。子爵、今回だけだ。火災の件で公爵から招集が入っているのは知っているな。先に執務室に行っているぞ」
そう言って踵を返し、廊下を歩き始めた。やがて小さな竜巻が伯爵の周りを覆い、その姿はその中にすっと消えていった。
彩子は溜息を吐いた。
「子爵様、ありがとうございます。ルプスの言っている言葉が理解できず、どうしていいものか全く分かりませんでしたので助かりました」
「・・・」
「私のことを仲間だと・・・とても怖かったです」
肩がまだ小刻みに震えていた。
「牧場の火災で伯爵も疲れて混乱しているのだろう」
「・・・そうでしょうか?」
「・・・」
彩子の震えは止まらない。
「大丈夫だ、彩子」
長い赤い絨毯を引いた廊下には二人しかいなかった。
彼は静かに彼女を引き寄せた。そして彼は白い仮面を少しだけ上げ、優しく彼女の唇に自分の唇を重ねた。
「安心しろ、お前のことは俺が守る」
「・・・はい、子爵様」
彼女は体をオクターブに預け、表情を和らげ安心したように子爵にそう答えた。
夜の暗い空が赤く染まっている。
壁の中で大規模火災が発生していたのだ。
鳥が遠巻きに赤い空を飛んでいるのが見えた。
「いったい何がどうなっている!」
金髪の少女は机を拳で叩き、目の前の悪魔達に怒鳴った。
公爵の執務室は暗く、机のスタンドライトしか明かりはない。
時計の針は夜十時を過ぎていた。
アシュタロトは苛立ちながら、上級悪魔達から事態の状況確認を行っていた。アシュタロトの激昂に呑まれ、その場は異常な緊張に覆われていた。
窓から牧場の方向を見た。火の明かりで壁の形が遠目でもよく分かる。火災が発生してから既に一時間が経っていたが、火の勢いは衰えることなく、その範囲を広げていた。
「ルプス伯爵、火災の原因は?」
狼の頭を持ち、体格の良い黒い背広を着た悪魔が答えた。
「まだはっきりとは分かりませんが、複数の箇所で同時に火の手が上がっていることから、放火の可能性が高いと思っています。何件かの不審な凛の民の情報が報告されています。おそらく凛の民の不満分子によるテロかと思われます」
それを聞いてアシュタロトは不快な表情を表に出した。そして苛立った声で言った。
「それでその不満分子は捕まえたのか?」
「いえ、残念ながらまだです」
「では犯人を明日までに挙げなさい。悪魔の威信に掛けてね。家畜には家畜の分を嫌と言うほど分からせるのよ」
「了解致しました」
ルプスはそう言って一礼をし、何人かの配下と共にアシュタロトの執務室から険しい顔つきで出ていった。
凛の民によるテロ行為は最近になって頻発している。だが今回の火災は今までの悪魔の関係する施設への不審火や爆破事件に比べ、比較にならないほど規模が大きい。魂を削り取られ、凛の民の性質である凶暴性を失っているはずにも関わらず、彼らのテロ行為に収まる様子は見られなかった。
アシュタロトは机に広げられた牧場の地図を見た。
「火災の範囲の説明を」
「はっ」
山羊の顔をした悪魔が説明を始めた。
「立原の西の方向から既に二キロ四方が火の手に覆われています。凛の民に死者が何人か確認されていますが、時間が経てばその数も増えることでしょう。住宅の被害は二千戸に及び、悪魔側の被害は駐屯所が一ヶ所焼け落ちただけで済んでいます」
「凛の民のテロと言っても凛の民の方が被害は大きい。私には理解しがたい行動だな」
山羊の悪魔は頷いた。
「問題なのは消火対象の範囲が広すぎて、未だに消火が終わっていないことです。壁内の消防員や悪魔達の人数では、とても対応できません」
「壁の外からの応援は?」
「市長の指示は出ていますが、消防員が壁に入りたがらない状態で、消防ヘリ二機のみの応援となっています」
金髪の少女は椅子に座った。
「・・・市長への詰問は後で行うとして、今はそれが限界だろうな」
「如何致しましょう。このままでは牧場は崩壊してしまいます」
「オクターブ!」
「はっ、ここに」
白いの仮面をしたオクターブが前に出て返事をした。アシュタロトは目を上げた。
「子爵、夢食いを出動させろ」
「といいますと?」
「手としては周辺の建物を破壊し、延焼を防ぐしかない。夢食いはどれくらいいる?」
「五十体です。ですが公爵、私から提案が」
子爵は公爵の顔色を見ながら言った。他の意見を聞くことを好まない公爵に提案することは、下手すれば反逆罪に掛けられることもあったからだ。だが公爵は不快な顔をしただけで、彼の発言を止めようとはしなかった。
「なんだ?」
「夢食いに火を食わせましょう」
「夢食いに火を?」
「最近、アークセンテンティアの火を使った技の対策のため、火を食べることが可能な夢食いを合成しました」
「ほう」
アシュタロトは感心したように言った。
「試したことはありませんが、リミッターを外せば広範囲な火を一気に食べることが可能だと思います」
「そうか」
彼女はすぐに決断を下した。
「オクターブ子爵、お前に現場の指揮権を与よう。その夢食いを出動させ、消火作業に当たりなさい。そうだ、彩子・・・アークシリウスの出動の許可します。アークイカロスが現れたときの夢食いの護衛としても役に立つでしょう」
「ご配慮、かたじけなく思います」
金髪の少女はその言葉に頷き、白い仮面の奥に見える子爵の目を射貫くように見つめた。
「私はお前を買っているのだよ、オクターブ子爵。私の期待に裏切ることなく作業をやりとげなさい」
炎の勢いは衰えることを知らない。
パキパキと音を立てながら、その勢力を広げてゆく。
「酷いものだ」
オクターブは迫り来る炎を見ながらそう思った。
火に焼け出され、どうにか逃げてきた人々は抜け殻のように燃え盛る炎をただ見つめていた。その炎の中には逃げ遅れた家族や知人がいる者もいた。
オクターブはヘッドセットを頭にはめ、炎で赤く染まった空を見上げ、彩子に指示を出した。
「展開してくれ」
火災が起きている中心の真上に魔方陣が広がった。灰色のドレスを着た少女が空中を飛んでいる。その少女が魔方陣を描いたようだった。
「あれがアークシリウス・・・彩子が変身した姿・・・」
悪魔の力ではない力。禁断の力を悪魔が掌握する日が来るとは・・・。
終わりの見えない大火の消火に当たっていた悪魔達は疲れきった表情でその光景を見ていた。
一体の巨大な夢食いが、アークシリウスが描いた魔方陣から下りてきた。消火器のような体とカメラのような頭、線に消防士の手袋と靴を付けたような手と足、とても神々しいものには見えなかったが、消火作業が遅れている中ではその姿は救世主のように見えた。
その夢食いは降下を途中で止め、宙に浮いたまま、カメラの下にある口を大きく開けた。
そして炎を、いや、地上にある全てを吸い始めた。凄まじい風が炎の中心に浮かぶ夢食いに向かって流れてゆく。
「炎が食われてゆく」
街を焼く炎は加速度的にその面積を減らし、勢いをなくしていった。夢食いは更に口を大きく開け、周りのものを区別なく吸い込んでゆく。そしてその流れに引き込まれるように、炎、煙、車、家、コンクリート、木材、そして火に焼かれ黒い人型と変わり果てた人間がその夢食いに食われていった。その人間は生きている人間ではなかった。
「!」
彩子はとっさに自分に迫り来るものを避けた。その瞬間、青く光る光線がシリウスの真横を通り抜けた。
「何?」
「イカロス、ショックウェーブ!」
その叫び声と共に「ドン」という音が鳴り、青い光が放たれた。その光は周りの空間を巻き込み、アークシリウスに青い光のトルネードとなって進んでくる。
「同じアークセンテンティアか!」
私と同じ力を持つ唯一の存在!
「シリウス、ロックバースト」
彩子はそう叫ぶと迫り来るトルネードに向かって灰色の線が飛び、破裂したように次々に爆発し、その勢いを相殺させた。青い髪の青いドレスを着た少女が、炎がくすぶる街の上に浮いているのが見えた。少女の後ろに白熊の子供に白い羽を付けた生き物が飛んでいる。
アークイカロス・・・後ろにいる空飛ぶ白熊の子供はアークセンテンティアの妖精か? 初めて見た・・・。
青いドレスを着た少女は鋭い目つきでシリウスを睨み付けていた。
「イカロスか! 消火の邪魔をしないでもらおうか!」
「お前らは人をその消火器の化け物に食わすことを消火というのか! そんなことは許さない!」
「もう死人だ! それが駄目だと言うのだったら、この広範囲の火災をどう収めるべきなのか言ってみろ! そもそも誰が起こした火事だと思っているんだ!」
「うるさい! 今すぐその見苦しい生き物を止めろ! お前のやっていることは許されない行為だ。お前が止めさせないというのであれば私が止めてやる!」
青いドレスのイカロスは怒鳴り、彼女は青く光る光線を夢食いに放った。
「くっ」
彩子は焦った。尚も周りのもの全てを吸い続ける夢食いに灰色のシールドを展開した。青く光る線が次々にシールドに刺さってゆく。
「なんなのあの子は!」
中学生くらいの歳だ。
変だ!
「邪魔するな! ファームソード!」
青く光る剣が彼女の手に現れ、イカロスはシリウスに切り掛かってきた。
「シリウス、ダートソード!」
灰色の剣が現れ、彩子はシリウスの剣を受けた。
「くっ」
なんて力なのよ!
そう思った瞬間、イカロスはシリウスの腹に蹴りを入れてきた。
「がっ!」
「彩子!」
「彩子!」
消火に従事していた悪魔が叫んだ。
「ふん」
イカロスは馬鹿にしたような声で言った。
「悪魔のゴミ共め。全部殺してやる!」
イカロスの青く光る光線が悪魔達に降り注いだ。爆発が起き、白い土煙が舞った。
「彩子、離脱しろ!」
インカムから子爵の声が聞こえた。
「しかし!」
「あいつと戦うのは今は得策じゃない。悪魔達は消火作業で疲労している。戦闘は無理だ。今回は消火を行うことが目的だ。もう炎は残っていない。役目は果たした。僕が時間を稼ぐ。夢食いを回収して北へ離脱離脱してくれ」
彩子は頷いた。
「分かりました、子爵様」
インカムからの通信の切れる音がした。彩子は叫んだ。
「夢食い、もういい。戻れ!」
夢食いの頭上に魔方陣が現れた。夢食いは囚われたように身動きを止め、その魔方陣に吸い込まれてゆく。一方でアークイカロスの攻撃は容赦なく続いていた。夢食いに張ったシールドにその衝撃が幾度も伝ってくる。
「くっ、あの子は!」
彩子は夢食いの姿が見えなくなるのを確認するとすぐに魔法陣を閉じ、アークイカロスから逃げるように飛んだ。
「逃げるのか! アークシリウス!」
イカロスが追撃しようとしたその瞬間、無数の黄色く光る線がイカロスに向かって落ちた。彩子は振り向いてその光景を眺めた。
まるで落雷ようだ・・・。
黄色い線は連続して終わりなく落ち続け、イカロスの行く手を阻んだ。
「くそおおお」
イカロスの悔しがる声が聞こえた。
まるで巨大な光の柱が地上から立っているように思えた。街の残骸がその光で浮かび上がっていた。炎で焼き尽くされたその光景はまるでこの世の終わりに思えた。
第二章ノ三 半年後
天候は雪から雨に変わり、昨日積もった雪は、全て溶けてしまっていた。その冬の雨は今も降り続いていたものの、それもやがては止むように思えた。そうなれば、冷凍庫のように冷たい空間が残るだけだ。
「呼びつけてあなたは誰なの? 何故あたしがアークイリシアだって知っているの?」
五条さくらは川べりの土手で傘を差し、自分の前に立つ金髪の少年を睨み付けた。
歳は小学生くらいに見える。
ルーフル三佐だった。
半年前に崩壊し、かつては嫌悪の対象だった街を囲む壁は、今やレンガの山となって街を囲む一風景となっていた。冬の冷たい雨が染み込み、その朱色に近い赤色は黒味掛かったものに変わっていた。
「来てくれると思ったよ」
ルーフルはうれしそうに言った。
「いやあ、便利な時代だ。メール一本で人が呼び出せる時代だなんて」
「説明して!」
「日本と凛の民の和解の話か?」
さくらの声に相手はにやっと笑った。それに対してさくらは不快感を覚えた。
「まずはじめの質問に答えて! いったいあなたは誰なの!」
さくらは相手を見た。見た目は小学生の少年だったが、隙のない様子はとても小学生のそれには思えなかった。
「まあいいじゃなか、アークイリシア」
ルーフルはそう言って笑い顔を止め、真顔になった。
「僕はこの混乱をさっさと収拾させたいんだ。それには君が味方か敵かを知っておきたくてね。いろいろ調べさせてもらったよ」
さくらはアシュタロトを思い出していた。金髪の少女姿だったアシュタロトと目の前の金髪の少年はどこか雰囲気が似ていると思った。
だとしたらこの少年も悪魔ということなの?
さくらは警戒するように言った。
「敵だと言ったら?」
「君を殺すまでだ」
金髪の少年の声は冷酷な声だった。
目の前の人間は今まで人を何人も殺している人間だと直観した。さくらは一瞬して恐怖を感じた。自分の体温がなくなってゆく感覚を覚えた。
「争いを止めるには立原地方は元通り日本政府の統治下に入って貰う。このままだと今起きている独立運動を叩き潰さないといけないから、日本と戦争になっちゃうよ?」
「日本と戦争・・・」
「凛の民には選択をしてもらう。凛の民には独立を諦め、再び日本の制度の下に暮らすということをね。そして凛の君には裁判を受けてもらう」
「凛の民はそれで死なずに済むの?」
さくらの声は目の前の少年を疑う声だった。
「そりゃそうさ」
そう言って金髪の少年はにやっと笑った。
「だけど日本と凛の民の従属関係は何も変わらない。いや、むしろ悪化するかもしれないな」
「どうして!」
さくらはその言葉に反応し大声を出して叫んだ。
「凛の民は日本に組み込まれて千年の間、ずっと自分達の文字、言葉、文化、神を奪われ、生きてきたのよ! 野蛮と蔑まれ、差別されながら今まで命を繋いできたのよ! それなのにそれが変わらないなんて! むしろ悪化するなんて、そんなので凛の民が納得する訳がない!」
ルーフルは笑った。
「君は馬鹿か? 反乱分子を対等に扱う社会なんて世界中どこを探したってないよ」
「どうして対等に扱ってくれないの? そもそも凛の民を対等に扱ってくれていれば、こんなことにはならなかったのに!」
「黙れ!」
ルーフルの突然の強い口調に怯え、何も言えなくなった。
時間が止まったように感じた。傘を打つ雨の音がやけに響く。
「今回の混乱に乗じて凛の民は日本人を襲撃し、財産を奪い、傷害事件まで起こしている。そんなことが許される訳がない。野蛮で理性の欠片もない、そんな民族が対等や独立? ふざけるのもいいかげんにしろ!」
少年は自分の傘を少し上げた。鋭い目線が彼女を威嚇するように注がれ、批判する口調で言葉が続けられた。
「アシュタロトを倒せば全て上手くいくと本気で思っていたのか? 凛の民は野蛮で強暴だ。後先考えずに目先の欲だけで行動する民族だ! 凛の民には支配者が必要なんだよ!」
さくらはキッとして少年を見た。
「凛の民は支配されるべき民族なんかじゃない! 日本は凛の民を見捨てたんだよ? アシュタロトの支配を容認し、救うこともせず、アシュタロトが倒れ、壁が崩壊した途端、日本に支配されろだなんて都合が良すぎるわ!」
「ふん、お前は凛の民の味方なんだな?」
少年は馬鹿にしたように言った。
「あたしは凛の民を守る!」
「じゃあ死ぬんだな」
そう言って傘を片手で持ちながら腰から拳銃を取り出し、さくらに向けた。凄まじい殺気を感じ、無意識に後ずさりをした。
少年の銃から逃げきる自信はなかった。
でもアークイリシアになれば・・・だけど変身のときが一番無防備になってしまう。
どうすれば・・・。
「だけど僕は契約のこだわるのが性でね。今ここで君を殺すのは性に反する。それに弱い者を一方的に殺すのも気分は良くないものだ」
「・・・」
相手が何を言っているのか分からなかった。さくらは黙って自分に銃を向けている少年を見つめた。
「契約しよう、勝負に負けた者が死ぬんだ。僕が勝てば残念ながら君には死んでもらう。いいね? まあ僕が負けることはありえないのだけど」
「何を言って・・・」
「勝負は何にしようか?」
相手は自分が勝負に負け、自分が死ぬことは全く思っていない様子だった。
「そうだ、ゲームにしよう!」
「ゲーム・・・?」
「そうゲームだよ。君達人間はゲームで勝敗を決めるのが好きなのだろう?」
「・・・」
「何のゲームにするかは君の希望でいいよ」
「えっ・・・」
「日本古来の遊びでもいいし、テレビゲームでもいい。スマホのゲームでもなんでもいいさ。最近の高校生は得意だろ?」
「さあ、何にする?」
「・・・」
「何にする?」
「・・・だったら」
相手のペースに呑まれていたのかもしれない。混乱し、答えるべきでない質問に彼女は答えようとしていた。
少しでも意表を突くものを・・・。
「色鬼・・・」
「はっ、色鬼?」
何故それが口に出たのが分からなかった。
ゲームと聞いてテレビゲームであっても、スマホのゲームであっても、得意なものは全く思い浮かばなかった。子供のときの記憶で得意だったことを無意識に思い出したのかもしれないし、楽しい思い出があったからかもしれない。単なる思いつきで言ったのかもしれなかった。
目の前の少年は大声で笑い出し、ノリノリの口調で言った。
「あはっ、色鬼! いいね、それ! 鬼が言った色を触れないと鬼に捕まえられて負けってやつだな。よし、それにしよう!」
少年は銃を下げ、傘を捨て、呪文のようなものを唱え始めた。その瞬間、さくらの目の前に青色に光る文章が現れた。
「契約書だ。よく読んでそこにサインをしてくれ。宙にサインを書けば認識してくれる。サービスで日本語にしておいたよ」
さくらは唖然としながら目の前に浮かぶA二サイズの契約を見た。
「・・・」
そして黙って右下の付近でサインを宙にした。五条さくらの文字が青白く現れ、やがて契約書に固定化された。契約書にはルーフルという名があった。
「ルーフル・・・?」
「申し遅れたが、それが僕の名だ。魔界で伯爵をやっていたが、今は日本の自衛隊で陸等三佐をやっている。契約書にも書いておいたが、僕が鬼をやり、君は僕が指定する色を探し、見つけることができたら君の勝ち。見つける前に僕が君を捕まえられたら僕の勝ちだ。僕らの距離は五十メートル離れてから開始する。それでいいね」
「・・・それでいいわ」
気味の悪さを感じながらもそう答えた。
目の前のアシュタロトに似た少年は指をパチンと鳴らした。空間が歪む音がする。冷たい雨の降る立原の川べりは電気を落としたように暗くなり、一辺が一メートルのブロックに別れ、空間の組み換えが始まった。
「えっ?」
空間が音を立てて全く別物に変わってゆく。
ルーフルは機嫌が良かった。
「色鬼に相応しいステージに案内しよう。少し待ってくれ」
にっこりと笑った。わくわくして、ゲームを楽しみ待つ子供のようだった。
「これは・・・」
世界は砂漠に変わってゆく。いや、正確には違った。一辺が一メートルのブロックで構成されたポリゴンのような砂漠の世界が形成されようとしていた。おそらく遠目でみればポリゴンは気にはならず、普通の世界に見えるのだろうが、実際の姿は極めて得意な世界であることは間違いなかった。
すぐ近くにアラブの城のようなものが建っていたが、それもポリゴンで形が成されていた。
さくらは愕然とした。
「色が黄土色の一色しかない・・・いったいここは何処なの!」
「ここは滅びゆく魔界さ。そしてあの城は君の大好きなアシュタロトの城だ」
「アシュタロトの城・・・?」
「前に来たことがあるだろう?」
ルーフルの言葉に反応して凄まじいの頭痛が彼女を襲った。
「・・・ないわ」
「あ、そうか。アシュタロトに記憶を消されているから初めてに感じるんだ」
それを聞いてさくらの表情は凍り付いた。
「その様子だとイリシアの成り立ちは聞いているんだね。この魔界でアークイリシアは・・・」
「黙れ!」
「おやおや、アークイリシアは自分の力に自信がないのかな?」
「黙れ!」
さくらの激高した声にルーフルは怯んだ様子もなく、にやにやして言った。
「まあいいか。鬼である僕が言った色は必ずこの空間の何処かにある。君はそれを探せばいい話だ。但し僕から逃げながらなのだけどね。もっとも僕を倒した方が早いかもしれないのだけど」
頭痛が収まり始めた。
「ゲームが始まる・・・」
さくらは肩で呼吸をしながらコンパクトを取り出し、体の前に掲げ、叫んだ。
「アークセンテンティア、イリシア、エクスポート!」
その瞬間、さくらの周りはピンクの世界に包まれた。
ピンク色のドレスを装ったアークイリシアのコスチュームが、体、手、足と次々にさくらの体に装備されてゆく。髪の毛がボワっと一気に増え、ピンク色に変わった。腰に大きなピンクのリボンが装着され、髪は二つに束ねられ二つのリボンが付き、彼女の変身が完了した。
ピンク色の世界は元の黄土色のポリゴンの世界に戻った。さくらは地面に着地するとイリシアの決めセリフを放った。
「世界の希望の花! アークイリシア!」
そして手を前に広げ、決めポーズを行った。
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