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僕の異世界夏休み  作者: 桶丸
22/33

8月21日

『こき使われるのにも慣れて来た自分が居る』



 ジリジリと照り付ける太陽の日差しを浴びながら、砂浜で水平線を眺める。

 この景色を、もう何日眺めただろう。

 何々は3日で飽きるなどというが、それは間違いだ。

 こんな綺麗な景色は、何度見ても飽きる事は無い。

 だけど、たまに思う。

 もし、僕がこの島に住んで居たら、この景色は生まれた時から存在している訳だから、これが既に『普通の景色』になる訳で、そうなると、ここに住む人達は、どんな景色を見て綺麗だと思うのだろう?


(オーロラとか……?)


 そうなると、ここの住民が景色を見て感動するのは絶望的だ。綺麗な景色を見る為に、命を削る覚悟が必要になる。

 それ以前に、この素晴らしい景色を見て、綺麗な景色を見たいと思うのだろうか。


「お兄さん」


 後ろから声が聞こえ、ゆっくりと振り向く。

 天才少女達は、今日も笑顔で僕の目の前に現れた。


「ねえ、リナ。綺麗と美しいは、同じだと思う?」

「違うわ」

「どこが?」

「文字が」


 理系の答えを言われて、僕はガックリと頭を下げる。


「頭が良いアピールなんてしても、私達には勝てないわよ?」

「いや、勝つ気なんて最初からないんだけど……」

「じゃあ、詩人ぶっているのかしら? 申し訳ないけど、お兄さんの知能レベルでは、詩人にはなれないと思うわ。」

「うん。追い打ちはそれくらいでお願いします」


 言わなくても良い事を言った事を大いに反省して、僕は気分を切り替える。


「それで? 宝の地図は解読できたの?」

「それがねー」


 リコがわざと間を置いてから腕を振り上げて言った。


「まだなんだー!」


 溜めた割に残念な答えが返ってきたので、大木津ため息を吐いて見せる。


「言っておくけど、僕は君達より頭が悪いらしいから、僕に見せても地図の謎は解読できないからね」

「あら、盲点という言葉を知らないのかしら? こういうものは、意外と凡人の方が解読出来たりするものなのよ」

「まあ、そういう時もあるけど、今日のリナ、何か機嫌悪くない?」

「悪くないわ」


 上げ足を取ろうと思ったが、明らかにリナの機嫌が悪かったので、余計な事はしない事にする。

 しかし、困った。暗号が解読出来ていない状態で宝探しを始めた時はあったが、地図が解読できない状態で探すのは初めてだ。

 一体、どこから手を付ければ良いものか……


「あ、彼方君!」


 聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り向く。

 そこには、水色の水玉ビキニを着たアリスが立っていた。


(なん……だと!)


 日に焼けた健康的な肌と、適度に成長したそのボディ。それは高校生である僕の男子としての本能を加速させ、新たなる精神の揺るぎなき……


「今日はスローライフ姉妹と一緒なんだね」

「うん。宝探しの最中なんだ」

「宝……探し?」


 首を傾げるアリス。そう言えば、その事は言っていなかった。

 リナとリコに睨み付けられながら一通り説明をすると、好奇心の強いアリスは予想通り食いついて来た。


「へえー! 面白そう! 私も一緒に探したい!」

「それは良いけど、今日は泳ぎに来たんじゃないの?」

「泳ぐのなんていつでも出来るから、大丈夫だよ!」

「ちょっと、何私達を放って勝手に決めて……」

「あ、これがその地図だね?」


 アリスはリコの持っていた白紙の紙を覗き込む。


「何々? ええと……」

「無駄よ。ここにはまだ何も……」

「積み木の家。その庭のアクラの木の下に眠る……だって」


 それを聞いて、僕達は目を丸める。

 改めて三人で地図を覗き込むと、そこにはしっかりと地図が記されていた。


「リナ。これは……どういう事?」

「恐らく、ある条件で地図が見られるようになっていたんだわ」

「条件……」


 僕は腕を組み、小さく唸って考えてみる。


「分からん」

「全く、仕方ないお兄さんね。リコ」

「これはねー。多分、この島の人が見たら見れるようになってたんだよー」

「なるほど。この中でこの島の出身は、アリスだけだもんな」


 三人でアリスを見つめる。アリスは少し恥ずかしそうに笑った。


「仕方ないわね。地図を解読して貰った恩もあるし、今回の宝探しだけは参加させてあげるわ」

「本当? やったあ!」


 ジャンプして喜ぶアリス。その無邪気な反応に鼻の下が伸びそうになったが、左右から無言の圧力を感じたので、今日は紳士で務める事にした。

 4人で地図を囲み、僕達は浮かんできた暗号の答えを考える。


「さて、次の段階には辿り着いたけど、これはどういう事だろうか」

「困ったわね。積み木のような家なんて、町の方に行けば、それらしい建物はいくらでもあるわ」

「でもー、アクラの木は無いんじゃないかなー」

「そうね。その二つがある家を順番に探していけば……」

「あるよ」


 そう言ったのは、再びアリス。


「積み木の家でアクラの木がある家。私、知ってるよ」

「アリス、本当?」

「うん。多分、間違いないと思う」

「どこにあるの?」

「私の家」


 再び灯台下暗し案件が発生して、三人で大きくため息を吐いた。


「あの建物、私達が住み着く前からずっと建っていたし、アクラの木もあったから間違いないと思う」

「まあ、うん。そうだね。今までの流れから考えると、それが正解だと思う」

「全く、どうしていつもこうなるのかしら」


 リナがうんざりした表情で頭を抱える。僕も流石にどうかと思ったが、暗号が解けた事は良い事だったので、素直に喜ぶ事にした。



 アリスの家に向かって4人で歩く。リコがはしゃいで先に行こうとするのをリナが必死に抑えて、いつの間にか2対2の構図が出来ていた。

 横を歩いているアリスの姿にドキドキしながら、空を向いて歩いていると、アリスが突然話しかけて来る。


「彼方君ってさ」

「はい!?」

「彼女達と居る時は、自然な感じだね」


 それを聞いて、僕は首を傾げる。


「そうかな?」

「うん。私達と話す時は、どこか他人の雰囲気が出るのに、彼女達と話している時は、まるで兄弟と話しているみたい」

「まあ、言われると確かにそうだね。最初にあった時から馴れ馴れしかった事もあって、遠慮せずに話せるというか……」

「あれ? じゃあ、私達には遠慮してるの?」


 下から覗き込んで来るアリスの顔を見て、ドキッとする。

 遠慮しているというか、何と言うか……

 ここだけの話、年頃の僕としては、他の女子は異性として見てしまうので、距離を置かずにはいられないのだ。


「私、遠慮しないで話して欲しいな」

「それは、ちょっと難しいかも」

「どうして?」

「慣れてないんだよね。同じくらいの年の人に、馴れ馴れしく話すの」


 本音を言うのは恥ずかしいので、半分だけ感じて居た事を言った。


「国の友達とは、馴れ馴れしく話さないの?」

「それは……」

「お兄さんにそれを聞くなんて、貴女も残酷な女ね」


 そう言ったのは、前を歩いているリナ。


「こんな冴えない男に、友達なんて居る訳無いじゃない」

「あながち間違ってはいないけど、この湧き上がる怒りは何だろう?」

「人間は、本音を当てられたら気分が悪くなるものよ」

「分かっていて口に出すのもどうかと思うが」

「あら、良いじゃない。どうせなら、そのままで居て欲しいわ」


 ふっと笑い、前に視線を戻すリナ。


「……そうすれば、馴れ馴れしく話せる異性は、私達だけになるんだから」


 嬉しそうなリナ。僕はそれに首を傾げて見せた。


 アリスの家に辿り着き、裏側に回り込んで木製の扉を空ける。庭に入って少し歩くと、柵の端に大きな木が一本だけ立っていた。


「これが、アクラの木だよ」


 下から木を見上げる。大人二人が手を繋いで丁度良いくらいの太さ。青々と生い茂っている葉は、長く生きている事を感じさせないほど、青々と茂っていた。

 僕が黙って木を観察していると、いつものようにリナがスコップを取り出す。


「お兄さん」

「うん。来たね、このパターン」

「お兄ちゃん格好良いー! お兄ちゃん頼れるー!」

「よーし。煽てたって、掘るスピードは上がらないぞお」


 元気にスコップを受け取り、アリスに許可を貰って掘りまくる。

 10分ほど掘ったところで、いつものようにカチンと音がした。


「あったぞー」

「じゃあ、宝箱を掘り出して、土を埋め直しなさい」

「はいはい。分かってますよ」


 宝箱を完全に掘り出した後、再び土を埋めていく。今まではスルーされていたが、実はこの作業が一番辛い。例えるなら、マラソンの折り返し地点と同じだ。

 土を戻して三人を見つめる。三人はアリスの部屋の前の段差に座り、アリスの用意していたお茶を呑気に飲んでいた。


「素晴らしい宝探しだ」

「あら、労いの言葉でも欲しいの?」

「いや、逆に怖いからやめとくよ」

「まあ、そう言わずに。ほら」


 リナが目でリコに合図を送ると、リコはお茶のカップを持ってこちらに走り出す。


「お兄ちゃん! お疲れさまー……!」


 そして、躓き、お茶を僕の頭にぶちまけた。


「お兄ちゃん! ごめんなさいー!」

「何だろうね、このテンプレのようなイベントは」

「面白いでしょ? リコは絶対こういう事を外さないのよ」


 地面に座って頭を掻くリコ。それを見て、僕も笑ってしまった。

 改めて、4人で宝箱の周りに集まる。人の家の敷地という事もあってか、今回の宝箱はいつもより一回り小さかった。


「リナ。鍵を」

「私に任せなさい」


 いつものように、リナが水の鍵を使って解錠する。それを見たアリスは、子供のように目を輝かせた。


「凄い! これがあの水魔法なんだね!」

「そう。これが普通の反応よ。お兄さんも見習いなさい」

「残念だけど、僕は不思議な事にはもう慣れているんだ」

「そうね。その代わり、日常的なドッキリイベントには弱いのよね」

「リナは本当に何でも知ってるな……」

「知らないわよ。分かるだけ」


 12歳の少女に分かられる16歳の高校生。

 考えると、少しだけ悲しくなった。


「お兄さん。開けて」

「うん。じゃあ、開けるよ」


 僕以外の三人が離れるのを確認して、ゆっくりと宝箱を開ける。

 そこに入っていたのは、いつもより大きな白紙と、古ぼけた小さな鍵だった。


「鍵が出てくると、いよいよ最後って感じだね」

「鍵が出てくると、こんなの要らないのにって、思ってしまうわよね」

「ごめん。僕も少しだけそう思ってしまった」

「あら、お兄さんにもそれくらいの知識はあるのね」

「散々見せられてきたからね」


 しかし、それを言った時に、二つの疑問が浮き上がる。

 どうして、今更鍵が出てきたのか。

 そして、どうしての宝箱は、鍵が付いているのに鍵が無かったのか。


(……もしかして)


 思い浮かぶ結論。だが、確証はない。

 それに、これは宝探しだ。先の事を考えるのは野暮というものだろう。


「それじゃあ、最後の地図も見つけたし、私達はそろそろ帰るわ」

「相変らず帰るのは早いね」

「そうよ。だって、早くこの地図を解読したいじゃない」


 そう言って、リナは地図を手に取り、ポーチにしまった。


「それじゃあ、いつものように、鍵はお兄さんにあげるわね」

「まあ、うん。リナ達には要らないもんね」

「せいぜい鉄分でも取ると良いわ」

「はいはい。ありがとうございます」


 いつものようにから返事をすると、リナとリコが微笑み、手を振って駆け足で庭から出て行った。

 アリスと二人になり、僕は頭を掻く。


「ええと、それじゃあ、僕はそろそろ民宿に帰ろう……」

「ねえ、これから二人で泳ぎに行かない?」


 とても嬉しい提案だったが、僕は首を横に振る。


「いや、僕は……」

「何か予定でもあるの?」

「え? いや、別に予定は無いけど。その……」


 口籠っていると、アリスがニヤリと笑う。


「もしかして、彼方君……」

「……」


 これは、絶対にバレた。

 何事も無かったかのように空を見ていると、突然アリスが僕の手を掴む。


「彼方君! 行こう!」

「いや! だから! 僕は泳げないから……!」

「大丈夫! 溺れたら助けてあげるから!」


 手を引っ張り、海目指して走り出すアリス。僕は海の恐怖に苦笑いをしていたが、これも夏の楽しいイベントの一つだと思い、自分の力で走り出した。


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