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BMI25以上は豚になります

 最近不思議な病気が流行りだした。


 BMI25以上は豚になる。

 BMI25未満は人間の姿のままだ。

(BMIはざっくり言って「体重÷(身長×身長)」の数値だ)


 文字通りBMI25以上は豚に変身してしまう病気が流行りだした。


 どこから広がった病気なのか、本当に病気なのか。

 太っていても豚に変身しない人はいるが、豚に変身した人の近くに居るとその人も豚になってしまう。

豚に変身する境がBMI25だというのは大勢の犠牲により分かった。


 また、感染するような様子から病気ではないかと推測されるだけだった。


病気………なんだろうか。


 社会は大混乱になった。

 テレビで、どこそこの大統領が代わったとか。

 社長が代わったとか。


 人は、徐々に頭から下まで2~3日かけて豚になっていく。

 準備期間はある。


 だが、結構日本では要職についている人は太っている。

 引継ぎ的な意味で混乱なのか。

 女子高校生の私には分からない。



困った事その1。

 豚になると喋れなくなる。

 「ぶぅぶぅ。ぶひぶひ」とかいう何とも可愛い鳴き声しか出せない。


困った事その2。

 完全に豚になったら、知性はあるみたいだが四つんばいになり手足が使えなくなる。

 仕事が出来ない。

 仕事をする人は皆スマートな人だけになった。


困った事その3。

 皆、同じような豚になる為、見分けが付かない。

 服とタグで判断する的な事になった。



 まだ、困った事はあるのだけれど、とりあえず今は私には思いつかない。

 

 肝心な私、石川真琴いしかわまことはと言うと豚にはなっていない。

 身長162cm体重は60.8kgぼっちゃりだがBMIは23でセーフ!


 でも、結構やばいので痩せようと思っている。

 ちょっとしか食べてないのに痩せ辛いんだけれど。


 最近、ウチの主食はお母さんの提案で玄米になった。

 後、人類全般的に豚肉はもちろん食べなくなった。

 私は朝のジョギングも始めた。

 

 とりあえず、私の家はお父さんが豚になってしまった。

労働的には私とお母さんが、バイトと正社員で働いている。

どこも人材を求めているので家庭経済的には困らない。


結構お父さんは私の事好きだから、私のお願いなら聞くかと思ったけれど痩せない。

豚になるともうダメなのだろうか。

手作りのお菓子を食べさせ過ぎたのが原因なんだろうか。


それにしても、お父さん。

 太ってるなとは思っていた。

 BMIが26だったらしい。

 外で、ぶひぶひ言う豚に出くわして感染したのだろうか。


 豚はとりあえず食べる以外は外に出たがって暴れる。

 元は人間だから手荒な事ができなくて結構外を歩いていたりする。

 数も多すぎて日本政府も管理しきれない。

世界中の豚は何千人何万人レベルらしい。


 太ってる人でも感染しなければ豚にならないからね。

 まあ、最初の内は感染してるかしてないのか分からない潜伏期間もあるから何とも。


あっ、先進国と呼ばれる国にもちろん豚は多い。

 

 豚は結構散歩に行きたがるし、その癖よく食べる。

 食べさせないと暴れる。

 元は人間だから手荒な事はできない。

 大人しくさせるためには食べさせる。

 暴れるから散歩させる。

 豚はよく食べる。

 

 うん、悪循環だ。


 ウチのお父さんも皆も、食べないでBMIが元に戻れば人間なれる。

 でも食べる。

 元は人間だから拘束や暴力はだめだ。

 麻酔で眠らせるのもだめ。

 ダイエットフードは嫌がる。


 実際、家族が決死の覚悟で食べさせないで豚から人間に戻る人もいる。

 すぐ食べて戻るか、豚の時に食べさせなかった事を何故か恨みに思って暴力事件を起こす。


 後、豚同士で隔離すると、食べ物がないと共食いをする。怖すぎ。

 

 以上の事からウチのお父さんは雨のとき以外は庭で飼っている。

 お母さんが出す残飯を「ぶひぶひ」言いながら食べるお父さん。

私の作ったクッキーをモリモリ食べるお父さん。

 悪いけど、人間の時よりちょっと可愛い。

 

「お父さん! 散歩に行くよ!」


 簡単な言葉なら(細かく言うと「散歩」とか「食べ物」「餌」)とかなら分かるようだ。


 ぶらぶらとお父さんを散歩させる。

 ・・・・・・・・・後、もう少しですれ違うはず。

 私は、道の向こうにさり気なく目を走らせる。


 すると、道の向こうから爽やかなお兄さんが豚を散歩させながらやってきた。


 きたっ。

 大学生くらいのお兄さん。

 スマートでとびきりイケメンって訳ではないけれど爽やかさが好み。


「こんにちわ。真琴ちゃん」

「こんにちわ、司さん」


 お兄さんの名前は結城司という。

 だいぶ前に教えてもらった。

 前は、お兄さんは自分の母親らしい人とジョギングをしていた。


 だけど、その人はふっくらしていてギリギリだったらしく豚になってしまった。

 BMIがギリギリの人は、私も含めて危機感が今一つ足りない。

 結構自分は大丈夫とあっさり豚になったりする。


「よく会うよね。散歩お疲れ様。あっ、これフレーバーウォーター。良かったら」

「うわぁ、ありがとうございます」


 司さんが、爽やかな笑顔と共にカロリーゼロの水をくれた。

 ほのかにレモンの香りがする水だ。

 ペットボトルだけど、なかなか好きな飲み物だった。

 もしかしたら、前に話したのを覚えていてくれたのかもしれない。

 

「あ、じゃあ、司さん。これお返しと言っては何ですけれどどうぞ」

「あっ、ありがとう。この前言ってたおからクッキーかな?」

「はいっ」

「可愛い女の子からお菓子なんて嬉しいな」


 前に会話でダイエットでおからクッキーを食べている、と言ったら司さんが食べてみたいと言ったのだ。

 私が手提げから可愛くラッピングしたクッキーを差し出すと、爽やかに笑って受け取ってくれた。


しかも私の事、可愛いだなんて。

 もう、私は目がハートになってる自信がある。


「ぶうぶう。ぶひぶひ」


 と、急にお父さん豚が鳴き始めた。

 リードを引っ張ってくる。

 

「ちょ、何お父さん。あっ、すみません。司さん、また!」

「うん、またね!」


 司さんはとってもスマートだ。

BMI20以下なのではないか。

BMI23の物理的にそろそろ豚になれてしまう女は好みでないかもしれない。


+++++


司さんとジュースとクッキーの交換をしてから、ちょっとづつ私の意識が変わっていった。


空いた時間に腹筋やスクワットもするようになったし、歯磨きをしながら足踏みしたり色々やっている。


何より、司さんはそんな私をより一層可愛くなったと褒めてくれた。

豚になる病気にかからない安全圏内のBMI20位になりたい。

司さんは豚にならないと思う。

私が安心して司さんと居られるBMIにならないと。


そして、告白するんだ。


…………私は自分のダイエットに気を取られていて、お父さんの食べる量が落ちている事には気づかなかった。

もちろん、お父さんがここ最近散歩に行こうとしないで特大の豚小屋に閉じこもって出てこない事も。


+++++


「あ、あの。司さん! 私、………」

「何かな、真琴ちゃん」


ある晴れた日、BMI20台まで落とした私は司さんを目の前に公園に居た。

今日こそ告白しようと思うのだ。


私の気持ちを知ってか知らずか司さんはいつも通り爽やかに笑っている。


公園に来てもらったが、私たちの他には誰も居ない。

まあ、司さんの足にまとわりついている豚は居るけれど。

絶好のチャンスだ。


「ちょーっと待った!」


誰も居ない公園に、大きな声が響いた。

うん? この声聞き覚えが?


慌てて声の方を振り向くと、そこには痩せているお父さんが居た。


「に、人間だ!」

「お父さんだよ、真琴。大好きだ」


痩せているお父さんだ。

間違いなくBMIは25以下。

24かもしかして23はいっているかもしれない。

痩せたお父さんを久しぶりに見た。


自分の父ながら、若い頃はもてたらしいので結構美中年だ。


「ウチの娘は渡さん! いつまでもウチに居て、私にお菓子を作ってくれるんだ」


あ、お父さんに豚になったのは、やっぱり私の手作りのお菓子が原因なのか。

手作りのお菓子って、ついつい好みの味にしちゃうからなぁ。


真剣な目で司さんに抗議するお父さん。

司さんは、というと鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。

私も驚きだ。


豚になった人は大抵戻らない。

戻っても暴力的になるか、また食べてすぐ戻るかだ。

ないわけではないが、リスクで一杯で豚に恨みをかうので誰もやらない。


「すごい、真琴ちゃんのお父さん。この間まで豚だったよね?」

「う、うん。まさか、お父さんが豚から元に戻るなんて」


私とこそこそ話す司さんをお父さんが睨んだ。


「娘との交際は認めない。私の真琴への愛は病気を克服した!」


お父さんが高らかに宣言する。

確かに病気を治した感じだ。

豚から人間に戻ったのに、他の人のように「食べ物を寄越せ」と騒いだり「食べ物を渡さなかった恨み!」とか騒いだりしない。


繰り返す、お父さんは若い頃はもてたから美中年だ。

イケメンだった中年。

頭も禿げてない。

お母さんが「昔はお父さんモテモテで困ったわー」とか言うくらいのイケメン。

黒いサラサラした髪に切れ長の黒い目。

若干カサつき始めているが、肌もまだ弛みきっていない。


一方、司さんは………。


私はお父さんを見た後に司さんを見た。


「な、何かな。真琴ちゃん」


爽やかなだけのフツメン(普通の顔)だった。

好きだけれど、好きだけれど。

ちょっと告白は保留してもいいかもしれない。


私が告白するだろう事は多分分かっていたはずだ。

だけど、待ちの姿勢。


お父さんみたく、私を好きって言ってくれるまで待ってみようかな。

せっかく痩せてお母さんやお父さんに似て可愛くなったんだものね。


+++++


あの後、お父さんは人間から豚に戻る事はなかった。

私との朝のジョギングも欠かさないし、私の手作りのお菓子を食べた後は筋トレをしている。


司さんはと言えば、最近私に何か言いたそうにしている。

この前、今度の日曜のホテルランチに誘われた。

そこで何か言ってくれるのかもしれない。


司さんは、前にもまして私に優しいしメルアドも交換して、マメに連絡をくれる。

小中高と司さんは肥満だったらしい。

そこからダイエットを頑張り、大学デビューしたそうだ。


「だから、女の子の扱いに慣れてないんだ。色々考えて頑張るけれど何かおかしかったら言ってね」


と司さんに言われた。

あの、不自然なまでの清潔さ爽やかさは本やネットで見て研究した結果だったらしい。

今は、爽やかで自然な感じのお兄さん系だ。


+++++


世界は何十万人かが豚になった後、不思議な均衡で豚になる人は少なくなった。

スマートな人たちだけになったからかもしれない。

生活習慣病等の肥満によって引き起こされる内臓や血液系の病気が激減した。

平均寿命が延びたらしい。


どこかの学者が、豚になる病気は人間の進化の為に引き起こされた自然の選択かもしれない。

そう、言っていた。

読んで下さりありがとうございます。


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