一日目@謹慎
こんなになっちゃったよ。
ショック隠しきれないよ、おれ。
ぷよぷよの体でつとまる役目じゃないよ、近衛隊長って!
はっ、と下っ腹に力入れてみたら、ベルト切れたしね。
ぶっちぃって。
あーあ。
ズボン下がってくる。
(ストン、はしたない!)
何言ってんの今さら。ホーリーさんよぉ。
おれは猫。
そもそも衣服というものは、脆弱な人間の体を暑さ寒さから守ると同時に、プライベートな部分を隠すためのものなんだ。
(ストン?)
おれには毛がある。このふさふさの毛が。
だから、服なんていらなかったんだ。
(泣かないでストン。わたくし、悪いと思っているんです)
泣いてないよ。泣くわけないし。これポカリだし。
いろいろ聞きたいことあるけど、あとにしよう。
王様の前でズボン下げたままっていうのも失礼だし、ぴっとあげとくよ。
よっと。
あれ。
これでもまだ失礼だったのか?
王様はおれをじっとにらみつけたまま、何も仰らない。
はい?
太ったから、クビ。
えっ冗談ですよね。
いやいや、これは王様。
「謹慎を命じる」
えっなんで。どういうことですか。
太ったからって。これパワハラじゃない? それかパーハラ。
家に帰れって、こ の 状 況 で。
横暴だ! 勝手だ!
まんまるボディじゃ馬にも乗れない。
愛馬のツナを苦しめることになる! 却下。
ホーリーさんの容態も心配ですし。
おれは、近衛です。だから城に残るの。
あっ、誰。槍でつついてくるの。
やめて。やめて。
ちょっと、痛い。
やめろよ!
(ストン、落ち着いて。あらがわないで、参りましょう)
参るって。家に?
この期に及んで、ホーリーさんとおれが一つになったことを内緒にするのか。
(一つって。ストンったら)
べつにロマンチックなことないよ。
ってかホーリーさんどんなこと想像してんの、もう。
(ひとつになったら、えもいわれぬほど心地いいんですって。このあいだ、真夜中の裏庭で若い近衛と侍女の一人が)
ちょっと。
王宮の様々な噂って、主人にお伝えするさい吟味してないの?
姫様が耳年増になっちゃってもいいのか。
(わ、わたくしは、勉強しておきたいだけです)
いいよ勉強しなくたって。
そのままでいて。
それにしても。
みんな腰抜かすよ。
おれが猫になったときだって、母さん一週間ねこんだし。父さんは出奔しかけた。奇病を治す方法を探しに魔界に行くって。
国を出れば元に戻るってわかって、ほっとしてたけど。
魔界なんてとんでもない。
はあ。
わかったよ。
わかりましたよ。
行くよ、行けばいいんだろ。
なんだよ。王様のばか。
ばーか!
いって。
おい槍。あとで覚えてろ。