一日目@魔法管理栄養士ご一行
ホーリーさんの歌声ってどうなってんのかな。
ドラゴンの住処って、大陸の東方の端っこ、おっきな都とか越えてくるんだよな。そこまで聞こえんのか?
まえにドラゴン飛んできたときは、ホーリーさんめがけて火を噴いた。
あやうくコンガリ焼けちゃうとこだったからな。
おれのしっぽも焦げた。はげたところは、もう毛が生えてこない。
おそるべしドラゴンの火。
顔すすだらけにして、でもにこにこして。
「あらまあ」ってホーリーさんだけ平気そうだった。
どんだけおっとりしてんだって、心配になったよおれは。
「ドラゴンめ! あっちへお行きっ。姫様、とく、とくお逃げくださいっ」
近侍のキリンが紫色の舌をビーッと出して(威嚇か?)金切り声あげてる。
長い首をドラゴンにつかまれて、へし折られそうになってる。
「た、隊長」
赤髭、わかってる。
おれは蔦のからまる白亜のあずまやに飛び乗った。
赤いドラゴンの翼に飛び乗ると、腰につけたベルトを抜き取り、ドラゴンの首をしめあげた。キリンはドラゴンの爪から解放され、ぐったりしてる。
「ぎあーおう」
わかったわかった、いやなんだろ。わかってる。
甲高い鳴き声に耳が痛くなる。
頭が割れそうだ。
「野生のドラゴンはこれだか、らっ」
腹をかかとで蹴ると、投げ出されそうになるのをぐっとこらえて、ざらざらの背中にはりついた。
うん? なんだこれ。
背中に黒い刻印がしてある。
所有者がいるらしい。
(この印、どこかで)
見たような。気のせいか?
「隊長!」
赤髭が叫んだ。
「それ、客人のドラゴンらしいっす」
客人? 誰だそれ。
ドラゴンは国有の財産だ。
私的に持っているとしたら、とんでもない金持ちか、いにしえのドラゴン乗りの一族か。
とにかくだ、これを乗りこなすのは簡単なことじゃない。
どうしておれが乗れるのか。それは、まあ、血のにじむような訓練のたまものというやつだ。
「どーうどう。よしよし」
ドラゴンを落ち着かせ、地に伏せさせる。
「大事ないか?」
キリンはうつむいてふるえてる。
かわいそうに。ドラゴンに首をぱくっとやられるなんて、甘噛みでも痛かろう。
「誰か。キリン殿を手当してやれ」
さて、こっちは平気だろうけど。
「ホーリーさん」
近づいて顔をのぞきこむと、ぱんぱんに腫れた目で姫様はおれをみた。
「ストン」
こりゃ、へこんでるな。
「キリンは無事ですか」
「無事です」
「よかった。客人のドラゴンだとか。わたくし、また・・・・・・小さな声で歌ったつもりでしたのに。」
いや、けっこうでかかったぞ。
というのはやめにして、おれは咳払いをした。
「控えるように。鼻歌でもコウモリくらいはきますから」
「ストン。もしや、この子は背から人を振り落としてきたのでは?」
心配そうだ。
「鞍がなかった。ドラゴンを使うとしたら遠方からの客だろう。素乗りで来るなどありえん。安心なさい」
「それならいいのですが」
おれは一礼して声を上げた。
「おい副隊長。客人というのは誰だ」
赤髭は背筋をのばした。
「王様のお招きした、魔法管理栄養士殿とそのご一行だと」