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一日目 


 ホーリーさん。

 あれ、ホーリーさんだな。

 また歌ってる。

 歌ったらドラゴンくるよ。この間、庭園火の海になったっしょ。

 精魂込めて育てたバラが灰になったって、庭師のおっちゃん男泣きしてたっけな。尻も焦げてたしな。

 よっこらせ。

 昼寝もいいけど、そろそろ仕事しなきゃだな。

「ストン隊長、おつかれっす」

 お、赤い髭は立派だけどまだ二十歳の副隊長。

 大きな手であごをなでてる。

「剃っても夕方には小指一本分伸びるんすよ。パネエっす」

「あ、あるある」

「近衛の栄誉っすけど」

 姫様をお守りする近衛隊には、専属の散髪屋がいる。

 体毛の伸びが早くなるのは魔法の影響なのか。

 さだかではない。

 尋常じゃないことが姫様のおられる宮殿では起こる。驚いていたら、仕事にならない。

 って猫のおれが言うのもあれだ。

 副隊長もずいぶん馴染んだな。もう半年だもんな。

 一番最初におれを見たとき、超驚いてたよな。

 事前に情報聞いてたろうに。

 猫が、長靴はいてるぅっ!

 いくらなんでも失礼だろ。

 いらっとキて、ちょっとぼこったっけ。

 こいつの右目のひっかき傷は入隊の洗礼。

 好きで猫になったんじゃないけど?

 十五の頃から背伸びてないけど?

 気ぃ抜くと、「ふぁわぁあああん」とか言ってゴロつきたくなるし。

 ネズミ見るといたぶりたくなるし・・・・・・。

 家で寝てても、「また若様は昼寝て夜も寝るんですか」ってちくちく言われるし。

 外では働いてるの! ちゃんとしてるの!

「赤髭よ。おれもさ、伸びるのは早くて~ってのはあるし。それより抜け毛がすげぇのよ。ホーリーさん・・・・・・姫様が梳いてくださるとき、御衣につくのが申し訳なくてさ。まあ、抜け毛で人形ができるって喜んでたけど」

「姫様器用だなぁ。そういや、姫様と隊長は、幼なじみでしたよね」

「そうだよ」

 近衛隊長のストン(おれ)は姫様の幼なじみだ。

 おれは十五歳の誕生日の夜に猫になった。

 猫顔、とかではなく、正真正銘、猫である。

 姫様のそばにおつかえするものは、しばしば、こうなる。

 接触回数が多ければ、けもの化する確率も高まる。

 ま。安心してくれ。国外へ出れば魔法は解ける。

 けものになってなお姫様の侍従としてとどまるものは、壮絶なる姫様愛を持っている、という証でもある。余談だが給金も高い。

「隊長、おれもいつか、けものになれますかね」

「なりたいのか? 結婚するんだろ」

 おれの場合、代々武官として王家に仕える家柄だから、姫を愛している、とかいうのとはちょっとちがう。恐れ多いことだ。

「ええ、はい」

 にやにやしちゃって。赤髭が。

 うらやましくないか、といったらうらやましいよな。

 おれも適齢期だし・・・・・・。しかし、役目を放り出すわけにもいかない。

 おれは顔を手で撫でつけた。

「しっかり守ってやれよ」

「はい」

 守りたいってことと、愛はちがう。

 ホーリーさん、そう呼べという姫の頼みにこめられたものは何だ。

 姫様は、ふつうの暮らしにあこがれている。

 担架や輿で運ばれるのじゃなくて、行きたいところへは自分の足で歩いていく。

 歌いたい歌を、好きなときに思い切り。

 そうした願いを叶えてやりたい。

 おれには、難しいけど。


 あーあ。ドラゴンきちゃったよ。


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