真天導師 ~不幸のはじまり~
かなりぶっ飛んだ話になっております。
気楽に読んで頂けたら幸いです。
一応ホラーとなっておりますが全然怖くないので安心してお読み下さい。
~真天導師~
民間の陰陽師であり、それによって金を稼いだと言われる者。
調子に乗って有名な陰陽師に決闘を挑むも式神を隠され謝って返して貰ったという。
小さい頃。
よく死んだじいさんがオレを膝の上に乗せて話してくれた。
オレの先祖の事。
オレは素直に間抜けな人だと思った。
でもじいさんは。
陰陽師でこんなにも人間らしい人はいないと誇らしげだった。
「お前も御先祖様のように人間らしい人になりなさい」
そしてこれがいつもの口癖だった。
人間なのだから、人間らしいって意味わかんないし。
小さい頃のオレはいつもそう言っていた。
そんな皮肉めいた子供をじいさんは笑って頭を撫でて、首に御守りをかけてくれたのだ。
そして今。
24歳。
オレは小企業に勤めている。
………企業と言っても社長含めて3人だけの会社だ。
小さな雑誌会社。
大学の就職活動の時。大企業に落ちまくって。中小企業にも落ちまくって。
就職浪人という道に片足を突っ込みそうになった時、取り敢えず闇雲に出しまくった願書が1社だけ引っ掛かり今に至る。
その会社は基本的に旅行だとか、観光地、流行りものをメインとして載せている。
でもその中でも雑誌中にある幽霊コラム(幽霊や妖怪が1日の出来事をポップにそして赤裸々に語っているコーナー)というのが何故か人気があり、なんとか会社としてやっていけているという。
オレとしては社内恋愛とか。
会社終わりでの仲間同士の飲み会とか。
そういったモノに憧れて入ったのに…野郎ばっかとか……社員が3人とか……有り得なさすぎる……。
それは幼馴染みとかでも良かった。かわいい女の子と恋に落ちる的な…でもそんな人は居なくて辛うじているのはゲーマーな男の幼馴染み。
これじゃダメだと思い大学の時に合コンに連れていってもらうが、まさかのオレは良い感じに他の奴等の引き立て役になっていた。
頑張って話そうにも逆に焦ってジュースをぶちまける始末。
そのせいか、頼んでも連れていってくれなくなってしまった。
それまでもか、誰もオレと仲良くしようとしてくれなかった。
まぁ元々目立つ性分じゃないしそれは良いのだろうけど。
……だからせめてもと会社に小さな希望を残していたのに……。
3人って!!!
普通に無いだろ!!
「……樹与良?落ち着いた?」
画面から目を離さないゲーマーが、めんどくさそうにオレに言う。
真天 樹与良
オレの名前。
オレは日曜日愚痴を言う為にこいつの家に来ていた。
佐上 琉生斗
先程も説明したゲーマーの幼馴染み。
職業は大企業に勤めるプログラマー。
普通にしていたら、髪は猫っ毛でありながら薄い栗色。顔だって悪くはない。むしろかなり爽やかな仕様となっている。
こういったオタクがオレの臨むステップを、踏んでいるなんて…悔しくて堪らなかった。
「琉生は良いよなー大企業で出会いありまくりでー」
そんなオレと言えば、天パでフワフワの頭。梅雨時期となれば爆発するほどに。目が悪いのでオシャレに黒渕眼鏡をしてるんだけど。顔は…普通だと思うんだけどなぁ……。
「……オレはそんなのいらないし。出会いはゲームの中であるしそれで充分なんだけど。」
そして琉生はため息をつきながら画面を止めてこちらに振り返りオレに何かを投げつけた。
パシッ!!
反射的に受け取ってしまう。
「!?………なんだよこれ…?」
そして直ぐに琉生はゲームを始めた。
「……疑似恋愛ゲーム。やってみたら?内容的に結構面白いよ?彼女も友達も出来るんじゃない?」
「…………あのなぁ?」
言い返そうとした時、琉生はオレの言葉に被せてきた。
「………ってか樹与良の場合出会いどうこうじゃなくて、まず運のなさをどうにかしたら?」
「!?……なっなにを……」
オレが狼狽えるのをよそに琉生は話を進める。
「……言いたかかないけど…ゲームはクリア目前でセーブデータか破損するのはしょっちゅうだし、友達と思っていた高校の友達はお前をパシりとしか見てなかったし、イベント毎に何故か高熱出すし……」
「うっ……」
琉生の話に言い返す言葉が見付からない。
考えないようにしていたのに。
………オレは自慢する訳でも無いが運が人並み以上に無い……気がする。
あくまでもここは気がする程度にしておこう。認めてしまったら…終わりな気がするから。
「そもそも何でコネで内定貰った所に内定取り消されるんだよ?」
それはオレが聞きたいくらいだ。
親父の親戚が困っているオレを見かねてなんとかして入れてくれた先。
やっと就職も決まる!
家族でお祝いをしていた途中のこと。
急に1本の電話が掛かってきて内定取り消しの内容。
お祝いパーティがオレの励まし会になったのは言うまでもない。
「……で。お前まだ見えるのか?」
琉生はちらりとオレを見た。
そう。
そしてもう1つ。
オレは昔から人では有らざるモノが見える。それを周りに話しても、勿論誰にも信じて貰えず。そのせいで小学校、中学校と周りから不気味がられ琉生意外近寄られ無くなってしまった。
「……くっくそぅ……友達が…彼女が欲しい……」
項垂れているオレを横目にも見ず依然としてゲームに集中しているこいつの場合、友達っていうのもどうなんだ……。
「……この友達がいの無い奴め…」
睨みつけながらオレが言うと。
「えっ?先日オレの事友達じゃないって言ったのは樹与良の方じゃなかったっけ?」
確かに言ったかも……。
人にも会社にも恵まれてる琉生に嫉妬して……。
でも酒の席だ。
面倒くさければすぐに放り投げる。
このオタクめ……。
「くそっ!このゲーム馬鹿野郎!お前に愚痴なんか聞いてもらわなくとも仕事先でいろんな所に出向くんだ!友達101人作ってみせるわ!」
勢いよく立って宣言する。
そうだオレにやる気があればどうにでもなる!
本気でそう思い琉生の部屋から出ていった。
「………101人って…犬かよ…」
―――――「真天君ここの温泉コーナーなんだけど――……。」
綺麗だけど狭いオフィス。
なんとかデスクを3つ置けるほどの場所。
そこに、いかにも人が良さそうな糸目の中年男性がパソコンの前で頭を抱えている樹与良に話し掛けた。
「……おーい?真天君?」
何度か話し掛けるも当の樹与良は俯いて気付かない。
向山 修
ここの会社の社長。人が良すぎるせいか騙されやすい。だがこの人柄のお陰で周りに支持されやすく仕事に困った事はない。
「……どうしたんですか?社長。」
樹与良の向かいのデスクの黒髪のいかにもモテそうな綺麗な顔立ちの男がパソコン越しから顔を覗かせる。
戸越 雄大
樹与良の3つ上の先輩で、女性にたいそうモテる。
だがかなりのSっけがあり天使の顔してやることは悪魔だと知り合いからは恐れられている。
「……あぁ戸越君…真天君が俯いたままなんだ…もしかして具合が悪いのかもしれないな」
うーんっと悩んでいる社長をよそに分厚いファイルを持って雄大は樹与良に近付く。
ガッッッッ!!!
「!?あたっ!!!」
社長の目の前で、雄大がファイルの角を思いっきりぶつけたように見えた……ではなく本格的に角で容赦なく叩いていた。
「!?なっなにをするんですか!?」
「……あっあぁ!真天くんここの温泉コーナーなんだが…」
「社長そこじゃないです!!」
樹与良が目に涙を溜めながら頭をさする。そしてその当事者である本人は冷ややかに笑っていた。
「樹与良の仕事はいつから寝ることになったんだっけ?」
その冷たい表情にはまだ何かを企んでいそうなそんな気配がして、樹与良の背筋は凍る。
「まぁまぁ良いじゃないか?戸越君今度抹茶ラテご馳走するから?真天君も此処のところ忙しくさせてしまって悪かったね?今月号も、もうすぐ締め切りだ!あと少し頑張ろう?」
「……抹茶ラテ…!!~~…仕方ないな…樹与良。しっかり仕事こなせよ?」
雄大が少し頬を赤く染めて自分の席に戻った。
「……抹茶ラテ好きとか…女子かよ…」
「……樹与良?なんか言った?」
覗かせた冷酷な笑顔にぞくりと背中が冷える。
「!!なっなんでもありません!!」
慌てて樹与良は仕事に集中することにした。
―――締め切り前はいつも切迫感が社内に充満する。
5日前ともなれば、締切まで泊まり込みともなってしまう。
社員の数と確認する量、仕上げる量が比例していないからだ。
前に樹与良は社長に聞いてみた。
人は増やさないのですかと。
でもその答えは。
『2人以上僕には管理出来そうに無いからねー?後、ちゃんと社員1人1人と僕は向き合いたいんだ』
……あまりにも社長らしい回答で樹与良は何も返す言葉がなかった。
―――――締切3日前。
くたくたになった体に鞭打ちながらもパソコンの画面と向き合う。
いつから寝ていないのだろう。
そう思う位樹与良の瞼は重かった。
先輩である雄大といえば、この状況に慣れきっているのか1日の自分のノルマを容易くこなしていた。
『……くっ…だっだめだ…このままだと意識が……でも寝たら…』
樹与良は自分の事をよく分かっていた。
1度寝るときっと次の日迄寝てしまうことを。。。
すると、突然。
目の前に湯気が立ち上がるマグカップが置かれる。
「後少しですよ?私も手伝いますからこれ飲んでもうひと踏ん張りしましょう!」
かわいい声に恐る恐る顔をあげるとそこには。
セミロング位の目がパッチリとしたかわいらしい女の子が樹与良に微笑みかけていた。
「………えっ…誰?」
樹与良が呆けるのもその筈。
この会社には3人しかいない。
またもしもこんなかわいい子がいたとしたら、気付かないわけがない。
「……あっえっと私、柿崎 夕紀と言います…。そのっ……臨時でここに勤めさせて頂く事になりました」
白い肌に少し頬を朱色に染め上げたその姿に一瞬で樹与良の心臓が高鳴った。
「……えっあのっ……そうなんだ…よろしく……」
「はいっ!頑張りましょうね!」
夕紀の笑顔に心臓がドクリと跳ね上がった。そしてその出会いが幸いにも、樹与良の眠気をふっ飛ばし更に仕事に取り掛かることが出来た。
―――――――――。
「…………おっ終わったぁー」
だらりと体をデスクの上に預ける。
もう当分パソコンの画面は見たくない。
その思いが溢れる。
「戸越君。真天君。2人供お疲れ様?よかったらこれからご飯をご馳走させてくれないかい?」
社長は細い目を更に細めて笑顔で2人のデスクに近付いた。
「……じゃあお言葉に甘えて」
雄大はパソコンをシャットダウンさせながら笑顔を作る。
樹与良といえばデスクに伏せたまま腕を挙げる力しかなかった。
「樹与良さんお疲れ様です」
すると上からふわりと甘い匂いと優しい声が降ってくる。
動かない筈の体が嘘のように軽く声の主の方に体を向けた。
「……あっ!きっ君もお疲れ様」
ぼさぼさの髪を慌てて整える。
夕紀は手元に持っていたコーヒーをコトンと樹与良の前に置く。
「あっいや…君が手伝ってくれたお陰だよ。雑務殆んど柿崎さんに任せきりだったし……」
締め切り迄の追い込みの時。
彼女がポットやカップ、お菓子などが散乱している長机の上にノートパソコンを置き、経理やらコピーやらデータ集め等を率先してやってくれた。
そして何よりも分かりやすくまとめてある。
臨時とは言えない程に夕紀の手伝いは適格だった。
「ごめんね?オレの仕事ばかり手伝わせちゃって」
「あっ……良いんです。これが私の仕事なので!社長や戸越さんの分もお手伝い出来ましたし」
にっこりと笑う夕紀の笑顔に心が溶けていくように癒される。
「……ほら?樹与良オレと社長を待たせんな?」
急に呼ばれた名前に我に返り、その方向に目をやるとドアの前で社長と雄大が待っていた。
それを見て慌ててパソコンを落とし鞄を掴む。
「あっ!柿崎さんも来るよね?」
(ってか来てほしいんだけど…)
という淡い期待を持ちながら夕紀を見つめた。
「……ごめんなさい。私今日用事があるので…また今度にしますね?私の分も楽しんできて下さい」
夕紀は少し残念そうな笑顔で言うと、更に残念な顔で樹与良は肩を落とした。
「……あっ!でも次回は是非参加させてください!」
「!?本当に!?約束だよ!」
その言葉に嬉しすぎて目を輝かせる。
無意識に彼女の手を掴もうとした瞬間。
「……樹与良?待たせんなって言ってるの聞こえなかった?」
後ろから冷たい声がした。
今は夏の筈なのに凍りそうな程に背中が冷たい。
「じゃっじゃあまた!お疲れ様!」
夕紀に別れを告げて、樹与良は急いで社長と雄大の元に向かった。
――――――――。
居酒屋に着いて暫く。
3人は大量に頼んだツマミを食べながらお酒を飲んでいた。
「………そういえば次号の妖怪コラム順番的に樹与良だよね?なんか考えてる?」
頬杖をついた雄大が樹与良を睨み笑う。
実を言うと雑誌1番人気のコーナーは当番制になっており社長から時計回りでそのコーナーを担当する者を決めていた。
「まぁまぁ。締め切りが終わったばかりなんだから今日位仕事の話は止めようよ?」
ニコニコと樹与良が困る前に社長は助け船をだした。
「でも社長?良い話があるんですよ?」
良い話。
雄大がこう言う時は大抵ろくでもない話だということを樹与良が分かっていた。
だが社長はその言葉にピクリと耳を動かして期待の目で樹与良を見る。
「――…あー真天君…あんなこと言ったばかりで申し訳無いんだが…」
社長のあまりにも申し訳ない声と期待の目に押し負けて
「……オレは気にしないで下さい…」
と言うと。
すぐ雄大に向き直った。
コホンっと1つ咳払いをしてから雄大はにんまりと笑ったまま話始めた。
「……実はこの前オレの友達の話なんですけどね?そいつ実家が仕事場から結構離れていて1時間位かかるらしいんですよ。でこの前残業のせいでかなり帰る時間が遅くなったらしくて、疲れから早く帰りたい一心で近道のあまり使われていない道路を使ったらしいんです。……何故あまり使われてないか分かりますか?それは必ずあの煉真トンネルを使わないといけないからなんですよ」
「煉真トンネル!!」
社長の目はよりいっそう輝いた。
「……れんまトンネル?」
樹与良が分からないという風に首を傾げていると、横で社長が笑いながら
「煉真トンネルっていうのはね、血の滴る鎌を持った悪霊が出てそのトンネルをくぐり終わった車の運転手は皆気付かない内に首から上を持っていかれるらしいよ?」
と説明してくれた。
そしてその説明に鳥肌がたつ。
何故この人はそんな怖い話を楽しそうに話すのだろう。樹与良の顔はひきつったままだった。
「……えっ…でも社長も知ってるそんなトンネルの話…何処が良い話なんですか…」
「実はね?煉真トンネルはあまりにも危険過ぎて場所は明らかになっていなかったんだ!良かったね!次のコラムはここで決まりだね!」
樹与良が社長の言葉に呆けていると。
「あぁ因みにオレの友達は後部座席に座っていたんだって?まぁ運転席に座っていた奴の末路は言わなくても分かるよね?」
にっこりと雄大が笑いかける。
「いやいや!だってこんな危険なとこ!!」
なんとか反論しようと樹与良がテーブルに両手をつくと
「大丈夫だよ?何もわざわざ夜行かなくて良いんだ。明るい内にいっておいで?」
ニコニコと笑う社長に何か言える筈もなく。
笑っているのに笑っていない雄大の目は氷のようで
「いってらっしゃい?」
と冷たく言った。
―――――――――――――。
――――午後6時。
山の中。
車を走らせる。
助手席にはあの柿崎さんがちょこんと座っている。
嬉しいドライブ。
そんなんだったら良かったのに……。
「……暗い…ね…」
ちらりと柿崎さんを横目に見る。
「大丈夫ですよ?ちょっと予定の時間と違いますけど…」
控えめに笑うその姿に良心が痛む。
そう。
オレは社長と戸越さん(半強制的に)勧められるままに幽霊コラムの為の取材で煉真トンネルへと向かっている。
そして、出発を嫌がるオレを柿崎さんが見かねて一緒に着いてきてくれた。
本当は昼に着く筈だった煉真トンネルにオレは途中カーナビがあるにも関わらず迷いに迷いまくって、結局夜に着くというアホの所業を柿崎さんの前で晒してしまった。
「……あっ!見えてきました!あれですかね?」
柿崎さんは、きゅっとオレの袖を掴み遠くに見えるトンネルを指差す。
奥に見える小さなトンネルを見付けただけなのにぞくりと寒気が体を走る。
「…とっ取り敢えずトンネルの前で停めるね。」
オレは手前の方からゆっくりとブレーキを踏んで車をトンネルの前で停めた。
周りは暗く。
車の明かりがないと歩くのも八方塞がりの状態になりそうだった。
いやに風で葉の擦れる音が耳につく。
「……どっどうでしょうか?コラムの参考になりそうですか?」
弱々しくオレに問いかけるその声に無駄に心臓が跳ね上がる。
怖い筈なのにこの状況にドキドキするとは……。
……………。
………いや。まてよ?
これはチャンスじゃないのか?
不運なオレが醜態を晒すも今は2人きり。
逆にこの状況を利用すれば。。
此処まで駄目だった分格好いいところを見せれるんではないか。
………よし。
まずは落ち着こう。
そうだ。
深呼吸だ。
オレはゆっくりと息を吸ったり吐いたりした。
「………大丈夫ですか?」
上目づかいで見てくるその顔に心臓の音が更に大きくなる気がした。
「……安心して?柿崎さんにはオレがついてるから。怖いものなんて何もないよ」
テレビで見たような言葉を並べて、咄嗟に彼女の手をとる。
「えっ!?」
柿崎さんは急な出来事に目をびっくりした様子で。
手を取るなんて急に派手な行動に出過ぎただろうか。
いや。
大丈夫だ。
きっとこれこそが彼女を1番落ち着かせられる筈。そして、あわよくばキュンと来る筈。
「こう見えてもオレお化け屋敷とかは得意なんだ」
「……あっと。えっと……」
「おっオレが柿崎さんの事何があっても守るから!」
「………真天さん…車…うごかしてます?」
「そう車…車?…くるま…はぁぁ!?」
彼女に言われてやっと気が付く。
車がゆっくりと前に進んでいる。
景色が流れていく。
焦ってブレーキを踏む。
だが車は止まる気配がない。
「なっなんだよ!どうなってるんだよ!!」
何度も止めようと何度もブレーキを踏んだ。
その思いとは逆にどんどん加速して車は吸い込まれるようにトンネルへと入っていった。
「どうしましょう!?中に入っちゃいました!!」
隣の彼女は自分を抱き締めるようにして目を潤ませていた。
落ち着け。
大丈夫。
何か。
何かトリックがある筈だ。
こんなこと……。。
ダン!!!
血の気が引く。
後ろの方から音がする。
ダン!!!
振り向きたくない。
だが何かが車の窓を叩いているようだ。
「いやっ!やめて!」
彼女の声が車内に響き渡る。
横を見ると彼女の頬には涙が伝っていた。
それを見た瞬間。
オレの中の何かが弾けとんだ。
「………何で……いつも……」
確かに後ろの何かは怖い。
だがこんなのってあんまりじゃないか?
一応初めてのドライブデート。
勇気を振り絞って彼女に守ると言った。
手だって繋いだ。(※正しくは勝手に掴んだ)
なのに。
なのに。
気が付いたらオレは目に涙を溜め、怖さより悔しさが勝ち後ろに振り返っていた。
「邪魔すんなよ!!いつもいつも!!オレが何したって言うんだよ!小学生の時の告白は白い目の女に睨まれて金縛りで何も言えないし!!中学生の時は友達との写真は全部心霊写真になって友達できないし!!高校生の時だってしょっちゅう話し掛けてくるずぶ濡れの小学生に毎日話かれられてたまに答えた為に不審者扱いされるし!!!大学生の…あの時の合コンだって机の下の斧持った血だらけの大男にツマづいて皆に飲み物ぶちまける!!」
目の前にはっきりと鎌を持った黒い影がいる。
でもオレはそれどころじゃなかった。
今までの鬱憤が溢れたように。
オレは奴を睨み。
八つ当たりをしまくった。
言いきった後は激しく感情をぶつけた為か肩で息をしていた。
「……はぁ……はぁ…。」
刹那。
気が付いたら。
黒い影が目の前にいた。
「!?」
終わった。
オレはこいつに首を取られて終わるんだ。
瞬時にその事を悟る。
ふと。目を瞑ると。
「オマエ…オレより…フコウ…」
…………。
………………。
……………………。
はっ?
呆けているオレを他所にそいつはオレの首にかかっている御守りの紐を、器用に爪に引っ掻けてとりだす。
「ソウか…おまエ…シンテン…どうしノ……ぷっ……」
えっ?なにこいつ。オレの事笑った?
ぷって笑ったよね?
いやいや何でオレがこいつなんかに……。
そう思った瞬間。
黒いやつは再び鎌をオレに向かって持ち上げる。
それから………。
オレの記憶はそこで途絶えた。
――――――――――――。
―――「……てんさん……し…てんさん……真天さん!」
呼ばれる声に反応してガバッと体を起こす。
「!!トンネルは!?」
そう言いながら樹与良は周りを見渡す。
見る限り辺りは颯爽に立ちそびえる木々達が作った森しかなかった。
「大丈夫です!抜けたみたいです!」
夕紀の言葉に少し落ち着くともう1つ心配が浮かび上がり、必死に自分の首を触って確認した。
「ふふっそれも大丈夫です!ちゃんと首はくっついてますよ?」
夕紀はにっこりと笑う。
そしてもう一度ほっと胸を撫で下ろすと。
「……オレ…途中からどうしたんだっけ?」
樹与良にはトンネルの入った途中からの記憶がスッポリと抜けていた。
「えっと…真天さんが急に後部座席に向かって怒鳴り始めて…それから言葉が止まったかなと思ったら…突然気を失っちゃったんです」
「………あっ……気失ったんだ…オレ……ってか怒鳴った内容も……」
しゅるしゅると自分のカッコ悪さに嫌気が差して肩を落とし樹与良は小さくなった。
「……えっと…小中高大変な想いをされたのですね?あっ!でも!それに負けなかった真天さんはかっこいいと思います!」
夕紀はすかさずフォローを入れる。
それでも樹与良の元気が復活することはなく取り敢えずその日は遠回りの道を使って帰ることになった。
車中の重い空気はいうまでもない程に樹与良のせいでどんよりとしていた。
――――――次の日。
「………で本当に大変だったんですから」
会社に出社して、樹与良は色々と差し支えそうな所は省き、昨日の煉真トンネルの報告を社長にしていた。
「そうかぁ大変だったねぇ……ていうか真天君…君、真天導師の子孫だったのかい?」
社長は本命の煉真トンネルの話よりそちらの方が気になったのか尋ねた。
「?はい。そうですけど?」
樹与良が不思議そうに首を傾げながら答えると、後ろから落ち着いた声が樹与良の疑問に答えた。
「……真天導師。かつて民間人から金を貰って妖怪を退治していたといわれる陰陽師。だが普段の彼は相当な自信家だったのか、その性格が仇をなし次々に不幸なめに合った陰陽師の中でもかなり人間らしい人だったらしいよ?……噂では妖怪が彼を同情して倒されたフリをしてやったとか……色々と諸説は有るけどね?」
にんまりと笑っている雄大を樹与良は茫然と見る。
「………えっと…それってつまりは…」
「………日本一間抜けな陰陽師ともいうねぇ?」
にやにやしながら呆けた樹与良の問いに雄大が答えると
「………あっ!でもこの人は全然有名じゃないし、知らない人も多いから!大丈夫だよ?」
笑ってフォローしてるつもりの社長の言葉は全くフォローになっておらず、結果樹与良の傷をえぐった。
「おはようございます!……みなさんどうしたんですか?」
そこに出社してきた夕紀が足を止め3人の不穏な空気に首を傾げた。
それに樹与良が気まずそうになにも答えられないでいると。
「そうだ!真天さん昨日はお疲れ様です!昨日は落ち込んでみたいでしたが、私今日迄ずっと考えていたんですけど!真天さんはやっぱりかっこ良かったと思います!」
優しく笑いかけてくれる夕紀に樹与良の暗く染まりかけた心が、急浮上するように軽くなった。
「……柿崎さん……ありがとう…」
樹与良が夕紀の笑顔に癒されていると、
「……ねぇ…樹与良君。前から思っていたんだけど…君は誰と話しているんだい?」
社長が問いかける。
「??えっ?何って…うちに臨時で来てくれてる柿崎さんですが……?」
「……うちに臨時が入ったって知らないけど?」
樹与良の話に雄大が頬杖をつきながら割って入る。
「ちょっ…なに冗談言ってるんですか!現に柿崎さんはここにいるじゃないですか!」
笑って夕紀を見ると夕紀は気まずそうに少し下を俯いていた。
「………えっ?嘘だよね?」
樹与良の心がざわつく。
「………真天さん…ごめんなさい…私…騙すつもりは無くて…」
夕紀の目からはらはらと滴が落ちる。
真実に崩れ落ちる心よりも、その涙を見ているだけで心が締め付けられるようだった。
「!?なっ泣かないで!?」
樹与良が夕紀の涙に動揺していると
「………そういえばオレの仕事ちょこちょこ減ってたんだよね…それも樹与良が言う柿崎さんのせい?」
「あっ!そういえば僕のも仕事で使う資料が整頓されてたりファイルが見やすくなってたな!」
雄大の問いかけに社長も、はっと気が付いたように手を叩いた。
「………そうですよ…柿崎さんはずっと俺達を手伝ってくれたんです…」
その問いに答えずらそうに樹与良が目をそらしていると
「………じゃあこのまま手伝って貰って良いんじゃない?オレ達には見えないけど助かってるのは事実だし。ねぇ?社長?」
その雄大の言葉に夕紀は涙を流しながら顔をあげる。
「いやいや!僕は元々反対なんかしてないよ!柿崎さんさえ良ければ大歓迎だよ!」
優しく微笑む社長を見て夕紀がよりいっそう涙を流し震える声で
「……私を…受け入れてくれて…ありがとうございます…これからどうぞよろしくお願い致します……」
と3人に向かって頭を下げた。
「……えっちょっと待って…なにこれ…?ついていけてないのオレだけ?」
こうして混乱している樹与良を差し置いて、会社には天然社長とドS先輩と幽霊?の4人が働く事になった。
―――――――――。
――――日曜日。
オレはいつもの様にやつの部屋にいた。
そして膝を抱えてクッションに頭を突っ込んでいる。
「…………災難だったね?まぁ樹与良らしいっちゃ樹与良らしいけど」
一通り話を聞いた琉生はうっすらと笑いながら、お菓子をつまんでいた。
「………なんだよ…オレらしいって…他人事だと思いやがって…」
「だってしょうがないじゃん?他人事だし」
やっぱりこいつは友達がいがない。
もう少し労ってくれても良いんじゃないか。
「……で?オレ部屋に女の人入れるの初めてなんだけど?この人が夕紀?」
そうなのだ。
琉生はオレと同じで普通見えないものが見える。
だからオレとも幼馴染みでいられる。
昔からオレの言ってる事を信じてくれたのはこいつだけだった。
本人が言うには。
『だって本当の事だし。信じるとかじゃないだろ。』
昔から憎たらしいのは変わらないが1番の理解者であることも、変わらない事だった。
いや。
違った。
今はそれよりも………!
「!?琉生!お前!下の名前で!しかも呼び捨てかよ!」
琉生の発言にカチンと来たオレは思わずクッションから顔をあげる。
「あっよろしいのですよ?よかったら真天さんも、下の名前で呼んでください」
にっこりと正座をしながら、優しくオレを諭してくれた。
やっぱりかわいい。
そう思わずにはいられなかった。
「………えっと…じゃあオレも樹与良で…」
彼女は嬉しそうに頬を染めてくれた。
「はい!ありがとうございます!樹与良さんて呼ばせてもらいますね!」
………良いな。
するとその刹那。
パンパン!
と琉生が仕切り直すように手を叩く。
「……樹与良いいから。黙ってて?話がお前のせいで続かない。」
なんだその言い草は。
そう思ったが、言わずにクッションに口をあてて黙ることにした。
「……あのさ樹与良の話と君の話を聞いて疑問に思ったんだけど、トンネルの後部座席にいた奴何で夕紀さんには、見えなかったの?同類ならそういう類い見えるんじゃないの?」
……確かに、そういえばそうだ。
彼女はオレが後部座席に向かって怒鳴っていたと言っていたっけ。
全く気が付かなかった。
それの真相が気になり、オレも彼女を見た。
「………えっと…実は私霊感が全く無いらしくて…この姿になってから…同じ人見たこと無いんです…」
……そんなことあり得るのか?
同類が見えない死人なんて聞いたことない。
現にオレに構ってきた小学生の死人は同類が何人か一緒にいると言っていた。
すると考え込むようにしながら、琉生がうーんと唸りながら彼女を見据えた。
「……もしかしたら…だけど。夕紀はまだ死んでないのかもね?」
なに?
「……あくまで仮定なんだけど、君の体は何処かで生きている。つまりは生き霊。だから死んでいる霊は君には見えない。」
………………。
……………………。
………………………!?
「おいっ!それって!」
オレは思わず琉生に飛び掛かっていた。
「―っ!言っておくけど!生き霊だからって人本当に死霊が見えないのかっていうか証拠もないし!仮定の話だから!か・て・い!!」
やつは気分を害したのか割りと大きな声でオレに言った。
いつもならこんなゲーマーの妄想笑い飛ばすのだが。
今のオレはその妄想にもすがりつきたかった。
折角の恋を簡単に散らしたくは無かったから。
「~~~~いいから早く退けよ!重いんだけど!」
「あっ!ごめんごめん!」
オレが琉生から退くと琉生はかなり怒ってしまったのか、テレビとゲームのスイッチを入れた。
こうなるとめんどくさい。
誰とも話したくないと言うように自分の世界に入ってしまい、どんな人の言葉でも完全無視を決め込む。
「……あのっ…」
困った様に彼女はオレの袖を引っ張った。
「あっ!大丈夫大丈夫!いつもこんな感じだから!それよりも夕紀さんは生きてるかもしれないって!」
嬉しさでつい彼女の両手をとる。
「はっはい!」
彼女は困ったような笑顔でオレを見てくれた。
………気にしてみると彼女の手はひんやりと冷たい。
何故オレは気が付かなかったんだろう。
「一緒に夕紀さんの体探そうね!」
オレが笑って彼女に言うと
「……体なんて無いかもしれないけどね?」
「琉生!うるさい!」
すぐに琉生がゲームの画面から目を離さずに横槍を入れてくる。
自分で言い出したくせに、彼女に何て事言うんだ。
そんな言い合いをしてる俺達の姿を見て彼女は楽しそうに笑ってくれた。
これから仕事をしながら、彼女の体を探していく。
樹与良の不幸な体質のせいで、周りの人々を巻き込みながら色々な災いに首を突っ込む事になる事も知らずに。
でもそれはまた、別のおはなしで。
―――――fin
最後まで読んでくれてありがとうございました。




