第八話 妖刀 黒雨
「ふぅ。久し振りに良い事したな」
隣を歩く鷹広は自慢気だ。
調子に乗る前に話題を変えなくては。
「……あの武器屋に行ってみないか?」
通りすがりに少しボロい武器屋があった。古そうだが話題を変えるのには良さそうだ。
「ちょうど武器買おうとしてたし、良いぜ」
武器屋に近付くと様子が分かってくる。木で造られた店は古く黒くなっていた。他には窓と煙突しかない見た目は普通の家だがちゃんと武器屋と書かれているのだ。
ガチャッ
ドアを開けて中に入ってみると外観とは全く違う店の広さに少し驚いた。剣や刀など、様々な武器が並べられている。
「色々売ってんな」
「あぁ。特にお前は考えて使えよ」
今回、リリベルから貰った金は一人5000G。この中で武器や防具を買わなければいけない。鷹広はさっき花を買ったから残りは4000Gしかない事になる。
「分かってるよ……おぉ! これ格好いい」
聞いてない…。
金が無くなったって知らないからな。
「ほんとに色んな武器があるな」
剣や刀以外に鎖鎌、拳銃。魔法使いの杖などあるが俺に必要な武器が思い付かない。
なんたって俺にはチートがあるからだ。
「…お前さん、面白い力を持ってるのぉ」
「…うわああぁっ!」
突然聞こえた老人の声に変な声を出してしまった。お陰で鷹広にクスクス笑われたじゃないか。
老人はいつの間にかレジの前に立っていた。髪は全部白髪で顔はシワだらけな。俺達を見て微笑む姿はカエルのようだ。
「おやおや、ビックリさせてしまったねぇ」
「気にしないで下さい。こいつは超恐がりでいつもこんな感じですから」
「ゴホンッ……驚いてしまってすいません」
でも入って来た時には居なかったよな?音もなくレジの前に立つ…本当に幽霊じゃないだろうな。
「お前さん、面白い力を持ってるのぉ」
「……あ…ありがとうございます」
面白い力………俺のチートの事か。
でも何で分かった?声に出してないぞ。
「いくら強い力があってもトラブルは付き物じゃ。護身用に拳銃でもあげよう」
「え?」
そう言うと老人はレジの後ろにある部屋らしき所に入って行ってしまった。
「鷹広。今あげようって言わなかったか?」
「あぁ…俺にもそう聞こえた」
鷹広と顔を見合わせていると両手に沢山の物を抱えた老人が出てきた。持って来た物をレジのカウンターに置く。
「色んな武器があるな…」
「ではお前さんにはこれとこれじゃ」
渡されたのは拳銃と宝箱みたいな箱だった。拳銃は元の世界と同じように黒く、ズッシリとした重みがある。一方で宝箱はよくゲームの中である物と一緒だが軽くて小さい。そして困った時に開けろと紙が貼り付けてあった。
「拳銃は分かるけど…宝箱?」
「分かるぞ鷹広。お前の言いたい事が」
「次はお前じゃ」
「えっ俺か!」
老人はそう言うと残りの物を鷹広に渡した。刀の入った鞘だ。隣に居た俺はその刀から禍々しさを感じて鷹広を止めようとしたけど遅かった。
「おぅ、ありがとうな…………………………………………………!?」
刀を受け取った瞬間、ビクンと鷹広の体が反応する。まるで刀と共鳴してるようだ。そして次の瞬間、刀から黒い霧が吹き出て鷹広の鼻や口、耳など体の穴から入っていく。
「たっ、鷹広!」
鷹広は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。死んだように動かない。混乱もしているが段々と腹が立ってきた。
「…ッ鷹広に何をした」
自分でも信じられないような低く憎しみが籠った声に動揺するが止められない。
「………友達は試練を受けてるんだ。その試練を合格すれば、強大な力を手に入れる」
そう微笑んで話す老人に違和感を感じた。見た目は老人だがどこか怪しい感じがする。たが正体を知った所でどうする事も出来ない。
「……鷹広」
動かない腐れ縁の名前を呼ぶ。
俺の声が聞こえてる事を願って鷹広の帰りを待つ。
「………ここは………どこだ?」
気が付くと訳の分からない場所に居た。足下は一面水で俺は足だけ水に浸かってる状態だ。そして辺りは薄暗い。夢でよくある怖い夢を見ている最中みたいだな。
『ヨク、キタナ……エラバレタモノ…ヨ』
片言の声がすると目の前に黒い生き物が現れた。黒いと言えばカラスだけどなんか違う。
「俺はどうしちまったんだ? 確か秋哉と武器で買い物してた筈なんだが」
近くに人の気配がしない。
という事は秋哉は近くに居ないか。
『サッキモイッタガ、オマエ ハエラバレタモノ。コノ、クロサメ ニナ』
クロサメ?
聞いた事ない名前だし選ばれたって事は俺は勇者なのか!
「で、クロサメだっけ。俺はどんな事をすれば良いんだ? とっとと秋哉の所に戻りたいんだが」
『ワガ、チカラヲ ホッスルナラバ イタミニタエル ヒツヨウガアル』
痛みに耐えるか。
耐えれば元の場所に帰れるんだな。
「よっしゃ。よく分かんねぇけどやってやる!」
『ソノ カクゴハ スバラシイ。デハ、タエテミルト イイ』
相変わらず片言のクロサメは目の前で液体化した。
まさかだけど嫌な予感がする。
「ちょっ、待って。何すんだ!」
液体は俺目掛けて飛んできた。そして一瞬で俺を包んだ。
「あ……クッ……ぐあああっ」
次の瞬間、左手に激痛が走る。
見ると液体が左手の中に無理矢理入り込もうとしていたのだ。
液体だから簡単だろって?それは違う。液体なんだが形を持ってる。クロサメの場合はカラスか?それが俺の左手に入り込もうとしてるんだから痛いってレベルじゃない。
息をするのも辛い……
俺は今、絶賛後悔中だ。
いよいよ走馬灯が見える。
――――――――――このまま死ぬのか?
「い、や……死なない…ぐううっ」
正直、涙が出るぐらい痛い。このまま死んだ方が幸せだと
思ってしまう。でも俺はこんな場所で死にたくない!
「くっ……俺の体に入るならさっさとしやがれ」
力一杯に叫ぶと目の前からクロサメが消えた。
終わったらしい。
『コレデ、ケイヤクハ カンリョウシタ』
やっぱり片言のクロサメの声を聞きながら俺は意識を手放
した。