第四十三話 洞窟の戦い 二
「シュシュ! 正気に戻って!!」
「…………」
「…無駄な事を。シュシュ」
マントの男がそう言うとシュシュが背を向けて歩き出した。数歩、進むとピタリと止まる。
「…さぁ、今こそ目覚めよ。イグルモア!」
「え? 今ニャんてっ」
ゴゴゴゴと地響きが始まる。天井からパラパラと岩が落ちてきた。
「キューティー・ラロス。イグルモアって?」
「い、イグルモアは何十年も昔に封印されたんだニャ。イグルモアという怪物は…とにかく巨大ニャ」
そんなっ!
わざわざ怪物の封印を解いたの?
「おい、文乃!」
「アキ…」
「これは何の騒ぎだ? それにイグルモアって…」
「…既にお前達はイグルモアの腹の中。早く脱出しなければ命は無いぞ……ククククク」
「…ッチ」
よく分からんが、あの男の言う通り脱出した方が良さそうだ。だがこの揺れじゃ動き回るのは危険か…。
「文乃。とりあえず脱出するぞ」
「え! で、でも苺花ちゃんやシュシュは? それにラビにラフットさんだってまだ…」
「苺花って奴はともかく、ラビにはラフットさんがいる。勿論シュシュも助ける。だがここで俺達が死んだら意味ないだろ……さぁ、掴め」
文乃には酷な事だろうが。今はそんな事言ってる場合じゃない。分かってくれたのか、文乃は伸ばした俺の手を掴む。それを俺は抱き寄せる。あぁ、何だかいい匂いだ…。
「待ってアキ! 」
慌てた声がする。文乃の視線の先……あぁ。考えてる事が分かってしまった。
「おい。お前も早く来い」
「に、ニャ!? 敵である私も助けるニャんて……なんで…」
「…理由なら文乃に聞いてくれ」
「え? だ、だって見捨てる事出来ないもん」
相変わらずだな、文乃も。キューティー・ラロスも顔を俯かせている。だがあんまりゆっくりしてる時間は無さそうだ。天井の岩もかなり崩れてきてる。
「早く掴め!」
「ニャっ!」
「…よし。しっかり掴まってろ」
俺のチート、どこまで出来るか試した事は無いが。出来ないと困るぞ…。
「……空間転移っ!」
俺はありったけの声でそう叫んだ。
「ん………あれ、ここ…」
「ニャ! お前、魔法使えたのかニャ」
「…っ、ハァハァ。魔法、じゃねぇよ…」
初めてやったが体力の消耗が激しいな…。HPもMPもかなり減った気がする。今、俺達が居る場所は外。キューティー・ラロスのアジト側の森の中だ。
「大丈夫? アキ…」
「あぁ。それより……あれは何だ?」
目の前に嫌でも見えてしまうもの。あれはそう、岩山が歩いてる感じだ。俺達が登ってきた山が歩いてるのを見たらそりゃ驚く。
「まさか。私のアジトがイグルモアの身体だったニャんて……すっかり騙されたニャ~」
「あれがイグルモアなの?」
「間違いないニャ……」
あんな巨大な怪物、どう倒せばいい?
今居る連中じゃどう協力したって倒せない。かと言ってグズグズしてれば体内にいるシュシュも助けられない。
「………文乃、これからもう一度だけ『空間転移』を使ってネフィアへ飛ばす。だから鷹広達、戦力を連れてきてくれ」
「でも……アキ、大丈夫なの?」
「…大丈夫じゃないかも」
「なら。盾華癒月ーーー回復モード」
文乃は袖をまくりあげ、気合いを入れると俺の身体へ手をかざし唱える。と、温かい光が身体を包み込んだ。疲れが吹き飛ぶかのようだ…。
「少しは回復した、かな?」
「…ん、全開だ。ありがとな」
「えへへ」
文乃のお陰で全開だ。
試しにステータスと念じてみる。
Level 31
HP 1050/1050
MP 860/860
いつの間にかレベルが上がってたらしい…。
それはともかく、急ぐか。
「文乃、頼んだぞ」
「うん! すぐ呼んで来るよ」
「…頼んだ。『空間転移』」
さてと。
文乃を転移させた。無事、ネフィアに行けたと信じるしかないが…。一応、確認しとくか。
『ステータス』
Level 31
HP 950/1050
MP 430/860
HPも少し減るのか…。それにMPは半分も減った。もう転移は使えないな……だが、やるしかない。
「ニャ……私も手伝うニャ」
「…よし、二人で食い止めるか!」
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオン』
かかってこい。と言ってるようにイグルモアは雄叫びを上げた。




