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異世界ヒーローはチート使い  作者: みか
一章 異世界ヒーロー編
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第三十一話 ラルの過去と文乃






飛行艇を出るとすぐ、ラフットさんに抱えられる文乃ちゃんが目に入った。見るからに顔色が悪い。腕からは血が絶えず流れ、傷口辺りが紫色に変色している。次に目に付いたのは泣く美代だ。




「…………」

「…タカヒロ…様?」

「……何でもない。行こう」












「文乃、文乃っ!」




「早急に治療しなくては危険です………ラオウ・ボルオン様」

「ふむ。治癒に長けた者を呼ぼう」




ボルオン王からそう言われたミシェルは軽々と文乃を持ち上げるとボルオン王に一礼すると走って行ってしまった。




「うっ、ひっく、うぅ」




残されたのは鷹広、ミュミュ、秋哉、ラフット、ラル、ラビだ。恐らくラルが文乃の怪我の原因だろう。床に頭を付けて泣いている。




「………ラル。もう泣くな」




ラフットが慰めようと頭を撫でるが泣き止まない。泣き声が城中に響く。




「………お主は…魔兎(まと)族ではないか?」




王の言葉にピクリと反応する。

まだ拭ききれてない涙で顔がぐちゃぐちゃになりながらラルは王を見つめた。




「ぼ、ラオウ様っ!」

「……ふむ。皆に迷惑を掛けたのなら、自分の事も話すのが礼儀ではないか?」




ジッとラルを見つめるラオウの目力にラルはオドオドしている。




「失礼ですが。ラルは……ラルの過去は本人が話したい時に話すべきだ」




礼儀をわきまえながら膝を付いてラオウに話すラフット。それにはラルの涙も止まった。




「………ラフットさん………………いいえ、今お話するデスよ」




強い瞳でラフットを見る。ラルの瞳に涙はない。それに安心したのかラビの安堵の声が聞こえた。




「……分かった」

「はいデス。見て分かる通り、魔兎(まと)族にはウサギの耳があるデスよ………私達、魔兎族は月に住んでいたデス」




そう言って窓から薄っすら見える紅い月を恨めしそうに見つめた。




「………月にはツクヨミ様という女神様が居たデス。ツクヨミ様の結界のお陰で平和に守られていたデスよ…………昔の月は青くて、綺麗な月でした。でも今は…」




夜になればハッキリと見える、血を垂らしたような真っ赤な月。昔はその月も青くて綺麗だったらしい。




「……ラルはまだ小さかったデス。だから結界の外に興味を持ったのデス……結界の外はツクヨミ様から悪しき者が居る、だから外へは行かないという式たりみたいなのがあったデス」

「……ラル」




ラルの気持ちを察したようにラビがラルの手を握る。




「……ある時、結界の近くでお花を摘んでた時デス。結界の外に男の子が倒れているのを見たんデスよ…外は悪しき者が居る。ツクヨミ様の言葉を思い出して早く立ち去ろうとしたデス………でもっ」




ここから何となく察しが付いた。

ラビは分かってないみたいだが他は察したようだ。




「でも我慢出来なくて………結界に触れたデス。結界は内側から触れると破れる仕組みなのデスよ……破って男の子を助けようとすると……その男の子がっ、あ、悪魔になって…」




魔国(マーラ)の奴らは魔法が強いんだったか。

だから魔法で男の子の姿に変化させて結界を破って貰おうと待っていた。




「それからっ、月が魔国(マーラ)に支配されるのはあっという間でした………結果、ラルだけ逃がされツクヨミ様達がどうなったかは……分からないデス」




辛い事を思い出してしまったらしく、またラルの瞳を涙が濡らした。




「………魔国(マーラ)は自分達の為なら人が消滅しようと関係ないのだ。だから獣人族はネフィヤと手を組んだ」




ラルの話を聞くからにこういう事はよくあるみたいだ。ラオウ王の様子があまりに落ち着いているからだ。




「……ま、俺に出来る事と言えば料理だからな。ラオウ様、厨房お借りします」




ラオウから承諾を得てラフットはブンブン腕を振り回しながら奥へ消えて行った。




「……………なぁ、秋哉。ちょっと話がある」

「………。分かった、ミュミュとラビはラルの側に居てやるんだ」




ミュミュとラビは顔を見合わせた後、笑顔で頷いて返事をした。返事を聞いて俺と鷹広は場所を移動する事にする。とりあえず、飛行艇の中にした。












「……それで、話は草部の事か?」




飛行艇に入るなり秋哉に言い当てられてしまった。恋には鈍感な癖にこういう時はすぐ感ずくのはズルい所だ。




「……あぁ。何で分かったんだ」

「何年居ると思ってるんだ。城に来てから草部と鷹広の様子がおかしいと分かった」




あの時の俺はどんな顔をしてたんだろうな。

秋哉にも分かるんだから相当しけた面だったんだろう。




「……で、何があった」

「………………秋哉は覚えてるか? 中学生の頃、美代が………もう恋をしないって言っただろ」




……あれは衝撃的だったからよく覚えてる。

まだ草部の過去を知らなかったけど、よく覚えてる。




「あぁ。それで?」

「………実は、さっき美代にそのっ、告白したんだ」

「…なっ!」




ハハ。

やっぱり驚くよな。




「……草部はまだ……恋愛出来るようになった訳じゃないんだろ」

「…あぁ。なのに俺は………美代を泣かせたんだ。だから慰めてくれ…」




あの鷹広が告白…。

それなりに一緒に居て鷹広が何となく草部を気になってるのは気付いていた。でもまさか異世界で告白なんて思わなかった。




「…気持ち悪い事、言うな。ラビに話でも聞いて貰って慰めて貰えよ」

「んな釣れない事言うなよ秋哉………俺の恋は終わったが、お前は頑張れよ」

「なっ! 意味分からない事を言うなっ。お、俺は行くからな」




最後茶化すと秋哉は顔を真っ赤にさせて行ってしまった。少しやり過ぎたかなと思いながら気持ちが少し軽くなった気がした。




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