第二十九話 怪我
森を進んでしばらく経った。さっきから地面の揺れと爆発音が聞こえる。気のせいかもしれないけどアキが近くに居るような気がして少しだけ安心する。
「爆発音……アキ達が居るのかも。ラル、何か分かる?」
「そうデスね………確かに数人の足音が聞こえたデス。アヤノさんの言う通り近くに一人が居やがるデス」
少し話したら会話が無くなって無言になる…。
ラルの事、もっと知りたいけど迷惑だと思われたくない……でも、
「ねぇ、ラル! ラルはラフットさんとどれぐらい一緒に居るの?」
「な、なんデスかいきなり!………そうデスね、三年ぐらいは経つんじゃないデスかね」
「そんなに居るんだ」
ラルは顔を赤くさせながらお喋りしながら歩く。暗い森の中も明るく感じる。一人より二人の方が楽しいや。
「……あ、アヤノさんはアキチカさん達と中が良さそうデスね」
「アキと? うん。アキと美代ちゃん、三浦君とは結構な付き合いだよ」
あの頃のアキと比べればだいぶマシになったな…。
でも楽しかった。
「……ラルには長い付き合いの友達、居る?」
聞いてすぐ後悔した。
ラルの顔が曇ったからだ。ラルにもあの頃のアキと同じように何か引っ掛かっていた……もしかしたら触れて欲しくない所に触れちゃった。
「…ラルにも………ラルにも大事な家族、友達、ーーーー様が居たデス………でもっ、でも皆……」
「…ラーーーーーーーー…きゃっ」
今にも泣きそうに俯くラルを抱きしめようと手を伸ばした時、地面が大きく揺れた。そして地面から根っこが伸びる。意志を持つように、クネクネと。獲物を狙ってるみたいだ。
「…ラル、ラルは隙みて逃げて! 私は大丈夫だから……私を信じて」
「アヤ、ノさん!」
「こっちだよ〜。来るなら来なよ」
ラルから離れて挑発するとウネウネしていた根っこが私の方に向かってきた。それを後ろを見て確認しながら走る。そして一気に引き寄せてから、
「盾華癒月!」
盾で根っこを防ぐ。
今なら……出来る。
「盾華癒月ーー攻撃モード 紅焔雷火」
そう叫ぶと盾が光り、文乃の周りに光る球のようなものが高速で飛び交う。文乃目掛けて根っこが迫る。だが、それは阻止された。
ビリビリビリビリビリ
触れようとした時、黄色い球に当り根っこが破壊される。その様子を見ていたラルは唖然としていた。
「お、終わった〜」
「凄いデス、アヤノさん!」
モンスターを倒して文乃は座り込むラルに近付く。もう文乃の周りに球はない。
「えへへ……ん」
少し歩いて異変に気付いた。
ラルの後ろに何かがーーーー!!
「ラルッ、危ないっ! 紅焔雷火っ」
私は走れるだけ全力で走った。
ラルを守る事だけを思って、全力で走った。
ーーーーーーザシュュュッッ
「…………アヤノさん?……いきなり飛び付いてどうしたデスか?」
アヤノさんは見事、モンスターを倒した。でも戻って来る最中アヤノさんは何か様子がおかしくなって…ラルに抱きついたデス。
「アヤノ…さん?そろそろ重いデスよ」
様子がおかしい。
アヤノさんの体を退かせて起き上がる。そこでようやく気が付いた。
「…あ、アヤノ…さ、ん」
見ると腕に酷い傷があった。皮膚は裂け、血もたくさん流れている。でもそれより深刻な事がある。それはモンスターの毒だ。モンスターには全員が体内に毒を持ってるとされている。
「…ラ、ル……だい、じょーぶ?」
アヤノさんの顔が熱でもあるかのように赤い。
毒だ。早く治療しなくては命が危ない。
「うぅ…なんで………なんでラルを庇うデスか……皆、皆ラルを残して居なくなるデス……ラルはっ、ラルはちゃんと償ってるのに……まだ…まだ足りないデスか…………………ツクヨミ様っ」
意識を失う前、泣きじゃくるラルと大粒の涙、そしてうさ耳が見えた。
「…あの、ミシェルさん? なんで俺達は走ってるんでしょう」
そう、俺達は走っている。何の前触れもなくミシェルさんが「緊急事態です」と呟いたと思えばいきなり走り出し今の状態になる。
「…森中に張り巡らせている糸に異変を感じたんです。だから急いでます」
「張り巡らせた?」
「あぁ、ミシェルは優秀な念糸使いなんだ。この森に入る前に糸を張り巡らせたんだろう」
俺の疑問にラビを背負うラフットさんが答える。それにしても念糸使いとはカッコイイ……まるでヒーローだ。
「その糸に異変があったんですか?」
「そうです。糸が大幅に振動しました。しかも切れた糸もありました……近くで我々のようにモンスターとの戦闘があったという事になります」
戦闘か……。
文乃は無事だろうか。
「…というかその服でよく走れますね」
「ありがとうございます………」
褒めてる訳じゃないと口に出そうとした。
でもそれはミシェルさんによって止められた。立ち止まり奥を見据える。しばらく待つと人影が見えた。嗚咽が聞こえる…泣いてるみたいだ。
「……あ、ラルだ!」
まだ顔も見えないのにラビは明るい声で奥を指差す。
ミシェルさんがゆっくりと前に進む。俺達も後ろから後を追う。
「うっ、ラビぃ。ラフットさぁん」
見えたのはラビだった。うさ耳のフードが取れてうさ耳が見えていた。それはそれで気になるがラビの後ろにも人が倒れている。
「……この方は…………アキチカさん、見覚えは?」
妙に真剣そうだ。
俺の立ち位置からじゃ顔が見えない。でも心臓がうるさいぐらい高鳴る。そして倒れてる人の横に立つ。
「…あ、やの? 文乃っ!!」
文乃は傷だらけだった。特に腕からは血がかなり流れている。傷も痛々しい。いや、そうじゃない。俺はまた文乃にこんな傷を負わせてしまった。それが心にズキズキ刺さる。
「……やっぱりボルオンのお客様ですか」
「なんで嬢ちゃんがこんな事に………おい、ラル。何があった?」
いつもはラルに厳しいラフットさんだが今回ばかりは優しい口調で問いかける。でもラルは泣く一方で答えようとしない。
「……このままではモンスターの毒で持ちません。仕方ないですが魔法で一気にボルオンへ向かいます」
軽々しく文乃を抱きかかえたミシェルさんはそう言うと左足で地面をカツンとすると地面から魔法陣が現れた。




