第二十八話 森の中で
森の中をラビを先頭に歩く俺とラフットさんは一応、辺りを警戒しながら進む。森は歩き慣れてるが今までで良い思いをした試しは無い。
「……そう言えば、ラフットさんは近衛騎士だったんですよね? 何で今は料理人になったんですか」
「…はは。兄ちゃんは平気で聞くな………ま、強いて言えば訳ありだ……そんな兄ちゃんも、ラビと同じ記憶喪失なんだろ」
興味本位で聞いたが裏目に出たか。
自分に返ってきてしまった。
「………途切れ途切れしか…思い出せません」
「そうか………ん。兄ちゃん、ラビ……ストップだ………動くなよ」
何か気配を感じたのかラフットさんは俺とラビに動くなと指示をする。目を凝らして見るが特におかしい所は見当たらない。
「…………兄ちゃん、ラビ。戦闘の準備だ…………来るぞッ!」
腰に付けた鞘から大剣を少し引いて構えた。
ラフットさんの指示に、俺とラビも構える。
しばらくすると地面が軽く揺れて地面から小さいかぼちゃのような怪物が三体出来た。
「な、何だあれは」
「…あれはカボチーだな。攻撃力はあまり強くないが硬いぞ…気を付けろ」
カボチーとは。
何というネーミングセンスだ。まぁ、文乃は好きそうな名前だな。
「ハアアアアッッ!!」
流石は元近衛騎士。だが、カボチーの防御力は高いらしく少しヒビが入っただけだった。俺も負けていられない。
「…『対象、カボチー。炎射』」
チートで炎の球を作り、カボチーにぶつける。見た目がかぼちゃだから炎が効くかと思ったが少し黒く焦げてダメージを与えられた。
「ぼ、僕も負けません! き、狐火」
ほぅ、ラビの妖術はこんな感じか。
青白い炎がカボチーにぶつかる。やはりあまりダメージは与えられない。
「硬いな………だが、ボスが出て来たらそれこそマズイ……早く倒すぞ!」
カボチーのボスが居るのか!?
それは早く倒さなければ。
「…っ、『対象、カボチー。ファイヤボールと包丁』」
そう言うとファイヤボールが出てカボチーに向かう。俺は後から出た包丁を持ってカボチーに走る。そしてファイヤボールがヒットして燃えてる瞬間、包丁を振りかざす、とカボチーは真っ二つに割れた。
「ナイスだ、兄ちゃん」
俺に親指を立てて笑うラフットだが、ラフットもカボチーを一体倒していた。ともあれあと一体だ。
「えいっ!」
あと一体はどこだと探していた時。ラビの声が聞こえた。どうやらラビも倒せたらしい。
「良くやったぞラビ。ボスが出ない内に、急いで走るぞ」
「……どうやら遅いみたいですよ」
ゴゴゴゴと揺れる。
地面には大きな穴があいて何かが飛び出してきた。着地の時、地面が波打つ。カボチーより何倍も大きい……こいつがボスか。
「…遅かった………カボチーのボス、カボスは最低でも個人ランクAランク程じゃないとヤバイんだ」
何っ!
そんなに強いのか。俺は一番下のEだ。ラフットさんとラビはどうなんだろう。
「……俺はAランクだが久しぶりだからな………兄ちゃんとラビは?」
「お、俺はEです」
「僕は……登録してません」
実質、通用するのはラフットさんだけだが……ラフットさんにはハンデがある。どうすれば良いんだ…。
「………ん?」
どうするか、考えてた時だった。目の前のカボスがいきなり真っ二つになったのだ。もう何が起こったのか分からず、唖然としていると、真っ二つになったカボスの奥から人影が現れた。
「………あ、お前は…………ミシェル…か?」
奥から出て来た人物の名前なのかラフットさんは名前を呼ぶ。
「誰かと思えば……団長でしたか」
ミシェルと呼ばれた女性は…何故だかゴスロリの服を着ていた。黒を基調としたフリフリの女性だ。金髪の髪をツインテールにしている。肩程まである長さだ。
「何でこんな場所に?」
「…私はボルオンの近衛騎士なんです。で、ボルオンに来るお客様をお迎えに上がる途中だったんです……所でこの子達は……団長のお子さんですか?」
ミシェルさんは紫色の瞳で俺とラビを交互に見る。
子供に間違われたのは初めてだ。
「そんな訳あるか! 兄ちゃんはボルオンの客、つまりお前の言うお客様でラビは弟子だ」
「…弟子………あぁ、団長は柄にもなく料理人になったんでしたね。なるほど……私はボルオンの近衛騎士 副団長のミシェル・Rです。よろしく」
一人で納得してミシェルさんは自己紹介をする。
最後のよろしくで微笑んだ。
「は、初めまして、僕はラビです」
「初めまして、俺は成瀬 秋哉です。俺達は飛行艇から落ちたんですが文乃達はボルオンに着いたんですか?」
「……はい。先程、連絡がありました。でも、飛行艇に乗ってたアヤノさんとラルさんが行方不明らしいです」
「なっ!」
文乃はちゃんと飛行艇に乗ってた筈だ………まさか俺が落ちた後、何かあったのか?
「…大丈夫だと思いますよ。聞いた話じゃ、アヤノさんは魔兎族のラルさんと居るらしいですから」
「魔兎族……?」
「…兄ちゃん、悪いがそこには触れないでくれ。いずれ、ラルが話すと思うから」
……触れられたくないのか。
なら無理に入り込むのは止めよう。
「…分かりました」
「……ありがとな」
「……それでは、ボルオンに向けて…出発でーす!」
妙にハイテンションなミシェルさんと不安だらけの俺達はボルオンに向けて再び出発した。
ただ一つ、文乃の事が気掛かりで仕方なかった。
 




