第二十二話 飛行艇 リィリーラ
城の壁が一部、凹んで道が出来た。凹んだ壁の奥は真っ暗で奥が見えない。というか何でこの城は暗い道がこんなにも多いんだ。
「…ほら、着いて来い」
俺達に向かってそう言うとエルボーは先頭に立って凹んだ奥の道に入って行った。置いてかれないように俺達も急いで後を追って入る。先に入ったエルボーがちゃんと待っていた。
「うわ、明るい」
「あぁ。人の気配を感じると反応するんだ。ほら、これが気配に反応して魔法が発動する」
エルボーが指を指すのは壁に付けられているランプだ。見覚えのある普通のランプだが火は付いてない。エルボーが魔法と言ってたがこういう魔法もあるんだな。
「普通のランプみたいだけどね」
「うん。火は付いてないね」
「じゃ、リリベル様……行ってきます」
先頭のエルボーは振り返ってわざわざリリベルに言う。リリベルは道に入らず、だけど少し寂しそうに俺達に手を振って笑っている。そのリリベルに俺は違和感を覚えた。
「……もう行くぞ。着いて来いよ」
未練がましそうにリリベルを見てから前を向いて歩き出す。俺は何も言えず、ただ着いて行くだけだった。
秋哉達の姿が見えなくなった後、取り残されたリリベルと側近のシャノン。
「……行ってしまいましたね」
そう呟くリリベルは秋哉達の姿が見えなくなった壁の奥をずっと見ている。そんな様子を見ているとシャノンは胸が締め付けられるように苦しくなった。
「…ッ、リリベル様」
「……シャノン。貴方がそんな悲しい顔をしなくても良いのですよ……これは…仕方の無い事なのですから」
「でっ、ですがリリベル様っ! リリベル様は何も悪くありません…なのに……こんな」
滅多に感情を表さないシャノンが顔を歪ませて両目から雫を落とす。リリベルはそっと微笑んでシャノンの瞳から流れる雫を指ですくう。
「…私の為に泣いてくれるんですね、シャノン………私がアキチカ様達をお呼びしたのは…この世界が変わる事を願ってです…いつか、この城から出てアキチカ様達と世界を周りたい……私は諦めた訳ではありませんよ」
「……リリベル…様っ、このシャノン・リフレ。リリベル様の盾となり、全てが終わった時、リリベル様の隣りに居られるように精進します!」
シャノンは涙を拭いてリリベルに向かって跪き、リリベルに仕える事を改めて誓った。
「えぇ……無理はしないで下さい」
「はいっ!」
リリベルの言葉に答えるように、シャノンは満面の笑みで笑った。
場面は戻り、壁の奥を進む秋哉達はひたすら真っ直ぐ進んでいた。少し退屈してきた時、前方に明かりが漏れているのが見えた。
「着いたぜ」
どうやら着いたようだ。外のようであまりの眩しさに目を開けられない。自分の手を日よけ代わりにして再び見ると目の前には飛行機ぐらいの大きさを持つ、〝飛行艇〟が凛と停まっていた。あまりの大きさと驚きに俺達は口を開けて驚いていた。エルボーは少し嬉しそうだ。
「この飛行艇はリィリーラって言うんだ。これは王族の専属飛行艇なんだぞ」
「凄いね! 王族って事はリリベル達も乗ったりするの?」
「……いや、リリベル様は乗らないがグエン様ならよく乗るぞ。あまり時間も無いし、とっとと自己紹介するか」
外見は豪華な客船だ。王族専属とあって全体的に紅く塗られ、金のリボンの装飾がされている。後方にはデッキがある。大体は二階はありそうだ。そして一瞬のうちにエルボーの隣りに少女が立っている。
「失礼致します。わ、私はこのリィリーラの専属 世話係でありますデス! 未熟者ですが精一杯、お世話するのでよろしくデス」
語尾にデスを付ける少女はいわゆる、うさ耳パーカーを着ている。白色のパーカーから覗く髪は意外にも長く、薄いピンク色だ。可憐そうにも見えるが、凛とした真っ赤な瞳を見てイメージが変わる。緊張してるのかほんのり紅くなっている頬と柔らかそうな唇。背は俺より低そうだ。かと言ってミュミュよりは年上そうだな。
「………あれ?」
急に声を上げたミュミュに視線が行く。視線に気付いたミュミュは慌てふためく。人見知りは治ってないようで、文乃の後ろに隠れてしまった。
「どうしたミュミュ」
「い、いえ……なんでもありません」
「……?あ、申し遅れたデスね。私はラルナ・ムーント、浸しい方からはラルと呼ばれてるデスよ」
「…ラル、浸しいじゃなくて親しいな」
「あ、ごめんデス!ささっ、どうぞ入りやがれデスよ」
日本語か微妙だが言葉遣いがおかしい事には敢えて触れず、俺達はようやく飛行艇の中に入った。
 




