第二十一話 獣人族の国
俺達は急いで地上にある城に向かう。来る時、怖かった階段はもう怖くない。暗く、長い階段を上がると俺の部屋に出る。そしてそこからリリベル達が居る広場へ急ぐと既にミュミュとエルボーが居た。
「皆さん、急にお呼びしてすいません。ここに居るエルボーから聞いた通り、ミュミュの弟さんの有力情報があります」
「そ、それで……ミュミュの弟はどこに居るの?」
「……それは。ここ、グラシアス大陸をずっと西に行くと獣人族達の国がある ボルオンがあります。ボルオンへ行くには船で行くしかありません 」
この世界の地理を初めて聞いたが。まぁ、良いか。目的地は獣人族の国であるボルオンに行くんだな。
「あ……ボルオンは私の故郷です!」
「そっか! ミュミュはドワーフだっけ」
「じゃ、弟君が見付かったらミュミュの故郷に行ってみようぜ」
「その為には急ぐ必要があります。ミュミュさんの弟さんは獣人族の大怪盗 キューティー・ラロスに捕まっているようです」
キューティー・ラロス。
ラロスという人物がボスだろうか。名前から男か女か分からない。
「ボルオンに行く為の手配は済ませてある。お前らは船に乗ってまずはボルオンの王に会え」
「ボルオンの王って……私達、人間だけど大丈夫なの?」
草部の不安も分かる。
王と聞くと百獣の王ライオンを思い出す。もし本物のライオンだったら俺達は簡単に喰われる!
「大丈夫ですよ、ミヨさん。獣人族とはお互いに協力し合っている仲です。食べられたりなどしません」
リリベルの言葉を聞いて草部はホッとしている。
それはそうと、さっき船で行くと言ったか?
「船ってネフィヤのどこかに港があるのか?」
「…ミナト…ですか? どういう意味か分かりませんが皆さん、勘違いしていますよ」
勘違い?
意味が分からず俺達は首を傾げる。そんな様子を見ていたリリベルはクスッと笑う。
「皆さんはきっと、海を行くと思っていますよね」
「違うのか?」
「はい。海から出発するよりも“空”からの方が確実に早いんです」
考えてもいなかった空からという言葉。まさか空を飛ぶ日が来るとは夢にも思わなかった。まぁ、文乃は喜んでるがな。
「それでは皆さん、すぐに準備を始めて下さい。さっきも言いましたが時間がありません」
必要な荷物を整理してまたこの場所に集合、という事でひとまず解散となった。
「……準備、と言っても部屋に何も無いんだよな…」
リリベルから貰ったお金は主に食料に使い、あっという間に底をついた。元の世界だったらヒーローグッズを買い締めてるだろう。今部屋にあるのは武器屋で貰った拳銃とお菓子だけだ。
「ハァ……こっちでも俺は貧乏か」
思わず溜め息が出てしまった。手に持つと意外に重い拳銃を持つとある事に気付いた。そもそもバックが無い。無いと言ったら嘘になるが。こっちに来た時、制服だった。その時に一緒に持ってた鞄に入れる事にしよう。
「あ、アキー」
「ん? あ、文乃……そのバック」
訪ねて来た文乃を見ると肩から掛かっている少し大きめのバックが目に付く。ピンク色で花の刺繍がしてある。見た感じ子供が使うバックみたいだ。
「うん、街に行った時に買っておいたの……アキは…学校の鞄、持ってくんだ」
「…あ、あぁ」
文乃に指摘されて恥ずかしくなる。四人の中で俺一人が学校の鞄。恥ずかしい…恥ずかし過ぎて死ぬ!
「ふぅん……あ、準備出来たなら行こっ。そろそろ美代ちゃんと三浦君も準備出来たと思うし」
乗り気はしないが約束の場所に向かった。
「あ、来た来た! 遅いよ、二人共ーー」
「ごめんごめん…あれ、三浦君」
「……(ギクッ)」
「聞いてよ文乃。鷹広ったらね、学校の鞄を持って行こうとしてるんだよ」
……何だって!?
そんな馬鹿なと思いながらも鷹広の足元を見る。するとやっぱり俺と同じ鞄だ。
「ゆ、言うなよ!」
「あはは。大丈夫だよ、三浦君! アキも学校の鞄だから」
文乃の余計な一言で視線は俺に集まる。
何で言うんだ!
「……ふーん。男子って皆、こうなんだ」
草部には冷めた目で見られるは鷹広には仲間というキラキラした目で見られるわで出発前から気分が最悪だった。
「皆さん、集まりましたね」
いつの間にかリリベルの声がした。振り返ると玉座の隣りにリリベルとエルボー、シャノンが立っている。
「お前らにはまた俺が同行する。んじゃ、早いとこ出発するか」
話が突然過ぎて置いてけぼりだ。
せめてどこに向かうのか教えて欲しい。
「どこに向かうんだよ」
「城の屋上。分かったら急げ。リリベル様に緊急手配して貰ったんだから遅れる訳にはいかないぞ」
リリベルが手配したのか。
いや、でも待てよ……何か忘れてるような?
「ま、待ってぇーー!」
屋上に向かおうと足を進めた時、声が聞こえた。
ミュミュだ。
「ミュミュ!」
「ハァハァハァ……遅れてごめんなさい」
ミュミュが肩から下げてるバックは可愛らしい物だった。真っ赤なリンゴ型のバックだ。
「よし、じゃあ行くぞ」
今度こそエルボーが声を掛けるとエルボーは独りでに何の変哲もない壁をペタペタ触る。何かを探してるみたいだ。
「……あった」
カチッという音と一緒にゴゴゴゴゴゴと音を立てて壁が上に上がっていった。そして現れたのは奥に続く怪しげな道だった。




