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異世界ヒーローはチート使い  作者: みか
一章 異世界ヒーロー編
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第十七話 迷う者






森の奥は暗く、闇が広がっていた。だけど不思議な事に全く怖くはなかった。

そして今、俺は目の前を歩く少年を追いかけている。体は透けていて幽霊みたいだ。




「…どこまで行くつもりだ?」




花畑からかなり歩いた気がする。景色は変わらず木ばかりで今引き返せば一人で戻れないだろう。




『…………か、…………ちか』




さっき花畑で聞いた女性の声が近くで聞こえる。そして同時に霧が立ち込めてきた。

白い霧はあっという間に広がり、視界を悪くさせる。目の前を歩いていた少年の姿も見失ってしまった。




「……なん、だ?」




不安な中、霧の奥に誰か女性の影が映った。ドレスを着ているらしく髪は腰近くある。その女性はゆっくりとだがこっちに近付いて来ている。




『…………ちか…、…………秋哉』




か細く今にも消えてしまいそうな声だ。

だが俺はその声に懐かしさを感じていた。何故かは分からない…ただ、恐怖心は無い。




現れた女性はハッキリ言うと美人だった。背も高くスタイルも良い。髪は団子状にして頭のてっぺん近くに留めている。見つめられるとあったかくなる瞳に柔らかそうな唇、少し幼さが残る顔…俺はこの人を知っている。




ズキッ




「…うっ…………あんたは誰、だ」




頭痛を我慢しながら目の前に居る女性に尋ねた。

気のせいか女性は悲しそうな表情をする。




『…………忘れてしまったの?……秋哉…………私の、…私の大切なーーーー』




ドクンッ




「うっ!……ぐああ、っ……なんだ…これは」




頭の中に直接流れ込んで来る記憶。追いかけてた小さな少年と顔が似てる少女、そして目の前の女性と優しそうな男性が居て皆で楽しそうに微笑んでいる。



これは……失った俺の記憶。

この人は…………俺の母親?






『…………さぁ、来て』




そう言うと母さんは再び森の奥に消えてしまった。

やっと思い出した記憶。きっとまだ俺が忘れた記憶を持ってる筈だ!




「…っ、待て!」




行手を阻むような頭痛にイライラしながら俺は奥に消えた母さんを追う。















「…ずいぶん進んじゃったけど大丈夫かな」




花畑を一人で進み、かなり奥に来てしまった。霧も出て来て帰り道も分からない。ここに来て後悔が押し寄せる。




『……ってーー!…………鷹広っ!』




「…っ!?」




今、ハッキリと聞こえた私の声。

少し高めの声は幼い頃の声だ。霧の奥に誰かの影を見付ける。すらっと伸びる背に少しボサボサな髪。




「…お父さん?」




影に呼び掛けるとそれに答えるようにゆっくりと近付いて来た。段々とハッキリする姿。短髪で白髪交じりの黒髪はいつもの通りボサボサだ。眼鏡から覗く二つの瞳は私に向けられている。




『…………おいで、美代』




お父さんは私の名前を呼んだ。

そしてついて来いと言ってるようにお父さんは奥に消えて行ってしまった。




「ま、待ってよ…お父さん!!」




私は必死になって追いかけようとした。

どれぐらい走ったか分からない。そんな絶望の中、やっとお父さんが見えた。




「…お父さん………お父さんっ!!」




手を伸ばせば届く距離になる。走り続けて疲弊してたけど精一杯、手を伸ばす。




手がお父さんに触れーーーーーーーーーーーた。

触れた筈だった。でも触れた瞬間、目の前のお父さんが消えた。そして今、自分がどんな状況かがすぐ理解する。

平坦な道を走っていた筈だった。でもいつの間にか崖に来てしまったらしい。




「きゃああああっ!!」




足場を無くした体は崖から真っ逆さまに落ち始めた。

…もうダメだと思った時ーーーーーーーー








「美代っ!」




危機一発、誰かが私の腕を掴んでくれた。安心感に胸を撫で下ろすと次に助けてくれた人を見上げる。




「えっ……エルボー」

「無事だな。今、引き上げるぞ!」




エルボーに引き上げて貰った私はすぐエルボーに謝った。危険だと分かっていたのに勝手に入ってしまったんだから謝るのは当然だ。怒られると思ったのにエルボーは私の頭を撫でて微笑んでくれた。




「ったく、お前らはリリベル様の大事なお客様なんだ。無茶すんなよ」

「…ありがとう、エルボー」

「よし。それじゃ戻るか」




美代を見付けたエルボーは一緒に戻るのだった。

だがこの後、花畑に誰も居ない状況になる事はまだ知らない。












「……待て…………待ってくれ」




エルボーと美代が出会った同じ頃、秋哉はまだ一人、森の中をさ迷っていた。瞳は濁り、何やら様子がおかしい。

うわ言のように同じ言葉を繰り返しながら歩いて行く。




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