第十一話 少女
さてと……どうするか。
鷹広と力を合わせて倒すか。
「鷹広、力を合わせるぞ!」
「分かった。んじゃ、サポートよろしくな!
行くぞ、黒雨ッ」
鷹広は勢いよく走り出すとタイミングを合わせたように飛び出した黒い鷹が刀へと変化した。それをキャッチするとその勢いのままワニへ斬りかかる。それを見て俺は
「今だっ、『雷撃ッ』」
成功するか分からないがそう言うとワニの頭上から雷が落ちた。
なるほど、こういう事も出来るんだな。
「ッッ、あっぶねぇ!! 殺す気かっ!」
鷹広は危機一髪で雷撃の直撃を避けたらしい。たが、髪がヂリチリになっている。
「死にはしないだろう。結果的に避けられたんだから良かったな」
「いや、避けられなかったら死ぬからな!
分かってやったのかよ」
やれやれ、うるさい奴だ。
そんな事よりもワニだ。
俺は確認の為、ワニを見る。
「……鷹広。攻撃が甘かったんじゃないか?」
「あのな、俺はお前に殺されかけたんだぞ。
というかあいつ倒せてないぞ」
鷹広の攻撃が甘かったとしても俺の電撃は直撃した。どうやら俺が甘かったようだ。
さて、これからどうするか。
「あの…あれはこのままでは倒せません」
突然聞こえた声は女の声で後ろからする。振り返ると案の定、助けた筈の少女だった。よく見るとかなりの可愛さだ。綺麗な栗色のウェーブした髪を自然に揺らしながら俺を覗きこみ、パッチリとした曇りの無い瞳で見つめられる。背は文乃と同じぐらいだろう。
「……なんでここに居る。文乃」
「うっ…ごっ、ごめん! 急にこの子が走って行っちゃって」
慌てて走ってきた文乃に一応少女が居る理由を聞く。まぁ、理由は何となく分かってたがな。
「まぁまぁ。で、さっき言ったこのままじゃ倒せないってどういう事だ?」
あぁ…そう言えばそう言ってたな。
しかし、一体何者何だ?
「はい……あれは魔獣と言って体内に魔力を持つ獣で私達、人間には危険な魔獣です。ですが弱点はありますよ。弱点は心臓部です」
心臓部……魔獣でも心臓を狙うのは少し躊躇してしまう。
鷹広も同じなのか困惑しているようだ。
「心臓を狙うのは躊躇してしまいますよね。
出来ないのなら私が――――――」
「俺はやるぜ! 秋哉は勿論、やるよな」
「…当たり前だ」
「…ッッ!」
少女は何か驚いた顔をしていたがもう関係ない。ワニの弱点も分かった。これでもう完璧だ。
「文乃、安全な場所へ」
「うん。行こっ」
「……は、はいっ」
これで今度こそ。
――――――終わりだ。
「…鷹広、俺が奴の気を逸らす。お前は隙をついて黒雨で奴を倒せ」
「……あぁ。了解したぜ」
鷹広には少し嫌な役割を押し付けてしまった。礼とは言わないが後で草部と二人きりにしよう。それはともかく俺はやらなくてはいけない。
『グルルルルルルル…………』
「…………」
こいつ、ワニか犬なのかハッキリさせて欲しいものだ。
俺と奴は今睨みあっている。機会を待っているんだ。何故なら俺のチートは使い勝手が良いが回数が限られている。無駄にはしたくない。
『グルルルルルルル…………グルルアア!!』
ワニは我慢の限界がきたのか、ついに鋭い爪と牙を剥き出しにしながら襲い掛かってきた。
だが俺はこれを待っていたんだ。
「……ッ、『壁っ』」
『グルルアア!?』
急に出現した壁に避けられる筈もなく、ワニは壁にぶつかった。そして
「そのまま『罠』!」
『グルルアア! グルルアッ』
すかさず言霊で逃げられないように捕縛する。ワニは逃げ出そうと必死に足掻く。
さて、ワニは捕まえたが……後は。
「………鷹広」
「…あぁ。分かってる」
いつものふざけた顔と違い、真剣な顔付きだ。片手には黒雨を持っている。鷹広はワニの前に立つと大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。
「……悪いな」
言葉と一緒に黒雨を大きく振り上げる。
後ろ姿しか見えないが真剣な筈だ。
そしていよいよ振り上げていた黒雨をワニの心臓部に向かって振り落とす――――――――筈だった。
「そ、そこまでです!!」
振り落とそうとした目の前に少女が立ちはだかる。
途中まで振り落とされた刀はそんな簡単に止める事は出来ない。
「こうなれば……『石ッ』!」
カキンッ
「うおっと!!」
咄嗟に少女を石にした。すると当然、頑丈な石に刀は跳ね返され少女は助かった。
「はぁぁ。あっぶねぇ……って、秋哉!!またやりやがったなぁ」
「……そんな事より…説明して貰えないか?」
俺はワニを庇うように立つ少女を見下ろす。肩が少し震えてるのが分かる。
「…はい。その前に先に謝っておく事があります……私の名はレティファ・エンブレム。精霊の長靴のマスターです」
「え…ええっ!!?」
「……うるさいぞ、文乃」
まぁ、何となく怪しいと思っていたがマスターときたか。
たがあのワニとの関係は何だ?
「すみません…」
「謝罪はいい。それよりも後ろのワニとの関係は?」
「あ、それは………『パチンッ』」
レティファが指を鳴らすとワニは映像のように消えてしまった。その事実より自分が戦っていたワニが偽物だと分かったショックが大きい。
「うっわぁー……」
「うふふ。それでは我がギルドへご案内いたしますね。
どうぞ着いてきて下さい」
「……ハハ」
緊張やら何かが解けた雰囲気が一気に安らぐ。
俺もいざ戦闘が終わればどっと疲れが出る。
「アキッ! 帰ろうっ」
「……あぁ」
笑顔の文乃に心を落ち着かせながらレティファの後を追う 。花畑の花が風に煽られ、空へ舞った。




