素直じゃない
短いです。ありがちな話でもあるかも?
彼は根はいい奴で優しい人なのだと思う。
それが、彼のいいところだと言えるけれど、残念なところがある。ただ、素直じゃないのだ。
彼の名は、スカイ。名は体を表すというけれど、まさしく蒼穹を仰ぐように澄んだ瞳、人目を惹く容姿。
幼馴染の私は本当に小さな時からよく知っているから、それが特別なこととは思わないが、それなりにかっこいいのだろう…。
というか、アレは少しうっとおしくもある。
朝、学校に行く時なんかは…。
「よう、き、奇遇だな。偶然、家を出る時間が同じだったのも何かの縁だ。最近、不審者の目撃情報もあるし、どうせ、一人なんだろ?俺が一緒に行ってやるよ。」
まず、言いたいのは、私の方を向いて言え。一瞬、目が合ってからずっと電柱に向かって話しかけてどうする!
しかも、そのセリフ絶対に家で練習してきただろ。
「自分が一人で行くの淋しいだけでしょう」
「は、はぁっ⁉︎ちげーし、べ、別に淋しいなんか一言も言ってねーし」
いつものごとく、スカイは顔を真っ赤にしながら喚き散らす。ああ、やっぱりからかい甲斐がある。
仕方なく並んで歩くが、距離感が遠い。一緒に行く意味を感じないのだが、歩く速さを速めるとぴったり付いてくるのは小さな頃から変わらなかった。
スカイは私が好きだ。これ見よがしに、女の子に囲まれたりしているのは私にこっちを見て欲しいというアピールだから。
…で、結局は私が相手にするはずもなく泣きついてくる。
「何よ、急に」
「だって、ハルが最近俺のこと避けて…」
…語尾ちっさ。え、何?サケが何?鮭?酒?未成年の飲酒はダメなのは分かるけど。
いつまでも私にくっついてたとしたって、いいことなんてない。
学校で、スカイの友達に遭遇する。いつも悪ノリがすぎる人だ。
「おおスカイ、今日も愛しのチハルちゃんと仲良しだね」
やっぱり、そう来るか、、。
「は、ハァ⁉︎バッカじゃねーの!こんなやつ好きじゃねーし!!」
得意の全否定…まあ、いつものことだしあとでデレるが、こうも続くとさすがにイラッとくる。
なおも言い合いを続ける二人。付き合ってる暇はない。
「私もスカイなんて好きじゃないわ、嫌いよ」
ふいに振り向いたスカイが、顔をくしゃっとさせ泣きそうな顔をした。
折角の綺麗な顔が勿体ない気もするが、そんなこと私には関係ない。
さすがに言い過ぎたとは思ったが、私はその場から足早に立ち去った。
「は、ハルッ!」
後ろで、私を呼ぶスカイの声がしたが私は真っ直ぐ自分のクラスに向かった。
この時とばかりに違うクラスで良かったと、つくづく思う。
だが、安堵したのもつかの間。一限の授業が始まる前にスカイがクラスを訪れ、ざわつく空気の中、私の手を強引に掴み連れ出した。
授業が始まってしまうではないか、と危惧していた通り、残酷にもチャイムがなってしまう。
キーンコーンカーンコーン
「ちょっと、スカイ!どういうつもりなわけ⁉︎授業始まっちゃったじゃない!」
「サボれ」
「バカじゃないの⁉︎てか、どこ行く気よ!」
ほんと、手がかかる奴だ。
引っ張っていく力が強すぎて、必死に抵抗するも体力が削れて疲れるだけ。
体力が、体力さえあれば…。普段運動不足の自分が憎い。
昔は私の方がスカイを掴んでブンブン振り回していたぐらいなのに、やっぱり年月はそれほど人を変え、成長させる。
連れてこられたのは、B校舎の裏。主に部活の部室とかがあり、授業ではあまり使わず午前中に人はいない。
「痛い、いつまで掴んでるのよ」
「…嘘だから、嫌いとか言うなよ」
「何言って…」
トボけたふりをしたが、無駄だった。
「さっきのこと…好きじゃないとかいったけど、本当は大好きなんだからな!」
「…っ⁉︎」
まさかここで言うとは思わず驚いた…。
そしていつも甘える時みたいに、ぎゅぅっと抱きしめられる。
いつにも増して、腕に力がこもっているのがわかった。
「ば、バカ…あれは私も言い過ぎた、とりあえず授業を受けよう。大事な話はその後するから…」
スカイの表情が華やいだのは言うまでもないことである。
素直になれないのは、どうやらお互い様のようだ。
チハルがハル呼びされているのは、同じ“ち”から始まる姉がいるという裏設定です。