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7章

「到着です」

ルビィに促されるまま部屋から甲板に出る。と、さぁっと風が髪を通り抜けて行く。

「ここが…セレニティス…」

視界いっぱいに広がっていたのは、白い屋根に白い壁。

そして、背中に白い羽を持つ人々だった。

「…やっぱり、羽、あるんだね」

グラード様やルビィ、ジュールにももちろん羽はあったのだが、やはり見る人全てに白い羽が付いていると、私とシュエリがいかに異端かが良く分かる。

「こちらに馬車を用意してございます」

ルビィが先に立って歩き出す。私とシュエリはそれに従い船から下りる。

馬車に向かう途中にすれ違った人たち全員が、私たちが通り過ぎるまで深く頭を垂れて動かない。

「…あ、あの…どうして皆頭を下げてるの…?」

何だか非常にいたたまれない。小声でシュエリに聞いて見ると、

「…そりゃ、セレニティス皇帝が連れてきた人間だからだろ。国賓扱いにでもなってるんじゃねーか?」

あっけらかんと返事が返ってきて、私はびっくりする。

「こ、国賓!?なんでそんな扱い…」

「この船は基本的に皇帝とその近辺の者しか乗りません。したがって乗組員は全員我々に敬意を表する必要があります」

今度はルビィが淡々と返事をする。

「…そ、そう、ですか…」

よく分からない。皇帝に礼をするのは分かるけど、どこの馬の骨か分からない人間にも礼をしなきゃいけないなんて…

「…でもなカノン。俺たちはあまり歓迎されていないっぽいぞ」

「え?」

シュエリの言葉に戸惑っていると、目線で後ろを示された。

振り向いてみると、無関心を装った中に、いくつか刺さるような視線を感じ、慌てて前を向く。

「…そうみたいね」

「羽が生えてないだけでも十分不審者なのに、皇帝が連れて帰って来たんだもんな。妙な疑りでもしてんだろ」

「……そう、かもね」

私は暗い視線を投げる人たちから背を向け、街並みを眺めた。

「それにしても凄いね…建物も乗り物も、何もかも白いよ」

「確か条例で決まってたはずだぜ。城下町の建造物と馬車、人力車は全て白で統一する事って。だから郊外に行ったら結構何でもありみたいだけどな」

「そうなんだ…行って見たいな、色んなところ。……それに、家にも帰りたい」

「カノン…」

「別に家そのものに思い出は全然ないんだけど、やっぱ、お父さんとお母さんには会いたい、かな」

「カノンはしょっちゅう連絡取ってたもんなー。俺なんて4人兄弟の末っ子だったから滅多に来なかったから特に何も思わねーや」

「そう言えばお兄さんばっかり3人いるって言ってたね。…会いたかったなぁ」

「俺は会わせたくないな。カノンを取られると困る」

「もう、何言ってるのよ。そんなワケないじゃない」

私はシュエリの手をぎゅっと握る。

…なんだか、シュエリの様子が刻々と変わっている気がして少し怖い。でも、こうやって手を繋いでいるとその温もりに安心する。

「そうだな。…なんか俺、カノンの事になると視野が狭くなるな。気をつけないと」

「もう、ほんとよ。何も心配することないの!」

そう。何も心配することはない…。



「……腰、痛い…」

がたがたと揺れる馬車の中で私は呻いた。

馬車ももちろん国賓仕様になっていて、非常に豪華な造りになっていた。

のだが、やはり馬車は馬車。道が悪いところは容赦なく揺れる。石に当たるとガタンと跳ねるため、お尻と腰がずきずき痛む。

「申し訳ありません。もうしばらくご辛抱下さいませ」

そう言うルビィも、言ってる途中で跳ねている。

「大丈夫?ルビィ」

「問題ありません…と言いたいところですが、なにぶん馬車は苦手で」

「ルビィにも苦手なものってあるのね」

思わずくすりと笑うと、ルビィは恥ずかしそうに目線を逸らした。…案外良い人なのかもしれない。

「カノン、痛かったら俺の膝に座る?」

「座らないよ!もう、何言ってるのよシュエリ…」

「硬い木の座席よりマシかな、と思ってさ」

「……気持ちだけ貰っとく」

申し出は有難いんだけど、さすがに二人きりではない空間でそれはちょっとはばかられる。

「そう?」

シュエリはほんの少し残念そうな顔をしたけれど、すぐに窓へ視線を向けた。私も同じく外の景色に目をやる。

「なんか…こうも真っ白な建物しかないと、自分の家が分からなくなりそうだね」

お店は店先に大きな看板があるので分かりやすいが、一歩奥に入った民家らしき建物はほぼほぼ白一色。取り立てて目立つものもないし、初めて一人でここに来ていたら絶対に迷うだろう。

「そうですね。なので至るところに案内板が設置してありますし、一定の場所には有人の案内所もあります。なのでここの住人は必ず住所を城に届け出る必要があるのです。でないと案内出来ませんからね」

「そうなんだ…案内所があると便利ね」

「無料で地図も配布しています。商店の場所や案内所の位置などが詳しく書き込まれていますので、1世帯に1枚は常備しているのではないかと」

「そうなんだ…だったら、地方から来る人たちも安心ね」

「カノン、城が見えて来たぞ」

窓から身を乗り出すようにして景色を見ていたシュエリが言う。私も少しだけ窓から顔を出すと、真正面に聳え立つ巨大な壁が見えた。

「…壁しか見えないわ」

どう目を凝らしても、城の先端も見えない。ただ圧倒されるほど高い壁があるだけだ。

「敵から城を守る為に高い壁を作ってるんだろ。あそこの門をくぐったら見えるさ」

あそこ、と示された場所には確かにこれまた大きな門があった。馬車は真っ直ぐに門へと進んでいく。やがて馬車は門の前で止まった。

すると、中から厳しい甲冑を着込んだ兵士が数人飛び出してきた。と、ルビィが窓から顔を出し、

「皇帝付き侍女ルビィ・エレメント、帰還した。門を開けよ」

言うが早いか兵士は慌てたように

「開門せよ!!」

と叫んだ。

すると門が一瞬がこん、と震えたかと思うと、ぎぎぎぎ、と耳障りな音を立てながら左右に開いた。その門の分厚さに私は驚く。私が両手をいっぱい広げてもまだ足りない。

「さすがに分厚い門だね…」

知らず身体が強張る。ここをくぐると、もう二度と外に出られない気がして手に変な汗をかく。

「……シュエリ、私たち、ここから出られる日が来るのかな…」

思わずシュエリの腕にすがると、シュエリは私の手をしっかり握り、

「大丈夫。きっと出られる。それにもしもの事があっても、俺がカノンを守ってやるから安心しろ」

ハッキリと頷いて答えてくれた。

その力強さが、今は何よりも頼もしかった。だから私は前を向き、馬車が門をくぐる瞬間をしっかりと目に焼き付けた。



「さぁ、到着です」

門をくぐってからかなりの時間、ずっと庭に敷かれた石畳を馬車は進んでいた。

庭はさすがお城というべきか、一寸の乱れもなく綺麗に整備されていて、等間隔で噴水が透明な水をアーチ状に吐き出していた。

無数のプランターには色とりどりの花が咲き乱れ、芝生は素足で走りたくなるほど刈り込まれている。

その庭の素晴らしさに少し癒されていた私は、ルビィの声にハッと我に返る。

「さぁ、お手をどうぞ」

一足先に馬車から降りたルビィが私に手を差し出してくれる。一瞬自分で降りられると言いそうになったが、思ったよりも高さがあったので素直に手を取って馬車から飛び降りる。その後にシュエリが飛び降りて大きく伸びをする。

「あーーっ、疲れた。腰が痛い」

うーんっと伸びをしたシュエリは目の前にそびえる城を見上げた。

「…さすが、でっかい城だなぁ」

「そうね…迷子になりそう。そうだルビィ、お城には地図ってないの?」

ルビィに聞くと、珍しく言葉に詰まり、しばらくしてから言いにくそうに口を開いた。

「…城内の見取り図は存在しません。万が一敵国に渡ると一大事ですので」

「……あ、そ、そうか」

考えて見れば当たり前だ。お城は観光地じゃないんだから…。

「こちらへ。陛下が謁見室でお待ちです」

「そういえば、グラード様はいつお城に?」

思えば船を降りた時点で既に姿は見当たらなかった。道中もそれらしい馬車は見なかったし、いったいどうやって…?

「陛下は別の移動手段でお戻りになられました。皇帝が城下町を通ると、それだけで一大イベントになりかねませんので」

「…それもそうね」

セレニティスの皇帝がいきなり街をほいほい歩いてたら色々問題ありそうだ。

「では、ご案内いたします」

先に立って歩き出すルビィ。私はシュエリと目を合わせ、シュエリが軽く頷いたのを合図に城内へと足を踏み入れた。


どうか、どうか…ここから出られる時がありますように。

そして、早くお父さんとお母さんに会えますように…

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