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4章

「………あ、あの…」

私たちは、当然というべきかなんと言うべきか、別々の部屋に案内された。

隣同士とはいえ、見える位置にシュエリがいないのはこの上なく不安だった。

…それに、室内には私一人だけではなく、先ほど私たちを案内してくれたルビィが入り口を塞ぐようにして控えている。…監視、なんだろう。

「何か御用ですか?」

私の問いかけに平静な口調を崩さず淡々と応えるルビィ。

「シュエリに…会いたいんですけど…」

「申し訳ありませんが、城に到着するまで接触は禁じられております。こちらの部屋でどうぞごゆっくりおくつろぎ下さいませ」

……取り付く島もないとはこの事か。

「…あなたがいたら、くつろげないわ。監視されてるのにゆっくりなんて到底出来ないもの」

思わず不満が口をついて出てくる。と、

「仰る通りですね。では私はドアの外で待機している事に致します。何かありましたらお呼び下さいませ」

あっさり認め、一礼して部屋を出て行った。

呆気に取られたものの、外の気配を探ると足音が聞こえないので本当にドアの前で待機しているんだろう。…変な人だ。

きっとシュエリには別の監視がついているんだろう。…シュエリ、こういう束縛されるの嫌いだから機嫌悪いだろうなぁ…

私は窓際に行き、そこから外の景色を眺める。…とは言っても、視界全ては赤い海で覆われ、島ひとつ見当たらない。したがって、当然ここがどの辺りなのか検討もつかない。

「…船乗りさんたちは、どうやって現在位置を知るのかしら」

目印など何もない海の上なのに、ここがどの辺りか知る事のできる道具でもあるんだろうか。

「……お父さん、お母さん…」

私は両親の姿と声を思い出す。声はいつも聞いていたが、姿は時々送られてくる写真で知るのみだ。

16歳になってお父さんとお母さんに再会した時、何から話そうかたくさん考えていた。

きっと最初は緊張してうまく話せないんだろうな、とも思っていた。

でも。

「……もう、会えないのかな」

ぽつり、と呟く。

お城に保護されるという事は、しばらく家に帰れない、という事なんだろう。…もしかして、ずっと?

「…そうだ」

思いついて、私はドアの前で待機しているであろうルビィに声を掛けた。

「ねぇルビィ。聞きたい事があるの。入って来てくれない?」

「…失礼致します」

先ほどと変わらない口調で断りを入れ、ルビィが部屋に入ってきた。

「お呼びでしょうか」

「いくつか聞きたい事があるんだけど、質問したら教えてくれる?」

「……お答えできる範囲でしたら何なりと」

言われて私はひとつめの質問をした。

「私やシュエリの両親には、私たちが幻者だって連絡がいってるの?」

私の質問にルビィは軽く頷いた。

「はい。カノン様とシュエリ様が幻者だと分かった瞬間、あの施設から連絡がいっております」

「…お母さんたち、何て言ってた?」

「さぁ…私はそこまでは存じ上げません。どうしても気になるようでしたら、後で皇帝陛下に聞いてみてはいかがでしょうか」

「……分かったわ。じゃあ次ね。私たちはお城で何をするの?」

「詳しくは存じ上げませんが、皇帝陛下のために尽力することが求められます」

「……それはどんな事なの?」

「詳しくは存じ上げません」

「……私とシュエリは、ずっと一緒にいられるの?」

「私には何とも。皇帝陛下のみがご存知です」

私は深いため息をついた。

「知らない、分からない、そればっかりね…」

「申し訳ありません」

ルビィは全く申し訳ないと思ってない表情で淡々と謝罪した。その時、ドアがノックもなく開き、

「随分と質問が多い子猫(キティ)だな」

皇帝が手下も付けずに一人で部屋にやってきた。ルビィは即座に跪き、頭を垂れる。私はその場に硬直する。

「皇帝…陛下」

私が呟くと、手を軽く左右に払う仕草をして、

「グラード、でよい、神の子よ」

「…神の子…?」

あぁ、また分からない言葉が。

「ふむ」

皇帝は顎に手を当て、何事か考える仕草をし、ルビィを見下ろして

「しばし子猫と二人で話す。お前はどこかで待機しておれ。内密な話故、間違っても部屋の前で待機はするなよ」

「かしこまりました」

そう言うとルビィは立ち上がり、私の方を見もせずにドアの前で一礼し、部屋を出て行った。

私はそのまま、皇帝と無言で対峙する。ややあって、皇帝がこちらに向かって一歩足を進める。私は咄嗟に一歩下がる。

…なんだろう、この胸騒ぎ。この恐怖感。

「なぜ逃げる、神の子よ」

「…怖いから、です。…それに私は神の子じゃない。カノンって名前があるんです…」

精一杯反論する。

「ふむ、ではカノン。何も危害は加えぬ故、そう怯えた顔をせんでくれ。扱いに困る」

「………」

私は皇帝の顔を真っ直ぐに見つめる。その顔は相変わらず無表情だったが、目の奥に何となく困惑の色が見えるような気がして、少しだけ肩の力を抜く。

「…分かりました。ごめんなさい」

「いや…すまぬ。神の子…カノンのような年齢の人間と接する機会がないのでな。どう話せば良いのか分からぬのだ」

「…意外」

思わず口に出してしまい、しまったと口を押さえる。

けれど皇帝は微かに笑い、

「構わぬ。意外な事は事実だろうからな。…さて、カノン。先ほどルビィに色々と聞いていたようだが?」

「あ、はい。私たちは皇帝…グラード様に引き取られた後、何をすれば良いのか分からなくて…」

「そうだな…私は正直、幻者を見るのは初めてだ。その素質がどれほどのものなのか知りたい。まずは城で色々と調べさせて貰う」

「い、痛い事されるんですか…?」

「痛い事?」

「ご、拷問とか…」

「馬鹿な。そんな事は決してさせぬよ。カノンや…シュエリと言ったか。そなた達の持つ力を引き出し、馴染ませる事が先決。したがってまずはこの世界の様々な知識を学ぶところから、だな」

「…あの、グラード様」

私はおずおずと質問した。すると、ん?という顔をしたので

「私とシュエリは…いつも一緒にいられるんでしょうか…」

今、同じ船に乗っていると分かっていても、一番大切な人が傍にいないのはとても不安だ。なのにお城に行ってからも離れ離れになるなんて耐えられない。

「なぜだ?」

「知らない所に行くのは不安だから…出来れば、シュエリと離れたくないです」

断られると思い、下を向く。と、

「ふむ…性別が違う故部屋を分けておいたのだが、その必要がないのであれば部屋を同じにさせるが?」

「お、同じ部屋が良いです!お願いします、グラード様!」

私はすがりつく勢いでグラード様に懇願した。

結果、船の中は別室だが、お城に着いたら同室の許可を得る事が出来た。

良かった…お城に着くまでの我慢!

と、一人で浮かれていたら、グラード様が至近距離まで近付いている事に気づくのが遅れた。

「あ…」

見上げる程近い距離にセレニティスの皇帝が立っている。その威圧感に思わず後ずさると、ぐいっと腰を掴まれ、引き寄せられる。

「!?」

何を、と思う間もなく私は皇帝の腕の中に抱き込まれていた。

あまりの事に硬直すると、グラード様は一瞬ぎゅっと腕に力を込めた後、私の頭をぽんぽん、と数回触れた。

その仕草が頭を撫でられているんだと気付くまでに数秒かかったのは、あまりにも動きがぎこちないせいだった。

「……あ、あの…」

「カノン。新しい環境は不安だろうが、私はカノンを痛めつけはしないと神に誓おう。だから…そんな顔をするな」

グラード様の口調が今までと違う事に驚いて顔を見上げていると、ふ、と私を見下ろしたグラード様と目が合った。

しばらく視線が合わさった後、皇帝は私からゆっくりと身体を離した。

「…すまぬ。出すぎた事をした。セレニティスまでもう数時間かかる。人払いをしておく、ゆっくりと身体を休めると良い」

いつもの口調に戻った皇帝は、何かを秘めた目をしたまま部屋を出て行った。

後に残された私は、皇帝の行動に戸惑いを隠せないまま、しばらくその場に立ち尽くしていた…。


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