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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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海賊王の資格①

 トロニツカの海賊艦隊を撃破したぎゃらくしぃ号は約52時間かけて目的地である土星基地に到着した。足の遅い掃海艦艇の速度に合わせるとやはり結構な時間がかかる。まぁ、その間に店舗の方で結構な売上があったらしいので好都合だったのかもしれない。


 土星基地と海賊と言えば──


 雄大はユイの留守中に死刑囚ヴァムダガンに関する公文書を受領していた。

 それは死刑への立ち会いと執行前の囚人との面会を依頼するものだ。

 通常、死刑囚は刑の執行の前に俗世の人間との面会や豪華な食事などを希望出来るが、海賊ヴァムダガンは何を思ったか雄大との面会を希望してきた。

 何かの罠かと勘ぐってはみたものの、パトロール艦隊が出入りする土星周辺の治安は月に次いで良好なものである、獄中の海賊風情にいったい何が出来るだろう。

(あの眼帯野郎──どういうつもりなんだろうな? 俺に対して中指立てて呪いの言葉でも吐きかけたりする?)

 雄大は海賊船を撃沈する事をためらわない。見かけ次第、容赦なく撃沈する──何故ならば旧木星帝国との戦争が集結してからの半世紀、軍の仮想敵は海賊達だったからだ。

 しかし。

 無力化された海賊をどう思うかと訊かれたら──憎しみも憐れみも──特に何もわいてこない。

 雄大は無法をする海賊船や略奪行為を憎むものの、生身の海賊本人には無関心だった。

 こういう倫理観は軍人特有のものだ、こういう場合、一般人は海賊本人を激しく憎み、無力化しただけではおさまらず極刑を望む。

 雄大自身は軍人という職業を嫌っているが彼のメンタリティは一般人のそれというより軍人のメンタリティに近い。

(生きるか死ぬか、死と隣り合わせの宇宙空間において無法を働く海賊船は撃沈されて然るべきであり、乗り込んでいた海賊達が死ぬのは当然、自業自得じゃないか──でも)

 面白いもので死刑が確定しているヴァムダガンが少々哀れに思えてくる。

(無視した事を逆恨みされるのはごめんだ。あんなむさ苦しいモヒカン野郎に夜中バケて出られるのは嫌だ。幽霊は美女以外お断り)

 宮城家ではいわゆる前時代的なオカルト要素を子供の躾に利用していたので雄大は母の純子から叩きこまれた霊魂や怨念といったオカルトの概念を割と信じる傾向にある。

(俺のせいで死刑台送りにしたようなものだからな、最期ぐらいは看取ってやるべき──なのかなぁ?)

 死刑の期日は一週間後──

 操舵士の雄大はぎゃらくしぃ号から迂闊に離れられない。ヴァムダガンが収監されている獄は小惑星帯域の端っこに設けられた収容所だという。

(──そんなとこ流石に客なんて来ないだろうし、ぎゃらくしぃ号で直接立ち寄ったりは図々しいよな。まさか俺の都合で死刑の予定日を前倒しにして今すぐ殺してやってくれ、なんて頼めないし)


 雄大は捕らえたトロニツカ達の引き渡しに必要な申請書類と詳細な交戦記録(ログ)を携えてカーチスと一緒にサターンベースの中枢、小惑星型基地の中でも一際大きな規模のカペタA18に降り立った。

 警察機能を有しているカペタ基地は軍属の業者以外にも民間人の出入りが多い。このエリアには農作物の盗難被害を訴えるカウボーイや艦艇同士の接触事故を起こした船乗り、果てはプライバシー侵害で訴えられたニュース屋などといったおよそ軍事要塞に似つかわしくない普通の市民たちで溢れている。

 ぎゃらくしぃ号はそんなカペタの外来用ドックに接舷すると、電飾を輝かせて営業を始めてしまった。雄大はブリッジをラフタに任せるとユイの代役として基地司令のオフィスに向かう事にした、ブリッジで待機していると六郎から店舗業務を手伝わされるかも知れないし、何よりヴァムダガンとの面会の件でモエラと直接話をしておきたかった。


 剥き出しの鋼板と硬質ゴム舗装が入り乱れたカペタ基地の地表面を六輪の軍用ジープが雄大達めがけてやってくる。

「あれ? 司令が来てる?」

 カーチスは車上にモエラ少将の姿を発見して驚く。

 ジープの後部座席から降りてきたのは正装したモエラ少将だった、彼は持っていた花束を座席に戻す。

「私はな、ぎゃらくしぃ号の船長、ユイ皇女殿下をお出迎えに上がったのであってだなぁ、決して宮城の息子を出迎えに来たわけではないのだぞ、ン?」

「ぎゃらくしぃ号は俺が動かしてるんだぞ。ここに居ても不思議じゃあない」

 モエラ少将はチッと大きく舌打ちすると、口を尖らせて見下すような視線で雄大の全身を眺める。何とも態度が悪い中年軍人だ。対外的には愛想のよいフレンドリーな軍人で通っているらしいが雄大はそういうマスコミ向けのモエラの顔を知らない。

 ユイに会えると思ってめかし込んできたのに宛てが外れて不機嫌になっているようだ。

「あー、我が愛しの皇女殿下はいずこにおられるのかね?」

「ユイさんは仕事中だよ──ああ、少将閣下によろしく、だってさ。手紙を預かってるから有り難く読むように。ユイさん直筆だぞ」

「なんと」

 雄大は羽織っていた上着の内ポケットから蝋で封緘した手紙を取り出す。確かにユイの直筆だ。

「はよう寄越さんか──うおっ! わ、私宛てではないか!」

 雄大から手紙をひったくると顰めっ面だったモエラの顔筋が一気に弛む。

「あ~……ユイ殿下は書かれる字まで慈愛と威厳に満ち満ちておられるな」

 手紙を頬に当てて目を瞑り紙の感触を楽しむ妻子持ちの中年男、冷めた目で見つめるほかは無い。

「小憎たらしい宮城の小倅の懐中にあったという不愉快ささえ打ち消す芳しい残り香よ」

「ユイさんの残り香とかわかるのかよ──変態か!」

「お前は恵まれ過ぎだからわからんのだ。高貴な女性の醸し出す芳しい薫りというものが──」

「気持ち悪いからやめてくれません? それと言っとくけどユイさんは俺の──」

 雄大は一瞬、ユイと自分の婚約の件についてモエラに伝えて優越感に浸ろうかと思ったが、本来の用件そっちのけで取っ組み合いの喧嘩になりそうなので今回は控えておく事にした。

(今の俺は確かに銀河一恵まれてる男だからな──モテる男は無用な喧嘩はしないのさ)

 雄大はユイと二人っきりで過ごした夕食の一時やキスの感覚を思い出す。

「なんだ? 気持ちの悪い顔をして。宇宙病じゃないだろうな?」

「いや何でもないよ──しかし自分の娘みたいに若いユイさんにのぼせ上がってみっともないオッサンだな」

「うるさいわい──で用件はなんだ宮城の息子?」

 パトロール艦隊のカーチスは目を丸くして雄大とモエラの親しげ(?)なやり取りを眺めていたが慌てて報告書を上官に手渡した。

「トロニツカファミリー──げ、海賊艦隊四隻撃破──だと? お前がやったのか?」

「まあね、ふふふ。ハイドラ型を適切に運用すればこれぐらいは軽いさ」

 雄大は得意げに胸を張る。

「…………なんか前もあったなこういうの」

 モエラは再生された交戦記録(ログ)と雄大の顔を何度も交互に見比べる。

「そうだな、あんたと俺の初対面の時もこんな感じだったなぁ、あの時は客船でヴァムダガンを引っ張ってきただけなんだけど」

「チッ──おめでとう宮城家のご長男、またまた有名な海賊を退治してくれちゃったのか。クソ、私への当て付けかまったく」

「当て付けって何だよ?」

「ハァ──まあ、ここでは何だからオフィスに行くぞ」



 雄大とモエラはジープの後部座席に乗る。モエラは端末を取り出すとデータを呼び出した。宙空に再生されたグラフを見るとここ数ヶ月、海賊行為の被害件数がぐんぐん増え、それにあわせて検挙率はどんどん下がっている。

 クーデター騒動での同士討ちで宇宙軍の軍艦の数が大幅に減った事が海賊行為を誘発しているのだろうか。

「こういうことだ」

「あははなるほどな! また『民間人』の俺が海賊の大物を逮捕したから少将閣下としてはメンツが保てないってわけ」

「笑い事ではない! これでは私が自力で海賊の取り締まりも出来ない無能みたいではないか」

 モエラの得意分野は凶悪犯罪者たちと命のやり取りをする現場任務とは無縁のもの──口先三寸の広報活動や交渉、粗探しの会計監査などだ──『官僚かタレントになればもっと大物になれただろうに』と恩師のリクセンからも言われている。

 モエラは雄大につかみかかると首をグイと引き下ろす。雄大に抵抗する隙を与えず素早く首を小脇に抱えてヘッドロックの体勢が完成する。

「うわっ?」

 モエラは雄大の頭頂部にゲンコツを押し当ててぐりぐりと回転させた。

「いてててて!?」

 士官学校時代アメリカンフットボールでキャプテンを務めていたモエラ。中年太りした見た目とは裏腹に動きがキレている。

「──私はな、裕太郎のヤツと一緒にリオル大将のクーデターを阻止した戦上手のキレ者エリート軍人……人呼んで『連邦の双璧』『土星の荒鷲』なのだ」

「ハゲワシの間違いだろ!」

「熟年男の薄毛のセクシー加減がわからんとはガキだな」

「そのグリグリやめろ、禿げるじゃないか!?」

 モエラの拳が容赦なく雄大の頭頂部を擦る。

「──その私が長いこと逮捕出来なかったトロニツカをお前如きに逮捕されたら私のイメージが落ちるではないか──ギブアップか!? 参りましたと言え若僧!」

 雄大の頭を締め続けるモエラ。

「ノー、ノー、ノー! あんたのイメージなんて知るか──だいたいあの時の作戦を考えたのは木星の皆とリクセン艦長じゃないか、なんでオッサンとオヤジが切れ者になるんだよ、捏造だ!」

「そういう話にしといた方が治安維持するには都合が良いんだよ若僧にはわからん政治的判断だ。土星基地司令の威信が高ければ高いほど犯罪を未然に防止出来るのだ」

「犯罪減るどころか増えてるじゃねーか! 元々低いイメージが落ちたって影響薄いって証拠だ」

 雄大に図星を突かれてモエラの顔が怒りで紅潮する。

「馬鹿にしおって。基地司令という要職は誰でもこなせるものではないのだぞ、幕僚会議のジジイどもでは務まらないから私がここにいるのだ」

 艦隊の出世コースと言えば……ゴールは月の幕僚会議であり花形は雄大の父、宮城裕太郎が務めている役職・月駐留の第一艦隊司令官だ。木星帝国と冷戦状態だった頃ならいざ知らず、中央から遠い土星基地司令はあまり長居したい役職ではない。

「だいたいだなぁ、私の言葉がユイ皇女殿下の演説に信憑性を付与したのだぞ? いわばあれこそはふたりの初めての愛の協同作業──」

「あ、愛?」

 じゃれあっているとジープが基地司令部前に停まった。その隙をみて雄大はようやくモエラのヘッドロックから脱出してジープから飛び降りる。

「こら待て、まだ話は終わってないぞ」

 髪の毛を直しながら逃げ回る雄大、顔を真っ赤にしてそれを追い掛けるモエラ。カーチスは仲が良いのか悪いのかわからんなぁ、と思いながらふたりの様子を眺める。

「くそ、航路の治安維持に協力してやってる俺がなんで折檻されるんだよ!」

「民間人がでしゃばるからだろうが──おいカーチス! おまえにも責任があるんだぞ? こんな半端者の民間人如きに手柄を奪われて悔しくないのか、ああん?」

「いえ、宮城さんの対艦戦闘における知識と技量は確かな物で、正直なところ小官、尊敬申し上げ──ぐわ~ッ!?」

 今度はカーチスがヘッドロックの餌食になる。

「こんな半端者を尊敬とは何事か! コイツはなぁ、士官学校中退なんだぞ、中退! 落ちこぼれなんだぞ」

 

「へえ──任官すらしてない落ちこぼれの民間人よりも海賊の摘発数が少ない、なんてエリート軍人がいるらしいけど。そっちは尊敬に値するの?」

「ぐぬぬ……」

 ギリッと音を立ててモエラは歯軋りするとカーチスを解放する。そうしてゆっくりと執務室の方へと歩き始めた。

「じ……事実は事実で受け止めたいが、どうしてもお前の顔が気に入らない……」

「顔で判断すんの!?」

「まあ、さておき……治安維持活動への協力には感謝するがほどほどにな」

 ハア、とモエラはくたびれたように深い溜め息を吐いた。

「どうしたんだよオッサン、なんか急に弱々しい顔して。暴れ過ぎて疲れたのか」

 モエラは立ち止まり、腰に手を当てて雄大と正対すると神妙な面持ちで語りはじめた。

「宮城雄大──最新鋭艦ハイドラ級の戦闘力とお前の技量が並外れて素晴らしいという事実は認めよう、リクセン先生のお気に入りなのも頷ける。しかしなぁ、ぎゃらくしぃ号は戦闘機を一機も積んでいない軍艦未満の武装商船だ。腕自慢もいいが、単独でトラブルに積極的に介入するのはどうかと思うぞ」

 確かに艦載機の有無は戦局を大きく左右する。

「いや、俺が腕前を見せびらかしたいわけじゃなくて──ハイドラ級の貸与を受ける代わりに治安維持活動に協力するのは軍と木星の契約だろ」

 モエラは渋い顔をして首を振る。

「うーむ、なんと言えばわかるかな……皇女殿下は今や平和の象徴──私やお前とは命の重みが違うのだ。だから、ぎゃらくしぃ号に守ってもらうのではなく、本来は我々宇宙軍が皇女殿下のぎゃらくしぃ号を守るべきではないだろうか」

「……そ、そうか?」

「舵を預かるのはお前だ、いざという時は皇女殿下の安全を最優先して危険から遠ざけて欲しい。お前さんの正義感とやらはどうも捨て鉢な感じがして不安なのだ──何かを守るには慎重になる事も大切だぞ、誰も臆病者などとは言わん」

 雄大はモエラから真面目なアドバイスをされて少々面食らってしまった。

「わ、わかったよ」

 海賊船ごとき、何隻来ようと負ける気はしなかったが──確かにモエラの言う通り少し調子に乗り過ぎだったのかも知れない──雄大は頭を掻きながら自責した。

(そう言えば六郎さんも乗り気じゃなかったけど。こういう事かな)

「ちぇっ、まさかあんたに説教されるとは思わなかったよ」

「私もだ──さあ、事務手続きを終わらせんとな」



 事務手続きをする間、雄大はモエラの執務室に通される。有線式のインターホン、手動式ブラインドのついた窓、送風機──かなりのローテクで簡素だがサイバーテロにはとことん強そうな作りをしている。

 司令部に入る前にPPを没収されたので雄大は手持ち無沙汰にモエラの執務室を見物して回る。

 個人の所有物らしい写真立てのスライドショーを起動させると士官学校の校舎を背景に撮影された何かのスポーツチームの集合写真が流れる。若かりし頃のモエラ、父裕太郎、母純子の姿に加えて活力に溢れた背の低いコーチの姿も見られた。

「このコーチの人、もしかして──うわ、リクセン艦長、若いなぁ──」

 朗らかに笑う母の純子だけは見た目があまり変わっていない。

 しばらく純子のスナップ写真が数枚流れる、息子雄大の士官学校入学式に列席した時の姿など、比較的最近の写真も映し出された。

(いやまて、こうして連続で見てみると本当に変わってないぞ──20年、いや30年近く前の写真だよなこれ──)

 女の執念のすさまじさ、というやつだろうか。華やかさより妖怪めいたおぞましさの方を強く感じてしまう。我が母ながらここまで若作りしているのは──年齢相応に落ち着いて欲しい気もしてくる雄大だった。

 苦笑いしながら母親の画像を眺めていると学生時代に戻り、制服姿、ジャージ、水着、着替え、入浴、寝顔など明らかに犯罪臭がする隠し撮り風の画像が流れ始める。

「あ?」

 モエラが書類を持って執務室に戻ってくると雄大はモエラに掴みかかった。

「な、なんだ!?」

「おいおいおい、なんだこれは!」

「あっ、貴様──我が青春のメモリーを勝手に弄りおって」

「てめええ、人の母親の際どい盗撮画像とか隠しもってどういうつもりだ!? 犯罪だろ犯罪!」

「もうかれこれ30年は経つからな、時効だ」

「消去、消去!」

「わかったわかった、そこの『フォトフレームに入ってるデータ』は消去しておくから──それよりホレ、手続きは終わったぞ。ご苦労様だったな」

「まったくこのオッサンは……」

 雄大は書類を受け取ると帰り支度を始めた。

「帰るのか、じゃあドックまで送ろうか」

「いいよ別に」

「皇女殿下に会わせない気か──」

「ああいう画像を隠し持ってるようなオッサンと自分の彼女を会わせたい男なんているもんか」

「は? カノジョ? ハハハ」

 モエラはぷーっと噴き出すとケラケラと笑いはじめた。

「妄想も程々にな! 残念ながらお前は仏頂面の裕太郎似だよ、あの見目麗しく気高い皇女殿下と釣り合うもんか」

 どうにかしてこの腹立たしい中年をとっちめてやりたい、それにはやはりユイの口から婚約の話をさせて目の前でキスの一つでも見せつけてやらねば──雄大はこの場は我慢する事にした。

「あ、そうだ──危うく忘れるところだった──俺、オッサンに聞きたい事があったんだけど」

 雄大は例のモエラの名前で送られてきた公文書を取り出してみせた。

「ん?」

「この面会の依頼なんだけど……」

「ヴァムダガン──ああ、例のモヒカン死刑囚の件か──あいつなかなか大物でなあ、犯罪者の分際で自分の事を『誇り高き戦士なのだ』と言ってはばからない。態度のデカい連中は数多く見てきたが、度胸だけは大したもんだ、死刑宣告されても眉一つ動かさなかった」

「ああ、確かにそんな感じだった」

「生まれる時代を間違えたんだろうな──人類文明の初期、ろくな法律も政府も存在しない野蛮な時代なら、部族の英雄にでもなれたんじゃないか──」

 モエラはフフンと苦笑いする。

「俺、まったく無関係ってわけでもないし、死ぬ間際の人間の頼みだから出来ることなら処刑に立ち会いたいんだけど──」

「ほう、てっきり断られるかと思っていたが。随分優しいんだな? それとも無視したらバケて出られそうで怖いか? ウヒヒヒ……小心者め」

「そんなところ──でも俺、ぎゃらくしぃ号の操舵士だからホイホイ船から離れるわけにもいかないんで。面会だけでも今のうちに済ませられないかと思って。土星基地に立ち寄る機会なんて頻繁には無いから、今がチャンスなんだよ」

 モエラは腕組みをして数秒、思索をめぐらせた。

「──よし、じゃあ今から収容所に行くか」

「いいのか?」

「まあな、本来は死刑の執行日にしか面会は許諾されないんだが──お前は純子さんの息子で皇女殿下の船の操舵士だから、特別に便宜をはかってやる」

「ハハ、そりゃどうも」

「まあ、あの海賊がなんでお前と会いたがっているのか、私も気になるからな。海賊の精神構造を理解する上で重要だ──」

 好奇心や気紛れではなく、モエラにはこれも職務の一環なのだろう、割と仕事熱心な男のようだ。

 モエラは時計をチラチラと確認するとインターホンを押して秘書らしき相手にスケジュールの変更を命じていた──



 

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