狙われた雄大④
ぎゃらくしぃ号の娯楽室には小さなバーカウンターとテーブル数卓、薄暗い照明のムーディーな区画が設けてあり、銀河標準時の夜間や食堂が暇な時に牛島が酒場として営業している。現在は牛島が不在だがその代わりに背の高い女性クルーがバーテンダーとして黙々とカクテルやおつまみの軽食を作っていた。
三人の男が座っているテーブル。
その内の若いひとりが自分宛てのメールを開くとショッキングな『死ね』と書かれた文面が宙空に踊る、これほど短く誤解なく敵意が伝わる文字も珍しい。
続けて『速やかに皇女との婚約を破棄してぎゃらくしぃ号を降りろ。さもないと死ぬよりつらい運命がお前を待っている』とより具体的な要求が綴られたメールが開示された。
宮城雄大のPP、そのごく個人的なアドレスにはこれと同じメールが2日間で70~80ほど届いていた。薄暗い娯楽室、その内容に関して相談を受けたハダムと六郎は投影された文面を見て顔を強ばらせる。
「随分と嫌われてるね」
「この間から急になんですよ──最初はラーメンに胡椒振りかけられるぐらいだったんですけど。無視してたらなんかエスカレートしてきて……俺、こうまで言われるほど不愉快な存在ですかね?」
溜め息をつく雄大、テーブルの対面に座った六郎はアゴをさすりながらうめくような渋く低い声を出す。
「ふうん殿下の不在時に嫌がらせか。こりゃ時期的に見てもお前と殿下の婚約話が原因なのは間違いないな」
「やっぱりそうですよねえ……この船のクルー、ですよね」
「大和田の旦那や荒っぽいトラック運転手がこんなちまちました嫌がらせするとは考えにくいし、ましてやラーメンに胡椒ふりかけられるはずもなし……まあこの船のクルーだろうな。しかし──殿下にそんな感情抱いてる野郎はとっくに絶滅したと思ったがな」
「え? ユイ殿下はあれだけの美人だ、異性として好きになるのは自然じゃないのかね。殿下の美貌目当て、いや恋仲になるのを夢見て木星帝国に肩入れする若者がいても不思議ではないだろう」
ハダムはサーバーから注がれた琥珀色のビールをあおる。ビールジョッキも彼の大きな手の内におさまると随分と小さく並みのグラスのように感じる。
「んー、それがですねハダムの旦那。この船に乗っている若い男てのはだいたい5年から10年働いてて。ユイ殿下が女としての魅力を出す前からその成長を見守ってきている、これはもはや情欲の対象っていうより大切な家族ですよ。目に入れても痛くない妹とか娘、って感じの。旦那も何となくわかるでしょ、そういうの」
「ええ? まあそのぉ、いやハハハ。確かに年齢は随分離れてるかな」
婚約者の前では興味があると言っても、無いと言っても何かしら角が立つ。雄大たちが飲んでいる娯楽室の隅のテーブル、その横では水着姿のユイのホロ映像が惜しげもなく胸の谷間を晒していた、ハダムはちらちらとそれを眺めながら言葉を濁し、誤魔化すように咳払いをする。
モエラ少将の反応が典型的な例なのだがユイ皇女の包容力に溢れた様子や少し子供っぽさを残した言動は、男盛りの年齢層よりもむしろ若年層や中高年にやたらと受けが良い、と雄大は分析していた。
(ハダム大尉、ユイさんみたいなタイプ結構好きなのか、意外だな)
婚約者が他の男からいやらしい目で見られるのは何とも不愉快な気分だが、逆に興味が無いと言われるのも婚約者に魅力がないと言われているようでありどちらにしてもあまり面白くはない。
「なぁ宮城、お前が鏑木を女として見てないけど大事にしてるのと一緒だよ」
「え? 林檎ですか」
今でこそ雄大は鏑木林檎を実の妹の由梨恵以上に『家族』として可愛がっているが、いかがわしい事をまったく考えなかったわけではない。実際に誘惑に負けて寝入っている林檎の唇を奪おうとした事もある。
「まあだいたいだな、殿下をエロい目で見ようなんてことが許されない特殊な環境なんだよ、この船は」
「まあ皇女殿下は軟禁されていたわけだしなぁ」
「ああ、いや大尉。そうじゃなくて……宮城ならわかるだろ、ホラ、あのお方達だよ」
六郎は少し目をつり上げてみせる。
「ああ」
雄大は即座に出会った当初のマーガレットの事やら眼光鋭い魚住の顔を思い出した。
「木星の二大巨頭がユイさんに近付く悪い虫を厳しく監視してましたからねぇ」
「二大? 誰のことだい?」
ハダムは話が読めなくて困惑していた。
「そう、特にマーガレット様は『かなり』ヤバかった。過去にはお前さんよりハンサムで女の扱いに長けたような操舵士とか整備士、店舗クルーも在籍したことがあるわけだが──そういうのは閣下から執拗に精神的、身体的に攻撃を受けてあっという間に全滅さ……お前さんはよく我慢して残ってくれたよ、ホントな」
雄大もその虐げられて逃げ出した男たちの例に漏れずマーガレットとは相当激しく口論し、時に理不尽な暴力を受けた。
「ま、まあマーガレットは──うん、その。いいんですよ、今ならあいつの気持ちも理解出来ます」
「へえ……伯爵閣下は男嫌いだったの。雄大君も災難だったねそれは」
ハダムは意外そうにつぶやく。
「ええまぁ、ユイさんが可愛くなかったらマーガレットの攻撃に負けて、早くにこの船を降りちゃってたかも知れませんね」
雄大は冗談めかしながら笑い、水割りをチビチビと舐める。
「雄大君をこの船につなぎ止めていたのはスケベ心、もとい皇女殿下の女性としての魅力だったのか。意外だな」
「意外、って? 大尉は俺が木星に肩入れしてる理由を何だと思っていたんですか?」
「え? それはまあその。君は若くして幕僚会議に名を連ねた宮城大将の息子さんなのだからして──地球閥への怒り、宇宙軍への不信、義憤にかられて──そんなところだと」
ハダムの口からまたもや雄大の父親裕太郎の話が出てきた。本日二度目の事である。
「ハァ……そうでしょう、そうでしょう。俺の評価はいつもそうなんです、すいませんねえ親父みたいに立派じゃなくて」
──『宮城家の長男』『司令官のご子息』『天才の息子』──雄大の世間からの評価はいつもこうだった。住んでる家が特権階級の証、月一等市街地。父親から命じられて士官候補生になり、出世に有利だから余暇時間を削られと航宙ライセンスの勉強をさせられた。士官学校では名将の息子としてチヤホヤされる一方で、幕僚会議入りした父親が地球議会の要求を突っぱねるせいで白い目で見られたりしてきた。極めつけは一部教官連中からの度を超えた執拗な嫌がらせである。少年時代の雄大が楽しい人生を送れずろくに友達も作れなかったのは全部が全部、裕太郎にその責任がある、と彼は思い込んでいる。
「あのくそ親父、この間、見舞いに行ったら点滴受けながら仕事やってるんですよ。信じられます? 俺から言わせたらありゃ仕事中毒の重病人ですよ、およそ人間らしさの欠片もない。だから息子がこんな風にひねくれたんです。軍人としては立派かもしれませんけど? 我が強過ぎて職場では煙たがられ、息子からは嫌われ──ああいう大人には絶対なりたくないもんです、ホント」
雄大はフン、と鼻息を荒くして椅子の背もたれ肘をかけてふんぞり返った。口を尖らせてことさらに不機嫌になる。ハダムと六郎は少し驚いて顔を見合わせる。
「甲賀さん、雄大君てこういうひがみっぽい性格なのかい?」
「すげえ態度悪いでしょ宮城、父親の話になると決まってこんな感じですよ」
「ああ雄大君の前では実家の話はしないほうが良かったのか……なんかさっきのレジ研修の時から失言続きだね、申し訳ない」
ハダムは困って頭を掻きながら頭を下げた。
「いやいや旦那、宮城なんぞにそこまで気を遣うことありませんや、未来の皇配殿下とはいえ今のところはまだ候補なんです、ユイ殿下ともボーイフレンド以上恋人未満、ガキの恋愛ごっこな関係ですし」
「ちぇっ、六郎さんまでそんな酷い言い方するんですか。味方だと思ってたのに!」
雄大は舌打ちした。
「だれの息子だから、とかだれの恋人だからとか──そういう評価の仕方はやめてください。みんな俺の、俺自身の魅力やこの奮闘努力ぶりをもっと評価すべきでしょ」
六郎は席を立つと偉そうにふんぞり返った雄大の後ろに回って頭を両手で掴み、上下左右に乱暴に振り回す。
「偉そうに! お前さんのそういう小生意気な物言いやら態度が原因なんじゃないのか、あン? 皇配殿下さんよ?」
「六郎さん! いた、痛いですって!」
「雄大君は木星に入って日が浅いのに皆さんに愛されてて結構結構。甲賀さんからもこんな風に可愛がられてるしね。これぐらいの嫉妬を受けても仕方ないのかもな、羨ましいよ」
ハダムは大きな声を出して大笑する。
「もう、他人事だと思って──真面目に相談に乗ってくださいよ」
「そうだな、同じ船の中で生活している仲間にこういう嫌がらせをするのは良くない。胡椒やら脅迫状からエスカレートしないとも限らないし、俺の方で犯人見つけてそれとなく注意しておくさ」
「六郎さん、お願い出来ますか」
「お前よりむしろ、犯人の精神状態のほうが心配でほうっておけないかな」
六郎とぎゃらくしぃ号の乗員との関係は浅くは無い。長い月日、寝食を共にしてきた戦友みたいなものだ。
「こういうことやりそうな人とかも見当ついちゃったりするんです?」
六郎は返答に詰まった。
「あ、いやそれがなぁ……野郎どもの性格はだいたい把握してるつもりなんだがここまで粘着質な野郎に心当たりは無いんだよなぁ」
「え~?」
「だから意外でなぁ……」
六郎が首をひねり唸っていると女性クルーがジントニックのお代わりを持ってくる。
「──どうぞ」
「あ、こりゃすまんなソーニャ」
「いえ、ハダム大尉もビールのお代わりお持ちしましょうか」
ソーニャと呼ばれたのは年の頃18歳ほど、長身に似合わぬ線の細さ。髪の毛がやたら長く太ももまで伸び血色もよくない、そのためどこか作り物の人形のような印象を受ける。
「よく気が利く娘さんだね、ありがとう。でもこの辺でやめにしておこうかな」
「──はい、それでは空いた食器をお下げします」
か細く消え入るような声、ぎゃらくしぃ号には珍しいタイプだ。
「こんな娘がいたんだ、なんか新鮮だなぁ」
雄大は少し酒が入って気が大きくなっていたのか、ジョッキを片付けるソーニャに顔を寄せると慣れ慣れしく声をかけた。
「ねえねえ、君って奥ゆかしい感じですごく可愛いよね、フフ」
声をかけられた女性クルーはビクッと肩を震わせて数歩後退する。
「おい宮城やめろ、ソーニャが怖がってるだろ」
「あ、ごめんごめん」
「それでは私そろそろ……」
ソーニャは壁掛け時計を一瞥する。
「ああ、明日は非番だろ、ゆっくり休んでな。後片付けや掃除は俺らでやっとくから」
それではごゆっくり、とソーニャは六郎にお辞儀をして娯楽室から出ていった。
その後ろ姿を見送りながら雄大はやや興奮気味に口を開く。
「へえええ、ああいう物静かな感じの子もいたんですね!」
「お前あんまりちょっかい出すなよ、ソーニャはすげえ人見知りで繊細なんだ、ブリジットとか鏑木とか相手にするのとは勝手が違うんだぞ」
「新鮮でいいですね、俺ああいうおとなしくて儚げな女の子とはまったくといっていいほど縁がなかったから。ホラ、この船の女の子はみんな快活で強い女の子ばっかりじゃないですか。ああいう無口だけど気が利く感じの女の子もなかなか──仲良くなったらなんでも言うこと聞いてくれそうだし、イイですよね、フフフ」
雄大の口元がだらしなく弛み、鼻がふくらむ。いかがわしい事を夢想しているような下卑た表情。
「え………雄大君?」
「はぁ……」
ハダムと六郎は雄大に冷ややかな侮蔑の視線を送る。
「ふたりともどうかされましたか?」
「犯人の気持ち、少しだけ俺にも理解出来たぞ」
「雄大君は思ったことが顔に出ちゃうタイプなんだねえ──隠し事が出来ないのは結婚してから苦労するよ?」
◆
ぎゃらくしぃ号の通路内、柳の枝が揺れるようにゆらゆらと頭を揺らしながら女性クルーのソーニャは自室に向かっていた。その作り物の面のように涼しく整った顔からは感情が読み取れない。唇が微かに歪むと念仏でも唱えるような調子で独り言をつぶやき始める。
「チッ、ケダモノめ………ホント、チャラい男とか全員死ねばいいのに……」
舌打ちした後、親指の爪をかじりながらブツブツブツ、とつぶやき続けるソーニャ。
「ただいまー……」
同郷出身の三人の友人達と一緒に生活している部屋に帰ってくる。部屋の照明は消えていて微かな空調の音と寝息の音、そして寝返りをうった際の衣擦れの音だけが彼女を出迎えた。同室の娘達は全員早々に就寝しているようだった。ソーニャはカーテンで仕切られたパーソナルスペースに身を横たえる。
「お風呂は……まあ一度眠ってからにしよぅ」
彼女は上着とスカートだけ脱ぐとそのままベッドに滑り込んだ。スイッチに視線を送るとベッド脇の照明が人間の視線に反応して自動的に灯り、幻想的なほの暗さを演出してくれる。
寝転がった彼女と、天井に浮かび上がった何者かの視線が重なり合う──自作の環境ホログラムである。
豊かな金髪を結い上げて後ろにまとめたそのホログラムの女性、眼光鋭く口は真一文字に結ばれたその姿はどんな映画俳優や金星の男性アイドルより凛々しく気高かった。
「ああ、銀河一強く、そして誰よりも美しいマーガレット様……あなたこそ軍神の生まれ変わりですわ」
ソーニャの細い目がさらに糸のように細くなり、白い肌に朱が差していく。ソーニャのベッドの周囲にはマーガレットを模した大小様々なお手製の金髪の女の子のぬいぐるみが所狭しと並んでいる。ソーニャはマーガレットのぬいぐるみの一つを胸にかきいだいてほおずりする。
「ハァ、マーガレット様……おいたわしや、あんな悪い男に騙されて──そうだ、追い込みメール出しとこ──マーガレット様の心を奪っておきながらあっさり皇女に乗り換えた裏切り者~、宮城雄大、木星帝国に巣くうダニめ! お優しいマーガレット様が許してもこの私はぜったいに許さないわ」
ソーニャは雄大のアドレスに脅迫メールを出し終えると今度は黒髪の男の子を模したぬいぐるみを手に取った。
「うふふふ、女の敵め、苦しめ~苦しめ~……ふふふ」
ソーニャは恍惚としながら縫い針を一本一本、雄大らしきぬいぐるみに刺していった。
◆
先のクーデター事件は世界の在り方を一変させた。宇宙軍の戦力は大打撃を受け、とりわけ月駐留艦隊は主力艦艇の大多数を失ってしまった。宇宙軍は再編成され太陽系各惑星の守備艦隊から月駐留艦隊への転属が相次ぐこととなる。
主要航路の治安維持活動が強化される一方で、末端の辺境域ではパトロール艦の巡回頻度が激減してしまった。
──ユイ皇女の手によって終息したかに見えた一つの大きな混乱の渦は、無数の小さな波を作り出していた。その波は人々の心を揺らし、誘惑して奥底に眠っていた欲望を引きずり出す。
金星の悦楽洞主たち
カトリック教会に巣くう魔物たち
ガッサ達に神風号を与えた者たち
地球閥の怒りを買いアラミスへ逃れていた犯罪者たち
磐石だと思われていた地球の支配体制が揺らいだのをきっかけに、これまで人類社会が溜め込んできた『膿』が表に吹き出し始めていた。
そんな人類社会の営みの副産物、『膿』の一つだった存在がアステロイドパイレーツである。
ヴァムダガンファミリーのヴァムダガンが捕らえられたことで海賊行為は収束するかに見えたが、減ったのは公社の大型客船の被害だけである。規模が小さいので目立たなくなったに過ぎず、海賊たちによる犯罪件数はむしろ増加傾向にあった。ヴァムダガンファミリーには反政府組織なりの掟や誇りがあったのだが、リーダーを失った彼らからは反逆者としての矜持は消え失せ、ただ破壊衝動のおもむくままに殺人と略奪を楽しむ無軌道な獣の集団となっていた。
◆
雄大が自室に戻る頃にはPPに新しい迷惑メールが届いていた。渋い顔で通知欄を眺めていた雄大だったがその中に一通、珍しい送り主からのメールが届いていた。他の差出人不明のメールと一緒に危うく削除してしまうところだった。
『連邦宇宙軍土星基地司令部』
一般人がこんな送り主を見たらイタズラに違いないと思うだろうが──雄大の頭にはすぐにあの特徴的な恰幅のよい自己主張の激しい将校の姿が思い浮かぶ。
(うえっ……くそー、まったくもってろくでもない通知欄だ、アドレス変更しようかな)
雄大はモエラのことを典型的な見栄っ張りの軍人として低く評価している。一連のクーデター騒ぎで色々と助力してもらったり多少は評価を上げたものの、雄大にとっては初対面の時にモエラからぶつけられた剥き出しの敵意の印象があまりにも強い。好意を持てるはずもない。
(モエラのオッサン、何の用だ? まさかユイさんに会いたいからぎゃらくしぃ号の方から土星基地に来てくれ~、とか? うわ~あのオヤジならなんかそういう公私混同したワガママ言い出しそう……どうするこれ、見なかった事にして削除しようかな)
雄大は顔をしかめてしばらく悩んでいたが、万が一にも一刻を争う国防的に重要な案件だったり、父親の裕太郎絡みや恩師のリクセン大佐関係の真面目な話だったりしたら『うっかり削除しちゃった』では取り返しがつかない。
(仕方無いなぁ……)
メールは暗号化されていた、宇宙軍の船乗り、ブリッジクルーならばすらすらと読めるレベルのとるに足らない暗号だったが、少なくとも他者に漏れていい内容ではないらしい、このメールの送り主は間違い無くモエラ少将のようだ。
このメール、送り主も意外だったが、その内容も雄大にとっては想像もつかない珍奇なものだった。
「なになに──『過日、その逮捕におきまして貴殿より多大なる協力を受けました犯罪者、ヴァムダガン・ラカーリア死刑囚への刑の執行日が決定しました。連邦法に則りカトリック教会神父立ち会いのもと、現世との別れに1人の身内との面会がヴァムダガン死刑囚にも権利として許可されたのですが、ヴァムダガン死刑囚は面会する相手として貴殿を強く指名しています。ご多忙の折、誠に恐縮ではございますが、是非ともこの面会プログラムにご協力くださるようお願い申し上げます、正式な依頼の書状はパトロール艦イズモの艦長が直接貴殿のところに配送するよう──』うわっ?」
雄大は思わず大きな声を出した。
ヴァムダガンと言えば忘れもしない、雄大の乗っていたおおすみまるを襲撃した海賊だ。
「な、なんなんだこれ──アステロイドパイレーツの船長が、俺と会いたい?」
マーガレットとの関係改善、嫌がらせメールの対応だけでも十分頭を悩ませていた雄大だったがこの薄気味悪い面会要請にはどう対処したら良いかまったく見当もつかない。
雄大の予想に反して、モエラ少将の文面には公私混同したようなふざけた様子が微塵も見当たらない。今更ながら、見なければ良かったと後悔するのであった。




