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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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ファーストコンタクト①

「さー、準備もでけたし、そろそろ行こか! 有象無象が渦巻く敵地ぎゃらくしぃ号の内部にいざゆかん!」

 サングラスにマフラー、マスクに野球帽……ゆったりとした胸のラインを隠すような赤い上着にキュロットスカート、実用的な黒のブーツに何やら大きな板を抱えた妙な格好の少女、通天閣沙織だ。

「お嬢……大丈夫かいなそれ」

 通天閣グループ所有の貨物船を操縦してぎゃらくしぃ号まで沙織を運んできた通天閣雅春はあまりの酷さに目を覆う。

「フヒヒ、これなら誰もウチやて気付かへんで~」

「気付くも何も、おもくそ不審者やんけ。目立ち過ぎ!」

「ほーか? ならグラサンだけにしとくか」

 沙織はマスクとマフラーを外す。

「アホか、サングラスもアカンのじゃ」

「せやかてホラ、可愛いキラキラおめめが見えたら『掃き溜めの中に天使がおるで~!』って騒ぎになるやん? ツラいやね、美形はスニーキングミッションには不向きなんよ」

 芸能人の真似してサングラス掛けてみたいだけなのでは、と思う叔父の雅春であった。

「オッチャンは来んの?」

「ついて行こか思っとったけどな。不審者の仲間思われたらかなわんからやめとくわ」

「なんな付き合い悪いなー、まあええよ、ほなな」

 小型の四人乗りボートからぎゃらくしぃ号のランチベイに降りた沙織は辺りを見回す。

(ふーん、そこそこ客がおるやんけ)

 近くを通り過ぎた少し品の良さそうな家族を見ると、五歳ぐらいの幼児か何やら四角い板のような物を抱えてにこやかに笑っていた。

(なんやあれ、絵画? カタログ?)

 幼児の持っていたのは絵本だった。

「マンガ以外の紙のメディアも売っとるんか、ブルジョアくっさ」

 交通整理している警備員2人とドローンがケーブルを張り渋滞しないよう順繰りに買い物を終えた客を送り出す。ドローンが沙織に列の最後尾に並ぶよう促してくる。


 沙織は脇に抱えていた150cm×70cmの板を床に置くと、ぴょこんたっ、とその板──『トレッタ』に飛び乗った。

 トレッタは火星圏で試験販売を始めた通天閣グループの商品である。反重力ボードに制御ハンドルを取り付けたサーフィンボードのようなスケートボードのような乗り物だ。

 起動させるとキュコーン、キュコーンという駆動音と共に姿勢制御ジャイロが回り出す。

「悠長に待っとられるかいな」

 トレッタは浮き上がると、列を形成する客達の頭上を軽やかに飛び越していった。

「あっ? こらそこの人! 並んで!」

「あ、危ないでしょう! 船の中でそんなもの乗り回して!」

「ウチは店長はんの友達やで? 特別やからええのええの!」

 ふわりとゲート前に着地するトレッタ、この軽やかさ、ホバークラフトでは出せない優雅さがある。

 あれよ25人ほどの入店待ちの客を追い抜いてしまった。大胆過ぎる順番無視を前にした客達は、沙織がぎゃらくしぃ号の関係者なのかも、と思い特に騒ぎ立てたりはしなかった。

 沙織は警備員から逃げる様子もなく堂々とトレッタを折り畳むと通路の柱に立てかけた。

「キミら、これ見張っといてな」

 警備員2人は驚いて顔を見合わせる。

「お勤めご苦労やね! キミらの事は店長はんにようゆうといたるわ」

「え、あ──はい?」

 首を傾げながら警備員達は業務に戻っていく。沙織はキシシとほくそ笑みながら店舗エリアへと入っていった。



 ゲートをくぐるとユイ・ファルシナの声で歓迎される。音声だけだがユイの明るい笑顔が想像出来てなかなか気分が良い。

「おっ、床にゴム材張ってあるエリアがあるんやな──」

 転んだ時や商品を落とした時の用心のためなのか、重力設定も絶妙な塩梅で低めになっていた。

(な、なんやこれ……)

 床の材質を確認し終えて上の照明を見ようと顔を上げた途端、ゾゾゾッと背筋に悪寒が走る。

 改装されたぎゃらくしぃ号の店舗エリアは沙織の知らない物で溢れかえっていた、少し気持ちが悪いぐらいに。

 沙織御自慢の惑星地表面にあるメガマートと比べて『せせこましい』と思い込んでいた店舗の床面積の広さは宇宙船にしては広い上にユイ考案の『天井陳列』で実質的に二倍になっていた。

 本来デッドスペースになるはずの天井が重力制御でもう一つの床面として機能している。沙織の頭上を幼い兄弟が追いかけっこをして駆けていくと、沙織と同じ床面にいる両親が頭上を見上げながら2人を叱りつけている。

(ほっほーん……こりゃー、なんか遊園地に来とるみたいでおもろいし、上のスペースに何が置いてあるかも下のモニターで簡単に確認できるんやな)

 沙織は店内に何ヶ所も設けられた『昇降スペース』と書いてある床の円内に入り、足先でタッチパネルを操作した。

 沙織の身体はふわりと浮き上がってスムーズに一回転する。ものの二秒で沙織は天井側、もう一つの床面に立っていた。

「おおお……なるほどな、こりゃーおもろいで」

(単に床で仕切って一階、二階と多層構造にせんのは奇抜なだけやのうして何か狙いがあるはずやが)

 色とりどりのロリポップ・キャンディーを大量にぶら下げたドローンが飛び回って宣伝文句を流しながら店舗の中空を徘徊しており

、先程の兄弟の目線に降りてきて新しいフレーバーの紹介を始めた。沙織の頭上、いや天井にいる沙織達から見て『頭の下』にいる母親が「一人一つだけね!」と釘をさす。

(ふーん、このドローンは差し詰め『移動陳列棚』ってとこやね。 地上の店舗でも使えそうやけど)

 沙織もロリポップ・キャンディーをドローンから抜き取って眺める、定価販売されているのを見て少し渋い顔をするとキャンディーをドローンに返した。

(宇宙空間での商売、案外奥が深い──ここは謙虚に勉強させてもろとこ)

 沙織の上着の裾から記録メディアを積んだ蜘蛛型のスパイ・ドローンを二台が這い出す。沙織はペットのご機嫌を取るような素振りで蜘蛛型ドローンを撫でると撮影しまくるために店内に放した。



 雄大は自室でセレスティン大公一派の船、神風号ほか三隻の事を調べていた。

 ガッサ将軍は、旧木星帝国海軍の巡洋艦をベースに改造したものだというが──

「こんな形の装備は見た事が無いなぁ……」

 細部のデザインは太陽系で現在主流なものとはあまり共通点がないような──どことなく大気圏内で使用する船のような──そんな気がしてきた雄大は22世紀以前に主流だった軍艦のデータまでチェックし始めた。

「この見た事もない装備は大気圏内での運用を想定してるのか?」

 太陽系で運用されている船舶は基本的に周回軌道上にある宇宙港に駐留する。大気圏内を航行する事などまったく考えていない船が多い中で全体の約二割程度の船だけが、大気圏の内と外、地上と宇宙の両方で運用出来る。これらの船──大半が惑星開拓時代にデザインされた方舟タイプの大型移民船──は『多目的宇宙船(マルチ)』と呼ばれていた。

 加えて神風号には帆を掲げるための折り畳み式マスト、のような装備が無数にあるようだ。

「普通に考えればヨット、光帆船(ソーラーセイル)なんだろうけど。レトロ過ぎるよなぁ」

 見れば見るほど不思議な船で、年季が入ってるのにテクノロジーレベルはやたら高く、洗練された無駄のないデザインに見えなくもない。

(神風号はあくまで軍艦だ)

 軍艦が不安定な光推進の機能を持っているとは考えにくい……雄大はAAAライセンスの座学でみっちりやったエーテル帆船理論を思い出した。

「まさかこれってエーテル帆船……? もしそうだとしたらこの大型巡洋艦の推進力に使える規模ってのはヤバいんじゃないか? ガッサのオッサンのバックに控えてるのが『禁忌技術管理委員会』の関係者か、さもなければ禁忌技術(ロストテクノロジー)再発明(リバイバル)に成功したのに『委員会』の審査を受けてないような危ない奴らと将軍は深い付き合いがある、って事になるな」

(ニースさんみたいな超越した遺伝子を持つ人造生命体、キングアーサーのポジトロニックノードといい、この神風みたいな出所不明の謎軍艦といい──禁忌技術管理委員会はちゃんと仕事してんのかね?)

 雄大は疲れ目を休ませるために瞼をおろして椅子の背もたれに身体を預けた。禁忌技術については一般には秘匿されているため連邦市民達は何の疑問も持たずに暮らしているし、勿論ローマ法皇が管理委員会の長をやっているなんて知る由もない。

 クジナのような技術者(エンジニア)は勿論だが、雄大のようなパイロット、医療従事者や建築士など政府発行のAAAライセンスを持っている者達は『禁忌技術を運用する能力がある者達』として強制的に管理委員会に登録させられる。

 そして監視対象となる事や禁忌技術の不正使用の際に厳しい処罰が下される事を告げられる事になる。

(まあガッサ将軍が『委員会』の手先って考えるのはナンセンスだけどな。あの人の原動力は地球閥への報復だから、地球閥とメンバーが被っちゃう『委員会』とはむしろ敵対するはず)

 実際のところ禁忌技術管理委員会がどんな組織でどれくらい力を持っているかというのは雄大にはよくわからない。

(リクセン艦長がクジナさんの命が危ない、って思うぐらいには過激な組織だからなぁ……いつか神風号やニースさんにケチを付けて俺達に難題ふっかけてきそうな気もする)


 禁忌技術を使ってクーデターを起こした大罪人リオルの処遇について委員会が文句を付けて来ないのはオービル元帥のおかげ、とはユイから聞いていた雄大だったが──

(ユイさんが戻ったら色々聞いておかないと。正直、揉め事の種になりそうな人達ばかり集まってくるような──不安で仕方無いよ)

 ここのところお互い忙しくてユイと雄大は2人の時間を過ごせていない。その上、近頃のユイの側には目障りな『怪老リオルの意識を持った幼女』リタがいるので何となく以前より近寄り難い。

(んー、でもリオル大将ならこの手の禁忌技術管理委員会やら地球閥の裏事情に誰よりも詳しいはずだからリオルのリタに相談持ち掛ければ手っ取り早そうだな)


 ──ユイがリオルを身内に起きたがる一番の理由は、得体の知れない地球閥や委員会の内情を知るのに役立つから、なのではないか──


 ユイのそういう抜け目ない部分に感心する雄大だったが、ユイ本人はそういうところに頭が回る自分を誇るどころか、自己嫌悪しているようにも見える。

「気に病む事はないのにな。まあ俺はあれこれ考えず、婚約者として愛情をいっぱい注いでユイさんのあの慈愛溢れる笑顔を曇らせないようにするだけだな。そう、愛情とか色々たっぷり、フフフ。俺とユイ、なんつっても恋人同士だし!」

 雄大は山荘で過ごした甘い時間を記憶から引き出して反芻して楽しんだ。

「惜しかったよなー……あんな異常気象やら何やらの騒ぎさえ無ければ滞在最終日ぐらいには……フフ」

 当初、ガッサ達の神風号の正体について検討していたはずだったが禁忌技術管理委員会やらリタの中にいるリオルの意識についてやら……色々と考察が脱線していく雄大だった。

 そして遂にはユイとの初体験を妄想、ユイの声真似を交えながら丹念にシミュレートを始めていた。

 しかしながら。

 雄大が無意識の内に妄想のベースに使ったのは、自室でマーガレットの引き締まったしなやかな肢体とむつみあった時の感触だった。そのせいか豊かで柔らかなユイをうまくイメージ出来ない。

(あれ、ユイさんの身体ってどんな感じだっけ? うっとりするような美脚で、えーと?)

 普段の妄想力逞しい雄大なら有り得ない状況が起こっていた。

(あれ、いかん。なんかマーガレットが混ざってきたぞ──)

 いつの間にか雄大は妄想の中で強化服のアンダースーツを半脱ぎしたマーガレットを組み敷かれ、いつぞやの鼻血を出して中断された情事の続きをやっていた。

 つい先刻、情熱的に絡み合ったマーガレットの指と手のひらの感触が頭の中に強く残っている。

 いじましく愛らしい少女伯爵のイメージが増殖していき何度も何度も妄想してイメージが固まっているはずの婚約者の姿を蹴散らしていく。

「あれ──あれれ……」

 マーガレットと抱き合う雄大の横で青ざめた顔で咽び泣き「捨てないで」と必死で雄大の足にしがみつくユイ、そして汚らわしいものを見るような瞳でその様子を冷淡に眺める魚住のイメージが頭に浮かぶ。

(や、ヤバい──自制しないと。俺が一番しっかりしないと)

 ユイとマーガレットの姉妹関係より強固なかけがえのない友情を崩壊させ、魚住の失望を招き、そして何より太陽系を照らす陽光のようなユイの暖かい煌めきを永遠に閉ざしてしまうような一大事を招きかねない。

 雄大は怖い妄想を忘れるためにデスクから離れ冷蔵庫から炭酸水の入ったボトルを取り、上を向いて喉奥に炭酸水を大量に流し込む。ゲホゲホと咽せながら洗面台に向かい、水で顔を洗う。

(あんな聖母様のように優しく、幼子のように純粋な婚約者を裏切る? そ、そんな事できるわけないじゃないか。一番大切なのは──やっぱりあの人の笑顔だ、そうだろ?)

 大切な人が出来る、というのはこういうちょっとした妄想の中での裏切り行為すら後ろめたく思えてくるものなのだろうか? ユイを裏切る罪悪感はまさに胸の奥がえぐり出されるようだった……この感覚、マーガレットも味わっているのだろうか──雄大はそう考えながらタオルを顔に被せたまま、ベッドに寝ころぶ。

 ユイとマーガレット、2人の顔がちらつく。

 雄大は無理矢理に睡眠を取る事にした。



 倫理的な問題がクリアにならない陽電子人工頭脳(ポジトロニック・ノード)のような物は、地球のカトリック教会、ローマ教皇を委員長、月の宇宙軍元帥を副委員長とする『禁忌技術管理委員会』が管理という名目で『封印』を行っている。

 委員会は制御が困難だったり既存の価値観がひっくり返ってしまうようなオーバーテクノロジーを禁忌(タブー)として管理し、保有する特殊機関であり、彼等は人類社会にとって解決出来ない問題が生じた場合にのみ、この技術を政府に提供し運用を命じるものである。

 委員会は宇宙軍や地球閥、連邦政府と繋がりが深い組織だが完全に独立した組織であり上下関係は無い。マグバレッジ親子やオービル元帥の信頼が厚いリオル大将は委員会からも『見識優れた人格者』として見なされていた。

 いくら幕僚会議のメンバーだからと言っても簡単にキングアーサー建造に必要なポジトロニック・ノードを入手出来る訳ではない、リオルが委員長であるローマ教皇に気に入られていたからこそ、その使用が許されたのだ。

 委員会が監視している数々の禁忌技術(ロストテクノロジー)

 これらの再発明(リバイバル)が起こった時は特許出願と同時に委員会による審査が入る。この審査は長ければ一年以上かかる事もあり、酷いのになると四年かかった挙げ句に異端とみなされて開発していた研究所まで解散させられている。

 しかも結構な審査料を請求されるため、審査を渋るエンジニアも数多くいるのが現状だ。


 通天閣沙織が持ってきた反重力ボード、トレッタも禁忌技術管理委員会の審査をクリアした製品だった。

 火星西部文化圏は法的なめんどくさい手続きを省いてしまう『ゆるゆるな文化圏』と思われがちだが、彼等を表す言葉には利益に(さと)く抜け目が無い、という表現を使う方がより正確に彼等の本質を表すことができるだろう。

 トレッタも管理委員会に結構な審査手数料を支払ってでもお墨付きを貰う方が『売れる』と判断しているから審査に出した。

 法律よりも義理人情を優先したり笑って誤魔化すようなちゃらけた風土も、開拓初期の過酷な生活を耐え抜き、対人関係でトラブルを起こさないために獲得した最強のコミュニケーションスタイルであり『笑顔と寛容はゼニになる』と知っているからそうしているだけだ。

 月の高名な人文学者ウェイド・カーも「人類史上最も成功した理想的な社会」として火星文化圏を高く評価している。


 いま、ぎゃらくしぃ号にちょっかいを出そうと自らスパイをやっている奇特な少女──通天閣沙織。この沙織の曾祖父が興した通天閣グループは今や火星西部連合企業体の中核を為す企業であり、会長の孫娘で容姿が整った沙織はグループの看板娘的な存在である。


「はい、蜘蛛さんお帰りやね」

 沙織は小さな昆虫型スパイドローンをだぶついた上着の下に隠す。ドローンの内の二台はちょうど沙織の胸の位置に納まった。 確かにこれなら不自然さはない、むしろもっと大型のドローンの方が──

「さてもうそろそろ帰ろか、雅春のオッチャンも待っとるやろーし。しかし宇宙空間が物資不足で不便やからってなんぼなんでも『定価販売』って強気やんな……よー買わんでホンマ」

 顔を上げた沙織はポンポンと胸の辺りを叩いてドローンが充電器付きベルトに固定されたのを確認し、出口へ向けて歩き出した。

 ガッ!

「んなっ?」

 突然、彼女の肩が何者かに鷲掴みにされた。後ろから誰かが沙織を引き止めたのだ。

「こらっ!」

「なっ、ななな、なんや?」

 商売敵の店を偵察しに来た、というのは如何に面の皮が厚い沙織でも後ろめたさがある。咎められて肝を冷やした沙織は泡をくったように手をばたつかせてその手を振り払おうとする。

「今、ドローンを服の中に隠しただな? 買い物かごも持ってないし──おとうさんか、おかあさんはいる?」

「は? なんでおとやんが関係あんねん、子供扱いすなや! 馬鹿にしとんったらシバくで?」

 沙織が振り向くとそこには明らかに沙織より年下のおさげ髪をした活発そうな少女が厳しい顔をして立っていた。丸顔で瞳と口が大きな純朴そうな田舎娘である。パリッとした黒いズボンにエプロン姿、サイズの合わない帽子を被ってるところを見ると警備員というよりぎゃらくしぃのバイト店員なのだろうが……

(なんやムカつくな、年下童顔の分際でウチより胸がある、っちゅーんはどーゆうことや──何食ったらそんなドローン隠しとるみたいにふっくらすんのや)

 沙織はイラつきを隠さず眉根に皺を寄せて精一杯凄んでみた。

「なんや、ウチは万引きなんかしとらんで! なんやちんちくりんの分際で、名誉毀損で訴えられたいんか?」

 店員の方は度胸が据わっているのか沙織が強い言葉で攻撃しても一向に怯まない。

「ドローンを使って悪さしてたべ? 無断で店内を撮影するのはいけないんだぞ。他のお客様のプライバシーにも関わる問題だぁよ」

「う、うっさいわ、しょ、証拠あるんか? カエルのけろっぺ大冒険みたいなオモロい顔しくさってからに──ん?」

 どうにかこの場を切り抜けようとまくし立てる沙織の視界に店員が腰にぶら下げている大きな軍用の対装甲ヒートガンが飛び込んでくる。

(な、なんやこの店! こどもの店員がゴッツい銃で武装しとるゥ──!? 世間的にはええんかこれ!? 宇宙怖っ!? バイオレンス!)

「あやしいだなぁ……変な色眼鏡かけてるし──もしかして……悪の組織キャメロットの秘密工作員!?」

 鏑木、という名札を付けた少女店員は険しかった表情を更に険しくいかめしい物にするとインカムでバックヤードと連絡を取り始めた。

「は? 工作員? マンガの読み過ぎちゃうか!」

「こちらリンゴだべ。うん、ドローンの持ち主を確保しただよ、この子はきっとあの連中の仲間だべ。皇女さに仕返しに来たにちげえねえだ──取り敢えず? うん、わかった。そっち連れてく」

「え!? ちょ、仕返しって何の話やねん!」

「うるさいだなぁもう! さあ来るだよ! 悪党には六郎さの地獄の取り調べが待ってるだ」

 叔父の雅春が危惧した通りな不審者扱いされた沙織は、妙に力の強い少女店員に引きずられるようにして店舗の奥へ奥へと連行されていくのだった。

 

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