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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
52/121

アヴァロン①

 六郎はブリジットと一緒に動かなくなった4mの装甲服、深紅のエグザスを引きずりながらぎゃらくしぃ号へ向かっていた。折りよく六郎の部下数人が現れ、運んできた運搬用の多脚ロボット、ミュールの脚を広げ、三回叩いて起動させる。

 このミュールは火星のヴィッカー社がライセンスを持つ商品で、外観は八本脚でシャカシャカ這い回るリクライニングベッドだ。馬や自転車、担架代わりに人を乗せたり工事現場の台車代わりに用いられる事が多い。

「チーフ! ご無事で何よりでした!」

「おまえ達もな──しかしここは化け物の巣窟だな、少しチビっちまったよ。見ろ、未だに手が震えてらぁ」

「六郎さんが? 冗談でしょう」

「そうですよ。六郎さん、リンジー、マーガレット様。俺ら『木星皇女親衛隊』は銀河最強っすよ」

「ばーか。護衛するどころか留守の間に母船に侵入されるわ、ユイ殿下連れ去られるわ、挙げ句はヤバそうなんで尻尾まいて逃げ込んで──とことん無能晒しまくってんじゃねーか」

「あ、はい──」

「まだまだ素人集団に毛が生えた程度だよ。俺もお前らも胸張って殿下の親衛隊、なんて名乗れるレベルじゃねえや」

「す、すんません。確かに俺らあんまり役に立ってませんね……」

「リンジー姉さんやマーガレット様が人外過ぎるって気もしますけど」

「少なくとも俺達は美女達の盾になるどころか現状、守ってもらってるみたいなもんさ。精進しねえとな」

「えっ何? リンジーちゃんが美少女、って話してるの? 何だよー、照れるじゃん!」

 ニコニコと笑うブリジット。エグザスを持ち上げるとミュールに乗せてバンドで固定する。タフなブリジットも怪物レムス相手は相当こたえたらしい、身体には複数痣のような物が出来ていた。その痣は激しく内出血した痕にも見える、ブリジットが笑っているから大したこと無いように感じるだけで、身体は相当なダメージを負っているに違いない。

「なあ自称美少女。お前一応重傷者みたいなもんだからな、小田島先生探してちゃんと全身看てもらえよ」

「アイアイサー」

 六郎はスカウティングアーマーの着脱ボタンを弄り強化をオフにした。

「おい、誰かあれ持ってないか?」

 六郎は人差し指と中指を立てて口元に持って行く。

「はい」

 部下の一人が煙草を一本取り出すと六郎に手渡す。

 火を付け、一服すると六郎は大きく煙を吐いた。

「すまねえ、生き返ったわ──じゃ、サッサと戻ろうか」

 彼らと六郎はぎゃらくしぃ号に乗り込んでからの付き合いだ。木星帝国の関係者の孫世代にあたる彼等は、地球から派遣された総督の統治に馴染めず、故郷から飛び出してきたいわばアウトロー紛いの若者達である。

 ブリジットの赤いエグザスを積んだミュールを先導しながら六郎達は小走りにぎゃらくしぃ号を目指す。

 十字路にさしかかったその時、突如としてカーキ色のジャケットを着た傭兵の一団と鉢合わせする。

「何だ!?」

 六郎達と傭兵達は距離をとり互いに銃を突き付け合う。

「待て野郎共、銃を降ろせ! コイツらは敵じゃねえよ、まあ味方でもねえけどな!」

 傭兵達の中からサタジットが姿を現す、六郎は舌打ちしながらサタジットを睨み付け、サタジットもまた冷笑を浮かべながら六郎を睨み返す。

(あそこであの金髪の怪物に倒されてた連中はコイツの仲間かよ)

 ファイネックスの傭兵達の方もミュールのような運搬ツールを使って何かを運んでいるようだ──いや、運ぶというか、盗み出そうとしている──

「何しに来たかと思えば、テメエ。どさくさ紛れに火事場泥棒、お宝探しってか──仲間が大勢死んでるのに金儲け優先か?」

「利益追求して何が悪いってんだよ。この船は禁忌技術のカタマリ、宝の山みたいなもんよ──俺たちゃファイネックス社の契約社員であると同時に個人事業主でもあるワケ。お行儀良くしても1ギルダにもなりゃしねえ」

 サタジットは悪びれもせずに笑う。

 六郎は前に出てサタジットと向かい合い、顔を突き合わせる。手を伸ばせばすぐに相手に殴れかかれる距離。

 六郎のくわえた煙草の煙がサタジットにかかる。

 煙草を吐き出して部下達にぎゃらくしぃ号への乗船を急ぐよう指示を出すと、六郎はサタジットを牽制するように一人、前に出た。手を伸ばせばすぐに相手に殴れかかれる距離まで近付く。

「変な気を起こして俺達にちょっかい出すんじゃねえぞファイネックス、手負いの獣に手を出すべからず、ってな」

「サタジットだよ、木星の甲賀六郎さん──いや、この呼び方で正しいのかな、ハハッ」

「何が言いたい?」

「甲賀六郎──気になって色々調べたんだけどもな。もう随分と昔に死んじまった人間の名前だ。お前一体誰さんなのよ?」

「………」

 無言でサタジットと睨み合う六郎。

「俺とお前はどこかで会ってる、そんな凄い殺気出せる奴はそう多くはいないぜ」

「俺はお前なんぞ知らねえよ」

「ちょっとだけお前の正体に心あたりがあるんだけども。賞金首の──金星のドラッグ・カルテルの幹部連中を兵隊ごと皆殺しにした──あの『菱川十鉄』って事なら辻褄が合う。背格好もぴったりだ」

 菱川十鉄、その名前がサタジットの口から放たれた刹那、六郎の身体がビリビリと電気が走ったように軽く痙攣する。それと同時に猛烈な殺気がサタジットに向けられた。

「黙ってろ三下」

「ハッ──やべえな、とんでもねえ大物賞金首を見つけちまったらしいぜ」

 サタジットは六郎に気圧され、一歩、二歩と後退しながらも余裕の表情だけは崩さない、傭兵仲間が後ろに控えていればこその余裕だろうか。

「菱川十鉄なんて野郎は知らねえが、やるなら相手になるぜ?」

「知らないだって? おい、この界隈であんだけ暴れまわった十鉄を知らない方がモグリだろ、下手な嘘吐いてんじゃねえや」

 確かに、このサタジットという男と自分はどこかで会っているが、こういう自信過剰な傭兵や賞金稼ぎは記憶のファイルから掃いて捨てるほど六郎はアウトロー達の顔を見てきた。六郎にとって印象に残る相手ではなかったようだ。

「名前と顔を変えて木星残党の中に紛れ込んでやがったとはな、商船の中で縮こまってたんじゃわからねえはずだぜ。カタギにでもなるつもりかよ?」

 ファイネックス社の傭兵達は六郎達とは反対方向に移動し始める。

「まあ今回は状況が状況だからな、見逃してやるよ六郎ちゃん。いずれとっつかまえて『十鉄』に興味がある連中に引き渡してやるさ、6なのか10なのか、ホントのところは整形の痕跡を調べないとわからんのだろうが──十鉄を八つ裂きにしたがってる奴らは多い、偽者でもいい金になる」

「仮に俺がその『十鉄』だとして。お前みてえな傭兵崩れが楽に生け捕りに出来る相手だと思うのか?」

「正面衝突して勝てるとは思ってねえさ。ま、せいぜい楽しみにして待ってな」

 サタジットは六郎を警戒しながらゆっくりと距離を取り、ミュールの運ぶ盗品の影に滑り込んだ。

「……クソが」

 六郎は舌打ちする。

 今、仮にサタジットを撃つとファイネックスの連中全員とやりあう羽目になる。横目で仲間達の方を見ると、数人が残り此方に向けて心配そうな視線を送っている。

「じゃあな! また会おうぜ」

 ファイネックスの傭兵達に紛れたサタジットは下卑た笑い声を残し通路の向こう側に遠ざかっていった。傭兵達の数人が後ろを振り返りつつ六郎の顔を興味深げに眺めていくが、六郎が腰の銃に手を掛けると慌てたように視線を逸らす。

「嫌な奴に目を付けられちまったな」

 六郎は警戒しながら第二の人生を与えてくれたぎゃらくしぃ号へと向かった。

(──万が一、俺のせいで殿下やマーガレット様に迷惑がかかるなら──あとどれぐらい、俺はコイツらと一緒に居られるだろう?)

 六郎は胸が締め付けられるような思いで部下達の顔をみる。退屈な伝票整理や商品陳列業務、ブリジットが盛大にやらかした後の始末や牛島と酒を飲んでる時間が自分にとって何よりも尊い物のように思えてきた。

(いずれコッチから──決着をつけに行かなきゃならねえかもな)



 雄大と黒塗りの看守ロボット、そしてロボットの上に乗せられたユイ・ファルシナを先頭にして、海兵隊のエグザス八体がブリッジを目指す。

「あんたがラドのダチなの?」

 海兵隊の紅一点モニカが走る雄大の横に出て来る。少し息の上がってきた雄大を軽々と抱え込む。

「ちょっと! 自分で走れますよ?」

「いいからいいから、ふーん──」

 モニカは雄大の顔を覗き込む。

「ねえ、あんたどうやってあのお姫様をモノにしたのさ」

「は?」

「あんた、顔はそんなに良くないじゃん? て、事はそれ以外のテクニックを駆使して落としたんでしょ? いつかその辺りの口説きのテクニックをあたしにも伝授してくんないかなぁ?」

「も、モノて……そんな関係になったわけじゃ」

 雄大はユイの方を見る。

 雄大の着ていた将校服の上着を羽織ったユイは完全に看守ロボットを従えていた。どうやらこのロボット、人間の顔を認識しているわけではなく連邦宇宙軍の将校服と階級章を見て付き従う相手を決めたらしい。

 ユイはまるで動物と触れ合うかのように優しい笑みを浮かべて看守ロボットのメインカメラを撫でていた。雄大とモニカの話は聞こえていないらしい。

「だってお姫様抱っこしてたじゃん? お姫様の方はがっちり首に腕を回してさあ……ラブラブじゃん!?」

「それだけで恋人とかそういう話にはならないでしょ。ユイ社長は足を痛めてるから仕方無く」

「いや、なるね! 私なら足が折れてても抱かれたくない相手からのあのポーズ強要、断固拒否するわ」

「ところで、貴女はどちら様で……」

「あ、自己紹介忘れてたね! 私、ラドの嫁! やってるモニカちゃんです!」

 大声で宣言するモニカ。後方からラドクリフが全力で否定する声とロン達の笑い声が聞こえてくるが彼女は完全に無視している。

「ラドクリフとは古い付き合いの、宮城雄大です──ん? なんか聞こえません?」

「そだね? なんかガチャガチャ言ってる」

 カンカン……コロコロ、カタン。

「うわ! ば、爆弾?」

 何とも間抜けな話をしているとモニカの足元に手榴弾が転がってくる。雄大の視線につられるように足元を見たモニカが驚いて手榴弾を蹴り飛ばす。

 不発弾だったのか、蹴られたあとしばらくしてから手榴弾はバフッと小さな爆発をして煙を出した。その煙の向こう側から今度は象戦車(ヴィシュヌ)の主砲並の光の弾が飛んでくる、通路の奥で壁に命中したのか爆音が響く。此方を狙った物ではない、流れ弾だ。

「なんだなんだ?」

 そちら側から駆け出してくるのは敵ではなく黄色いエグザスが2体とスカウティングアーマーの女性兵士──

「ハダム大尉! ご無事なんですね?」

 ユイが叫ぶ。

「おお! 皇女殿下ですか、良かった。連れ去られたと聞いて心配しました」

「お姫様、あんたこんなとこまてノコノコと何しに来たのさ? 足手まといだから下がりなさいよ! 相手のミュータント女共がすばしっこくて手強いんだ! マーガレット様を待つよ!」

 ショックガンを奥の広間に乱射しながらユーリ小尉がロボットに駆け寄りユイに進言する。言葉こそ乱暴だが的確なその判断にユイは素直に頷いた。

「はい、ユーリさん。では全員で一度下がってメグちゃんを待ちましょうか」

「いや下がるには及ばないよ、俺達がやる──いややらせてもらうぜ。いくぜ野郎共、リオルはこの先だ!」

「おうともさ!」

 ラドクリフ達第七部隊が雄叫びを上げて跳躍しながら広間に突撃していく。モニカも雄大を降ろすとハルバードを構えてラドクリフ達に続いた。

「ちょっと、勝手に話を進めないで! 後退して態勢を立て直して──もう、一体何なのよこいつら!」

 地団駄を踏むユーリをまあまあ、とエルロイがたしなめる。

「おお! 青いエグザス、第七部隊か!」

 ハダム大尉がバイザーを上げて敬礼すると数名の青いエグザスの方もハダムに敬礼を返しながら通路を駆け抜けていく。

「大尉、ご無沙汰しております!」

 ロンがハダムに駆け寄る。

「お前、ロン? ロンじゃないか、変わってないな!」

 ハダムはロンの腹を小突く。

「奇遇ですね大尉、月の第一艦隊付きになってからはお会いする機会もなく寂しく思っておりました。ウチの隊長は馬鹿で礼儀知らずですから──挨拶が無いのは勘弁してやってください」

「なんの、レンジャーはあれぐらい荒っぽい方が頼もしい! 俺達も行こうかエルロイ」

「はい、もちろんですよ。28部隊も実力では劣らないって事を第七の連中に見せてやりましょう」

「第七部隊と合同で戦えるとはな。フレドやイワタ、ジャーヴィスが悔しがるぞ」

 エルロイもハダムにくっついて広間に駆け込んでいく。男達のその様子を白けたような顔で眺めるユーリ。

「ねえあんた、この戦闘ロボットも加勢させなさいよ、このデカブツも戦えるんでしょ?」

 ユーリが雄大にくってかかる。

「あ、いえ──はい、じゃ社長? ちょっと降りてもらっていいですか?」

「はい、わかりました──じゃあクロちゃん私を降ろしてもらえますか?」

 クロちゃん、と呼ばれた看守ロボットは伏せるように身を屈めるとユイを丁重に床に降ろした。ふらつくユイを駆け寄ってきた雄大が受け止める。

「す、すいません宮城さん」

「あ、いえ………まだ足は痛みますか?」

 ユイと雄大は2人してくっついたまま、赤面して固まる。

 そんな2人の様子に業を煮やしたのか、ユーリはショックガンのストックで看守ロボットをガンガン叩きながら大声で怒鳴る。

「そういうのはいいからさ! 早いとこお願いしますよお姫様! このロボットに戦うように命令して!」

 ユイはその迫力にびっくりして足の痛みも忘れて雄大から離れ、看守ロボットにコマンドを出す。

「いいですか、おまえ? あの広間に行ってエグゾスーツの人達を守ってあげなさい」

「ぎゃらくしぃ号船長、ユイ・ファルシナ少将代理からのコマンドを受託しました」

 看守ロボットはガシンガシンと床を踏み鳴らして前進していく。

「まったく木星の連中は緊張感が無い! こんなのに出し抜かれたかと思うと今でも自分の不甲斐なさに腹が立つわ! いい、お姫様? あんたはここで大人しくしてなさいよ?」

 ユーリはギロッと雄大とユイを睨み付けてから自分も広間に颯爽と飛び込んでいった。

 あまりの迫力に雄大とユイは目を丸くして女戦士(アマゾネス)の後ろ姿を見つめた。

「小田島先生いわく、ユーリさんて軍人には向かない優しい子──だそうですが。軍人が天職みたいな感じがします、俺なんかよりよっぽど」

「ええ、頼もしい女小尉さんですね。今はお味方で助かりました」


 要塞のように堅固だった防御システムはほぼ全滅し、抵抗はこのブリッジ前の広間だけとなった。

 キングアーサーの占拠は目前に迫っていた。

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