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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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激突③

 身長4m、鬼のような外観の深紅の鎧を着たブリジットと、身長2.5mの赤銅色の肌をした美丈夫が向かいあい、闘争を開始するのに適切なタイミングを見計らう。

 互いの身体をつぶさに観察するブリジットとレムス。

「私はレムス。プロジェクトの責任者曰わく、最も優れた遺伝子を持つ男、旧人類の最終進化形態にして、次世代人類(ネクスタント)の雛型にして地球生物の頂点だ」

 レムスは長い金髪を掻きあげる。

「自己紹介する流れ? じゃあ──あたしはブリジット・ヴォン・パルルーザ。アラミス産まれのアラミス育ち。天の川銀河最強の解体屋(スクラッパー)さ!」

解体屋(スクラッパー)?」

「元々はそうなの、今は木星所属だけどね」

「下賤の出か、まあそれでもよい。私と違って実戦経験豊富と見える」

 あと八歩、いや九歩。

(一呼吸で届く距離。右から来るか、左から来るか。こいつは飛び道具や爆薬は使いそうもないし、盾は要らないか?)

 重たい盾を手放す。

 ガゴン、と音を立てて床に落ちると小さな粉塵が巻き起こる。かなりの重さである。

「その分厚い盾を捨てたのは、いい判断だと言っておこう。ひとまずは」

 レムスは笑みを絶やさない。

 軽く身体を上下させてタイミングを見計らっているブリジットに対してレムスはゆったりと自然体、とても戦闘態勢には見えない。

「中途半端な武器は──攻撃の手段を限定させる。武器を持ち、強化服に頼る──まったくもって進歩がない。棍を持つなら、もっと軽く長く、しなやかな物にするべきだ」

 ムッとしながらもブリジットは棍棒を捨てる、確かにこれを振り回しても眼前の男には当たる気がしない。

「あたしも割とおしゃべりな方だけどさ。アンタもいちいちうるさいよね」

「君の知識の程を試しているのだよ、辺境域に住まう蛮族の戦士よ」

「難しい話はわかんないよ?」

 五番目のニースが脇を駆け抜けていく。ブリジットはそれを目で追う。身体が反応するが、正面の敵に隙を見せるのを嫌ったブリジットは表情を強ばらせてレムスを睨みつける。

「心配するな、君のお仲間が我々の邪魔をしないように見張りに行ったのさ」

「六郎は結構強いよ、ちょっとやり方が小ズルいけど」

「それは楽しみが増えたな──さて、準備はいいか?」

 スウ、と息を吸い込むとレムスは急激に身体を膨らませる。

 肺が膨らみ、筋肉が盛り上がる。一回りほど大きくなったようにも見える。

(来る!)

 一瞬、膝を曲げてからレムスは跳んだ。

「上から!」

 腕を交差させて防御するブリジット。その上からレムスは強烈な蹴りを浴びせかけてくる。

「カッ──!」

 息を吐き出し、高速で前方に回転するレムス。見た目からは想像もつかない程、速くて重い斬撃のようなかかと落とし。

(えっ、エグザスでも衝撃を吸収しきれてない?)

 腕が痺れてブリジットの膝が崩れる。

 着地したレムスは一息に、防御が空いた腹に右拳による直突き、左拳、右拳と三発の打撃を打ち込んだ。

 一歩後退しながらもブリジットはその長い両腕で、懐に飛び込んできたレムスを上から抱え込むようにして掴む。

「──!?」

「調子乗り過ぎだぁ金髪! っしゃおらァ!」

 ブリジットの右膝がレムスの左脇腹に突き刺さる瞬間──身をよじったレムスは左肘を落として膝蹴りを迎撃した。瞬時にブリジットの左膝が動く、レムスは両手でそれを防御しようとするが、いつの間にかブリジットの腕はレムスの拘束をやめていた。

「EXAMターボパワー!」

 ブリジットの声に反応して赤いエグザスの内部機構が発光し、ブリジットの力に更なる上乗せをした。

 両の拳を合わせて作り上げた巨大なハンマーがレムスの背中に振り下ろされる。

 ドン──!

 巡航ミサイルが着弾したかのような爆発的なパワーが無防備なレムスの背中に炸裂する。

 ズシン! と肉を叩きつける音が2回。レムスは猛烈な勢いで床に叩きつけられた。胸骨が軋み、呼吸が乱れる。床面の鋼は歪み、反り返った。

「ガハッ──」

「とどめっ!」

 頭部を踏み潰さんとブリジットの右足が伸びる。

 しかしレムスは側転して床を転がり、この一撃をかわすとブリジットの軸足を蹴り払う。

 たまらずブリジットは尻餅をつくが両腕で受け身を取り、その反動で素早く後ろへ飛び退いた。ブリジットの頭があった空間をレムスの後ろ回し蹴りが弧を描き、ヘルメットをかすめる。空振りだ。

「やるな女!」

「ハァ、ハァ──そ、そっちもね、少しは──やるじゃん?」

「私と互角、いやそれ以上のパワーか? 多少予備動作が多いが動き出してからは速い。恐れ入ったよ」

(コイツ、息も切らしてない?)

 背中を強打し胸を激しく床に叩きつけたはず。呼吸は乱れて当然──それなのに。

 レムスは多少吐血をしている程度、落ち着き払っておりその顔には笑みも苦悶もない。

(くそ、あの打ち下ろしが決定打になってないなんて──ホントにコイツ生身の人間? どんだけ頑丈な背筋と肺してんの?)

 ブリジットは呼吸を整える、こんなにタフな相手は初めてだ。

(やっべー、なんかこの金髪の男がデカく見える──ま、負けてない負けてなんか無いかんな? 有効打を当ててるのはコッチだ。攻める!)

「うおおおお!」

 正面から殴りかかるブリジットに対してレムスは一歩も退かず、それに拳を合わせてくる。

 両者の右拳が衝突し、パァン、と空気が裂ける音がする。ハンマーとハンマーを互いにぶつけ合ったような、列車と列車の正面衝突を想起させるような打撃と打撃のぶつかり合い。

 お互い苦痛で顔を歪めるが、ブリジットの予想に反してレムスの拳には大したダメージはない。その身を軽く浮かせて後ろに回転して打撃の衝撃を緩和している。反対にブリジットの腕は痺れて右拳に力が入らない。

「てめーっ! な、なんで──素手でエグザスと拳をぶつけ合って無事でいられるんだよッ!」

「それそれ、それだよ──君は強化服の性能に頼り過ぎてせっかくの実力が出し切れていないのだ。人体の能力を過小評価しているね? 惜しいかな、自然に産まれた人類としては最高の部類に入る肉体を持っているというのに」

「──何言ってるかわかんねえっ! 連邦語か英語喋れよスカシ金髪!」

 左拳の撃ち合い、ブリジットは腹を狙い下から上に突き上げ、レムスは低く跳躍し、頭を狙って手刀を振り下ろす。

「ぐっ──?」

「……っ、痛──!?」

 相打ち、右手でガードしたはずのブリジットが腕を押さえてうずくまり、腹に拳が突き刺さったレムスは悶絶しながらも膝を付く事もなく二秒後には呼吸を整え始めた。ダメージはあるようだが見た目ほどには効いていない

「こ、このやろう──どんな魔法使ってんだよぉ?」

「残念だが耐久力は私の方が数段上回っているようだ」

 流石にレムスの息も上がってはいるがブリジットほど荒くはない。

(ヤバい、コイツの攻撃、なんか──痛い!)

 ブリジットの痛みとは裏腹にエグザスは全く傷付いていない。28部隊と戦った時、ストライクハープンが足に突き刺さったがその痛みにすら堪えたはずの自分が痛みを感じている。

 レムスの繰り出しているのは単純な打撃ではない、強化服の上からでも人体にダメージを与えるような、何か特殊な打撃をやっている。

「しかし──」

 さしものレムスの顔からも完全に余裕が消えていた。血の塊を床に吐き捨て、腹を撫でる。

「どうやら骨折した箇所が思っていたより酷い。これ以上君の攻撃をまともに受けるのは流石に危険だ。慎重に、じっくりと狩らせてもらうぞ」

「くそっ、右腕が──」

 ブリジットは痺れる腕を叩くが、うまく動いてくれない。

 敵のダメージのほどを確認したレムスはブリジット目掛けて走り出す。

 不意に、数発の光が彼の前進を妨害する。ショックガンが足元の床、通路の壁に次々と命中し、動き出したレムスを牽制して下がらせる。

「これは──! な、何だと言うのだ?」

 両手に銃を掲げてこちらに甲賀六郎が駆け寄ってくる。ショックガンを二丁使いで連射、エネルギー切れになるとバッテリー交換の手間すら惜しいのか、バッテリー切れのショックガンを放り投げると背中にあった別な銃を取り出した。

「ちっ──決闘を邪魔するとは無粋な」

 ショックガンで焦げつき小さく放電する床面を見てレムスは舌打ちした。大きく六郎との距離を取る。ブリジットの打撃を正面から受け止めていた時のような余裕は無い。

「ブリジット! おめー、口ほどにも無いヤツだな、へばってんじゃねえぞ!」

「ろ、六郎~! 聞いてよ! コイツ本気150%で殴ってるのにあんまり効かないんだよ! こんな変なヤツはじめてだ」

「だから言っただろ、ソイツはヤバいって!」

 六郎はブリジットの脇に転がり込んで片膝を付くと二丁使いをやめて両手でしっかりと狙いを付けてレムスの顔面目掛けて撃ちこみ始める。

 レムスは少し慌てたような素振りでブリジットが投げ捨てた盾を拾ってショックガンの射撃を防いだ。

「ちくしょう、お前の持ってきた盾のせいでヤローを追い込み損なったじゃねーかッ! もっと壊れやすい盾にしろよ!」

 六郎はガン、とブリジットの足を蹴りつける。

「六郎酷いィイ! それあたしのせいなの!?」

「だいたいだな、お前が勝てもしないのに殴り合い始めるのが悪いんだろ。あそこは全力で他の皆を逃がして犠牲が出ないようにマーガレット様と合流して三人であのバケモン退治すんのが最善策なの! それをお前が馬鹿の一つ覚えみたいに独り、殴り合いをやりたいがために一緒に逃げないから痛い目にあってんだよ! わかったか?」

「よくわかんない──もっとゆっくり、プリーズ」

「やっぱりお前バカだわ……」

「ご、ごめん」

 素直に謝るブリジット。

 盾に身を隠したままのレムスが大きな声で二人に声を掛けてくる。

「ロクロウ、とか言ったな? 貴様、ニースをこんなに早く倒したのか?」

「ニース? ああ、あの肌の色が変色するおネエちゃんか……女を撃つのは趣味じゃないんで……ちぃっとばかし大人しくして貰ってるわ」

 五番目のニースが六郎の後方で何か、細長い紐状の何かでぐるぐる巻きにされて不様にもがいている。

「何?」

 レムスは怪訝そうにその様子を眺める、遠過ぎてレムスの視力をもってしても何が起こっているのかわからない。

「なんだ──あれは? 何をした」

「梱包用の紐だよ、ギガントアントラが暴れても千切れない、ぎゃらくしぃ号特製の荷造りバンド──ちなみに特許申請中な、パクるなよ?」

「………荷造り?」

 レムスは何が何だかよくわからない事を言う連中だ、と首を傾げる。

「貴様──俊敏な五番目のニースを易々と生け捕りにするとは相当な腕前と見たが──連邦の特殊部隊──では無さそうだが一体何者だ? その解体屋(スクラッパー)とやらの仲間か?」

「うんにゃ違うね」

 六郎は首を振って答える。

「その女にしても貴様にしても。産まれ賤しき者共にしてはどうも腕が立ち過ぎる、木星に縁のある軍人の家系と見たがどうか?」

「それも違う──てかあんた口数多いね? 敵とお喋りしながら攻略法を考えちゃうタイプの人?」

「戦士として闘う相手の素性と戦歴を知りたいと願うのは至極当然の事だ、お前は違うのか?」

 盾越しに会話は続く。互いに飛び出すタイミングを計り、呼吸を整えるクールダウンの時間が過ぎていく。ブリジットの呼吸の乱れは解消されたが、想像以上に右腕のダメージが重い。

「古風な事で──」

 六郎は自嘲気味に笑うと手投弾を複数レムス目掛けて投げつけ、ブリジットに合図すると一緒にレムス目掛けて走り出す。

「──今の俺は何者でもねえ、甲賀六郎──単なるコンビニ店員だよ」

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