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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
45/121

レムスの逆襲①

 ガニメデ沖での土星・木星連合艦隊とキャメロットの改装特務艦隊との戦闘は、互いの旗艦が木星艦隊のほぼ中央で接触、もつれ合うという波乱含みの幕開けとなった。

 無傷かつ実弾兵器の残量も万全の三隻の改装型フェニックス級巡洋艦ギャラハッド、パーシヴァル、ガウェインが最大戦速で木星艦隊の中央、盟主アーサー王をお救いせねば、と言うかのように勇猛果敢に飛び込んでくる。

 そしてダメージを負いつつも戦列に復帰したグリフレットが後方から粒子砲を三秒間隔で撃ち込み、その突進を援護した。


 敵方の損害を省みないかのような突進に泡を食ったのは土星守備艦隊を指揮するモエラ少将である。土星守備艦隊はサターンベースの強力な小惑星型移動要塞砲や対空迎撃システムとの連携を前提とした艦隊で駆逐艦が主体となっている。大佐時代のネイサン少将をはじめとした副官達に艦隊運用を丸投げしてきたモエラにとってこのように敵との交戦で矢面に立たされる状況は全くの想定外であった。

 重巡洋艦一隻、駆逐艦四隻、空母一隻の合計六隻からなる半個艦隊は、このままだとあと数分で突進してくるフェニックス級三隻と正面からぶつかる形になる。

「げ、迎撃! いや後退だ! 全力で後退!」

 モエラ少将の指示通り、固まって後退を開始する土星守備艦隊。その後ろから歴戦を潜り抜けた古強者ユニコーン級巡洋艦シャイニーロッドが姿を現す。

 守備艦隊の旗艦、ミノタウロスにシャイニーロッド艦長リクセン大佐から通信が入る。

『ばかちんモエラ! ここで下がってどうするか』

 顔を真っ赤にして怒り狂うリクセン。

「いや先生、そうは言っても相手は無人のロボット艦、自爆覚悟かも知れませんよ? 将兵の命を預かる立場としては──」

 ついつい昔の癖で『先生』と呼んでしまうモエラ、ミノタウロスのブリッジクルーは呆気に取られてこのやり取りを見守るしかなかった。基地指令の威厳が台無しだ。

『後退するにもやり方があるじゃろ! 駆逐艦を散開させて突進をかわしてから後背をとって雷撃じゃ! 空母は艦載機を発進させて反転、8時方向に撤退。援護射撃でミノタウロスとシャイニーロッドで敵艦に突っ込むぞ!』

「はァ? ち、ちょっと」

『大丈夫じゃって! ミノタウロスの艦首装甲なら正面からぶつかってもほそっこいフェニックス級如き弾き飛ばせる!』

「む、ムチャクチャ言う!」

『弱気になったら何もうまく行かんぞ! アメフトのセンターやっとったお前さんなら行ける! 学生時代を思いださんかい! お前さんの踏ん張りがあってランニングバックやワイドレシーバーが生きるんじゃ』

「でででも、でもですね! 純子さんが、最強のクォーターバックがいてこそのチームでして──」

『モエラ!』

 突然、第三者が交信に割り込んでくる。モエラは久々に自分を呼ぶこの懐かしくも忌々しい声を聞いた。

「閣下、だ、第一艦隊が来てます!」

「なっ?」

『モエラ! そのロボット艦相手に下手に足を止めて撃ち合うと危険だ、全速力で脇を駆け抜けろ! 大丈夫、ミノタウロスの艦首衝角、三本角と喧嘩して勝てる艦などあるものか。多分相手の方が避けてくれる』

 ミノタウロスのメインビューワーに宮城裕太郎の姿が映し出される。モエラは椅子から飛び上がってカメラに近寄った。

「宮城! おい宮城、裕太郎! お前──生きてるの? 本物か?」

 レイジング・ブル破壊の映像を見ていたモエラは宮城大将を戦死したものだと思い込んでいた。

『詳しい話は全部終わってからだ、あの巨大なイカのバケモノが動きを止めてる今がチャンス、連携するぞ』

「いやまー、ピンピンしてて残念、じゃなかった、良かった、うん。凄く良かった」

『残念? いや私の事はどうでもいい! モエラ急げ!』

「わ、わかった、わかったから! やりゃいいんでしょ二人して怒鳴るなよ、部下の前だぞコンチクショウが! おい、えーと──先ずはキーエフの艦長を」

『駆逐艦キーエフ、了解、散開します』

『サラエボ了解、三時方向に散開』

『チョンツー了解、天頂方向に』

『ワレンシュタイン艦載機、発進します!』

「──えっ、あ、素早いのね、君達……」

 モエラが指示を出す前に全艦が、先ほどリクセンから提案があった通りに勝手に動き出す。

『こりゃ話が早い、良い部下を持ったなモエラ。じゃワシらも行くか』

「あ、あはは──サターンベースは精鋭揃いですからー」

 守備艦隊はネイサン少将が副官としてサターンベースに赴任していた時代に彼から直々に調練され、鍛え上げられていた。そのおかげか、細かい指示がなくとも司令官の作戦意図を汲んで行動が出来るまでになっていた。

(しかしホントに突っ込んで大丈夫なのか?)

 重巡洋艦ミノタウロス、そしてシャイニーロッドは最大戦速で真っ直ぐ敵艦隊に突っ込んでいく。

 互いに発射した長距離ミサイル同士が弾き合い爆発する。

 粒子砲の照準を合わせる暇も無いままミノタウロスとガウェインがすれ違う。

 ガウェインの艦底から戦闘艇が分離してミノタウロスに爪を突き立てようとするが反対にミノタウロスの出っ張った立派な衝角に弾き飛ばされてしまう。

 シールドとシールドが干渉しあって激しい火花が散る。

(ひえええ!)

 フェニックス級の戦闘艇が11隻シャイニーロッドとミノタウロスに追いすがり短距離魚雷を連続で何本も打ち込んでくる。ついでにフェニックス級本体からも艦尾魚雷が発射され、二隻は50発前後の魚雷に囲まれる。

「き、聞いてないぞ! こいつらバリバリの格闘戦仕様の改装されてるじゃないか!」

『だーからわざわざ騎士の名前が付いた巡洋艦集めたんじゃろか? ミドルレンジで足を止めて撃ち合いしてたら戦闘艇に対処出来んかったかも知れん。十分に加速しといて正解じゃぞコレ!』

「魚雷のが速いんだから正解もクソ無いだろ阿呆か! 艦長ォ! 回避運動任せるぞ!」

「や、やってますが……!」

 最大戦速で駆け抜ける二隻は辛うじてその大部分を撃ち落とすか船体を捻る事でやり過ごす事に成功した。快速を誇るユニコーン級巡洋艦の加速でシャイニーロッドは魚雷をどうにか全て回避出来そうだったが、小回りの利かないミノタウロスに対空防御の死角から四発の魚雷が迫り来る。

「あ、当たる! ホラ見ろクソジジイ、どうしてくれる? 化けて出てやるからなッ?」

 あわや命中の直前──

 猛烈な勢いで突っ込んでくる船影、木星の無人民間船が追いすがる魚雷と逃げる二隻の間に割って入る。

 六隻の民間船が盾となり魚雷を受け止めた。爆発に次ぐ爆発、20発以上の魚雷と宇宙船のエンジンの放つ熱爆発の衝撃波が脆い民間船を跡形も残らぬ程に吹き飛ばす。

『モエラ少将殿、ご無事ですか?』

 危機を逃れたミノタウロスのメインビューワーに、頭からスッポリとバイザー付きのヘルメットを被った人物が姿を見せる。

 手には何やら大きなグローブをはめており、指で宙空を忙しくなぞっている。

「お、おかげさまで、ご無事でございます……もしかして、魚住女史? ですかな? 船でブロックしてもらって命拾いしましたぞ」

『何よりです、ンフフ。じゃ、今からそちらの前方にいる別の船を「私の」木星艦隊が包囲、殲滅します!』

 バイザーを上げると、頬が上気した艶めかしい表情の女性、魚住京香の顔が現れる。

「そ、そんな感じで操作してるんです?」

『ええ、どんなアトラクションもビデオゲームも裸足で逃げ出す爽快感ですね』

 ペロリと舌なめずりをしながら目を細め、指先で無人艦をコントロールする魚住。

 破壊の愉悦に酔う爆弾魔のような顔を見てモエラ少将とミノタウロスのブリッジクルーは顔を見合わせて震える。

 その涼しげな目元は理性を保っているようにも見えるが、この状況を楽しんでる時点で立派な狂気だ。

(やっぱ木星残党ってヤバいテロリスト集団なんじゃ?)

 第一艦隊、タイダルウェーブ、サンパウロの放った魚雷と粒子砲が後方の戦闘艇を破壊、土星守備艦隊の爆撃機ワスプがギャラハッドにまとわりつき集中攻撃を加えている。

『見事な連携じゃった! モエラ少将、ワシらはこのまま直進して動きの止まった一隻にトドメを刺すぞい』

『お前の艦隊が雷撃し終わったらタイダルウェーブが前に出るぞ』

 モエラ少将は生きた心地がしなかった。

(この戦闘狂どもっ! 戦争大好き人間どもがっ! 正常な俺を巻き込むなよ!?)

 グリフレットからの粒子砲がミノタウロスの左舷に命中、艦内に警報が響き渡り、被害報告が矢継ぎ早にモエラの耳に飛び込んでくる。

「ひいっ……ど、どけっ、どかせ! 速度緩めるな、前方にいる敵艦に全力で砲雷撃! もう相手に撃たせるな!」

 何だかよくわからない状況のまま、モエラ少将は眼前に見える敵艦グリフレットに対して突撃命令を出す。

『おお、モエラその意気だ。ロボット艦なんぞお前のタックルで弾き飛ばしてやれ』

 裕太郎は軍人らしい勇ましさと受け取ったが、モエラの場合は一刻も早く戦闘状態から脱出したい一心での突撃命令だった。

「ユイ殿下、純子さん! どうか俺を守ってください!」

 心から信奉する女神2人に祈りを捧げるモエラ。

(は? 少将の奥さんの名前って確か)

(だな、他の女の名前呼んじゃってるし……問題だろ)

(俺を守って、じゃなくてここは普通『この船を守って』とするべきじゃないのか?)

 ブリッジクルー達は苦い顔で上官を見上げる。

(まあ俺も祈っとこう、ちゃんと嫁さんの名前でな)

(俺は無難に死んだ婆さんにしとく)

 クルー達も祈った。最早出来る事と言えばこうやって船の無事を祈る事ぐらいだ。

 シャイニーロッドの艦首、高出力粒子砲とミノタウロスの主砲が火を噴き、民間船にまとわりつかれて思うように姿勢制御出来ないグリフレットを攻め立てる。

 騎士達は王の救援どころではなくなっていた。



 一方、ビッグ・マッキントッシュに守られながら海兵隊を乗せた駆逐艦サンモリッツがキングアーサーに取り付こうとしていた。一部の甲板に隙間が生じ、そこからアーサーの艦載機ワスプが発進、ビッグマックに攻撃を開始する。

『ラドクリフ中尉!? 潜入は成功したかね?』

 ビッグマックの艦長の声は切羽詰まっており、今にも撤退をはじめそうな悲壮感が漂っていた。

「強襲揚陸艇での突入に成功した! 艦長、ここまで護衛感謝です!」

『サンモリッツをアンカーで牽引して、蜂の攻撃が止むまで後退する──ラド中尉、死ぬなよ』

「俺達を誰だと思ってんだ! 海兵隊は宇宙軍最強、その海兵隊で最強は俺達、第七部隊だ! 艦長こそ後でちゃんと迎えに来てもらわないとね、しっかり頼んますよ?」

(いよいよリオルに追いついた)

 獲物を追い詰めた昂揚感でハイになっているラドクリフは自分より遥かに年上のビッグ・マッキントッシュの艦長に向かって乱暴な言葉を吐く。

「行くぜ野郎共!」

 海兵隊のエグザスが次々に起動する。


 キングアーサーに取り付いたのはサンモリッツだけではない、民間警備会社ファイネックス社の駆逐艦も、どさくさ紛れにアーサーの甲板のひとつに接舷していた。



 ミノタウロスの特攻とシャイニーロッドの艦首砲の威力に耐えきれずグリフレットは撃沈、その残骸も艦影が残らぬほど完膚無きまでに破壊されてしまった。

 この報告はリオルとレムスにとって大きなショックだった。

「モエラがこんなに戦上手だったとは──」

 雄大に艦隊戦を拒否され怒り心頭に来ていたリオルは頭から冷や水をかけられその熱が冷めるかのような思いだった。

「閣下、第一艦隊が──」

 三番目(サード)のニースは第一艦隊の出現に驚く。

(どこから現れた? くそ、こんな事なら無理矢理にでも宮城めにとどめを刺して置くべきだったか? いやそれよりも厄介な無人艦の群れをコントロールしているのは、あの船か?)

 リオルは残りの三騎士達に魚住の乗るぎゃらくしぃアラミス支店号への集中攻撃を指示した。

「宮城もモエラも捨て置け、先ずはあの孤立しているコントロール艦を撃沈しろ──!」

 リオルの指示に二人のニースが頷く。土星守備艦隊の駆逐艦からの激しい魚雷攻撃を交わしつつ、ガウェインとパーシヴァルが

アラミス支店号へと向かう。

「閣下、三方向から敵の歩兵部隊が侵入しました。所属不明民間船とぎゃらくしぃ号、第一艦隊の船からです」

 トゥエルブがアーサーの立体映像をビューワーに映し出す。アーサーの中枢部分に程近い場所、そして三番甲板、五番甲板の三カ所だ。

「ギャラクシー号から? 映像は出せるか?」

「やっています、が、ギャラクシー号の方だけ映像出ません──カメラが次々に無効化されていきます」

 映像が映し出されたのはファイネックスの船から上陸してくるスカウティングアーマーによく似た装甲服を着込んだ歩兵部隊とそれを率いる大男サタジット・レイ・カン。

 そして自分をしつこく追ってきたレンジャー、第七部隊の若武者ラドクリフ中尉達の青いエグザスの集団だった。

「民間船の方は放っておけ! 五番甲板は──第七部隊か。先ずはこちらに防衛システムを集中……いや、五番甲板を捨てる! アーサー本体に入られる前に接続解除(パージ)しろ。防衛システムは先ず、ギャラクシー号からの侵入者にあてるんだ」

 焦るリオルに対して一人、レムスは冷静になっていた。

「リオル、敵は大きなミスをしたぞ」

「ミス?」

 想定外の事態が続き、戦いが劣勢になるにつれリオルは焦りや怒りの感情を表に出すようになってきていたが、一方のレムスは劣勢になるにつれ、静かな怒りを内に秘めつつも冷静に物事を判断出来るようになってきていた。

 狩猟者としての本能がレムスを突き動かしているようだ。

「ああそうだ。歩兵部隊を出した、という事はギャラクシー号の船内の防備がそれだけ手薄になったという事だ。それにカメラに映らなくなった部分の起点とハイドラ級の構造を重ねて推測すれば容易にギャラクシー号内部に侵入出来るぞ」

 レムスは牙を剥いて笑った。美しい顔が邪悪な笑みで黒く染まる。

 ただ怒りに身を任せるのではなく、怒りによってもたらされた力を制御する術を、彼は体得しつつあった。

「そうか。歩兵部隊を中ほどまで誘い込めば……」

「此方は悠々とユイ・ファルシナを捕らえる事が出来る」

 レムスは両の拳を力強く握り締める。

 筋肉が膨張する音が聞こえてくるようだ。

「おお、頼めるかレムスよ!」

 勿論だ、と頷くとレムスは飛ぶように駆け出した。十三番目が駆けるよりも力強く、そして速く。ニース達が2人その後に続く。

 美しき巨人が勇壮に走り出す姿を眺め、リオルは確信した。

 勝ちの目はまだ残されている、と。

(フォトンブレードもワープドライブも、ポジトロニックノードも何も傷付いてはいない──そして陛下の体調も万全! 時間さえ稼げれば、忌々しい民間船を引き剥がす事さえ出来れば──ユイ・ファルシナを捕らえれば)

「まだだ、まだこの戦は終わらぬ!」

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